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2023年6月12日トレンドを知る

Why「Well-being」?~トレンドワードのここがポイント~

「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(ウェルビーイング)にあることをいいます」。1946年、世界保健機関(WHO)設立時の憲章に含まれた「ウェルビーイング」。なぜ、今、ウェルビーイングなのか。理解が漠然としがちなトレンドワードを、注目されている社会背景から、企業の取り組みの現状、具体的な実現方法まで徹底解説していく。
目次

ウェルビーイングは世界の共通目標

なぜ今企業はウェルビーイングに取り組まなければならないのでしょうか。
ひとつには、国際社会からの要請があります。国際社会がめざすべき共通目標であるSDGsのゴール3に「Good Health and Well-being(すべての人に健康と福祉を)」が掲げられているのです。

また、日本政府が掲げる社会構想「Society5.0」で、日本がめざすべき未来社会の具体案としてこう掲げられています。
「先の見えない不安に対して、持続可能な強靭性を備えることで国民の安心と安全を保持するとともに、国民ひとりひとりがウェルビーイングを達成できる社会」

企業には、国際社会、日本政府からの要請に基づいた取り組みが求められているのです。

また企業にとって、少子高齢化による労働力減少は喫緊の課題です。ひとりひとりが長く働き、消費活動をしてもらうために、国民にWell-beingな状態でいてもらう必要があります。

ウェルビーイングは、ビジネスにおけるキーワード

図1:企業の事業活動に関わるウェルビーイング

図1:企業の事業活動に関わるウェルビーイング

資金調達の面でもウェルビーイングは求められています。機関投資家が投資判断をする際の重要な指標であるESG指標の「Social」には、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの確保などが含まれます。従業員に対してウェルビーイングな労働環境を提供できているかどうかが強く問われているのです。

また、マーケットの観点でも同様です。「Global Well-being Institute」によると、ウェルビーイング関連市場は約400兆円と試算され、今後大きな成長が見込まれています。もともと欧米では、ウェルビーイング・テクノロジーが個人向けのソリューションとして展開されていました。しかし近年では、企業におけるウェルビーイング経営のニーズが高まり、BtoBマーケットが急増。黎明期であるウェルビーイング市場には、高リターンを見込んだ投資が急増しています。

さらに、ウェルビーイングはテクノロジーとの親和性が高いことも特徴です。人間の身体的・心理的な状態を測定するセンサー技術や高度な自然言語処理ができるAI技術の発達などにより、データを活用したイノベーションが次々と起こる中、パーソナルなウェルビーイングを支援するためのサービスや製品が多く生み出されています。

組織内マネジメントにおいても重要

そして、上記のような事業展開の観点のみならず、組織内マネジメントにおいてもウェルビーイングの重要性が叫ばれ始めています。2014年に公表された論文(※1)では、ウェルビーイングが離職率低下に寄与することが明らかにされました。また、主観的ウェルビーイングの高い人はそうでない人に比べて創造性が3倍、生産性は31%、売り上げは37%も高い傾向にあるという論文も2005年に出されています(※2)

図2:ウェルビーイングが高い人とそうでない人の傾向

図2:ウェルビーイングが高い人とそうでない人の傾向

また、ニューノーマルへの対応が求められる中、従業員のメンタル面におけるウェルビーイングサポートの必要性も高まっています。ある調査では、「さびしさや疎外感を感じる気持ち」「仕事のプロセスや成果が適正に評価されないのではという不安」の高まりが報告されました(※3)

さらに、米国証券取引委員会では2020年8月に米国上場企業に対して人的資本の開示を義務化し、その項目の多くにウェルビーイングが関連しています。従業員の心理的状態を示す項目についてデータ化していない企業は、従業員向けアンケートなどの測定ツールによって定量データを取得することが必要となりました。

社会の要請によって、企業はウェルビーイングの計測や向上に取り組むことが不可欠の状況となっているのです。

(※1)

Wyld, DAVID C. "Research briefs: Do happier employees really stay longer."Academy of Management Äi0PerspectivesÄi028.1 (2014): 1-3.

(※2)

Lyubomirsky, Sonja, Laura King, and Ed Diener. "The benefits of frequent positive affect: Does happiness lead to success?." Psychological bulletin 131.6 (2005): 803.

(※3)

「テレワーク緊急実態調査(2020年)」リクルートマネジメントソリューションズ,テレワーク緊急実態調査

ウェルビーイングを支援するためのアプローチモデル

では、個人の心の問題であるウェルビーイングを企業が支援することはできるのでしょうか。

NTTデータでは、企業が個人のウェルビーイングを支援できるよう、独自にモデルを策定しました。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の協力のもと策定したこのモデルではまず、個人のウェルビーイングを以下4つの状態遷移として表しています。

  • Positive(良好な状態)
  • Negative(悪化した状態)
  • Negative Transition(良好な状態から悪化した状態へと遷移する途中の状態)
  • Positive Transition(悪化した状態から良好な状態への中間状態)

そして、それぞれの状態から最終的に「Positive」へと向かわせ、維持させるための方法として、「持続支援」「発見支援」「回復支援」という3つの具体的な支援を提示しています。

図3:NTTデータが策定した企業による個人のウェルビーイング支援プロセスモデル

図3:NTTデータが策定した企業による個人のウェルビーイング支援プロセスモデル

Positive状態を継続維持する「持続支援」

このアプローチモデルにおける3つの支援について、すこし具体的にご紹介します。

1つめの「持続支援」は、個人がPositiveな状態である時にその良好な状態を継続維持するための支援です。2つめの「発見支援」は、特にNegativeな状態に遷移しつつあるときに一度立ち止まり、振り返りや新たな体験によって、良好な状態へと立て直すための支援。3つめの「回復支援」は、Negativeな状態に陥ってしまった時に、危機的状況からの回復ルートが示されることでPositiveな状態へと向かう、Positive Transitionの状態へと遷移していくための支援になります。

このモデルは、3つの支援のサイクルを回すことで個人のウェルビーイングを「Positive」に近づけ維持していく、という認識を関係者間ですり合わせ、ウェルビーイング向上施策に関する議論の土台として役立ちます。

「持続支援」における、3つの技術的なアプローチ

特に「持続支援」には、技術的なアプローチが活用できます。NTTデータではその方法をフレームワークとしてまとめました。このフレームワークでは、生活者のウェルビーイング向上のために、3つの技術によって生活者の行動変容を促し続ける伴走(ナーチャリング)を行います。

まずは、(1)ユーザ理解技術によってユーザがどのような状態にあるかを測定。次に、(2)施策最適化技術によって、ユーザが設定した目標や自己規範に沿った適切な改善施策を提示。最後に、(3)効果測定技術によって、施策を実行した結果を測定し、状態の計測値や施策最適化ロジックにフィードバックしていきます。

図4:ウェルビーイング支援の技術フレームワーク

図4:ウェルビーイング支援の技術フレームワーク

このフレームワークにおける最初のステップ「ユーザ理解」では、ユーザの性格や価値観などの測定の難しさが課題でした。そこでNTTデータでは、生活者のSNSの投稿やGPSデータなどのパーソナルデータをもとに、性格・価値観・趣味趣向・生活習慣などを推定する「顧客理解AI技術」の取り組みを進めています。

図5:NTTデータの顧客理解AI技術

図5:NTTデータの顧客理解AI技術

NTTデータの顧客理解AI技術

個人のウェルビーイング支援につながるNTTデータの「顧客理解AI技術」は、実際に多くのユースケースが想定されています。

たとえばマーケティングでは従来、消費者アンケートによる顧客セグメンテーション、購買データを入力とした因子分析、クラスタリングによる顧客理解が主流でした。
「顧客理解AI技術」を活用すれば、個人単位の性格、価値観、趣味趣向、感情状態、生活習慣がリアルタイムで把握でき、またその時間的変遷から未来予測も可能となります。これによって、生活者ひとりひとりのライフスタイル、性格傾向、趣向性に寄り添った最適なライフケアが可能となり、顧客満足度やLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上が期待できます。

「顧客理解AI技術」によって新たなサービス創出も可能です。
たとえば、ヘルスケア分野では消費者の生活、運動習慣に応じた最適なフィットネスメニューや健康食品を提供し、主観的ウェルビーイングの観点から効果を可視化することで満足度を高めるサービスが考えられるでしょう。

またセールスにおいては、たとえばコールセンターでの活用が考えられます。コールセンターではこれまで、ベテランと新人オペレーターの間には大きなパフォーマンスの違いがあると言われていました。しかし「顧客理解AI技術」によるサポートがあれば、平均的なエンゲージメント向上、売り上げ向上、解約抑止などが期待できるのです。

ほかにも教育分野では、生徒ひとりひとりの心理特性、状態に合わせた学習プログラムの構築、コーチングにおける会話、日記などからのメンタル不調の早期発見に役立てられるでしょう。

図6:顧客理解AI技術の多彩なユースケース

図6:顧客理解AI技術の多彩なユースケース

AI倫理の観点も求められる

一方で、特にパーソナルデータの扱いや個人に対するサービスにおけるAIモデルの活用については、AI倫理の観点からの議論も必要であると考えられています。

図7:Trustworthy AI(※4)の満たすべき具体的条件

図7:Trustworthy AI(※4)の満たすべき具体的条件

NTTデータでは、AI倫理の側面からの議論も含め、生活者のウェルビーイングに貢献する技術の開発、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めていきます。

(※4)

2019年にTheEuropeanCommission’sHighLevelExpertGrouponArtificialIntelligenceによって策定されたEthicsGuidelinesforTrustworthyAI

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