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2023年12月15日事例を知る

【図説】「地域通貨」からはじめる地域DX、自治体・企業事例5選

2000年代から地域活性化のためさまざまな地域で発行されてきた地域通貨が、近年再注目されている。さまざまな決済サービスが浸透している昨今、その最終的な目的は決済ではなく地域DXだ。地域はいかにして地域通貨を活用して地域のデジタル化及び課題解決を達成するのか、NTTデータ 金融戦略本部 部長の青柳雄一が事例と共に解説する。
目次

地域通貨とは

地域通貨とは、特定の地域やコミュニティで利用することを目的とした通貨のことを指します。日本の法定通貨である「円」が、日本銀行が独占的に発行する法律により認められた通貨であるのに対して、地域通貨は国家や中央銀行以外の自治体や企業などが独自に発行する通貨です。また、使用できる場所が地域に限定されており、バリューやポイントに有効期限が設定されていることが多いのも地域通貨の特徴です。

地域通貨の歴史は古く、江戸時代には藩札という地域限定で利用できる通貨が存在しました。2000年代には地域振興券などの紙の地域通貨が数多く発行されたものの、徐々に下火に。しかし、近年再びさまざまな地域で地域通貨が発行されています。

再び地域通貨が増えてきた理由として、スマートフォンの普及により、誰でもデジタルの地域通貨をそれぞれのデバイスで利用できるようになったことが挙げられます。また、紙と比較して、コストを抑えながらデジタルの地域通貨を運用できるようになったことも理由の1つでしょう。

さらに追い風になったのは昨今のキャッシュレス推進のトレンドです。これまで現金主義だった日本人の行動様式に、タッチ決済やQRコード決済などの電子決済が定着しました。これにより、都市部に限らず日本全国でデジタルの地域通貨が浸透する素地ができあがったのです。

地域通貨発行の目的・メリット

そもそも、なぜ地域通貨を発行する必要があるのでしょうか。法定通貨が日本全国どこでも使えるのに対して、地域通貨は「地域限定」という制約がついて回り、決済手段としては不便な通貨です。地域通貨の発行には決済の道具としてだけではない、目的とメリットが存在します。

目的1:継続的な域内消費活性化効果

地域通貨発行をする目的の多くが、特定エリアの経済を活性化させることです。たとえば、ある地域の人が他の地域でお買い物をした場合、そのお金は他の地域を潤すことができても、自分たちの地域の経済の活性化にはつながりません。エリア限定で使用できる通貨が普及することで、エリアの内需を拡大して、地域でお金を循環させることができるのです。

目的2:地域の課題への対応

現在、SDGsは国際的な目標となっており、日本政府ならびに地方自治体もSDGsの推進に向けての取り組みを加速しています。たとえば、ボランティア活動をしたらそのお礼として円ではなく地域通貨をもらえるという仕組みで、地域での助け合いを促すこともできます。地域課題を解決していきSDGsを実現するためのスイッチとして地域通貨を活用することができるのです。

目的3:自治体DX推進

多くの自治体でDXを推進していく流れがある一方で、スマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスを積極的に使いたがらない方が一定数います。そんなとき、給付されたデジタル通貨がスマートフォンでなければ利用できないとしたら、デジタルの世界に入るきっかけになります。その後は公的支払いを地域通貨で行えるようにするなど、自治体DXを推進する上での素地を作り上げることができます。

最終ゴール:地域のデータを活用した行動変容

高度経済成長期の日本は人口ボーナス期であり、消費拡大局面でしたから、「需要が供給に合わせる経済」だったと言えます。しかし、これからの日本は人口オーナス期となり、消費縮小局面であるため、「供給が需要に合わせる経済」になっていくでしょう。

交通を例に分かりやすく言うと、以前はバス停で待っていればバスが来ました。そして、乗れなければバスの本数を増やせたわけです。しかし、これからの日本では人がいなくても決められたルートでバスをやみくもに走らせる余裕はありません。人の待っているルートを選んで効率よく走る等の工夫が必要となります。

こういうことを実現しようとすると、どの時間帯でどのバス停で多く人が待っているかというデータを得ることが必要です。そういうデータがあれば、より効率的なバスの運行が出来るわけです。

これらの話は交通に限りません。地域社会の生活のあらゆるシーンで、地域のデータを活用した行動変容が求められるようになると思います。それらのデータを得る重要な手段として地域通貨は非常に有効でしょう。地域通貨の決済履歴やマーケティングデータを活用することで、Smarter Societyを実現することができると思っています。

上述の3+1の目的を踏まえ、地域通貨の最終的な目的はデータを活用して、地域の社会システムをRe-designする地域DXを実現することです。地域通貨の役割は、理想の社会システムを実現するための1つのアプローチであり、最初のステップだというのが、私の考えです。

地域DXのための地域通貨導入事例

さるぼぼコイン | 岐阜県飛騨高山地域
地域金融機関による地域通貨の先駆的事例

2017年12月にスタートしたさるぼぼコインは、岐阜県高山市・飛騨市・白川村で使える電子通貨アプリです。飛騨市の約4人に1人がさるぼぼコインユーザーとなっており、利用できる加盟店は飛騨地域全体で約1,900店舗になるそうです。

さるぼぼコインの主な機能は、2次元コードでの決済とユーザー同士でのコイン送金です。B2Bの決済にも利用できるのが特徴で、たとえばさるぼぼコインを利用して生活者が飲食店で支払いを行い、お店は食材を購入した食料品店にさるぼぼコインで支払いを行うこともできます。加盟店の払戻手数料よりもB2B取引にかかる手数料を低くすることで、日本円に換金されることを抑制し、コインのままでの流通を促進しています。

さるぼぼコインは、給付金の支給にポイントを上乗せ付与したり、コロナ禍で打撃を受けた地元事業者を対象にポイント還元販促キャンペーンをしたりなど、地域経済の循環を促進する役割を担っています。

また、地域DXの観点では「市税等の請求書払い」「施設利用」「市役所窓口手数料支払い」などの決済に対応することで自治体DXにも寄与しているほか、アプリから「災害情報」「交通情報」「クマの出没情報」などをプッシュ通知できるようにすることで、情報発信インフラ機能も担っています。

ネギー|埼玉県深谷市
地域コミュニティの力で行政コストを削減

次にご紹介するのは埼玉県深谷市で2019年からサービス開始した地域通貨「ネギー」です。深谷市が運営元となり、トラストバンク社の地域通貨プラットフォーム「chiica」から生まれた最初の地域通貨であるネギーは、ユーザー数2万人を越えて(2022年時点)、894店舗(2023年10月23日時点)で利用することができます。

ネギーの特徴は、深谷市が明確に地域通貨で地域課題を解決する戦略を打ち出している点です。深谷市が発行する『地域通貨導入戦略』の中では、「本市の地域通貨は、地域経済のためだけでなく、地域の課題を解決するためのツールとしても使います。」と記載されています。

深谷市に限らず、今、全国で「人口減少による経済の縮小」「高齢化による保健福祉関連の支出増」を課題とする地域は多く存在します。生産人口が減り、税収が減っているにも関わらず、社会保障にかかる支出は増えていく。これまで行政による「公助」で保っていたセーフティネットの仕組みは破綻しかけています。

ネギーは、地域通貨をフックにして住民による「自助」、住民同士の助け合いによる「共助」を促すことで行政側のコストを削減することを狙いの1つとしています。たとえば、ネギーを交付してアライグマの防除の協力を市民に仰いだり、健康促進の取り組みで医療費を削減したりなど。お礼という形でネギーを交付することで、地域コミュニティで地域課題を解決していく、持続可能なまちづくりをめざしているのです。

めぐりん | 香川県
「ありがとう」の地域ポイントでコミュニティ活動を促進

2009年6月にスタートした「MEGRINプロジェクト」は、サイテックアイ社が運営する地域ポイントの事例です。イオングループの電子マネー「WAON」のプラットフォームを利用して、めぐりんカードを発行。約500カ所(2019年6月時点)ある加盟店でポイントを貯めたり、ポイントを利用してお買い物したりすることができます。

めぐりんポイントの特徴はお買い物のポイントによって経済振興に寄与するだけでなく、地域のコミュニティ活動を強化することで、地域活性化につなげる設計になっている点です。商店街の清掃ボランティアに参加する、地域のスポーツチームを応援する、健康のためにウォーキングを行うなど、地域のために良いことをすると、めぐりんポイントが貯まるようになっています。

さらに、「MEGRINプロジェクト」ではポイントを活用した寄付の仕組みも導入しています。生活者は、募集先となる香川県内のNPO団体等に1ポイント100円換算で寄付をすることができます。

ポイントが「ありがとう」の気持ちとなり、コミュニティ内に助け合いが流通していく。地域通貨をコミュニティ活性化に活用している好例と言えるでしょう。

まちのコイン クルッポ | 鎌倉市

面白法人カヤックが提供する「まちのコイン」は、2023年11月時点で25地域に導入され、総ユーザー数85,964名のコミュニティ通貨サービスです。SDGsや地域に貢献する活動に参加するとコインが得られるなど、住民同士の共助を推進する仕組みになっています。

またゲームの開発も行うカヤックらしく、コインに応じてレベルアップするなどゲームのように楽しめるほか、一つひとつの体験とSDGsの関係、地域ごとのSDGs目標別貢献度統計やランキングなどを可視化することで、SDGsが身近になり、住民の参加を自然に促す設計になっています。

鎌倉市ではコロナ禍での飲食店の応援などへの期待から、2021年1月より「クルッポ」という名称のコインが発行され、2023年11月時点で16,027人のユーザー数に成長しています。

Tango pay | 京都・丹後地域
地域通貨によるマーケティングで観光振興

これまでご紹介した事例はいずれも地域住民を対象にした地域通貨でした。京都・丹後地域の地域通貨「Tango pay」は主に観光客を対象にしているサービスです。株式会社パソナの子会社で地域商社を運営している丹後王国ブルワリー、京都銀行、そしてNTTデータが連携する本サービスは、2024年1月の開始を予定しています。私もコンサルタントとして、本プロジェクトに参画しています。

寺社仏閣が立ち並び観光地として賑わう京都市街地に対して、北部にある丹後地域では観光客誘致に課題を抱えています。Tango payは丹後地域の道の駅やホテルなどさまざまな店舗や施設で利用できる地域通貨です。スマートフォンアプリから観光情報や割引特典などを提供することで、観光客に対してマーケティングの実施と利便性向上を図ろうとしています。

観光事業者単体ではなかなかマーケティングを行うのが難しいなかで、Tango payに加盟いただくことで、特典をインセンティブに観光客の来店を促進することができます。

Afterコロナで人流が戻っていくことが予想されるなかで、観光は地域にとっての重要な収入源になります。今後、日本の各地でTango payのような観光客向けサービスの需要も高まっていくでしょう。

地域通貨導入のポイントは、地域DXのグランドデザイン

地域通貨を単なるキャッシュレス決済の手段として考えると、すでに他にも全国に普及した便利なサービスが存在します。しかし、そこに経済合理性はあったとしても各地域のためのビジョンはありません。地域を持続可能にしていくため、地域で経済を循環させ、さらには地域DXによる課題解決につなげていく。そのためのツールとして地域通貨を考えていかなくてはなりません。

だからこそNTTデータが地域通貨のプロジェクトに参画させていただく際は、地域のキープレイヤーの皆さんと連携することを大切にしています。行政、地域金融機関、前述の事例のように観光振興を目的とするならば地域商社もキープレイヤーになり得るでしょう。そういったキープレイヤーの皆さんと共に、地域の特性を鑑みながら、地域DXのグランドデザインを描き、その1つの手段として地域通貨を推進していく。それが地域通貨プロジェクトの成功への鍵だと考えています。1つ1つの地域が抱える課題は地域毎に異なります。その地域特有の課題をしっかりと解決する為のグランドデザインをその地域に住む人、一人一人が考えていくことが非常に大事です。私達NTTデータは地域の皆様に伴走しながら、そのお手伝いをさせてもらいたいと思っています。

今、NTTデータが描いているのは金融業界の垣根を越えて、各業界の事業者の皆さまと共に実現する、クロスインダストリーな金融の未来像です。

地域通貨への取り組みもその一環です。地域の行政や事業者の皆さんと共に、地域に金融が溶け込んだ未来像を作り上げていく。今後もそのお手伝いをさせていただきたいと考えています。

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