NTT DATA

DATA INSIGHT

NTTデータの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

絞り込み検索
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2024年3月29日展望を知る

プライシングテックの可能性 ~データ活用と計算の新たなステージ~

物やサービスのプライシングを最適化することは売上や利益に直結し、企業経営にとって重要だ。最適なプライシングを行うためには複雑な計算処理が重要な鍵となるが、その進展への期待が高まっている。背景にあるのは、量子コンピュータなど新たなコンピューティング技術活用が2026年以降本格化するという予測だ。
本記事では、最適なプライシングを可能にする技術=プライシングテックの可能性を検討する。
目次

1.プライシングテックとは?

プライシング(価格設定)は売上や利益に直結するもので、企業経営にとって重要な要素の1つとされています。そして、「プライシングテック」は、製品やサービスに対して、最適なプライシングを可能にする技術を指します。
コロナ禍において“三密”を回避するうえで価格を変動させる(=ダイナミックプライシング)ことが効果的であるとされたことは、皆さんの印象にも残っているでしょう。ほかにも、新たな価値観に基づく需要予測やプライシングの重要性が高まったこと、食品ロスなど社会課題に対する改善策の一つとして期待値が上昇していることなど、さまざまな背景が相まって注目度が急上昇しています。

従来、国内企業の多くは商品・サービスの価格を属人的に決めていたり、最初に決定した固定価格のままであったりと、「需給や環境の変化に応じた最適化ができていないために機会損失が生じている」という課題感を抱えてきました。しかし、テクノロジーの進展により取引データが蓄積され、またAIの活用によってデータ分析・需要予測の精度が向上し、より精緻なプライシングが実現できるようになってきています。プライシングにより機会損失を最小化し、利益率の改善を図ることが可能になっているのです。

プライシングの分類は様々です。基本的には価格の固定/変動といった軸をベースとして、時間軸などから整理されることが多いでしょう。

様々な軸での分類

(1)価格決定のタイミングによる分類

(1)価格決定のタイミングによる分類

(2)主語(人/時間)による分類

(2)主語(人/時間)による分類

中でも近年特に注目されているのが、需要バランスによって価格を変動させるダイナミックプライシングです。ダイナミックプライシングは航空券やホテルの宿泊などにおいて、実は古くから採用されてきました。テクノロジーの進展により、近年はよりリアルタイムな価格変動が行われるようになってきており、その代表例としてAmazonが挙げられます。Amazonはいち早くダイナミックプライシングに取り組んでおり、2013年時点で1日に数百万回を超える価格調整を行うことで、売り上げを前年比27.2%伸ばすことに成功しています。Amazonの価格に影響を与える要素としては、需要量の他に競合他社の価格やユーザーの行動履歴などがあると言われています(※)。適切なプライシングを行うことが、企業の売り上げにいかに重要であるかを示している一例だと言えるでしょう。

昨今では、従来のように需要を調整するだけでなく、供給サイドの行動変容を促して需要をカバーする、新しいタイプのダイナミックプライシングにも注目が集まっています。さらに、こうした需給量のバランスによる価格調整以外にも、個人の行動や嗜好といったよりパーソナライズ化されたプライシングへの期待も高まっています。

(※)

JETRO「米国の小売・流通分野におけるITをめぐる動向」rpny201701.pdf(jetro.go.jp)

2.利用できるパラメータの増加

最適なプライシングを実現するための要素を「パラメータ」と呼ぶこととします。
先述の通り、ダイナミックプライシングでは需給量がパラメータとなるわけですが、プライシングテックでは、需給量以外にも様々なパラメータを利用することで、より精緻で最適な価格を導き出すことを目指しています。

それでは、どのようなパラメータがあるのか、少し見てみましょう。
パラメータは、サービス種別と価格決定要因のマトリクスで整理することができます。

サービス種別としてどのようなものがあるか、以下に4つ例を挙げています。A~Cのように商品やサービスの需給量によって価格を変動するものの他に、昨今ではDのような社会課題への貢献についても人々の消費行動に影響を与えています。

  • A:ピークタイムとイベントといった、需要の増減に起因するもの(ex.航空券・宿泊などのように、需要の増減により価格の変動が望まれるケース)
  • B:資源や市場などの、固定的な供給に起因するもの(ex.食品廃棄減少のためや利用の少ない時間に安価に販売するなどのように、資源活用と市場調整を行うケース)
  • C:オープンな市場が求められるもの(ex.要件にあった部品を市場で最も安価なコストで自動的に選択するというような、オープンな市場を利用するケース)
  • D:社会貢献、環境貢献に関連するもの(ex.環境や社会貢献に配慮した商品を実質的に値引くというような、社会貢献に関する活動にインセンティブのある価格を提示するケース)

サービス種別の分類

サービス種別の分類

これらの分類に対して、価格決定要因として顧客の嗜好や天候、季節性などのパラメータが掛け合わされることで、より最適なプライシングが実現します。

様々な価格決定要因の分類

様々な価格決定要因の分類

消費者の価値観の多様性によって、この価格決定要因として考慮するパラメータは多岐に渡るようになってきています。
近年のテクノロジーの進化は、競合価格、天気、周辺地域でのイベント開催、現在の予約状況といった様々なデータの収集を可能にし、消費者の価値観の変化に沿って利用できるパラメータの種類も増加。リアルタイム性も増し、それによってよりパーソナライズ化した精緻なマッチングが実現できるようになってきています。
また、企業のサプライチェーンにおけるAI利用による原材料・仕掛品・製品の調達予測なども、価格決定の要因の一つです(表の分類「技術的・操作的要因」の「・サプライチェーンの高度な需要予測」に該当)。たとえば、自動車、製造業では共通の情報基盤の整備が進んでおり、「原材料を考慮していつどの部品を製造するべきなのか」、「日本のこの在庫は実は中国で翌月に展開すべき」といったような、グローバル規模での最適化が出ています。
今後はさらに収集できるパラメータの種類やデータ量も増え、より細分化されたプライシングが実現することが予測されます。

3.組み合わせ問題を解く精度とスピードがUP

プライシングテックに必要な技術として、先に挙げたIoTなどのデータ収集・蓄積技術の他に、AIなどのデータ分析・予測や数理最適化が重要な要素として挙げられます。
数理最適化とは、現実の問題に対して数学的な手法を用いて最適解を導く手法です。コスト削減や利益向上、品質向上、ビジネス戦略の立案など、ビジネスにおいても成果の最大化に貢献するデータ活用技術の一つとして活用が進んでいます。
機械学習と混合されがちですが、機械学習は収集したデータから未来を予測することを指し、数理最適化は収集したデータから数理モデルを定義しそれらを元に最適解を導き出す手法を指しています。複雑な組み合わせ問題を解くことに適しており、機械学習と同様に最適なプライシングを実現するために必要不可欠な手法・技術です。

機械学習と数理最適化の違い

機械学習と数理最適化の違い

現状のプライシングは二次元における需要量と供給量の交差点を見つけることが主ですが、IoTによるパラメータの増加やAIによる予測・分析技術、数理最適化の進展によって、多次元における交差点を見つけることができるようになりつつあり、より複雑なプライシングが実現できるようになってきています。

4.プライシングテックが実現する世界

今後は量子コンピュータなどの進展によりさらにコンピュータ性能が上がり、リアルタイム性の向上かつよりパーソナライズ化されたプライシングが可能となるでしょう。
具体的には、現状は属人的に決定している手数料や金利、住居の価格、通信費など、様々な領域において価格決定要因と組み合わせることで柔軟なプライシングが実現する可能性があります。

プライシングテックの可能性(一例)

プライシングテックの可能性(一例)

上記一例の他にも、消費者の価値観が多様化する中で、消費者にとって「価値があるもの」と感じるかどうかによって価格が変動したり、物やサービスの価値をお金でないもので評価したりするような考え方も出てきています。価格調整に閉じず、高い付加価値をつけることで需要を調整することもあるでしょう。
プライシングの評価軸は曖昧であると思われがちで、現状はその不透明性から消費者の不満の声に繋がることも大いに考えられます。しかし今後はより多くのデータを収集し、AIに学習・分析させることで、より精緻かつ公平性の高い、パーソナライズ化されたプライシングができる可能性があります。

このように、テクノロジーの進化と消費者の価値観の多様化によって、プライシングの領域は今後より一層複雑性を増してくことでしょう。
NTTデータはこれからも、テクノロジー活用によって企業と消費者のwin-winの関係を広げていくことをめざしていきます。

お問い合わせ