1.新規事業開発メンタリングとは?
私たちが考える新規事業開発メンタリングとは、メンティーが生み出した「ビジネスアイデア」を、筋の良い「ビジネスモデル」へと成長させるために、メンターが継続的に伴走し、助言することです。
では、「筋の良いビジネスモデル」とは何でしょうか。大きく分けると、次の2つの条件を満たすものだと考えています。
- 市場に十分な魅力があること-想定される市場規模が大きく、今後の成長も期待できる
- 持続的な競争優位性を構築できること-短期的に有利に参入でき、中長期的には他社が簡単に模倣できない
言葉にするとシンプルです。しかし、「では、実際に考えてみてください」と言われると、決して簡単ではありません。この難しい旅を、ともに歩くのがメンタリングです。
IDAでは、「プロセスに再現性を、アイデアに創造性を」という考え方を大切にしています。新規事業の内容そのものには、自由な発想が欠かせません。一方、検討の手順には、先人たちの知見から導かれた「失敗を減らすための型」があります。私たちは、一般的な新規事業開発の方法論に、IDAが蓄積してきた事例や経験を組み合わせ、考える順序や進め方をお伝えします。そうすることで、メンティーのみなさまには、ビジネスモデルの中身を考えることに集中していただけます。
私たちがプロセスの再現性にこだわるのは、目の前のテーマを事業化する確率を高めるためだけではありません。メンティー自身に、プロセスを「スキル」として身につけてもらうためでもあります。
一度目はメンターとともに進めたとしても、二度目、三度目は自分たちだけで進められる。さらに、その知識を組織内のほかのメンバーにも伝えられる。その状態をつくることが、私たちのめざすメンタリングです。言い換えれば、IDAの究極の目標は、メンティーのみなさまにIDAから卒業していただくことなのです。
2.新規事業開発のFuzzy Front End
新規事業開発は、「事業アイデア」から始まります。そして、事業アイデアを生み出すプロセスを「アイディエーション」と呼びます。ただし、最初に生まれるアイデアは、完成されたビジネスモデルではありません。
多くの場合、「こんな技術を活用できないか」「こんなサービスがあれば便利ではないか」といった解決策のアイデアです。あるいは、「この社会課題を何とかしたい」という個人的な思いや使命感から始まることもあります。いずれにしても、新規事業は何らかの「種」を起点に始まります。
その種の見つけ方については、さまざまな考え方があります。「自分が強い使命感を持てる領域から始めるべきだ」という考え方もあれば、「自分自身が当事者として感じている課題から始めるべきだ」という考え方もあります。しかし、事業の種を生み出す方法には、まだ絶対的な正解がありません。この曖昧で捉えにくい初期段階が、「Fuzzy Front End」と呼ばれる理由です。
では、Fuzzy Front Endをどのように進めればよいのでしょうか。私が企業内で新規事業に取り組む方にお勧めしているのは、最初に「事業機会領域」を定めることです。事業機会領域とは、次の3つが重なり、ビジネスとして価値を生み出せる可能性がある領域を指します。
- 1.顧客の未充足ニーズがありそう
- 2.市場・技術・制度などの外部環境変化を伴い、今取り組む理由がある
- 3.自社の強みが活かせそう
「将来の事業参入先として、重点的に探索すべき領域」と捉えてもよいでしょう。
この段階では、具体的なサービスや利用者像まで決める必要はありません。まずは探索するテーマのまとまりを定めます。
なぜ、先に領域を定めるのか、理由は二つあります。一つ目は、「限られた時間を有効に使うため」です。
この後のプロセスでは、顧客課題の仮説をつくるためのリサーチや、その仮説を検証するための顧客インタビューを行います。事業機会領域を定めておけば、どこを調べ、誰に話を聞くべきかを、論理的に絞り込めます。
企業の新規事業開発プログラムでは、検討期間が限られていることが少なくありません。探索の方針を持たずに活動を始めると、関連性の低いインタビューとピボットを繰り返し、結局は時間切れになってしまうことがあります。自由に探索することと、無目的に動き回ることは違います。探索の範囲を適切に定めることが、限られた時間のなかで事業化の可能性を高めます。
二つ目は、「ビジネスとして課題を解決する意識を持つため」です。
近年、「新規事業開発とは、顧客の課題を解決することである」という考え方は、広く浸透してきました。ただし、大切なのは、単に課題を解決することではありません。事業として、持続可能な形で解決することです。思いが強いほど、対価を得る仕組みが弱い「ボランティア的なビジネス」になってしまうことがあります。しかし、課題解決を通じて適切な対価を得て、それを再投資してこそ、有益な活動を中長期的に続けられます。
どれほど優れた価値でも、提供を続けられなければ、社会に十分なインパクトを生み出すことはできません。少し率直な言い方をすれば、初期段階から「お金の匂いがするテーマ」を選び取る視点が必要なのです。
3.企業内起業とスタートアップは同じではない
もちろん、「最初に事業機会領域を定める」ことだけが、唯一の方法ではありません。
スタートアップの創業者には、強い思いを持つ領域で、幅広い顧客へのインタビューを重ね、長い時間をかけて事業アイデアへたどり着いた方も数多くいます。企業内でも、通常業務の傍らでアイデアを温めたり、非公式に検討を続けたりできる環境があるなら、その進め方も有効でしょう。
しかし、企業内起業には、多くの場合、期限があります。審査のタイミングがあり、使える予算が決まり、一定期間内に成果を示すことが求められます。ここが、創業者自身の意思と時間で探索できるスタートアップとの大きな違いです。
じっくり探索できる環境があるなら、時間をかける方法を選ぶ。限られた期間で成果を出す必要があるなら、事業機会領域を定めてから探索する。企業内起業では、自分たちに与えられた時間と条件に合った進め方を選ぶことが重要です。
次回は、これを踏まえ、「事業機会領域を選ぶ4つのポイント」と、「生成AIを活用した事業機会探索の具体的な方法」についてお話ししたいと思います。


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