はじめに、三好さんから背景にある問題意識と座談会テーマに関するインプットトークがありました。次に、それを受けて池田先生より「チームレジリエンス」に関する講話がありました。
●三好ユニット長のインプットトークサマリー
「子育ては夫婦で協力して行う」「ビジネスケアラーが社会を支える」ということは、当社に限らずこれからの時代の当たり前となると考えています。加えて、労働人口の減少、ビジネス環境の変化など、チームを取り巻く不確実で困難な状況下において、世の中的にも管理職の負担は高まっています。そんな管理職の背中をみて「管理職になりたくない」という声が若手社員からあがるという調査結果もあり、チーム全体がこうしたネガティブループに陥ると休職・休暇を言い出しづらい雰囲気が漂います。育児・介護休職を一部の限られたメンバーだけにおこる一時的な事象と捉え、管理職含む個々人の頑張りと「お互い様」の精神だけで対処するのはもはや“無理ゲー”といえます。こうした困難には、チームで挑む必要があり、チームとしての行動を変容させることで困難に打ち勝つ術を「チームレジリエンス」の考え方をヒントに考えてみたいと思います。
●池田先生のゲスト講話サマリー
「チームレジリエンス」とは、チームが困難から回復したり、成長したりするための能力やプロセスを指します。メンバーの育児・介護休職取得は、誰もが安心して働き続けるために認められた大切な制度であり、チームにとって問題になるものではないです。一方で、一時的な人手の不足など、それに関連した課題に直面しているチームがあるのも現状です。こうした状況を改善する上で、チームレジリエンスの考え方が役に立つかもしれないです。チームレジリエンスは、①課題を定めて対処する、②困難から学ぶ、③影響を最小化する、の3ステップをチームとして実践することで発揮されます。影響を最小化するためには、リスクの種にチームが早く気づき、対策を練ることが必要です。そのためには、1.早めにメンバーに報告する、2.他のチームの事例から学ぶ機会を設ける、3.チームMTGで困難時に備えて対策を練る場を設ける、4.作業手順書を作成しておくといった取り組みを行う。また、チームレジリエンスの発揮にはサステナブルな助け合いの風土を構築する必要があります。
影響を最小化するために――「早めの報告」が吉
三好さん
インプットトークでも触れた通り、働き方の変化として「男性社員の育休取得」だけでなく「ビジネスケアラー」も加えた2つのトピックが今後ますます大きな意味を持つようになると考えています。NTTデータ ソーシャルデザイン室の調査では、当社でも5人に1人がビジネスケアラー予備軍という結果も出ています。男性の育休取得数については、法人分野では3年で3倍以上に増えています。皆さんの組織では、このあたりの状況はいかがでしょうか?
木村さん
男性の育児休職そのものは、ここ数年で急に浸透してきた印象で今ではもうほとんど当たり前になっていると感じます。周りがみんなとっている状況なので、言い出しにくいといった懸念はあまりない状況になっています。統括部としても、流動性が高まっていてローテーションが頻繁に起きている状況にあり、人の入れ替わりへの適応はできてきています。
大原さん
私のいる統括部は若いメンバーが多いこともあり、男女問わず育休をとるメンバーは多いです。女性の場合は、体調面のこともあり割と早い段階で相談を受けます。徐々に業務時間も減っていきますし、育休前の産休期間も含めて考えるので、引継ぎの準備期間がとりやすいという特徴はあります。一方で男性は取得期間が比較的短期のケースも多いので、今いるメンバーや管理職が一時的に業務を引き継ぐことが多い状況にはなっています。
木村さん
男女の違いでいうと、男性社員は申し出が遅めであるということを感じます。直近数年で取得者は確実に増えていますが、いざ自分事となると、そもそも取得するのか? いつから取得するのか? 期間はどうするのか? といった検討事項が複数あるなかで、悩んでいるうちに取得間際のタイミングで申し出ることになってしまうのだろうなと思います。管理職の立場からすると、まだ育休をとるか確定していなくても可能な限り早いタイミングで打ち明けてもらえた方がありがたいのですが、本人は結論が出てから言うべきだと考えています。その認識にズレがあると気づいたので、先日、統括部全体で開催している定期勉強会の場で、育休の取得経験もある管理職に「早く打ち明けてもらえると、その分だけ対応を検討しやすくなってありがたい」という趣旨も盛り込んで体験談を発信してもらいました。今までは、管理職サイドからこうした悩みや要望をメンバーに向けて発信したことがなかったので、その反省に立った試みです。
大原さん
タイミングの男女差については今のところ思い当たる経験はないのですが、早めに教えてもらうことが大事、というのは間違いないと思います。もちろん、周囲のメンバーへの共有のタイミングは慎重にならざるを得ないとは思います。先日面談したメンバーは、育休取得開始までの間、自身が管理している情報や、仕事のやり方、考え方を配下のメンバーにいかに引き継ぐかを意識して活動したと言っていました。本来、プロジェクトや組織として、欠員に備えた各種情報の連携・共有のプロセスが確立されていてしかるべきなのかもしれませんが、現時点でその状態までは至っていません。池田先生のお話を聴いて、ひとつの事例を組織としての学びにつなげていくようなアプローチの必要を感じました。
菅家さん
私のところはありがたいことに皆さんかなり早いタイミングで第一報をくれました。木村さんも仰っていたように、当事者としてはさまざまな迷いが生じるはずなので、それも含めて話をしてもらえると上司として取得を後押しするようなコミュニケーションもとれるし、不安を取り除いた状態で休業に入ってもらうことができると思っています。もちろん、欠員に備えて準備する時間が確保できるという点でも、早めの相談はありがたかったです。
なぜ、皆さんが早く打ち明けてくれたのかと考えてみると、組織内で先駆者的に育休を取得したある男性社員の存在が大きかったような気がします。「プライベートも仕事と同じくらい大切なので育休をとります」と自身のスタンスを明確にして育休を取得し、職場復帰後は休業中の自身の1日のスケジュールや育休中にやって良かったことを紹介するなど、積極的に発信してくれたのです。その結果、組織内に育休を取得しやすい雰囲気ができていて、取得を検討中の人も相談しやすい。そんな好循環が回っていると思います。
三好さん
菅家さん自身が、メンバーへの働きかけやコミュニケーションの面で心掛けていることはありますか?
菅家さん
1on1でコミュニケーションをとる機会は定期的に設けています。とくに妊娠・出産は安定するまでオープンにしにくいことなので、打ち明けやすい場を設けておく必要はあるのかなと感じます。
池田先生
「自分がチームに迷惑をかけてしまうかも」という思いが強い真面目で頑張り屋の人ほど怖くて言い出せない、というケースは他社さんでもよく耳にします。先ほどのお話しのような、その不安を払拭できるような先駆者の方からの発信や、相談したことを称える風土が浸透していると、背中を押すことができると思います。メンバーとの1on1を定期的に実施できるのであれば、たとえば冒頭の時間は、日々の困り事やモヤモヤを自由に話してもらう時間に充てるなど、「何でも気軽に話せる場」を普段から設けておけるといいと思います。
大原さん
三好さんがインプットトークで、他社の男性育休に関する定量調査結果を紹介されていましたが、アンケート結果にあった「長期で休む人に対してお互い様と思えない」という回答数だけを見ると、育休を検討中の人は気が引けてしまうかもしれません。でもあの数字というのは、休みを取る人に向けられたものというより回答した人が置かれている“プロジェクトの現況”を反映したものだと思っています。苦しい状況が変われば、同じ人でももっと前向きな回答をするのではないか? と思いました。また、メンバー同士の関係性がどの程度構築されているかによっても左右されるはずです。皆さんや池田先生のお話を聞いて、組織内の関係性や風土づくりも意識する必要があると感じました。
チームレジリエンスの土台に日々のコミュニケーションあり
三好さん
今まさに大原さんが仰ったように、チームレジリエンスを発揮するうえで、チームの人間関係がどれくらい構築できているかは重要なポイントだと思います。そもそも相手のことをよく知らないと、「お互い様」とか「助け合い」と言ってもピンときません。コロナ後リモートワークの比率が高まっている中で、日頃メンバー同士が対面で会う機会は限られていると思います。皆さんの組織で、コミュニケーションに関して何か工夫されていることがあればお聞かせください。
木村さん
私のいる統括部ではシンプルに、会う機会を増やすようにしています。もともと、本部長の方針で「週に2日以上出社」が推奨されているのですが、そのなかでも出社率が一番高い組織だといわれています。オンラインのやりとりのみだと、それぞれがもつタスクの背景にある考え方や想いの部分を共有するのは難しい気がしています。またチャットのやりとりだと、その言葉に込められたニュアンスを十分捉えきれていないと感じることも少なくありません。実際に会って話す機会を増やすことで、コミュニケーションの深化や活性化につながっているのを感じます。
大原さん
直接会った方がいろんな物事がうまく進む、というのは私も実感しています。一方で、たとえばコロナ下に入社した若手のメンバーにとっては、リモートワークこそが基本のスタイルになっていて、出社することのほうに特別な理由を求める雰囲気があったりもします。対面のコミュニケーションを意識して業務に取り組んだ結果、当人が「良かった」と思える経験を積み重ねていけるようにすることも大切だと考えています。また実際に顔を見たことも直接話をしたこともない相手とオンラインで会話をすることに、恐れに近い感覚を抱くという声も耳にします。より良いチームのあり方を考える際に、まずはそのあたりから見直す必要があるかと考えています。
池田先生
リモートワークが主の環境下でコミュニケーションを深める難しさは、他の会社さんでもよく耳にします。先ほどの木村さんのお話しの中にも「背景を知る」「想いを知る」というキーワードが出てきましたが、業務上のコミュニケーションがオンラインで完結してしまうと、意識的に工夫しなければ、会話に“余白” が生まれにくくなります。上司はどんな人間なのか、自分に何を期待しているのか。あるいはチームメンバーはどんな人なのか。自分は何が得意で何が苦手で、他のメンバーは何が得意なのか。他者との関わりの中で、そうした情報を自然に知る機会が失われがちなのだと思います。そういった、互いの想いや人となりを知ることが、いざという時にチームレジリエンスを発揮できる組織に近づく道だと思うので、対面で集うのが難しい場合でも、プロジェクトが始まる時などには画面上に顔を出して、自分の得意不得意や、モチベーションの源などについて丁寧に自己紹介をすると良いのではないかと思います。それだけでも十分効果はあるはずです。
木村さん
人となりを知ることは、大切だと思います。一昨年、約130名の部員全員に自己紹介のスライドを作ってもらいました。「あれを見ると今まで会話したことが無かった人でも話しかけやすくなる」というメンバーが多くて、互いを知るための手がかりが必要とされているのを感じました。
菅家さん
似たような話で、コンサル本部では体制図を顔写真入りのものに変えたところ、とても好評でした。写真のみでプロフィール等の記載はないのですが、写真の表情や服装から読み取れることは意外と多いようで、初めて話しかける際の心理的な負担が軽減された、という声が聞かれました。小さなことでも、できることから取り入れてみると思いの外チームのコミュニケーションの活性化につながるのだなと実感しました。
他チームの事例に学び、困難の到来に備えることの大切さ
三好さん
最近、管理職としてビジネスケアラーに対する対応への備えが急務であると痛感する出来事がありました。とあるチームで、ビジネスケアラーの方が仕事と介護の両立の問題に直面しているのを目の当たりにしたことがきっかけです。その方は、かなり困難な状況に陥っており、対応の方針を決めるのにも急を要する状況でした。私自身に介護の経験がないためとっさのことで慌ててしまいました。幸い、人事の担当部署と連携し、必要な情報を取りそろえたうえで当事者の方と一緒に対応を検討することができて、この一件はひとまず解決しましたが、今後もビジネスケアラーの方の休業に対応する場面はどんどん増えるはずです。しかも育休とは異なり、唐突にその必要が生じるのが介護休業です。また、一定期間が経過すれば確実に業務に復帰できるという保証もありません。そのため、育休取得とは別のアプローチでどのような備えができるのかを考え始めたところです。
大原さん
介護を分担できる兄弟がいるのか、ご実家が遠方にあるのか、といったご家族の状況によってもビジネスケアラーが引き受けることになる負担の重さは変わりますし、本人も予測できないと思います。
池田先生
組織としても経験やノウハウが十分に蓄積されておらず、制度に関する専門的な知識も求められる領域に関しては、たとえば人事の担当部署と連携したり、人事に仲介してもらって外部の有識者の助言を得たりと、チームに閉じることなく対応を検討できる手立てがあると良いのかなと思います。
三好さん
おっしゃる通りで、今回は突然のことで慌てました。すぐに適切な情報を提供してもらうことのできるありがたさを実感しました。
池田先生
人事的なトピックに限らず、業務に関する事例についても当てはまることですが、他のチームの困難だった経験を自組織に持ち帰り、自分事として対応を考える機会が持てるといざという場面で困難に対処する力になると思います。とくに、新米の管理職の方は「自分だけができていない」という思考にとらわれがちなので、成功事例だけでなく、他チームの失敗事例にも触れられると、モチベーションの面でも励みになるはずです。半年に1回、ないし年に1回程度、組織全体の研修などにそういった共有の時間も組み込んでしまうといった仕掛けも良いかもしれません。
大原さん
リモートが主流になっているせいか、他のチームやプロジェクトの情報に触れる機会が減りました。接する機会が少なくなると、だんだん関心も低下してきて、余計に情報が入ってこなくなります。これについては課題感を持っていて、月に一度共有会を開き、成功事例を共有する場を設けています。ただし、出席者も限られますし、発表の内容を各自がチームに持ち帰って展開するところまでは動機付けができていないので、もう少し対応を考えなければと思います。
菅家さん
自分事にするところまで持っていくのは、なかなか難しいと思います。ただ、一度でも情報に触れていれば、いざという時に「これってあの時誰々さんが話していたな…」と思い起こすことができるので、共有の場で話を聴くだけでも大きな意味があると思います。あるいは、特定の有識者を頼るのではなく、業務改善におけるAIチャットボットの活用のように、人事的なトピックスについて誰もが気軽に情報を得られる仕組みがあるといいのかな、と思ったりもします。
木村さん
三好さんのビジネスケアラーの話を聴いて思いましたが、昔は男性社員が圧倒的多数で、その人たちは会社を辞めることもなければ、育児休業や介護休業を取得してプロジェクトを離れるケースもほとんどありませんでした。つまり「1人1稼働」の世界でした。でも今は、家庭の事情で休業を取得する人が男女問わず多くいるなかで、「1人1稼働」が続く前提で仕事を回すことに無理が生じてきていると感じます。管理職の負担軽減を考えるのとあわせて、メンバー各人の業務量を見直してある程度余裕を持たせておく必要があるのかもしれません。
池田先生
タスクを減らす工夫は、今後確かに必要になっていくかもしれません。「やらないこと」を決めるのは難しいものですが、例えば3回続けて発言しなかったミーティングは次回から出席を取りやめてみるなど。そういう小さなことからも思い切って、意識的に減らす工夫ができるといいと思います。
菅家さん
欠員が生じたときのカバーに関しては、積極的に外部を頼ることも必要だと思っています。もちろんクリアするべき課題はありますが、選択肢を柔軟に広げることも、既存メンバーの業務負荷に対処する有効な手段ではあると考えています。
トークを終えて。「元気な管理職」であり続けるためにできること
菅家さん
自身を振り返って、プライベートな状況や自分がいま抱えている悩みを周囲に向けて早めに発信するアクションができていなかったと気づきました。メンバーに対し、早めに相談してほしいと望むからには、自分自身もそうあるべきですし、自分自身が変わることで、周囲にも変化を起こすことができればと思います。
大原さん
立ち止まって考えたり、それを言葉にする時間がこれまで圧倒的に足りていなかったというのが実感です。日々忙しい課長層にもこうしたコミュニケーションの機会を持てるようにしていきたいですし、社内に点在する同じような課題をつなぎ合わせて広く発信する役割を担っていかなくては、と思います。忙しい中でも、メンバーが「楽しい」「やりがいがあるぞ」と思える環境を作っていきたいです。
木村さん
組織の課題を解決する道は、やはりまずはメンバーとしっかり対話をしてリアルな意見に触れることなのだと思います。先ほど自己紹介スライドの施策に触れましたが、会話をして初めて、メンバーが実際にどう思っていたのかを知ることができました。最近は、「打合せは30分以内」のルールがずいぶん浸透しましたが、30分以内だと議論が中途半端な状態で終わってしまうことも少なくないので、じっくり対話する機会も意識的に持つようにしたいです。
池田先生
今のお話の中にもありましたが、管理職同士が課題感や事例をシェアすることによって、互いに勇気づけられたり新たなアイデアを獲得したりといった効果があると思います。またそういったコミュニケーションの場があることが、負担感が増す状況下にあって管理職の方たちの救いとなるのでは、と感じます。管理職に余裕がないと、チームの皆さんも相談すべき場面で遠慮してしまうと思うので、まずは、管理職の皆さん自身が元気になれるような取り組みを広げていけるといいのかなと思います。
三好さん
「管理職が元気に」というのは良いキーワードだと思います。自部門に閉じるのではなく、管理職同士が助け合いのマインドを持って連携していくことが、管理職自身そしてチーム全体が困難に屈しないレジリエンスを発揮するための近道であるのかもしれません。
※NTTデータ法人分野におけるDEI情報発信の取り組みについて
DEIをCSR(企業の社会的責任)としてだけでなく、多様な人財を活かしてイノベーションを生み出し、価値創造につなげる取組として捉えています。(参考:ダイバーシティ経営の推進 (METI/経済産業省))
DEIには性別・年齢・人種や国籍など様々なテーマがありますが、今年度は全社一体となって進めているキャリア自律や働き方の柔軟性、また近年増加している経験者採用にフォーカスして情報発信します。


