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2020.8.4INSIGHT

ビール造りのプロにきく、クラフトビールの楽しみ方とテクノロジー

古川 淳一(スプリングバレーブルワリー ヘッドブリュワー)

テクノロジーの導入による効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現がさまざまな業種・業界で進んでいます。ビール業界もその1つ。NTTデータではキリンビールの工場で使われる「濾過計画システム」の開発に携わり、熟練した技術の見える化(継承)と業務の効率化を実現することで、さらなるビール品質向上のための時間を創出しました。
日本でビールといえば、ビール会社それぞれのこだわりや技術・工夫が詰め込まれたピルスナータイプのものが多く楽しまれています。加えて最近は個性あふれるクラフトビールが着実にファンを広げ、多彩なビールを気軽に楽しめるようになってきました。ただ、クラフトビールと一般的なビールの違いや楽しみ方については、よくわからないという方も多いのでは?

そこで、DATA INSIGHT編集部メンバーが、東京・代官山の「スプリングバレーブルワリー東京」を訪れ、クラフトビールの基本から新たな楽しみ方、テクノロジーの活用までお話をうかがいました。

スプリングバレーブルワリー東京
広々とした店内にはクラフトビールを醸造するための仕込釜と発酵・貯蔵タンクが設置され、今まさに醸造されているビールを眺めながら、新鮮なクラフトビールを味わえる「醸造所併設レストラン」。クラフトビールと料理のペアリング、ビールのカスタマイズなど、今までにない新たなビールの楽しみ方を提案し続けている。
https://www.springvalleybrewery.jp/

クラフトビールってどんなビール?

スプリングバレーブルワリー ヘッドブリュワー 古川 淳一 氏
SPRING VALLEY BREWERYの開発プロジェクトに最年少の醸造担当として参画し、コアシリーズの「JAZZBERRY」を開発。2017年10月よりヘッドブリュワーとして、年間数十種類もの独創的なクラフトビール開発に取り組む。

ビール本来の魅力を伝えたい

DATA INSIGHT編集部(以下・編集部):スプリングバレーブルワリーがオープンしたきっかけを教えてください。

スプリングバレーブルワリー 古川淳一氏(以下・古川氏):スプリングバレーブルワリー(以下・SVB)はキリンビールの社内ベンチャーとして立ち上がったクラフトブルワリー(ビール醸造所)です。
プロジェクトが立ち上がった2012年頃にはすでに「若者のビール離れ」が言われ始めており、お客さまにとってのビールの魅力が低下しつつあるという危機感がありました。
ビールは長い歴史があり、種類も100種類以上とバラエティーに富んでいます。しかし日本では製造量の9割以上がピルスナーという同じ種類で占められていると言われています。
一方、米国では2000年代後半から、さまざまな味わいを持つクラフトビールがブームになっていました。日本においてもピルスナーだけではない、多様なビールを提供することで本来のビールの魅力を伝えることができるのではないか、という思いのもと、2015年にSVBの醸造所併設店舗がオープンしました。

編集部:クラフトビールの造り方にはどんな特長があるのでしょうか。

古川氏:基本的には一般的なビールと同じ製造方法です。ビールの造りは大きく3つの工程に分けることができます。最初は「仕込」と呼ばれる、ビールのもととなる麦汁を造る工程、続いて酵母の働きでアルコールを生成する「発酵熟成」の工程、最後にビールを濾過し(無濾過の商品もあります)、容器に詰める「パッケージング」工程です。
仕込工程は、まずは原材料の一つである麦芽をお湯に溶かし、麦芽中のでんぷんを自らの酵素で糖に分解していく「糖化」から始まります。その後、麦芽の皮などの大きな粒子を濾過し、得られた濾液にホップを加え煮沸することで、麦汁(いわば麦のジュース)が出来上がります。麦汁にアルコールは含まれておらず、味もとても甘くてビールの味わいとは大きく異なります。この麦汁に酵母を入れ、2週間~1カ月程度、発酵および熟成を行い、それぞれのブルワリーの個性がこめられた、オリジナルのビールができあがります。
クラフトビールの造り方の特長としては、原材料(特にホップ)を多く使用することでの濃い味わいであったり、フルーツなどの多種多様な素材も原材料として使用することなどが挙げられます。

編集部:「ビアフライト」というSVBで醸造された6種類のクラフトビールが楽しめるセットをご用意いただきました。どれも本当にきれいな色で、味だけではなく見た目でも楽しめますね。

古川氏:この6種類を私たちは「コアシリーズ」と呼んでいます。味はもちろん、色でも楽しめるように開発しました。
クラフトビールの色はすべて素材の色です。黒い「Afterdark」は焙煎した麦芽の色ですし、赤い「JAZZBERRY」はラズベリー果汁の色です。他のクラフトビールもそれぞれ色合いが違うのは、使っている麦芽の違いによるものです。

無限にひろがる、新しいビールの可能性

編集部:こうやって見ると、ビールにはいろいろな種類がありますね。

古川氏:一般的には「エール」と「ラガー」の大きく2つに分かれています。ただ、私たちはカテゴリーにはこだわらず、シンプルにこういう味を造ればお客さまに喜んでもらえるのではないかというところからスタートしています。例えばSVBのフラッグシップブランド「496」は、IPAというエールタイプのビールに感じるような華やかな香りを有しながらも、ラガー酵母で発酵しているため、スッキリとした後味です。「on the cloud」は白ワインのソーヴィニヨンブランや、マスカットのようなフルーティーな香りがするエールですね。「COPELAND」は日本でよく飲まれているピルスナータイプですが、同じピルスナーでも、日本において広く親しまれているビール、たとえば「キリン一番搾り生ビール」よりもさらに強い麦の香りや味わいの個性を感じます。

編集部:確かに全く違うものですね。味の違いは何から生まれるのでしょう。

古川氏:かかわる工程や原材料、缶などの資材に至る全てが香味品質に影響しますが、個人的な経験をもとにすると、一番大きな影響が大きいのは原材料です。麦芽、ホップ、酵母、さらには、フルーツやスパイスなどの量や種類の組み合わせはもちろんですが、農産物で均一でない原料や生き物である酵母について、どれだけ品質にこだわって使用できるかが重要と思います。また、酵母の種類によっても味のキャラクターが変わりますね。さらに発酵のさせ方、温度、酸素の量など……。

編集部:かけ算すると、すごい数の組み合わせになりますね! どんな着想で、造るクラフトビールの方向性を決めるのでしょうか?

古川氏:いろいろな切り口がありますが、例えばレストランで秋にサンマを出すなら、サンマにあうクラフトビールを考えます。実際のレシピは自分の経験やキリンビールが持つデータから組み立てますが、最近は全国のブルワリーとのつながりもできたので、相談することもあります。

編集部:全国のブルワリーとのつながりというのは、具体的にどのような交流をされているのでしょうか?

古川氏:東北地方のブルワリーの有志が集まって運営されている「東北魂ビールプロジェクト」に参加しています。震災時に支援いただいた方々へおいしいビールで恩返しをするという思いから技術研さんを続けるプロジェクトで、各ブルワリーに集合して設備や製法について意見交換を行ったり、合同でクラフトビールを醸造するなど、新しい取り組みをしています。私たちはプロジェクトに対して、キリンビール仙台工場の協力も得て、各ブルワリーの造ったビールの化学分析を行うなどのお手伝いをしています。特にピルスナーについてはキリンビールが長年培った多くの知見がありますが、それ以外のスタイルのビールについては、他のブルワリーさんのほうが経験豊富で、教えていただくことが多いです。なので、お手伝いしながら勉強させていただいている、という感じです。

編集部:日々新しいクラフトビールの開発や製造を続けている古川さんが考える「おいしいビール」とはどういうものでしょうか?

古川氏:飲んだ時においしいって直感的に思って、一週間後ぐらいにもう1回飲みたいな、と思えるビールでしょうか。ひとくち目は、まわりの雰囲気やその日の気候や体調などにも影響されると思います。例えばスポーツなどで汗をかいたあとなら、キンキンに冷えていたらどれもおいしく感じるでしょうし(笑)。あとで冷静に思い返して、また飲んでみたいという余韻が残るのがおいしいビールだと思いますね。

ゆっくり味わう、という新しいビールの楽しみ方

お客さまと造り手の関わりが、ビールをもっとおいしくする

編集部:SVBは醸造の設備が客席から見えるのが楽しいですね。しかも一部のタンクや釜は透明です。

古川氏:SVBはお客さまに造る過程も楽しんでいただくというコンセプトなので、温度調整などの難度はあがりますが、あえてガラス製の装置も置いています。発酵中のタンクでは酵母が活動して「もわもわ」と対流するのがよく見えるので、「あれはなんですか?」などお客さまとコミュニケーションが生まれています。

編集部:お客さまとのコミュニケーションと言えば、通常SVB横浜や京都の店舗で行っているリアルイベント「ブリュワーズナイト」を、6月に初めてオンラインで開催されましたね。私も参加させていただきました。

古川氏:「ブリュワーズナイト」は、各商品にまつわるストーリーや造り手の人となりを知ってもらったほうがよりおいしく感じてもらえるのでは、ということからスタートしたイベントです。今回、初めてのオンライン開催でしたので、今までできなかったことに挑戦しようと、コアシリーズの6種類について私含め3人のブリュワーでじっくり説明したり、醸造所の裏側などを見ていただきました。いかがでしたか?

編集部:造り手の方からみたクラフトビールの解説など、なかなか知ることができないお話も多く、とても楽しかったです! 今回は家でSVBのビールを飲みながら参加している方が多かったと思います。お家ならではのクラフトビールの楽しみ方はありますか?

古川氏:家だと自分のペースでゆっくり飲めると思うので、時間がたって温度が上がるにつれて、香りが変化したり甘みを感じたりという「味わいの変化」が楽しめます。あとは料理やおつまみを選んだり、今日のごはんにあうものを探したりというのも楽しみの1つですね。

これからのビールはどう進化する?

編集部:私たちはテクノロジーの会社なのであえてうかがいたいのですが、クラフトビール造りや楽しみ方について、今後テクノロジーが貢献できることはあると思いますか?
また、逆に人でなければならないことは何だと思いますか?

古川氏:ビールの味を評価するのは人間ですから、気分や気温、その他のコトで感覚がとても揺れるものです。お客さまの気持ちなどを考えて、どんなビールが受け入れてもらえるのかを考えることには、やはり人の感覚が必要だと思います。
逆に、ビール製造は大きな工場を持つ装置産業でもあるので、目標に向けて安定した品質で造り込むことや、熟練の技・感覚を次の世代に伝えるための時間をつくるには、自動化などの恩恵がとても大きくなるはずです。キリンビール工場でNTTデータさんと一緒に取り組んだ濾過計画業務の自動化のように、大きく進化していくと思います。

編集部:クラフトビールも含め、これからビールの楽しみ方はどのようになっていくと考えていますか。

古川氏:あくまでも個人の意見ですが、リーズナブルでおいしいビールと、多少高価でもゆっくり大切に飲みたいビールをお客さまが使い分ける、二極化が進むのではないかと。今までビール業界はどちらかというと前者を追求してきましたが、ゆっくり飲むことに関しては、お客さまのニーズをさらに的確にとらえなければいけません。

編集部:古川さん自身が今後造ってみたいビールはどんなものですか?

古川氏:個人的には果物を使ったビール(※)がすごく好きで。これは果たしてビールなのか、とよく言われますが(笑)。フルーティーな味わいで、ちょっと上質なものが造れたらいいですね。伝統にとらわれずに、お客さまの好みにあわせて新たなかたちのビールを造っていけたらと考えています。
もう1つは、ビールをもっとおもしろいと思ってもらえるような体験ができる機会をつくりたいですね。原材料による微妙な違い、例えば同じ配合でもホップを変えただけでこんなに変わるとか、そういうことを店舗で体験をしてもらえたら、クラフトビールだけではなく普段から飲んでいるビールについても、もっとおいしく感じ、興味をもってもらえるのではないかと。

(※) 平成29年度税制改正により、果実(果実を乾燥させ、もしくは煮つめたもの、または濃縮した果汁を含む。)についても、ビールの必須原料である麦芽の重量の100分の5を超えない範囲内であれば酒税法上「ビール」の区分と認められる。それ以上の分量を使用すると「発泡酒」区分となる。

編集部:ますますビールがおもしろくなりそうですね。また、新たな体験についてはテクノロジーでお手伝いできることがあるかもしれません。ぜひその際にはご協力させてください(笑)。これからも古川さんやSVBのブリュワーの皆さんが造る新しいビールを楽しみにしています。今日はお忙しい中ありがとうございました。

SVBのビールは全国3カ所のSVB店舗で提供しているほか、キリンの通販サイト「DRINX」でも購入できます。興味を持った方はぜひお試しください!
https://drinx.kirin.co.jp/beer/svb/

編集後記

古川さんのお話しからは、優しい語り口の中にもビール本来の魅力を幅広く伝えていきたいという熱い思いが感じられました。インタビューを終えた後、キリンビール工場に提供している「濾過計画システム」の取材の際にも、新しいしくみづくりに粘り強く取り組む熱意をもったプロジェクトメンバーの姿があったことを思い出しました。 クラフトビール造りを通じたビールの新しい可能性へのチャレンジと、テクノロジーを活用したより良い未来のしくみづくりへのチャレンジ。どちらにも、妥協をしない造り手の熱い思いがありました。
この夏はクラフトビールでカンパイ!

DATA INSIGHT編集部

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