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2022年8月31日トレンドを知る

気候変動/TCFDに次ぐ、自然/TNFDの開示の動向

気候変動に関するリスクと機会の開示を推奨する「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」に対応して 、非財務情報の開示を行う企業は増えているが、昨今「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」の議論も急速に進んでいる。本稿では、NTTデータのマテリアリティ(重要課題)のひとつであるNature Conservationとも密接に関係するTNFDの動向と内容について解説する。
目次

「自然」への関心の高まり

サステナビリティに関する企業の取り組みは重要性を増しています。気候変動に次いで注目されてるのが「自然」です。世界経済フォーラムが2022年に公開したグローバルリスク報告書(※1)では、今後5~10年の期間の重大なグローバルリスクとして上位5つに環境関連のリスクを挙げています。「気候変動への適応の失敗」と「異常気象」に次いで、「生物多様性の喪失」、「天然資源危機」、「人為的な環境災害」の3つの自然関連の項目がリスクとして認識されています。また、同フォーラムが公表した別のレポートによれば、世界のGDPの半分にも及ぶ44兆ドルに相当する自然が喪失の危機に脅かされています(※2)

(※1)第17回 グローバルリスク報告書2022年版, 世界経済フォーラム, 2022

WEF_Global_Risks_Report_2022_JP.pdf (weforum.org)

(※2)The Future of Nature and Business , 世界経済フォーラム, 2020

WEF_The_Future_Of_Nature_And_Business_2020.pdf (weforum.org)

TNFDの動向

生物多様性や自然への関心が高まる中、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)」が2021年6月に設立されました。TNFDは自然に関係するリスクと機会を評価し開示するためのフレームワークを企業に推奨するイニシアティブです。企業の自然に関係するリスクと機会の透明性が向上することで、投資家がネイチャーポジティブな(私たちの地球と社会の強靭性を強化し、自然の喪失に歯止めをかけ回復させる(※3))ソリューション、機会、ビジネスモデルにつながる投資判断を行えるようにファシリテートするものです。

TNFDフレームワークの設計は、企業や専門家の意見等を積極的に取り入れる「オープンイノベーションアプローチ」を採用しています。これは、フレームワークを利用しやすく、すでに市場において存在する、あるいは開発中の最適な指標、データ、ツールを活用することができ、かつ科学的な根拠に基づくものにするためです。2022年3月にはTNFDフレームワークのベータ版v0.1、6月にはベータ版v0.2が発表され、今後11月のv.0.3、来年2月のv.0.4の発表を経て、今からちょうど1年後の2023年9月にはTNFDとしての最終提言が公表される予定です。

図1:TNFDのオープンイノベーションアプローチとタイムライン(出典:TNFD)

図1:TNFDのオープンイノベーションアプローチとタイムライン(出典:TNFD)

(※3)What is ‘nature positive’ and why is it the key to our future?, 世界経済フォーラム, 2022閲覧

What is 'nature positive' and why is it the key to our future? | World Economic Forum (weforum.org)

自然とビジネスとの関係

ここで、TNFDにおける自然の定義について解説します。TNFDでは自然は4つの領域(陸、海、淡水、大気)で構成されると定義しています。金融の世界に資産(ストック)と収益の流れ(フロー)が存在するように、自然界も自然資本というストックで構成され、その資産が人々や経済に関連した便益のフローを生み出しています。環境資産は地球上の生物及び非生物の構成要素で、森林、湿地、サンゴ礁、農地などが該当します。生態系は環境資産の重要な要素で、TNFDでは植物、動物、微生物、また属する非生物環境と相互作用する動的複合体と定めています。生物多様性は、生態系資産の質、回復力、量を維持し、生態系サービスを提供するうえで欠くことのできない特性であるとしています。生態系サービスは供給サービス(生態系から受けられる便益。例:木材、河川からの取水など)、調整サービス(生態系が持つ生物・気候・水環境などを調整・維持する能力の結果。例:森林による水源涵養や炭素吸収など)、文化的サービス(生態系から受ける経験や無形のあらゆる文化的な便益。例:森林やサンゴ礁から得られるレクリエーション価値など)に分類されます。

図2:TNFDにおける自然の定義(出典:TNFD情報を元に著者作成)

図2:TNFDにおける自然の定義(出典:TNFD情報を元に著者作成)

ビジネスは自然と密接に関わっています。例えば、食品製造業や飲料業では原材料調達を農産物や水産資源、水資源などの生態系サービスに依存しています。同時に農産物の栽培過程において、農薬や化学肥料の使用は土壌や地下水への環境負荷となる可能性があります。また製造や加工工程においても排水や排気ガスなど、環境影響を及ぼします。企業活動の自然への依存や影響は、自然に関するリスク及び機会として捉えることができ、財務影響を及ぼす可能性があります。

ではどのようなビジネスが自然と密接に関わっているのでしょうか。TNFDは、2022年6月に公開したベータ版v.0.2において、自然への依存と影響による財務影響が大きいと考えられる優先セクターと産業について整理しています(※4)

図3:業種別ガイダンスの作成優先度が高いTNFDにおける優先セクターと産業(金融以外)(出典:TNFD情報より著者作成)

図3:業種別ガイダンスの作成優先度が高いTNFDにおける優先セクターと産業(金融以外)(出典:TNFD情報より著者作成)

(※4)

TNFDの業種別ガイダンス作成の優先度が高いセクターと産業を整理している

TCFDとの共通点と相違点

先行するサステナビリティ関連の財務情報開示フレームワークとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Taskforce on Climate-related Financial Disclosure)があります。では、TCFDとTNFDの間にはどのような共通点と相違点があるのでしょうか。

TNFDフレームワークは、既存の開示フレームワークや基準に統合可能なものにすることを設計指針として定めています。TCFDと可能な限り用語やアプローチを統一することが考慮されており、開示内容についてもTCFDと同じガバナンス、戦略、リスクマネジメント、数値とターゲットの4本の柱を軸にしています。

相違点としては、TNFDではロケーションを重視しています。これは、温室効果ガスはロケーションにかかわらず地球規模でCO2の排出量という指標で測定できることに対して、自然は存在するロケーションによって生態系並びに生物多様性が異なることに起因します。また、自然は多様な生態系サービスを提供しているがゆえに、単一の指標では依存や影響の度合いを測定できないという違いもあります。

自然関連リスクと機会を評価するLEAPアプローチ

TNFDは自然関連リスクと機会を統合的に評価するプロセスとしてLEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)アプローチを策定しています。LEAPは、自然との接点を発見する(Locate)、依存関係と影響を診断する(Evaluate)、リスクと機会を評価する(Assess)、自然関連リスクと機会に対応する準備を行い投資家に報告する(Prepare)の4フェーズから構成されます。

図4:LEAPアプローチ(出典:TNFD)

図4:LEAPアプローチ(出典:TNFD)

Locateでは企業が保有する資産や活動におけるバリューチェーン、サプライチェーンの拠点を特定するところから始まります。そしてその拠点が接する生物群系や生態系を明らかにします。さらにそれら生物群系や生態系のなかで、喪失危機、重要な生物多様性や水ストレスにさらされている地域を特定します。企業活動が行われている拠点と優先的に対応すべき自然との接点のスクリーニングを行います。

Evaluateではスクリーニングを行った拠点にて実際に行われている企業活動を明らかにして、自然資本(環境資産と生物多様性)と生態系サービスへの依存と影響を確認します。TNFDが公表している仮想のケーススタディ(※5)では、企業活動による自然資本と生態系サービスへの依存と影響を確認するためにENCORE(※6)というオンラインツールを利用しています。ENCOREを通じて特定したインパクトドライバー(自然資本と生態系サービスを変化させる要素)、自然の状況、生態系サービスに分類して影響を分析する計画を立てています。

AssessmentとPrepareのフェーズは、Evaluationのフェーズで分析した結果からリスクと機会を特定し、企業の戦略と資源配分に落とし込み、開示アクションに向けた準備を行うフェーズです。

(※5)A Landscape Assessment of Nature-related Data and Analytics Availability, Discussion paper, TNFD, 2022

TNFD-Data-Discussion-Mar22-Up-June22.pdf

企業に求められる対応とNTTデータの取り組み

TNFDは2023年9月の最終提言の発表に向けて、セクター別の個別ガイダンスの開発などを進めています。一方で、2022年3月にTNFDから公開されたディスカッションペーパー(※5)では、多様な分析ツールやプラットフォームが存在するものの十分なデータを備えていないこと、複雑な自然関連のデータを測定することが困難なことなど、いくつかの考察がなされており、企業としてはどのタイミングでどのように着手するのか判断が難しい状況だと思います。

現時点で確実に言えることは、TNFDはロケーションを重視しており、企業の資産、バリューチェーン、サプライチェーン全体のロケーションの特定と、優先的に対応すべき自然との接点を有する企業活動拠点を正確に把握しなければ分析が進まないということです。

NTTデータでは、めざす姿として「Realizing a Sustainable Future(※7)」を掲げ、私たち自身の企業活動(of IT)とお客さまや社会に対する事業活動(by IT)の両面から社会課題の解決と地球環境への貢献に取り組んでいます。具体的にはお客さまのグリーン経営・事業戦略の策定、戦略を実現するための実行支援をサポートするグリーンコンサルティングサービス、サプライチェーンを通じた現場の情報を自動的に集約して可視化を行うクラウドサービスなどを提供しています。また、高解像度のデジタル3D地図を活用した森林資源量把握や水資源賦存量の分析等に役立つソリューションを提供しています。TNFDの動向を引き続き注視し、NTTデータの技術を活用して、ネイチャーポジティブな社会の構築に貢献できるよう取り組んでいきます。

(※7)サステナビリティ

https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/

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