地震や津波、洪水などの防災対策や都市インフラ整備のために世界中で3D地図の需要が高まっています。
3D地図とは、緯度・経度・高度の情報を組み合わせて、陸地の起伏を表現したもの。陸地の起伏をわかりやすく、かつ、正確に可視化することで、防災に必要なシミュレーションや施設の建築計画をスムーズに進めることができます。
このため3D地図は、精度の向上が長く望まれてきました。しかしこれまでは、多くの場合、航空機を使った調査を行う必要があり、航空写真と人手で計測したデータを基に3D地図を作成していました。そのため、多くのコストと期間がかかり、3D地図の作成対象は一部の地域に限定されてきたのです。
そうした環境を一変させたのが人工衛星の観測技術とITの処理能力の大幅な向上です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では陸域観測技術衛星「だいち(ALOS:エイロス)」を使って、世界中の陸地を300万枚にも及ぶ衛星画像として撮影することに成功しました。この膨大なデータをITを活用し大量・高速処理することで、従来の30-90m解像度から大幅に精度を向上した5m解像度の細かさで陸地の起伏をデジタル3D地図として表現できるようになったのです。
【 NTTデータの取り組み 】高精度・高速デジタル3D地図作成システムを開発
NTTデータはこれまで、JAXAと共同で「だいち」が撮影した人工衛星画像の処理と活用に取り組んできました。「だいち」は、2006年1月から2011年4月まで全世界の陸地を中心に高精度な観測を行ってきた人工衛星です。その膨大なデータから3D地図を作成するには、高い計算能力と自動化処理が不可欠でした。
そこで、NTTデータは、JAXA及び一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)と協力して、高度な画像処理アルゴリズムと高速処理システムの2つの技術からなる3D地図作成システムを開発しました。大量のデータの並列処理によって、1日におよそ2TBの画像を処理する仕組みです。この仕組みを活用し、2014年2月から世界最高5m解像度の3D地図提供サービスを始動させました。
また、3D地図の整備に合わせてサービス提供エリアを拡大させ、新興国におけるインフラ整備・防災対策・鉱区探査、さらには衛生分野における疫病の感染拡大対策など、70カ国以上の幅広い分野で利用が広がっています。
そして2016年3月末には、全世界3D地図の整備を完了。2016年4月から全世界の陸地の起伏を世界初となる5m解像度で表現した「AW3D全世界デジタル3D地図」(以下、AW3D)として提供を開始しました(図1、図2)。
これは日本全国の基盤地図(2万5千分の1)と同様の精度が、全世界で活用可能になったことを意味しています。この正確さがあるからこそ、さまざまな場面での実利用が可能になるのです。
図1:完成した「AW3D全世界デジタル3D地図(アフリカ・ヨーロッパ)」
図2:アメリカ・サンアンドレアス断層の3D地図(衛星画像を重ね合わせた鳥瞰図)
50cm解像度の実現でビジネス利用も加速
さらにNTTデータは2016年4月、世界最高解像度の衛星を保有する米国DigitalGlobe社と提携し、最高50cm解像度の精度を実現するAW3Dの「高精細版」の提供を始動させました。
50cm解像度の世界では、建物1棟1棟の違いはもとより、樹木1本1本の違いまで識別できるようになります。そのため、5m解像度では適用が困難だったビジネス領域への応用も可能です。例えば、高層ビル群の中で携帯電話の電波がどのような状況になっているかを調査したり、都市や道路の景観をシュミレーションして出店計画を立案したり、空港周辺のビル群から空路障害を把握したりといったかたちです。
こうした可能性から、世界各国の企業・組織がAW3Dに注目し、その利用の要望をNTTデータに寄せています。
重要なのは、それらのニーズに対応できるアプリケーションやコンテンツをいかに迅速にAW3Dと連携させ、新たな価値として提供していくかです。NTTデータはすでに、航空路設計アプリケーションや交通網計画アプリケーション、交通計画アプリケーションなどを、AW3Dの新たな付加価値サービスとして提供しています。今後もお客様の要望にお応えし、「使える」バーチャル空間を世界規模で提供、各国の安全・発展に貢献していきます。
AW3D高精細版(50cm解像度)による東京の3D地図
【 ユーザー事例 】防災対策から、資源エネルギー、インフラ、都市計画の 効率化まで
NTTデータの3D地図は新興国の防災分野を中心に数多くの事例があります。2015年に大地震を経験したネパールでは、震災後の復興計画策定に3D地図を活用しました。震災後、土砂災害発生の危険性が高まったことから、3D地図を用いて複数の地震被害エリアで、土砂災害ハザードマップを作成しました。
また、地震多発国であるミャンマーでは、地震防災対策のために活断層分布の把握が重要でした。航空機などでは莫大な費用がかかるので3D地図を活用し、今までに見つかっていなかった新しい活断層の抽出に成功しました。このほかにも、ベトナムにおける幹線道路沿いの土砂災害対策、ホンジュラスにおける市街地区の地すべり災害対策、スリランカにおける災害発生後の復旧対応などがあります。
さらに、ビジネス展開の事例としては、南米企業における資源鉱山開発の効率化、風力発電地点調査の効率化、市街地での店舗新規計画の効率化などが挙げられます。
このうち、店舗新規計画の事例では、AW3Dの活用によって、店舗を建てた際の交通量・集客のシミュレーションをはじめ、景観の変化や周辺建物に対する日照時間の変化、さらには地域状況の把握などが可能になり、計画立案に向けた調査・分析工数の大幅な削減を実現しています。また、AW3Dを使った店舗計画のビジュアル化により、地域住民との合意形成も図りやすくなるといった効果ももたらされるのです。
AW3Dを活用した店舗新規計画の効率化
(提供:三井共同建設コンサルタント株式会社様)
AW3DとVR技術と組み合わせることで大規模店舗開発の景観を再現。交通流動変化についてもシミュレーション等によって予測