多様化するプロセッサ
近年、AIやVR等の新しいテクノロジーの進化により、莫大な計算力、プロセッサパワーが必要とされるようになっています。発展著しいAIの領域では、大量のデータの学習のために膨大な計算量を必要とするため、数週間という長い学習時間を要する例もあります。また、長年プロセッサパワーの指数関数的な性能向上を意味していた「ムーアの法則」は、その限界が明らかになってきました。
こうした状況から、従来の汎用CPUでは急速に大きくなる計算力の要求に応えられないため、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)やFPGA(Field-Programmable Gate Array:プログラミング可能な集積回路)などの、特定の性質のロジックに強いプロセッサの利用が拡大しています。例えばAI分野では、GPUがCPUに比べ10 倍以上の性能を実現したことから、AI学習にGPUを利用することは事実上の標準になっています。
通常、プロセッサは製造された段階でロジックが焼き付けられ後から変更ができませんが、FPGAは後から自由に何度でも書き換えてロジックを変更できるため、個別用途に特化したプロセッサをソフトウェア的に生成することができます。実行ロジックを随時変更しながら、それをミリ秒レベルでの高速化チューニングすることが可能になるため、株や為替のアルゴリズム取引を高速に実行するために利用されています。
さらに、専用プロセッサを独自に設計・製造する例もあります。GoogleはAIアルゴリズムの1つであるディープラーニングの推論実行にのみ特化したプロセッサを独自に開発し、自社のデータセンタに導入、AIアプリケーションの実行に関して大幅な効率化を実現しています(※1)。
- ※1 Google supercharges machine learning tasks with TPU custom chip
https://cloudplatform.googleblog.com/2016/05/Google-supercharges-machine-learning-tasks-with-custom-chip.html
多様化するアーキテクチャ
システムアーキテクチャもプロセッサ同様に多様化しています。エッジコンピューティングは、現場=エッジにある膨大なIoT機器を活用し、これまでにない柔軟で動的な処理の分散を可能にするアーキテクチャとして注目されています。
現場側で迅速な処理が必要な場合や収集される情報の蓄積や圧縮が求められる場合はエッジ側デバイスで処理しつつ、センタ側との連携も必要に応じて行うアーキテクチャです。自動運転車への適用が期待されており、5G等の次世代ネットワークの活用と合わせて、その活用が模索されています(※2)。
また、分散型台帳技術であるブロックチェーンはBitCoinを支える基盤技術のひとつとして注目され、その特性を活かしたユースケースを求めて様々な試みが続けられています。ブロックチェーンを用いれば、ネットワーク上に分散してデータを共有しつつ改ざん防止が可能で、中央集権型の堅牢なデータベースを構築する必要がありません。
BitCoinが稼動開始以来、一度もダウンすることなく稼働を続けていることから、その可用性の高さも魅力になっています。資金送金や決済の他にも、国際貿易取引や電子政府サービス、食品のトレーサビリティシステムなど、金融以外の領域でも活発に実証実験が行われています(※3)。
- ※2 トヨタとNTT、「コネクティッドカー」向けICT基盤の研究開発に関する協業に合意
https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/03/27/170327a.html - ※3 保険証券へのブロックチェーン技術適用に向けた実証実験を開始
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2016/121600.html
クラウドによるサービス化とその利用
このように多様化するプロセッサやアーキテクチャの利用にあたっては、それらを必ずしも所有・構築する必要はなく、クラウドによりサービス化されたものを利用することが可能になっています。例えば、GPUやFPGAはクラウドサービスで利用可能となっており(※4)、また、ブロックチェーンのような新しいアーキテクチャでさえもPaaS形式で提供されています(※5)。そのため、多様化するプロセッサやアーキテクチャを利用するための障壁は限りなく低く、開発者は容易に、スピーディにそれらの技術を活用できます。
一方で、多様化したインフラを適切に活用するためには、それらに関する知識やノウハウが重要となります。例えば、GPUを利用する場合、その性能はソフトウェア側でいかに最適に並列処理ロジックを実現するかに依存します。よって、それぞれのプロセッサやアーキテクチャの特性を十分に理解した上で、最適に活用できるノウハウが今後の競争力の1つとなるでしょう。
- ※4 アマゾン ウェブ サービス (AWS)
Amazon EC2 P2 インスタンス
https://aws.amazon.com/jp/ec2/instance-types/p2/- Amazon EC2 F1 インスタンス
https://aws.amazon.com/jp/ec2/instance-types/f1/
- Amazon EC2 F1 インスタンス
- ※5 Microsoft Azure Blockchain as a Service
https://azure.microsoft.com/ja-jp/solutions/blockchain/