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2020.4.9技術トレンド/展望

デジタル時代における銀行の役割 「社会と創る地域の未来」

デジタル変革期にあり、かつ、当局から待ったなしのビジネス構造変革を迫られる日本の銀行業界。国内外で広く浸透しつつあるCSV経営の概念が、日本の銀行業界の変革の起爆剤となるのか。その可能性と、これから求められる銀行の将来像を追う。

アメリカ大手経済団体による経営の方向転換

2019年8月、アメリカのJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、同国最大の経済団体「ビジネル・ラウンドテーブル」を通じて「株主第一主義からの脱却」について発表しました。この声明は企業活動の目的は「顧客、従業員、地域社会を含めたステークホルダーへのコミットメントであり、社会的責任を果たすことに注力すべきである」というものです。

営利企業は、社会課題の解決に向けた価値創造を通じて、経済規模の拡大を実現すべき――

この動きはマイケル・ポーター教授が2006年に「ハーバード・ビジネスレビュー」誌で提唱したCSV経営の概念に通じるものがあります。近年では、日本でもCSV経営に取り組む企業が増加していますが、ポーター教授が提唱する約20年以上も前から社会課題の解決に向けた価値創造に取り組んでいる銀行が欧州にありました。

1980年に始まったミッションドリブン型銀行

オランダのトリオドス銀行は、ミッションドリブン型(※1)Social Responsible Bankの草分け的存在として、その名が知られています。1960年代後半に顕在化した公害・環境問題に端を発し、市民が中心となり金融機能を通じた課題解決の取り組みが始まります。1980年に銀行設立が実現すると、市民から集めた預金を「環境」「社会」「文化」などの社会課題の解決に繋がる事業に投融資。さらにそれら投融資先の見える化により、さらにステークホルダーの支持を獲得し、現在に至るまで順調な事業拡大を遂げています。

2010年代に登場した「社会的価値の循環を創出する銀行」

1990年代には、銀行・顧客・地域社会・企業が一体となり、社会的価値の循環を実現する取り組みが登場しました。ハンガリーのマグネット銀行は、預金行動、購買、口座維持委託など、顧客の金融行動シーンを社会的価値創出に結びつける仕組みを提供しています。それにより、顧客の行動や選択が各々の目指す社会の実現に寄与をしています。

銀行サービスの取り組み事例(※2)

  1. 1.顧客は、銀行に預けた定期預金がどのような事業の融資に利用されるのか選択が可能
  2. 2.顧客は、銀行に支払う口座維持管理手数料を自由に設定可能
  3. 3.銀行は、税引き後収益の10%をNPOなどの地域コミュニティ活動に寄付

デジタル化が実現する新たな Social Responsible Bank像

一方、現在の日本の銀行に目を向けると、多くの銀行がマイナス金利の厳しい環境下に置かれ、早急なビジネス構造の転換を求められています。ビジネス構造の転換に向け、AI審査やペーパーレス化など、既存の銀行業務のデジタル化による業務変革が進むも、新たなデジタルバンキングサービスの立ち上げに向けては、事業構想(その取り組みを通じて実現したい世界)を描くことに苦心している声も聞かれます。

こうした事業環境の中でも、欧米の事例のように顧客ニーズ≒社会課題と設定し、金融サービスを通じて社会課題の解決と自社のビジネス構造の転換に取り組むのも一案だと考えます。下記では、トリオドス銀行やマグネット銀行の事例を参考に、日本でのサービスアイディアのサンプル事例を挙げています。

  1. 1.顧客が、預金の元とする融資先や資産運用先の事業者(※3)を選べる
  2. 2.顧客のアプリPay利用額が一定額に達すると、一定割合が地域の店舗や事業者(※3)に還元される
  3. 3.顧客が、特定の地域の店舗・事業者のサービスに対する積立貯金を利用する

デジタル技術の進展により、デジタルタッチポイントの顧客体験価値を向上させたり、AI分析によって顧客嗜好に合わせたリコメンドを発信したり、顧客と融資先をオンライン上で交流させ互いのエンゲージメントを高めるなど、デジタル技術はさらなる価値提供を生み出す可能性を秘めています。
新たな銀行ビジネスモデルを描く手段として、CSV経営の概念を踏まえ、エンドユーザーの生の声を聞き、ともにゼロベースで価値創出をする姿勢が第一歩となるのではないでしょうか。

※1

社会における企業の存在意義をミッションとして定義し、その目標達成に向けた事業運営を推進すること

※3

介護事業、再エネ事業、文化再生事業、自然保護などの社会事業や地域主要産業

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