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2021.12.22業界トレンド/展望

CX(カスタマーエクスペリエンス)とは?UX、CSとの違いやCX向上の具体的なステップを理解しよう

「CX(カスタマーエクスペリエンス)」という言葉を、最近マーケティングの分野でも当たり前のように耳にするようになりました。直訳すると「顧客体験」ですが、それにしてもなぜ「体験」なのでしょうか?また、「UX(ユーザーエクスペリエンス)」や「CS(カスタマーサティスファクション:顧客満足度)」という似た言葉もありますが、CXはそれらと何が違うのでしょうか?CXの定義から、CXの向上に成功している企業の事例、CX向上のための具体的なステップまでを解説します!

NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。

CX(カスタマーエクスペリエンス)とは?

カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience:CX)を直訳すると「顧客体験」となります。ただし、マーケティング用語としての「CX」とは、顧客の体験そのものというよりは、体験によってもたらされる「感情的な価値」を指します。そのため、CXには「顧客体験価値」という訳語がよく用いられます。

顧客体験価値の「価値」とは何か

商品を購入するプロセスはその商品の発見(認知)、店舗・サイトへのアクセス、購買、さらに購買後のアフターフォローといった複数の顧客体験で構成されています(この一連の顧客体験の流れを「カスタマージャーニー」と言います)。その個々の顧客体験を通じて生じる、「また買ってみたい!」「このブランドのファンになった!」「このお店に入るとワクワクする!」などといった、企業やブランドに対するポジティブな心の動きが、最終的に顧客が獲得する価値、すなわちCXです。

CX(カスタマーエクスペリエンス)とは

「CX」と「UX」は違う?

CXと似た言葉に「UX(User Experience)」があります。UXとは、例えば「このスーツの着心地がいい」「お店のスタッフが丁寧に接客してくれた」などのように、商品・サービスの購入や使用における個別の顧客体験を指します。この場合の顧客体験は、主に商品・サービスの機能や品質にフォーカスされます。

対して、CXとは商品を発見(認知)してから購入し、着用するまでの一連の顧客体験の総体として、その企業・ブランドに対して感じる価値です。個々の体験ではなく総合的な体験から得られる価値という点で、UXとは異なります。また、機能や品質よりも感情の変化にフォーカスされるのも、UXとの相違点です。

ただし、CXとUXは全くの別物ではなく、CXをカスタマージャーニーごとに分解すると複数のUXに落とし込むことができます。つまり、UXとは最終的なCXをもたらす構成要素であると言えます。

「CX」と「CS」は違う?

もう一つ、CXと混同されやすい言葉にCS(Customer Satisfaction:顧客満足度)があります。商品・サービスに対して顧客が抱く満足度を表すCSは、アンケートやNPS ®(顧客ロイヤリティ調査)などを通じて定量化され、指標として用いられるものです。すなわち、CSは「企業から見た顧客の満足度」です。それに対しCXは、「顧客から見た満足度」であり、かつCSよりも感情的な概念を表すものです。

このような違いはあるものの、CSを向上させることでCXが向上するという考えの下、CXを評価する際のKPIとしてCSが用いられることがあります。

CXが重視されるようになった背景

CXは、ここ数年の間にマーケティング戦略において重視されるようになった概念です。その背景には、大きく分けて3つの消費行動の変化があります。

<背景➀>市場競争が激化しコモディティ化が進んだ
D2C(Direct to Consumer)の普及をはじめ、誰でも気軽にネットショップを開けるようになり、多くのBtoC市場で参入障壁が下がっています。そのため市場競争が激化し、商品・サービスのコモディティ化が加速して性能や価格では差別化が図りにくい状況になりつつあります。

そこで、競争に巻き込まれることなく消費者に自社の商品・サービスを選択してもらうために、その企業・ブランドならではのユニークな体験価値を創出し、提供することが重視されるようになりました。

<背景➁>消費者が多くの情報から商品・サービスを見極めるようになった
かつてテレビCMなどのマス広告が大きな影響力を持っていた時代には、企業・ブランドが発信するイメージを消費者側がそのまま受け入れ、支持していました。ところが、スマートフォンの普及によって、消費者は膨大な情報の中から商品・サービスを多角的に吟味し、自分にとって本当によい商品・サービスかどうかを厳しく見極めるリテラシーを身に着けるようになりました。

また、消費者側も「メディア」となってSNSなどでリアルな声を発信するようになり、その口コミが影響力を持つようになりました。そこで、消費者に本当に信頼される企業・ブランドとなるために、顧客体験が重視されるようになりました。

CXが重視されるようになった背景

<背景➂>消費者の求める価値が多様化した
上記と重複しますが、かつてのマス広告が強かった時代には、企業・ブランドの発信するメッセージに共感して消費者が商品・サービスを購入していました。言い換えると、画一的なブランドメッセージが多くの消費者の共感を集める時代でした。

ところが、現代においては消費者の求める価値は多様化し、画一化されたメッセージが響きにくくなっています。消費者自身が「自分にどんな体験を提供してくれるのか」ということに敏感になっており、その顧客体験を明確に届けられない企業は、後から参入する商品・サービスにどんどん後れをとってしまいます。


まとめると、これらの消費行動の変化は、商品・サービスを選択する主導権が「企業」から「消費者」に移ったことを意味します。商品の性能やブランドイメージではなく、消費者自身が感じる主観的な「体験」が選択のキーファクターになり、その体験価値を提供できなければ選んでもらえない時代になったのです。それが、今日においてCXが重視される背景にあります。

CXが重視されるようになった背景:消費者の求める価値の多様化

CX向上で成功している企業とは?

CXの定義や重視されるようになった背景をお伝えしましたが、CXは顧客にとっての感情の揺れ動きを表す抽象的な概念なので、まだピンとこない人もいると思います。そこで、CXの向上を通じてファンを増やしている企業・ブランドの具体的な事例をご紹介します。

<事例➀>スノーピーク
キャンプ・アウトドア製品を開発・製造・販売するスノーピークは、社員ひとりひとりが顧客の立場で考え、顧客とのつながりを生み出す強い哲学を持った企業です。同社のミッションステートメント「The Snow Peak Way」には、「私達は、自らも顧客であるという立場で考え、お互いが感動できる体験価値を提供します」とうたわれています。

CX向上施策の一例として、スノーピーク社員と顧客同士が交流するキャンプイベント「Snow Peak Way」を実施。店頭やオンラインとは異なる場で顧客との接点を設けることで、顧客とスノーピークとの絆を深めるだけでなく、顧客同士の出会いの場ともなっています。エンゲージメントを高める場であるとともに、顧客からその後の商品化につながるような貴重なフィードバックを得る機会にもなっています。

さらに、20221月からは新たな会員ランク判定基準として「ライフバリューポイント」を新設するとのこと。商品購入だけでなく、スノーピークが運営するキャンプ場での宿泊、レストランでの食事、アクティビティなど様々な体験サービスを利用することでポイントを貯め、ランクを判定する仕組みで、顧客のスノーピークブランドへの求心力を高め、さらに深いつながりを生み出そうとしています。

<事例➁>スターバックスコーヒー

CX向上で成功している企業とは?

言わずと知れたスターバックスも、CXの向上によってファンを増やし続けている企業のひとつです。同社では、心を動かす体験を「スターバックス体験」と呼び、顧客の心を動かす体験を提供するためにどうしたらいいのかをパートナー(従業員)が常に考える企業文化が根づいています。

全国にあるスターバックスの店舗の内装やインテリアは画一的にせず、設計にあえて「余白」を設けています。それによって立地や顧客ニーズに合った内装や展示などをパートナーが一から考え、店舗ごとにオリジナリティを出しています。

そのオリジナリティある店舗をめぐる楽しみを顧客にもたらしてくれる制度が「マイストアパスポート」です。全国のスターバックス店舗を利用することで、その店舗オリジナルのデジタルスタンプを集めることができる仕組みで、御朱印帳のようにスタンプをコレクションすることができます。また、利用店舗数や利用回数などが一定条件に達すると達成条件に応じたメダルが表示される機能もあり、顧客に「また来たい」と思わせる工夫がほどこされています。

スターバックスで行っているマイストアパスポート施策の画面

スノーピークは「キャンプ用品」、スターバックスは「カフェ」であり、それぞれ商品機能だけに着目すれば、数えきれないほどの競合がひしめく市場です。しかしながら、上記のように顧客とのあらゆるタッチポイントで個々のUXを向上させながら、結果として企業・ブランドに対する体験価値=CXを大きく向上させることで、それぞれの市場で確固たるポジションを築いています。そのCX向上のベストプラクティスともいえる両社の共通点は次のように整理されます。

  •  ミッションステートメントを定め、提供すべきCXを言語化している
  • 社員・スタッフが“最もコアなファン”となり、CX向上に向けて主体的に施策を実施する企業文化がある
  • 社員・スタッフと顧客とのコミュニケーション機会を意識的に設けることで顧客エンゲージメントを高めている
  • 独自のインセンティブプログラムによって、顧客エンゲージメントを可視化。様々なデジタルデータをエモーショナルなCXの改善に結びつける仕組みが構築できている

CXが向上するとどんなメリットがある?

ここまで見てきたスノーピークやスターバックスの事例をふまえると、企業・ブランドの顧客体験価値=CXが向上することによるメリットは、次の3点に集約されます。

<メリット➀>顧客離反を防ぐことができる
CX向上によって顧客エンゲージメントが高まり、継続して選択・利用してもらえるようになります。リピート率が高まることに加え、特にサブスクリプションサービスの場合は解約率の低下にもつながります。

<メリット➁>価格競争に巻き込まれなくなる
スノーピークもスターバックスも、競合商品に比べて価格は決して安くありません。しかし、CX向上策によって顧客は価格以上の体験価値を感じてくれるので、繰り返し購入してくれます。結果、価格競争に巻き込まれることなく、市場で独自のポジションを築くことができます。

<メリット➂>口コミなどから新規顧客獲得につながる
SNSの普及によって個人がメディアとなる時代では、CXの向上によってファンがファンを呼ぶ口コミが自然に発生・拡散し、新規顧客獲得の効率が高まります。より実利的なメリットとしては、広告・宣伝に要するコストの削減にもつながります。

CXを向上させる具体的なステップは?

それでは、CXを向上させるにはどうすればよいのでしょうか?結論から言うと、それぞれの企業やブランドによって提供すべきCXは異なるので、唯一絶対の答えがあるわけではありません。したがって、ここまでご紹介したベストプラクティスをそのまま真似ればよいわけでもありません。

ただ、各企業やブランドに共通するCX向上のおおまかなステップは、以下のとおり整理できます。

<ステップ➀>企業のコアメッセージの共有
CXについて議論する前に、まず企業としてどうありたいのか、社会にどう貢献したいのか、といったコアメッセージを社員が理解し共有することが、CX向上施策の出発点となります。一般的には企業理念、企業哲学、ミッションステートメント、パーパスといったものが当てはまります。

このコアメッセージが曖昧だと、個々の事業部や社員が考え、実行するUX向上施策がCXとリンクせず、バラバラになってしまいます。前述したスノーピークにもスターバックスにも、ミッションステートメントを社員が共有することによって、ひとりひとりの社員がUXを向上させるアクションをとりながらも、それらが部分最適にならず、結果としてブランド全体のCXを高めるゴールに向かっています。企業のコアメッセージは、個々のUXをCXというゴールへと導く、いわばコンパスのような役割を果たすのです。

企業のコアメッセージは、個々のUXをCXというゴールへと導くコンパス

<ステップ➁>顧客にどういう体験を届けたいか=CXの定義
企業のコアメッセージを明確にした上で、「顧客にどういう体験を届けていきたいか」というCXを言語化・定義するのが次のステップです。その企業・ブランドにとっての顧客は誰なのかを深くイメージし、その顧客に届けていきたいCXを明確にしていきます。自社の社員を“最大のファン”にするくらいの、ワクワクするようなCXを設定しましょう!

<ステップ➂>現状の顧客体験の可視化・課題の抽出
設定したCXをふまえて、企業が提供している現状の顧客体験を可視化し、課題を抽出します。

具体的には、商品・サービスの発見(認知)から購入、使用までの一連のカスタマージャーニーにおける顧客体験をUX単位に分解し、その現状(As-Is)を把握します。そして、めざすべきCXをもとに理想のUX(To-Be)を定義し、そのギャップを明らかにします。この作業によって、CX向上のための課題をUX単位で抽出することができます。

具体的な手法としては、NPS®(顧客ロイヤリティ調査)を実施して顧客起点での課題を抽出する手法や、個々の顧客体験ごとにKPIとしてCSを測定する手法などが挙げられます。

<ステップ➃>CXにつなげていくための施策の立案
ステップ➂でUXごとの現状(As-Is)と理想(To-Be)のギャップを把握した上で、そのギャップを解消するための施策をカスタマージャーニーの各プロセスで立案・実行していきます。

<ステップ➄>検証・評価
ステップ➃の施策を実行した後の検証・評価も忘れてはいけません。ステップ➂の現状把握の際に実施した評価手法を、施策の実行後に再度実施し、ギャップがどれだけ解消されているかを把握します。

自社だけのユニークなCXを設定してみよう!

CXの言葉の定義から、UX、CSとの違い、CX向上の具体的なステップまでを解説しました。現代のマーケティングにおいては必須ともいえるCXですが、「どんな顧客体験を提供したいのか」はその企業・ブランドだけが提供できるユニークなものでなければなりません。まずは上記のステップを参考にしながら、それぞれの企業のコアメッセージを念頭におき、顧客に提供したいCXを定義・言語化してみてください!

監修者:ネットイヤーグループ株式会社 仙崎 萌絵

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