NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
「D2C(Direct to Consumer)」とは?
「D2C(Direct to Consumer)」とは「Direct to Consumer」の略
D2Cとは「Direct to Consumer」の略です。直訳すると「(メーカーが)ダイレクトに消費者と(取引をする)」。つまり、中間の流通・小売業者やAmazon、楽天といったECプラットフォームを介さずに、メーカーが自社で企画・製造した商品をECサイトなどの自社チャネルを通じて直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。
ネット広告のコンサルティングサービスを行う「売れるネット広告社」が2020年に行った調査によると、国内のD2C市場規模は、2022年には2.6兆円、2025年には推計3.1兆円に達すると予測されています。
参考記事:売れるネット広告社調査(https://www.ureru.co.jp/files/uploads/20200908.pdf)
米国のD2C市場はさらに大きく、2016年の約361億ドルから2021年には1,283億ドルに達しています。
参考記事:eMarketer 米国のD2CEコマース売上高、2016年から2023年(https://www.insiderintelligence.com/chart/248839/us-d2c-ecommerce-sales-2016-2023-billions)
とりわけ、2020年以降の新型コロナウイルスの影響を機に、自宅で購買体験ができるECが消費者の間に広く浸透しました。その時流に乗って、D2Cも市場規模を大きく拡大させています。
D2Cのビジネスモデルの特徴
D2Cのビジネスモデルの特徴
日本市場においては、2010年代の後半からD2Cのビジネスモデルに取り組む企業が増えてきたといわれています。D2Cビジネスモデルの特徴は、大きく次の3点に整理されます。
<特徴➀>メーカーが販売業者を通さず、ECなどの自社チャネルで直接販売する
D2Cの最大の特徴は、その名のとおり自社ECサイトなどをつかって商品を消費者に直接販売することです。中間の小売・流通業者を介さないことで中間コストを抑制し、利益率を高めるビジネスモデルです。
<特徴➁>メーカー自身が直接「世界観」を訴求する
D2Cが登場する以前にも、テレビCMや新聞、雑誌などマスメディアを活用した「ダイレクト通販」といわれる直販ビジネスモデルは存在しました。従来の直販モデルとD2Cの違いは、一言で言うと「世界観の訴求」の度合いにあります。
今日、市場では商品・サービスのコモディティ化が生じており、機能や品質だけでは差別化が図りにくくなっています。そこで各メーカーは一時的な売上を獲得するだけでなく、体験価値やブランドの世界観を顧客に訴求することで自社や商品に対する顧客エンゲージメントを高め、長期的なLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を獲得することに主眼を置いています。
D2Cでは、自社サイトなどを通じて、自らが企画・製造する商品の世界観や開発ストーリー、ブランドイメージなどを消費者に直接訴求することができます。従来のダイレクト通販のビジネスモデルより「世界観の訴求」に重きを置いていくことで顧客エンゲージメントを高めLTVの獲得につなげる点が、D2Cビジネスの特徴といえます。
<特徴➂>顧客との長期的な関係を構築する指標として顧客満足度・LTVを重視する
単に自社チャネルを活用することで中間コストを削減し利益を確保するということだけでは、D2Cのビジネスモデルを理解する上で十分ではありません。「世界観の訴求」によって顧客との長期的な関係を構築し、LTVを向上することで長期的な収益を確保することが、D2Cの本質的にめざすところです。したがって、D2Cのビジネスモデルにおいては、顧客満足度やLTVといった指標が重視されます。
この点は、D2Cを正しく理解する上で重要なポイントです。
D2Cビジネスに取り組むメリット
D2Cビジネスに取り組むメリット
次に、D2Cを始めることの具体的なメリットについてご説明します。
メーカー直販のため、中間コストがかからず収益性が高い
前述したように、D2Cではメーカーが商品の開発・製造だけでなく、マーケティングや販売までを自社で一貫して構築することで、高い利益率を確保することができます。
Amazonや楽天市場など大手ECプラットフォームを利用する際には、一定の手数料がかかります。しかし、自社ECサイトで販売すれば当然手数料はかかりません。結果として、メーカーの利益率が向上し、収益性を高めることができます。
マーケティング施策の自由度が高いため、自社の世界観をしっかり伝えられる
自社で独自のマーケティング施策やプロモーション施策を打つことができるという特徴は、顧客に対して自社商品のコンセプトやブランドの世界観をしっかり伝えることができるというメリットにつながります。
例えば、ECプラットフォームに出店した場合、キャンペーンの実施やプロモーションは一定の制約を受けてしまいます。
小売業者を通じて販売する場合も同様で、販売方法やキャンペーンは小売業者の都合に合わせなければならず、メーカー側の自由度は低下します。また、商品コンセプトやブランドイメージの直接的な訴求は小売業者に託す形になるので、商品の世界観など微妙なニュアンスを正確に顧客に伝えることが難しい場合があります。
D2Cでは自社でマーケティングやプロモーションを自由に設計できるため、商品のコンセプトやブランドイメージを正確に訴求する施策が可能になるのです。
顧客データの収集・分析によって顧客理解を深められる
メーカーが直接販売を担うことで、詳細な顧客データを収集・分析でき、マーケティングや商品開発に活用できることも、D2Cの大きなメリットの一つです。
自社のECサイトにアクセスした顧客の滞在時間、離脱、「カゴ落ち」、購買履歴などのデータを収集・分析し、顧客IDに紐づけることで、その顧客の行動や嗜好の特性の解像度を高めることができます。認知から購買に至るまでの一連のカスタマージャーニーにおいて、一人ひとりの顧客にパーソナライズされたマーケティング施策を打つことができます。さらに、購買後の顧客とのコミュニケーションやアンケートなどによって、より深く顧客を理解し、商品開発にも活用することができるのです。
D2Cビジネス事例~大企業からスタートアップまで~
D2Cビジネス事例~大企業からスタートアップまで~
D2Cビジネスモデルを、自社商品やサービスのブランド訴求に効果的に結び付けている事例にはどのようなものがあるでしょうか?ここでは大手ブランド事例からスタートアップまでの3つの事例を紹介します。
<事例➀>大手スポーツウェアブランドのD2C事例(アディダス)
世界的スポーツウェアブランドのアディダスは、2021年に行われた投資家向けの説明会で、2025年までに売上の50パーセントをD2Cで達成するという、新たな戦略的成長計画を発表しました。
実は、スポーツウェア市場においては、同社の競合であるナイキやアンダー・アーマーといった米国ブランドがD2Cへの取り組みにおいて先行していました。アディダスは今後、「消費者主導型ビジネス」への転換を打ち出し、デジタル化に取り組む方針を掲げています。
方針に沿って、2021年9月には通常のECサイトに加え、ショッピングアプリ「adidas CONFIRMED」を立ち上げ、同アプリ上で限定モデルを販売するなどD2Cの強化を図っています。会員限定商品の販売やコラボレーションモデルなどの注目商品の抽選販売・先行予約に参加できる機能に加え、商品開発の裏話やコラボパートナーのインタビューなど、アプリ限定のコンテンツも用意。ターゲットであるスニーカーファンに、限定感や特別感を与えることで、顧客エンゲージメントおよびLTV向上につなげているD2Cビジネス事例のひとつといえます。
<事例➁>美容・健康食品メーカーのD2C事例(ファンケル)
美容・健康食品メーカーとして、定期購入やネット販売、直営店販売に強みを持つファンケル。2021年に新ブランド「BRANCHIC(ブランシック)」を立ち上げ、プレステージ(高付加価値・高価格帯)領域に参入しました。
「ファンケル=手ごろな価格の無添加スキンケア」としてのブランドイメージは浸透していたものの、従来のイメージを取り払い、新たなプレステージブランドを確立したいという狙いがありました。そこで、「ファンケル」ブランドとは切り離し、別事業体として新たな世界観を確実に訴求する、D2Cを展開する判断となりました。
物流やコールセンター機能の一部は既存のファンケルのリソースを活用しつつ、ブランドの世界観や体験を伝えるECカート領域は親会社のものと分離。このことにより、わずか半年でプレステージブランドをローンチすることができました。
<事例➂>スタートアップ サブスクリプションサービスのD2C事例(スナックミー)
スナックミーは、おやつの定期便をオフィスや自宅に届けるサブスクリプションサービスを展開するスタートアップです。8個入りのオリジナルのおやつが定期便のBOXで届けられます。
スナックミーの特徴は、サイト上の「おやつ診断」をもとに、顧客一人ひとりの好みに合わせたおやつの組み合わせをカスタマイズできる顧客体験にあります。D2Cのメリットを活かして、顧客が食べたおやつを評価したり、食べたいおやつをリクエストしたりするなどのコミュニケーションを通じて、さらにその顧客の嗜好に最適化されたおやつの組み合わせを実現することができます。このパーソナライズされた顧客体験が顧客満足度を高め、ひいてはLTVの向上をもたらしています。
D2Cビジネスを成功に導く重要なポイント3つ
D2Cビジネスを成功に導く重要なポイント3つ
自社商品やサービスの世界観・ブランドイメージをダイレクトに訴求し、パーソナライズされた顧客体験を可能にするD2C。メーカーがD2Cビジネスを立ち上げ、LTVの向上を図るために重要なポイント3つをお伝えします。
自社ECサイト
まず、D2Cのプラットフォームとなる自社ECサイトの構築が必須となります。自社ECサイトを構築する際にはデザインからSEO、売上・在庫管理、カートシステムなどさまざまな検討課題がありますが、現在ではECサイト構築を支援するさまざまなプラットフォームサービスが展開されています。
そのなかでも国内の大手企業から最近注目を集めているのはSUPER STUDIOが提供する「ecforce」です。国産のECプラットフォームサービスで、2022年12月時点で累計900以上のショップに導入済、かつecforce導入ショップの平均年商は2億円を記録しています。(2023/1/23ブランドサイトより)
ecforce は、SUPER STUDIOが自社で運営するD2C事業のノウハウを基に開発されているSaaSです。市場や顧客環境の変化に併せて機能が順次アップデートされるため、D2C事業を拡大したい企業から支持されています。
配送システム
顧客に対してダイレクトに商品を販売する上では、当然ながら自社で物流機能を構築する必要があります。
前述したファンケルの事例のように、自社の倉庫・物流リソースがある企業においては、D2Cビジネスに参入する上でアドバンテージがあるといえるものの、大手流通向けの物流とD2Cブランドの小ロットで直接消費者に届けるための物流は異なるものです。既に自社の物流リソースを保有する企業であっても新たに構築することが必要な場合があります。一方、スタートアップなどのように倉庫・物流リソースを持たない企業においては、物流代行システムによってアウトソーシングする手法があります。
ダイレクトマーケティング
D2Cを成功させる上でカギとなるのが、顧客との長期的・継続的な関係を築く上で重要となるダイレクトマーケティング施策です。
Web広告やSNSを通じて自社のブランドや商品の認知を広げ、ターゲットとなる生活者へリーチをします。そこで商品の価値をしっかりと伝えた上で、商品を購入していただくことが重要です。そして商品を購入していただいた顧客には、初回購入で終わることなく継続購入していただくための取り組みが必要となります。
このように購入の習慣化・定着化をきっかけに、顧客との関係性を構築していくことになります。このオンボーディングのコミュニケーションを通じて顧客へ商品の正しい使い方や新たな魅力を伝え、ブランドとの関係を深めていくことが重要です。
「選ばれるD2Cブランド」になるために「実現したいCX」から考えよう
「選ばれるD2Cブランド」になるために「実現したいCX」から考えよう
D2Cについて、その特徴からメリット、事例、成功に導くポイントまでを紹介しました。中間流通を介さず、自社商品を直接消費者に訴求・販売するD2Cビジネスは、今日ではさまざまな支援サービスも用意されており、参入のハードルはますます低くなっています。今後もさまざまな領域で個性的なD2Cブランドが生まれていくことでしょう。
ただ、繰り返しになりますが、中間コストを削減することで収益性を高めることが、D2Cビジネスの本質ではありません。機能・品質だけでないより良い価値を顧客に提供し続けることにより、顧客との長期的な関係を構築し、結果LTVを向上することがD2Cビジネスの本質的な意義です。
従って、D2Cビジネスは自社ECサイトや配送システムなどの前に、顧客一人ひとりに対してどのようにブランドの「世界観」を伝え、パーソナライズされた顧客体験(CX)を提供するかが重要な検討ポイントとなります。そのCXを明確にすることで、はじめて自社ECサイトや配送システムのあり方が見えてくるのです。
参入のハードルが低くなり、多くのD2Cビジネスが生まれているからこそ、「選ばれるD2Cブランド」になるために、まずは「提供したい価値とCX」のあり方から検討してみてください。
監修者:小木曽 信吾、中嶋 洋介