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2023年11月15日展望を知る

【防災×デジタル】災害対策を企業価値に。巨大市場の可能性

東日本大震災がもたらした経済被害は約17兆円にものぼる。
自然災害による社会経済的インパクトは極めて大きく、災害大国である日本にとっては避けられない重要テーマだ。
そして、産業・社会のDXが進展する今、災害対策にもデジタル利活用のあり方が問われている。
NewsPicksがお届けする知の格闘技『The UPDATE』。今回のテーマは「『災害大国日本』を救うデジタル活用術とは」。
日本における防災の課題とは何か、デジタルの力でどう解決できるのか、東京大学教授で大学院情報学環総合防災情報研究センター長の目黒公郎氏をはじめとする専門家を招いて徹底議論した。
その番組の様子をダイジェストでお届けする。

目次

日本の防災の課題は「公助偏重」

木嵜本日取り上げるテーマは、「『災害大国日本』を救うデジタル活用術とは」です。

古坂地震が非常に多い日本にとって、防災DXは避けられない重要テーマだと思います。

木嵜まず初めに、「日本が抱える防災の課題とは」について、皆さんの考えを見ていきましょう。お手元のボードをお挙げください。

古坂1番最初に目に入ったのは「誰ひとり取り残さない」。SDGsの文脈でよく使われる言葉ですね。

奥村災害で多く犠牲になっているのは、ご高齢の方や障害がある方です。自分1人では逃げられず、たとえ命を守れたとしても、その先、命を繋げないような方がいます。 ここにいる全員も、ゆくゆくは要配慮者(※1)になりますよね。なので、他人事ではなく自分事として考えていただきたいと考えて、この言葉を選びました。

(※1)

要配慮者:災害発生時に、特に配慮や支援が必要な者

奥村 奈津美

古坂現場で、そういった方々の声を聞かれてきたわけですよね。

奥村そうですね。いろいろな対策は進んでいると思いますが、残念ながら危険な場所にある福祉施設というのがたくさんあります。

例えば津波の浸水リスクがある場所に全国で3800もの施設が建てられていますが、その半数近くは東日本大震災の後に開設されています。
気候危機によって水害も激甚化してる中で、危険なエリアに1人では逃げられない方たちが、今も生活していらっしゃるんです。

古坂その課題を解決するためには、まずは国からの働きかけが必要ですか。

奥村すでに「個別避難計画」という制度が作られ、対策が練られています。一人では避難できない方を、誰がどこにどうやって避難させるかの計画を、自治体が努力義務で作成するというものです。
結局それを担うのは地域の方々になるので、自助共助で解決していくしかない課題だと思います。

米重私は「自助・共助・公助→“公助”偏重」と書きました。

米重 克洋

自分で自分の身を守ることが「自助」、地域で助け合うことを「共助」、行政からの働きかけを「公助」と呼んでいますが、災害が起きた際には、この公助が議論の的になることが非常に多い。 土砂崩れが起きたときに、自治体の対応が遅れて批判が殺到するなど、批判しやすい対象になっている側面があります。

ただ、私が情報発信に取り組んでいて気づいたことは、自治体は意外と情報を持っていないということ。災害が起きたときに、どこで何が起きたかをリアルタイムでは把握できておらず、結局、市民の目が頼りになっているんです。

市民1人1人が、自助共助の意識を持って情報を発信をしていくことで、自治体も、公共助の役割を果たせる。
自治体のみに公共助の体制づくりを押しつけないという考え方にならないと、人口減少で職員も少ないなか、防災を有効に機能させることは難しいと考えています。

古坂共助を強めていく方法には、どういったものがありますか。

米重JX通信社が提供するアプリ「NewsDigest」を活用しながら、共助が必要な方を交えて、実際に共に助け合うオペレーションを回す訓練を行っています。
我々は情報を軸とした活動をしていますが、それに限らず共助の実践の場を作ることは可能ですし、やったほうがいいと考えています。

命を救う「防災意識」の作り方

古坂ありがとうございます。では、阿部さんの「フェーズフリー」はどういった意味合いでしょうか。

阿部「フェーズフリー」は、日常と災害時をシームレスに捉える考え方です。

阿部 暁

日本人は(他国と比較すると)防災意識が非常に高いと言われているものの、時間の経過とともに、日常時にはその意識が低下してしまいます。

そこで個人の観点では、教育と訓練に加えて、日頃から使うものに防災を溶け込ませる取り組みが必要です。

「フェーズフリー」の考え方

企業の観点では、災害対策を「コストではなく、企業価値を高める投資」と考えるように変わる必要があります。
防災を非常時のものと捉えるのではなく、日常をよりよくするものとして、防災システムを導入することが重要です。

古坂東日本大震災を経て、2015年あたりまでは、災害に対して、かなりストレスを感じていた記憶があります。
そういったストレスがなく、むしろ防災意識に慣れている状態が大切なのでしょうか。

阿部目黒先生のご意見も聞きたいところですが、「慣れ」は「習慣化」とも表現できます。 習慣化して、災害は当たり前に起きうることだという危機認識を持つところまで突き抜ければ、防災の対応力は上がると思っています。

目黒おっしゃる通りだと思います。今後、発生が危惧されている首都直下地震や南海トラフ地震による被害は、国の存続さえも危ぶまれるレベルになる可能性が高いです。
これは事後対応だけでの復旧・復興が難しいという意味です。

目黒 公郎

このような災害に備え、適切な対策を立案し実施するために必要になるのが「災害イマジネーション」です。

専門家は、災害や災害対策を議論する際に「何がインプットで、何がシステムで、何がアウトプットなのか」を考えています。
インプットとは、物理現象としての台風や降雨量、地震の揺れや津波などです。
それがシステム、つまり自分たちが住んでいる地域の特性を介して、アウトプットとしての物理現象や社会現象が発生する。
このアウトプットが限界値を越えた場合に、被害とか災害と呼ぶのです。

enase

enase / iStock

なので、同じインプットでもシステムが変われば、当然アウトプットも変わります。
では、システムとしての地域特性とは何か?
これは対象地域の自然に関わる自然環境特性と社会環境特性から構成されます。

システムとしての地域特性

これら2つの特性の次に重要となるのが、時間的な要因です。日本であれば四季、曜日、そして1日の中での発生時刻などによって、違いが生まれます。

時間的な要因

このような条件を瞬時に頭に入れて、発災からの時間経過に伴って、自分の周りで起きることを正しく想像する能力を「災害イマジネーション」と呼びます。
人間は、自分が想像できないことに対して適切に備えたり、対応したりすることは絶対にできません。なので、災害イマジネーションが必要なのです。

以上を踏まえて、適切な災害対策の立案と実施に必要な条件は、以下の3つです。

適切な災害対策に必要な3条件

1)の2つの敵と、2)の3つの己を理解した上で十分な災害イマジネーションがあると、現在と今後の課題が理解できます。

その上で、適切な対策を適切なタイミングで実施していくことが大切ですが、この際には常に長さの違う2本の物差しを持っていることが重要です。
1つ目は、大きな空間と長い時間を測る「長い物差し」です。これは大きな方向性を示すもので、ブレてはいけません。
一方で、長い物差しだけでは、何をすればいいのかがわからない市民も多いので、もう1つ「短い物差し」を使って、具体的なアクションとその効果を示してあげる必要があります。
しかし、短い物差しによる指示は局所最適解を目指すものなので、全体最適解からは外れてしまう危険性がある。そこで、2本の物差しを持つ意味があるのです。

木嵜政府と自治体と企業の各リーダーは、どのくらい防災に取り組めていると思われますか。

阿部自治体の方は、間違いなく今後起こり得る災害に対し覚悟を持って取り組まれていると思います。
ただ、そのような意識をどう広く住民の皆さんへ浸透させるかに頭を悩ませている状態です。

米重一般の人の災害イマジネーションを高める取り組みとして、私たちは、地震学者の先生と共同で開発した「精密体感震度」という機能で、普段から災害イマジネーションを活性化する取り組みをしています。

地震が起きた際に体感でどのくらい揺れを感じたかを投稿していただくとポイントをもらえるシステムで、ユーザーさんからは「これをきっかけに、周りの人とも話し合う機会を作れた」というご意見もいただいています。

防災市場の拡大が、日本の未来を救う

木嵜情報の伝達について、視聴者から情報についての質問が来ています。
「SNSでも情報を集めるこの時代に、フェイクニュース対策をどうすべきでしょう?」

米重SNSが発達して1億総メディア社会になり、フェイクニュースを生み出すコストはどんどん下がっています。

我々は『FASTALERT(ファーストアラート)』というデマの投稿を見抜くサービスを開発していますが、ある程度いたちごっこになってしまう部分はありますね。
メディア環境においても、ユーザー自身の想像力がより求められるようになっていると思います。

奥村メディアの現場に立って、報道の限界も実感しています。
例えば大雨が発生して水害が起きた際、マスメディアだと広い範囲の情報しか出せないので、結局は受け手の判断に委ねられてしまう。
逃げるべき人に直接的に伝えることができず、命を守れないことが、マスメディア側も分かってきていると感じています。

目黒調査をして分かったのは、地域のローカルな特性に基づいた災害関連情報を最もきめ細かに発信できるメディアは、コミュニティFM(CFM)のラジオだということ。

日頃から地元の人たちに語りかけているCFMの皆さんの災害イマジネーションを向上できれば、対象地域に関する知識を踏まえながら、時間先取りで、今後起こるであろう災害現象に基づいた、防災行動を誘導する報道ができるわけです。

そのためには災害対応の実経験が重要なのですが、災害大国日本と言っても、対象エリアの狭いCFMの関係者がそれを持つことは難しい。
なので、過去に実際に災害対応された他のCFMの経験や教訓をデータベース化して共有するとともに、それらを自分の対象地域の特性や発災時の時間的な条件に応じて変換し、理解できるようなシステムの構築を行っているところです。

古坂経験や知識を共有するためにも、DXが必要になるんですね。

木嵜後半では、「災害大国日本を救うデジタル活用術とは」について、皆さん、再びお手元のボードをお挙げください。

災害大国日本を救うデジタル活用術とは?

古坂まずは奥村さんの「パーソナライズ」からお聞きしましょう。

奥村防災の難しさは、住んでいる地域や家族構成によって、避難のタイミング、避難方法、備えるものまで大きく異なる点です。

ハザードマップが公開されていても、それをどう見ればよいか、また災害が起きたときに実際にどうすればいいかがわからない方も多い。
なので、パーソナライズされた情報の提示が必要なんです。
ボードに書いた『pasobo』は、情報を入力すると自分に合った防災方法がわかるWebサイトとして、3月にリリースしました。

阿部私も「パーソナライズ」を挙げさせていただきました。

自治体の方とお話しする機会も多いのですが、防災課は2人や3人規模の体制です。要するにマンパワーが不足しているので、行動につながるパーソナライズされた情報を提供するためには、デジタル活用が必須だと考えています。

NTTデータでは個人の位置情報やマイナンバーカードにひも付けた個人属性とのかけ合わせによって、パーソナライズされた情報を提供する防災サービスの開発に取り組んでいます。

パーソナライズされた防災情報のサービス提供イメージ

古坂目黒さんは「魅力的な防災ビジネス」ですか。

目黒前半でも話題に上がったように、従来の日本の防災対策は公助を中心として成り立ってきました。
しかし昨今の人口減少や財政的な制約を考えると、公助の割合を従来通りに維持することは絶対にできません。その目減り分は自助と共助で補う必要があるのですが、その担い手は個人と法人です。

Orbon Alija/iStock

Orbon Alija/iStock

従来は自助や共助をお願いする際に、個人や法人の良心や道徳心に訴えていましたが、このアプローチは限界です。 今後は、災害対策に対する意識を「コストからバリュー(価値)」へ、そして「フェーズフリー」なものにしていく必要があります。時間的にも空間的にも非常に限定的な現象である災害時にのみ有効な対策への投資は難しいからです。

従来は行政も民間も防災対策をコストと考えていました。しかし、コスト型の災害対策は継続性がなく、その効果は災害が発生してみないとわからないものです。
一方で、フェーズフリーでバリュー型の対策は、平時の生活の質を向上できるとともに、災害の有無にかかわらず、対策を実施した人や組織、地域に価値をもたらし、これが継続されるものになります。このような発想で、災害対策を公助に頼るのではなく、魅力的なビジネスにしていかないとサステナブルにはなり得ないのです。

例えば私の元教え子で、災害対策に関するミシュランの格付けのようなものを実施している銀行マンがいます。
災害対策やBCP(事業継続計画)の備えがどれほど充実しているのかを厳しく評価する。評価が高い会社は、同じ台風や地震を受けても、評価の低い会社よりも被害が少なくて済むので、信頼性の高いビジネスパートナーになります。
ゆえに、銀行側も有利な金融サービスを提供できる。

このように、企業が災害対策を実施しておくことは、コストではなくバリューとなるのです。
そのバリューは災害の有無にかかわらず発信できるので、社会的な信頼やブランドにもつながります。
これが現在、2兆円を優に超える市場になっています。

古坂コストではなくバリューに変わっていけば、みんなにとって魅力的なものに映りますね。

目黒社会貢献度も高く、一定以上の収入が得られる魅力的なビジネスが展開できれば、ここにはおのずと若い才能が入ってくるでしょう。
このようなビジネス市場を国内外に展開していかないと、我が国の今後の防災対策は成立しないということを認識すべきです。

このためには、公助にも質的変化が求められます。 従来の、行政が公金を使って実施する形から、共助や自助の担い手が自発的に災害対策を実施しやすい環境整備を行うという、新しい公助への変革です。

古坂米重さんの「ビッグデータで可視化」はどういった意味合いでしょうか。

米重例えば、夜中に水害が起きたら、SNSなどに上がっているデータと連携して、個々人に対して適切な行動の提案を行います。

目黒いろいろなツールがありますが、もっとも万能なセンサーは人間なんですよ。ただ、ほとんどの人は専門家ではないので、適切な提案ができるわけではない。
しかし人間はインテリジェンスを持っているので、適切な指示があれば、さまざまなデータや情報を入手し、共有することができます。

この点が、勝手にやり取りされたビッグデータから有効な情報を捜そうとする、現在の一般的な方法との大きな違いです。

奥村情報源がテレビだけだった時代から、みんながスマホを持つようになって、基盤はかなり整っていると思います。

あとは、スマホにパーソナライズされた避難情報が来るなどすれば、防災力が高まりますよね。
その上では、個人情報問題が課題になってくると思います。

目黒さまざまな情報を災害対策に利活用するには、「収集」「整理・分析」「管理」「配信」「利活用」の5段階の手続きが必要です。
またこれらを有効に活用する上では、「技術的な課題」と「体制(組織・法制度)の課題」があります。

この中で、技術的な課題は確実に改善されてきています。
一方で体制、特に法制度には多くの課題が残っています。
災害対策において価値があり、技術的にはそれを入手したり、分析したり、配信したりすることが可能な情報でも、法制度が整っていないために利活用できないようなケースが散見されます。
ここは早急に改善したいところですね。

阿部東南アジアでは、我々の情報伝達システム(※2)の導入を進めています。

(※2)

ジャカルタ情報・通信省では、日本政府がODA(政府開発援助)で提案してきたLアラート(災害情報共有システム)の導入を決定。NTTデータがシステム開発を進め、2024年7月末の引き渡しを目指す

目黒日本では個人情報の扱いが非常に厳しかったり、法整備が追いついていないようなことでも、途上国では問題なくできることがあります。
途上国の災害対策に活用した結果、大きな成果を生み、逆輸入的に日本でも利活用されるような事例が出てくると思います。

木嵜ありがとうございました。ここで終了です。それでは古坂さん、キングオブコメントをお願いします。

古坂持続可能な防災に価値があるという点で、選ばせてもらいました。
僕自身、最近防災観点で価値の高い家を立てたんですが、たしかに子どものことを考えるといいものを作れたんだな、と改めて捉えることができました。

そして持続可能な防災を実現するには、市場全体を魅力的にしていく必要がある。
そのために、魅力的なビジネスが生まれていくことが必要だと。
非常に勉強になりました。ありがとうございました。

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制作:NewsPicks Studios
構成:日野空斗
編集:金谷亜美
編集サポート:中村 凛
デザイン:斎藤我空

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