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家事代行サービスのDX化に息づくNTTデータのDNA【CaSy池田裕樹対談/後編】

NTTデータの卒業生をお招きし、人事本部 人事統括部長の村松が聞き手としてお話を伺う本企画。前編に引き続き、株式会社CaSy(カジー)の代表取締役 CFO 池田裕樹氏との対談をお届けします。前編では、ビジネスパーソンとしての成長を目指し、キャリアをつかみ取ってきた池田氏の学生時代からNTTデータ在籍時の話を伺いました。後編では家事代行サービスCaSyを創業するまでの経緯や、組織運営や経営において大切にしていることをお聞きしました。

目次

Profileこの記事に登場する人

仕事×大学院×家庭の「三足の草鞋」の経験がCaSy創業の原体験に

村松
NTTデータへの入社と同じタイミングで、グロービス経営大学院に通い始めたことが池田さんの現在のキャリアにつながったと伺っています。当時を振り返ってみて、起業するまでにどのような経緯があったのか教えていただけますか。

CaSy池田
特に起業を考えていたわけではないのですが、経営に対する漠然とした憧れは持っていました。またビジネスパーソンとしてもっと成長しないと社会に対して価値を発揮できないと感じていたので、自費でグロービス経営大学院に通い始めました。

村松
NTTデータで働きながら、ですよね?両立は大変だったのではないでしょうか。

CaSy池田
とても忙しくて大変でした(笑)。グロービス経営大学院は通常2年のコースなのですが、私は5年かかりました。もちろん仕事もおろそかにはできませんから……。ただ、この「忙しい」という体験がCaSy創業のきっかけになりましたし、この経験があったからこそ、CaSyの上場準備も乗り越えられたと思います(笑)。

村松
仕事と学業の両立に苦労しながらも、最後まで諦めずにやり遂げられたのが素晴らしいですね。
グロービス経営大学院でCaSyの共同創業者メンバーと出会ったと伺っています。

CaSy池田
はい。卒業の少し前に履修したベンチャービジネスのプランニングクラスで、たまたま同じテーブルに座ったメンバーでCaSyを創業することになったんです。

(参考)CaSyの家事代行サービスとは

村松
どういう理由で家事代行サービスに着目されたのでしょうか?

CaSy池田
当時、仕事と大学院で忙しく、家族と一緒に過ごす時間が十分に取れませんでした。私も含めて、家族との時間が十分に取れない日本のビジネスパーソンの現状をとても残念に思っていました。特に、すぐに大きくなってしまう子供との日々は、本当にかけがえのないもので、後から悔やんでも取り戻すことはできません。

誰もがみな、時間をストックすることはできません。だから家事代行という形で時間を創り、「自分にとって大切な時間を大切にできている」と実感することができる世の中にしたい、と思いました。

村松
ご自身の体験が背景にあったのですね。とはいえ、家事代行サービスは、当時も競合がたくさんあったと思うのですが。

CaSy池田
たしかに競合企業は約4,000社程度あったのですが、調査をしてみたところ黒字企業はごく少数で、基本的に人の媒介が必要なビジネスモデルになっていました。

ユーザーとしては忙しいから利用したいのに、引っ越しの見積のように、サービスを利用する前にまず面談をしないといけない。双方にとって手間がかかり、結果として費用も高くなってしまう構造で、またサービス提供側からすると1軒目から2軒目の間には「移動」という時間的なコストがかかります。

マッチングの技術によってこれらのコスト構造を解決できれば、たとえ後発であってもビジネスとして成立するのでは、と考えました。

村松
レッドオーシャンのように見えて、ちゃんと勝算が見えていらっしゃったのですね。

ここで重要になるのはマッチングシステムかと思います。池田さんは今でこそCFOとしてご活躍なされていますが、創業時から長らくCTOとしてサービス開発に従事されていたと伺っています。マッチングシステムについても、ご自身で構築なされたのですか?

CaSy池田
そうですね。私とエンジニアで開発を行いました。家事代行サービスを提供する「キャスト」と「ユーザー」を最適に、スピーディーにマッチングさせるアルゴリズムは、CaSyの強みの1つです。この実現はもちろん、データのデジタル化とサービスの改善、スマートロックなどの他サービスとの連携などにも、NTTデータ時代に養ったシステム開発の経験が生かされています。

(参考)CaSyの強み:家事代行サービスのDX化

CaSy池田
エンジニアリングとは、究極的には無駄な時間をゼロにする仕事だと思います。さまざまな業務を標準化し、仕組みに落とし込んでいくというNTTデータでの業務は、CaSyのビジネスモデルそのものです。人がやっていた作業をベースにしながらプロセス全体を滑らかなものにし、システムで代替するというアプローチはSIとよく似ています。

村松
なるほど。特に金融システムはオペレーショナルな業務を標準化する意味合いが強いので、共通するものがありそうですね。

ここまでCaSyのビジネスについて伺ってきましたが、NTTデータを卒業していよいよCaSyに専念するという時の池田さんの心境や、周囲の反応はいかがでしたか?

CaSy池田
私はとにかくワクワクしていました。グロービスは、その特性上、起業をする人が多かったので、その環境下にいると「自分にもできるんじゃないか」と錯覚するようになるんです(笑)。良い意味でグロービスの仲間に影響を受けましたね。NTTデータの同僚の皆さんからも、池田が決めたことだったら、と応援していただき、温かく送り出してもらいました。

村松
それもNTTデータらしいですね。チームワークで働くからこそ、NTTデータではその人の考えを尊重する文化があります。それに、池田さんがチャレンジするなら応援するという信頼関係があったのでしょうね。

多様な人々が集い、モチベーション高く働くために必要なこと

村松
CFOとして、現在池田さんはCaSyの組織運営の舵取りを担っていらっしゃいますが、組織運営において意識していることはありますか。

CaSy池田
当社では「大切なことを、大切にできる時間を創る。」というミッションを掲げています。ですから社員自身にもミッションを実現できる働き方を提供したい、と考えています。

社員向けに、フルリモートワークやコアタイムなしのスーパーフレックス制といった制度を取り入れ、さまざまな状況の人が自由な働き方で活躍できるような仕組みを整えています。

村松
CaSyのミッションはユーザーだけでなく、社員にも向けられたものなのですね。

CaSy池田
はい。社員だけでなくキャストの皆さんにもミッションを体現して欲しいと考えています。
NTTデータさんも、この数年で働き方に変化が生まれていると伺いました。

村松
そうですね。働き方をお客様に合わせることが優先されていた時代もありましたが、コロナ禍を契機にリモートワークの割合が大幅に増え、柔軟な働き方に変わってきました。

特にリモート環境でもチームで価値を発揮してもらうための新しい働き方については、常に考え続けています。画一的な働き方ではなく、その人やチームに合った働き方を議論しながら選択できることが大切だと考えています。

CaSy池田
おっしゃる通りですね。組織を機能させる、という観点で、私たちはキャストがモチベーション高く働いてくれることにこだわっています。それがES(Employee Satisfaction)に、ひいてはCS(Customer Satisfaction)につながると考えているからです。

例えば、お客様からの評価に応じて、キャストのエプロンの色が変わっていく仕組みもこだわりの一つです。最上位のキャストのエプロンには、自分の名前が金色の糸で刺繍されるようになっています。小さなことかもしれませんが、こうした積み重ねを大切にしています。

何より、キャストにとって一番のモチベーションは、お客様に感謝されることです。これまで日本の家庭において、家事は「やって当たり前のもの」で、感謝されることは多くなかったのだと思います。ですから、お客様の感謝の言葉はキャストにとって大きな喜びになっています。

また、自分たちのサービスの意義を明文化した「キャストクレド(※1)」も制定し、全キャストに共感・浸透させることを目指しています。

※1 キャストクレド:キャストにとって重要なクレド(信条や行動指針)を明文化したもの。

村松
何のために働いているかを意識することで、モチベーションを高め、仕事を通じた自己実現に繋げていくというわけですね。

(参考)キャストのモチベーションを高める取り組みの一例

CaSy池田
はい。また、キャストのようにお客様の自宅へ直行直帰するような、組織への所属感を感じづらい働き方でも、モチベーション高く働いてもらえるようにいろいろな工夫をしています。社員からキャストへ労いの言葉をかける仕組みもありますし、キャストのスキルを高めるためのサロンも毎月開催しています。

村松
おっしゃる通り、社員のモチベーションは大切ですね。私は社員がモチベーション高く活躍してもらうためには、会社として実現したい姿と、社員がどういう人間になりたいかをマッチングしていくことが重要だと考えています。社員の成長に組織が寄り添い、組織の成長が社員の成長機会へとつながるそのような循環を作ることが企業には求められていると思います。

CaSy池田
そうですね。そのためには、社員一人ひとりの”なりたい自分像”を尊重することが重要で、社員の多様性を受け入れられる組織であることが重要になりそうですね。

村松
これまでは上位職はマネジメントが中心でしたが、今後は加えてより高いレベルでの専門性の発揮も求められます。NTTデータには専門性の認定として「プロフェッショナルCDP」という仕組みもあり、環境の変化に応じて新たに求められる人財タイプに柔軟に対応しながらプロフェッショナル人財の育成に取り組んでいます。

CaSy池田
私自身の経験を振り返っても、NTTデータはいろいろな専門性を持った人が集まって最適化された組織になっていると思います。この総合力がNTTデータの強みなのでしょうね。多様な人財が活躍できる仕組みを作り、しっかりと運用していく力は他社にはなかなかないものだと思います。

「信頼される存在」を目指し、社会変革に挑む

村松
池田さんはグロービス経営大学院の卒業生の中から受賞者を選出する「グロービス アルムナイ・アワード」2022年の「創造部門」を受賞されたそうですね。

CTOとしてマッチングシステムを構築し、CFOとして株式上場に導いてきたチャレンジする姿勢が受賞理由だと伺っています。そのような素晴らしい成果をあげられる中で、池田さんがNTTデータで学んだもので、特に生かされたとお感じになっているものは何でしょうか?

CaSy池田
数多くありますが、特に大きなものはお客様との長期的な信頼関係の大切さです。お客様に対して誠実に接する姿勢はCaSyにも生きていると思います。特にCaSyはお客様の自宅に中に入ってサービスを提供するビジネスモデルなので、お客様からの信頼は不可欠です。サービスの立ち上げ期から長く利用いただいているお客様も少なくなく、キャストとお客様の間では独特の関係性が築けてきていると感じます。

村松
そう言っていただけるのは嬉しいですね。NTTデータのグループビジョンは「Trusted Global Innovator」であり、「Trusted(信頼される)」という言葉が入っています。これまでも、これからも、お客様から信頼されることが重要だと考えています。「Trusted Global Innovator」であり続けるためにも、お客様との間に「ロングターム・リレーションシップ~長期にわたる揺るぎない関係性」を築き上げることを目指しています。

CaSy池田
「ロングターム・リレーションシップ」は、まさにCaSyが目指しているものでもありますね。

村松
これまでのNTTデータはプロジェクトから逃げずに「やり遂げること」で信頼を得てきました。しかし、これからも信頼を獲得していくためには、正解のわからないことに挑み、社会自体を変革していくことが必要だと考えています。そして、「NTTデータならできる」という信頼を築いていくためには、やはり人財がもっとも重要です。

CaSy池田
社会の変革という点で言えば、私たちは家事代行業界全体のDXに取り組んでおり、家事代行事業者向けの業務管理クラウド「MoNiCa(モニカ)」を開発しています。将来的には暮らしにまつわる幅広いサービスを変革していくことを目指しています。社会の変革に挑んでいるという点では、NTTデータとCaSyは共通していると言えそうです。

村松
本当にそうですね。池田さんがNTTデータで経験してきたことが形を変えて社会貢献に役立っているのは、私としても素直に嬉しく思います。

CaSy池田
今までNTTデータで得たものがどう生きているかを深く考えたことはありませんでしたが、今回このような機会をいただいたことによって、NTTデータの文化や姿勢、当時の経験がCaSyの行動指針や経営に現れていたのだと新たな発見がありました。こうして自分のルーツを振り返る機会もあまりないので、とても有意義な時間を過ごせました。

村松
これからさらにCaSyのサービスが成長して、社会をより良くしてくれることを楽しみにしています!本日はありがとうございました。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです