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大企業との協業で見えた、変化に強いIT組織をつくる秘訣【アイリッジ小田健太郎対談/後編】

NTTデータの卒業生をお招きし、人事本部 人事統括部長の森田が聞き手としてお話を伺う本企画。前編に引き続き、株式会社アイリッジ代表取締役社長小田健太郎氏との対談をお届けします。前編では、起業家を目指すルーツになった少年時代から、約10年の会社員生活を経てアイリッジを設立するまでの軌跡を伺いました。それを受け後編では現在のO2O/OMO(Online to Offline / Online Merges with Offline)を軸とするビジネスモデルに出会うまでの試行錯誤や現在のNTTデータとの協業を通して思う理想の組織像、さらにはIT業界を生き抜くためのキャリア観についてお聞きしました。

目次

O2O/OMO マーケティング事業への集中を決めた理由

森田
小田さんはNTTデータ、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)での経験を経て、株式会社アイリッジを設立されました。設立した当初は、事業を軌道に乗せるために試行錯誤があったとお聞きしました。

アイリッジ小田
まず、最初の1年で13の事業にチャレンジしました。そのうち収益化できたものは2つ。さらにその1つが、今のO2O/OMOに繋がっているという形です。

これは持論ですが、起業する人は2種類に分けられると思っています。

まず一つは、自らの強烈な原体験にもとづいた社会課題があって、それを解決するために会社を立ち上げる人。もう一方は、シンプルに商売が好きという人です。事業のテーマにはこだわらず、世の中を変えていったり、社会を良くしたりすることで、お金を生み出したいと考える起業の仕方ですね。

私の場合は、どちらかというと後者のタイプでした。最初はとにかくいろいろなことにチャレンジして、社会を良くするために最も強い可能性を感じたのが、モバイルインターネットを使ったビジネスでした

森田
なるほど。O2O/OMOマーケティングのビジネスに着手する以前は、どのような事業に挑戦したのでしょうか。

アイリッジ小田
今や当たり前となっていますが、サブスクリプション型のブランドバッグレンタルサービスを当時日本で3番目に始めました。ところが本人確認の仕組みが不十分で、ある日を境にハイブランドの商品が返却されなくなってしまいました(笑)。当然サービスが回らなくなって、すぐ止めようと。

他にも、エンジニアが1ヶ月ほどで作ってリリースした課金型のオンラインゲームが、驚くほどの利益を生んだこともありました。

そのオンラインゲームは、一時は1ヶ月で数百万円の収益がコンスタントに出ていました。ただ、立ち止まって会社の軸とするビジネスを考えたときに、より世の中や生活を変えていくビジネスをやっていきたいという思いが強くなったんです。そこで当時並行して進めていて、徐々に軌道に乗りはじめていたO2Oマーケティング事業を自分たちのビジネスとして選びました。

森田
目先のキャッシュが入ってくるビジネスがあった中で、ご自身の起業家としてのポリシーを優先し、選択と集中を図られたわけですね。

アイリッジ小田
そうですね。弊社では“Tech Tomorrow”というミッションを掲げています。「テクノロジーの力を使って、明日を良くしていく」ことを旗印として掲げた背景には、こうした体験があったからなんです。

その頃は会社立ち上げから1~2年くらいのタイミングで、メンバーはまだ私を入れて数名という規模でした。マーケティング領域に本腰を入れつつ、プロジェクト数の拡大に伴って本格的に人を採用し始めたのは、その直後からですね。

中途採用は「経験があること」にこだわりすぎてはいないか

森田
会社の事業拡大における重要なテーマの一つに、良い人財の採用が挙げられると思います。アイリッジという組織を大きくしていくにあたって、小田さんが採用で気を付けていたことや、ここを重要視していたという点はありましたか?

アイリッジ小田
正直な話、1人の会社から数人~十数人まで規模を拡げていくフェーズでは「一緒にやってくれる人ならば誰でもいい」くらいの気概がなければ厳しかったですね。こちらが選ぶような段階にないというか(笑)。

大まかな経験職種だけは見ていたのですが、アイリッジという会社を見て「面白そう!」と思ってくれれば、それだけで歓迎という姿勢でした。

森田
それでも結果として人財が集まったことは、小田さんのお人柄の賜物でしょう。これまでの仕事で積み重ねてきた人脈や経験も活きていたのではないかと思います。

アイリッジ小田
「100人にあたったら、付いてきてくれる人が1人見つかる」くらいの感覚でしたね(笑)。

森田
現在のアイリッジで展開されているO2O/OMOマーケティング事業の中では、GPSの位置情報や、IoTなどの最新技術を仕掛けとして組み込んだプロジェクト事例も多いかと思います。そういった技術を扱う人財を育成するうえで、大切にされている考え方をぜひお聞きしたいです。

アイリッジ小田
スマートフォンが出回り始めた頃、GPS機能を使ったマーケティング施策を展開した際に感じたのですが、世の中で全く新しいことを始めるときって、全員が未経験なんですよね。当時まだ、誰もスマホアプリを作った経験がない中で、皆で試行錯誤しながら何とか完成まで走ったこともありました。

経験よりも「新しいことをやりたい、吸収したい」と思う気概の方が大事だと思っています。

森田
考えさせられますね。NTTデータでも経験者採用を増やしている中で「即戦力」という目線を持っていることは確かです。その一方で一人ひとりが持つ志向性や、やる気から来る潜在能力が、将来的にどう化けていくのかという視点は重要ですよね。

アイリッジ小田
一般に中途採用では、つい“どんぴしゃ”の経験者を採りたくなるものですが、そこよりもまず注視するべき点があるのではないかと考えています。

例えばスマホアプリエンジニアであれば、広いITの開発経験や必要な言語での業務スキルを求める場合が多いと思いますが、私は現時点のスキルが多少不足していても問題ないと考えます。それよりも、そのポジションに取り組みたい気持ちを重視しています。

森田
既存の経験だけで最初から決めつけるのではなく、その人の志向性などから新しい可能性を感じるか、組織にどんな多様性を生み出せていくのか、という視点ですね。

採用において、現状のスキルと将来への期待値のバランス感覚は永遠のテーマです。

伝統を常識にせず、外の声に耳をすませる

森田
転職を通して新しいことに挑戦しようとする人財の熱量を大切にしながら、その推進力を糧にアイリッジとして事業の幅を拡げられてきたのですね。そんな拡大期の中で、8年ほど前からはビジネスパートナーとしてNTTデータとも協業いただいています。

アイリッジ小田
BtoBtoCという立場で、企業のお客様のマーケティング戦略をスマートフォンでご支援するというプロジェクトを複数立ち上げていくうち、同じくスマホを使ったビジネス展開を進められていたNTTデータとも近い接点が出てきました。

私が以前在籍していたという縁はきっかけとして大きかったのですが、その繋がりをビジネスとして多面的に拡げていただいたことにとても感謝しています。

森田
ビジネスのスピード感やマーケティング関連の豊富なノウハウは、アイリッジの大きな強みだったかと思います。プロジェクトの協業を進めるうえでは、どのような役割分担があったのでしょうか。

アイリッジ小田
協業を始めた2013年頃だと、スマホアプリを開発した経験のある会社が少なかったので、既にその経験を多く持っていたアイリッジの強みを発揮することができました。

例えば、NTTデータがお客様の会員システムと連携したスマホアプリを開発するプロジェクトでは、アイリッジはユーザビリティを意識したUI/UXレイアウトをご提案しました。

森田
なるほど。お互いの強みを活かした役割分担をされたのですね。
さまざまな企業とプロジェクトを進められているなかで、NTTデータの組織や風土について思うところはありますか?

アイリッジ小田
NTTデータは組織が大きく、非常に広範なビジネスを展開しているので、「アプリ/マーケティング」のような狭いノウハウを集積して運営している私たちのような会社にとっては、ノウハウを発揮できる場を多く用意いただけるので、協業させていただくにあたって非常に心強く感じています。

森田
反面、NTTデータが至らないと感じる部分はあるでしょうか。

アイリッジ小田
組織の大きさゆえの裏返しかとは思うのですが、意思決定が少し遅い印象です。

それでも、他の大手企業を見比べたときの意思決定速度は速いと感じていますよ。あくまでも私見であり外部からの印象ですが、ある程度現場への権限移譲も進んでいるのだと思いました。

森田
当社はそのスピード感をこれから意識していく必要がありますね。

アイリッジ小田
加えてもう一つ、NTTデータが凄いなと思うところがあって。

ちょうど私が在籍していた頃、新世代情報サービス本部という部署が「まちこ」という3次元の仮想空間を使ったバーチャルモールをオープンしたことがありました。

後年有名になり全国的に広まった『セカンドライフ』や『アメーバピグ』とも似たサービスを、その5~10年前の段階で、すでに形にしていたんですよね。

NTTデータには、かつての電電公社から派生した企業とは思えないような、時代を先取りして変化を求めるチャレンジ精神がありますよね。安定的な業績の伸び具合もさることながら、私の今の会社運営において一つのモデルケースになっています。

森田
手前味噌ではありますが、NTTデータには、いわゆる大企業病になりかけそうなところに社員自らが気付いて、変化していけるところがあると思っています。若手を中心に、組織の雰囲気を変えようとするところを、管理職を含め上の世代も応援してくれる文化があります。外のお客様の意見からも刺激を得ているというか、「伝統を大切にしつつ、常識にはしない習慣」が、会社をより前向きに変えていく力になっているのではないかと考えています。

アイリッジ小田
退社して改めて思うのですが、NTTデータには優秀な方が揃っていますよね。組織の課題に気づくことができて、行動に移せる会社なのだと思います。

DXの行き先と、未来のIT業界に求められる人財とは

森田
最後に改めて伺いたいのですが、小田さんは新卒でNTTデータに入社し起業を経ながら、IT業界やモバイル業界の隆盛とともにキャリアを歩まれてきました。これからのIT業界には、どんな人財が必要だとお考えでしょうか。

アイリッジ小田
DXというキーワードが世間でもよく話題にのぼりますが、私たちの生活におけるデジタル化の加速は今後絶対の流れです。その中でIT産業に携わることは、世の中に価値を提供するうえでの大きな力ですので、そういった意義に魅力を感じる方にはぜひ来ていただきたいですね。

またNTTデータに関しては、辞めて十数年経った今でも誇れる会社です。IT界隈を中心に世の中に与える影響は大きいですし、組織の内部を見ても、世の中を変えるくらいの凄い人が育ってくる会社だと思います。

森田
小田さんのように当社を退職してご活躍されている方も多くいらっしゃいます。OBOGの皆さんが卒業生として活躍されている姿を見ると、中にいる私たちにとっても、中途半端な仕事は出来ないな、と良い刺激になっています。

これからもビジネスの要所で協業しながら、一緒にIT業界を盛り上げていきましょう!
本日はありがとうございました。

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※掲載記事の内容は、取材当時のものです