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起業家を夢見た若者が10年で集めたアイデアの種 【アイリッジ小田健太郎対談/前編】

NTTデータを卒業し、各界の最前線で活躍するOB・OGの皆さんに、在職時の出来事や、今の仕事の糧となった体験を伺っていく本企画。四回目を数える今回はO2O/OMO(Online to Offline / Online Merges with Offline)の概念を取り入れたデジタルマーケティングやアプリ開発を行う、株式会社アイリッジ代表取締役社長 小田健太郎氏をお迎えしました。NTTデータを退社後およそ10年の時を経て、現在はビジネスパートナーの立場から協業も進める小田氏。在籍当時に抱いていた仕事への価値観や独立に至るまでの軌跡を、人事本部 人事統括部長の森田が伺いました。

目次

出向の経験で掴んだ、ビジネスで最も大切な思考法

森田
まずは小田さんが新卒でNTTデータに入社された当時のお話を伺えればと思います。当時、就職活動で大切にされていた軸はあったのでしょうか?

アイリッジ小田
経済学部だったので周囲の仲間と一緒に、就職先としてメジャーだった金融機関などは受けていたのですが、その一方でIT業界に関心を持っていました。NTTデータは“日本IT業界の雄”として非常に魅力的に映っていました。

森田
私は小田さんより3年前の1996年入社でしたが、IT業界はまだどこか「理系で、コンピュータが好きな人が行くところ」というイメージだったと記憶しています。文系の新卒からITの持つ大きな可能性を考えられていたとは、先見の明をお持ちでしたね。

アイリッジ小田
当時のNTTデータでもさまざまな職種がありましたが、SEは文系でも目指せるのでは、と考えていましたね。

森田
なるほど。それで入社後は、どんな業務を担当したのですか?

アイリッジ小田
特に印象に残っているのは、ビジネスパートナーだった大手食品会社の物流部門と共に設立した合弁企業に、SCMシステムを開発するためにプロジェクトの立ち上げから関わらせていただいた業務です。プロジェクトメンバーは約30名。先方側から25名だったのに対し、NTTデータからは私を含め5名という人員構成でした。

森田
経験の浅い若手社員が、他社の企業文化や働き方に配慮しながらの仕事は大変な面もあっただろうと思います。その業務の中で、印象に残る体験などはありましたか?

アイリッジ小田
まずNTTデータ側の5名の中では私が最年少だったこともあり、出身会社の垣根なく“ニュートラルに”かわいがっていただけました。そういった状況のなかで、冷蔵倉庫の棚卸し作業を先方出身のメンバーと一緒に手伝いに行ったり、物流倉庫内で行われる深夜のピッキング作業に1週間入ったりと、なかなかNTTデータでは経験しない、相手方の仕事にも取り組みました。

ですが、それは「SCMの最適化システムを作り上げる」というNTTデータ側のミッションにとって無駄なことではないと思っていて。要件定義からシステム開発を進めていくうえで、現場に対する“想像力”は欠かせないものと感じました。

森田
お客様の中に溶け込み、業務を学びつつ、鍛えていただくということですね。

アイリッジ小田
そうですね。システム開発という観点でも、要件定義・設計フェーズから、終盤はリリース後の運用業務まで携わり、3年間で自分なりに一連の流れを掴みました。また、お客様の立場や価値観を知り、それを踏まえて今の課題や求めていることを具現化する。ビジネスにおいて最も基礎でもあり大切な考え方をNTTデータで学ぶことができました。

“経営コンサルタントでの下積み”を登り切った先に見えた景色

森田
合弁会社でのプロジェクト後、小田さんはNTTデータを退職し、経営コンサルタントの道に進まれたそうですね。当時何か新しい目標や強い思いが芽生えたのでしょうか?

アイリッジ小田
いずれ起業してみたいという思いが元々あって、チャンスがあればいろんなキャリアを経験してみたいと思っていました。そういう当時の心境のなかで、プロジェクトの区切りが自身にとって次なる目標を目指そうと思えるタイミングでした。

経営コンサルティングというビジネスが日本でも広く認知され始めたタイミングであり、起業を目指す自分にとってためになる経験が得られるのではないかと感じました。コンサルファームを中心に応募して、最終的にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に内定をもらい入社しました。

森田
当時の純日系企業ともいえるNTTグループから外資コンサルファームへの転職。どのように経営コンサルタントとして経験やスキルを高めていったか気になります。

アイリッジ小田
BCGでの私の経験は、端的に表現すると「量が質を創る」でした。

駆け出しの頃は経験やスキルの有無に関係なく、上司からさまざまな依頼や指示を受け、それらを試行錯誤しながら全てこなしていくという毎日でした。英語が話せなかった私が英語ベースでのプロジェクトに参加したり、専門用語も飛び交う医療系企業とのプロジェクトに参加したりと、苦労する場面も多くありました。

森田
当時は今と状況が違うとはいえ、たいへんなご苦労でしたね。

アイリッジ小田
短い期間で辞めていってしまう人もいたのですが、それでも根気強く2~3年続けていると、ある時私の中でブレイクスルーするタイミングがあったんです。

さまざまな業界やクライアントがいて、個別で見ると解決すべき課題こそ異なるのですが、経営者層の課題を解決するための経営コンサルタントとしての振る舞いや進め方には、いくつかのパターンがあることに気づいたのです。

それらが分かってくると、コンサルタントとしての仕事の進め方がだんだん見えてきて、担当プロジェクトを効率良くリードできるようになっていました。

森田
まさに仰る通り、「量が質を創る」瞬間だったわけですね。

BCGにも約5年在籍されていた中で、現在のアイリッジの事業に繋がっていることを挙げるとすれば、何でしょうか?

アイリッジ小田
コンサルタント時代に担当したモバイルインターネット関連の案件は、現在の事業に繋がる部分もありました。

当時はまだ“ガラケー”の時代でしたが、それでもモバイル分野には非常に大きな可能性を秘めていることを強く感じました。

経営コンサルタントとして、クライアントの多彩な業界や事業に触れるなかで、モバイル領域を軸に私自身の事業を始めるイメージが具体的に湧いてきました。

起業を夢見る若者と、NTTデータ

森田
小田さんはNTTデータとBCGを経て、大学卒業から10年になる2008年にアイリッジ社を設立されました。モバイルインターネット事業にチャンスを見出したとのことですが、設立直後はまずどんなことから着手したのでしょう?

アイリッジ小田
起業したといっても、設立から半年ほどは私1人だけの会社でした。モバイルインターネットの技術を軸に思いつく限りの企画書を書いて、コンサルタント時代の人脈などを頼りに自分の企画を提案しに回っていました。

それでも中々思うように仕事に結びつかず、収入がゼロだった月もありました。

森田
最初から順風満帆だったというわけではなかったのですね。

少し話が逸れるようですが、小田さんはNTTデータ時代からずっと「いずれ起業する」という目標を見据えてキャリアを見つめていらっしゃいました。会社員を辞め起業家に強くこだわる、原体験のような出来事があったのでしょうか?

アイリッジ小田
それは時がかなり遡るのですが、私がまだ幼少の頃です。父親が住宅関連の会社の創業経営者で、少年時代の私にとって一番身近な職業が「会社経営者」でした。家族の食卓で父が母に事業や経営の話をしているのを横で聞いていて、詳しい内容はよくわからないながらもどこか幸せそうに映ったんですよね。今振り返ると、大変なこともあっただろうと承知していますが。

森田
そうしたご家庭のもとで育ち、将来の夢が経営者になったわけですね。

アイリッジ小田
そうですね。ただ、本格的に「自分のキャリアとしての起業」を考え始めたのは、就職活動をしていた大学3年の頃でした。経営者になるという自分の中の思いが強くなってきた時期に選ばせていただいた最初のキャリアが、NTTデータでした。

森田
描く起業の方向性は決まらずとも、IT業界であるNTTデータに文系出身で入社し、結果として現在のアイリッジでもITテクノロジーを軸とされていますよね。事業の方向性を定めるという意味合いで、NTTデータでのご経験はどのような意義があったでしょうか。

アイリッジ小田
モバイルインターネットは、会社員としての時間を経るほどに世間の注目度が高くなっていった領域でした。こうした事業をビジネスの軸に据えるまでの過程で、NTTデータで若くして最前線の現場に出向した経験は大きな財産となっています。

ビジネスの根幹を支える大型システム開発のプロジェクトに立ち上げから携わり、新しいものを生み出す流れに身を置いた経験は、私のキャリアを語るうえで外せないと思います。

──

起業家を志しながら、20代~30代前半のキャリアをNTTデータ、BCGという大手企業でビジネスパーソンとしての地盤を固め、事業のアイデアを膨らませていった小田氏のお話を伺ったインタビュー(前編)ですが、後編でも引き続き小田氏と森田の対談をお送りします。

O2O/OMOを軸とするビジネスモデルに出会うまでの試行錯誤や現在のNTTデータとの協業を通して思う理想の組織像、さらには“IT業界を生き抜くためのキャリア観”についても語っていただきます。後編もぜひご期待ください。

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※掲載記事の内容は、取材当時のものです