事業環境の変化と新たな社会的要請に応じて、変わり続ける使命がある
――まずは、今回のマテリアリティ更新のプロジェクト概要についてご紹介いただけますか?
NTT DATAは、今や世界のあらゆる市場に顧客を持つグローバル企業に成長しました。自社の利益のみならず、社会に果たすべき役割を追求する使命を持っています。「持続可能性」が社会のキーワードに掲げられている昨今、当社では2022年より9つのマテリアリティを定め、サステナビリティ経営の推進に取り組んできました。マテリアリティとは、環境、社会への影響を踏まえた自社の持続的な発展のために取り組む「重要課題」を指す言葉です。マテリアリティは、時代の変化に合わせて絶えず見直す必要があり、昨今の経営環境の変化を考慮し、見直しすることが望ましいとの考えから、今回のプロジェクトが発足しました。
現行の内容をベースに、「新たなマテリアリティの追加」「既存マテリアリティへの要素追加」「時流に合わせた表現の見直し」「マテリアリティ群の統合」という4つの観点から更新を進めてきました。
――現在掲げている推進本部のミッションについてもご紹介ください。
NTT DATAは2022年からスタートした中期経営計画で「Realizing a Sustainable Future」というスローガンを掲げ、「企業活動」とお客様や社会に対する「事業活動」の両面から、社会課題の解決と地球環境への貢献に取り組んでいます。
企業活動では、「自社の事業や活動自体をサステナブルにしていく」ことを目標に、デジタル技術を活用したCO2排出量の削減や、環境・人権に配慮した調達などを行っています。事業活動では「事業を通じて、お客様や社会をサステナブルにしていく」ことを目標に、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の推進、AIやDXを通じたスマート化・生産性向上などに取り組んでいます。双方の取組みを通して、自社がサステナブルな会社となり、よりサステナブルな社会を実現することが、当推進本部のミッションです。
このミッションを遂行するために重要なのがマテリアリティですが、事業環境の変化と新たな社会的要請を考慮すると、これまでのマテリアリティだけではカバーしきれない領域が出てきました。マテリアリティを見直すことになったのは、そのためです。
――具体的にマテリアリティの更新には、どのような背景があったのでしょうか?
大きく3つの背景があり、1つ目が「事業ドメインの変化」です。現在の9つのマテリアリティは、2022年の中期経営計画と同時に策定したものです。策定後の2022年10月に、グローバル通信事業を営むNTT Ltd.がNTT DATA傘下に加わったことで、事業のポートフォリオが拡大したため、マテリアリティを改めて検討する必要がありました。
2つ目は「生成AIの急速な普及拡大」です。ここ数年で急速に普及が進み、当社においても、自社での活用により生産性を向上できることに加えて、お客様への価値提供においても大きな役割を担うとともに、利用方法によってはプラスだけではなくマイナスのインパクトを与える可能性もあります。ミッションとして掲げる“positively impact society”や”responsible innovation”を実現していくためには、マテリアリティの再議論が必要でした。
最後は、「サステナビリティに関するさまざまな法規制がEU(欧州連合)を中心にスタート」したこと。CSRD(EU域内の企業に対してサステナビリティ情報の開示を求める規則)をはじめとする法規制に対応するためには、マテリアリティをはじめに策定し、それに基づいた戦略や指標などの開示項目を決める必要があります。事業ドメイン変更前のマテリアリティで開示項目を決めると、法規制に正しく対応できない可能性があり、企業としての必要な情報を対外的に開示していくためにも、マテリアリティの更新は不可欠でした。
今回のマテリアリティの更新は、社会課題の解決と地球環境への貢献が進み、サステナブルな社会の実現に向けた第一歩であろうと考えています。
Quality Growthに向けた事業戦略に即した新たなマテリアリティが完成
――別所さんはいつ頃から、サステナビリティ経営に興味を抱いたのでしょうか?
2011年から2年間、経営企画を学ぶためにアメリカに留学した際、講義の一コマにサステナビリティのクラスがありました。講義を通して、「利益の追求」と「サステナビリティの追求」、その両立を目指し、具現化している企業がたくさんあることを知りました。当時の日本でサステナブル経営を掲げていたのはごく一部の企業に限られており、グローバルの先進企業の多くがサステナビリティ経営に着目して本気で取り組んでいたのは驚きでしたね。
その後、自身の将来のキャリア設計に向き合った際、サステナビリティ関連の業務に携わることは、この先さまざまなビジネスを企画、推進する上で重要な経験になると考えました。なかでもグローバルで事業を展開しているNTT DATAに惹かれ、現在の部署への転籍を希望。転籍して早々に希望が叶う現在のプロジェクトに就くことができ、嬉しさと不安が入り混じった感情になったのを、いまでも鮮明に覚えています。
――すぐにチャンスが巡ってきたんですね。グローバルな大規模プロジェクトは、どのようなステップで進めていったのですか?
はじめにサステナビリティ経営推進部(当時)でプロジェクトチームを編成し、外部の専門家の知見も取り入れながら、進め方を検討しました。その上で、実際のマテリアリティ検討フェーズにおいては、多様な意見を取り入れることを目的に、多くの組織にヒアリングを実施しました。人事や財務、事業戦略室といったコーポレート部門、国内会社の各分野の事業部門や海外事業会社など、ヒアリング対象はNTT DATAのかなり広い範囲に及んでいたと思います。
NTT DATAでは、中期的な成長に向けて、「Quality Growth」(質の伴った成長)を掲げ、お客様への提供価値向上を通じた、持続的な成長を目指しています。「Digital&Experiences」「Next-Gen Infra」「Agentic AI」の3つを今後の注力領域に置くなか、新たなマテリアリティが事業戦略に沿った内容になっているか、全社の意見をしっかりと汲み取れているかは、経営幹部と議論を行う上での最重要ポイントでした。
「当社の事業にとって大きな影響度を持つ課題」と「社会に与えるインパクトが大きい課題」の二軸、で、さまざまな課題の重要度を整理しながら、ベースとなるマテリアリティ案を策定。その後、外部の有識者にも意見をヒアリングし、チームメンバーや上司とレポートをまとめ、経営幹部と議論を重ね、最終的に13のマテリアリティに整理しました。
――経営幹部とは具体的に、どのような議論が交わされたのでしょうか?
事業戦略やミッションとのつながりの部分について、最も時間をかけてきました。例えば、世界トップクラスのデータセンター事業を抱える当グループでは、Quality Growthの実現に向け、今後もこの強みをさらに磨き、高めていく方針です。その実現のためには、データセンターを建設する地域における「効率的な水管理」やサプライチェーンを含む「労働安全衛生」を新たに追加することが必要である点などについて、現場の声も伝えながら、議論を重ねてきました。
また、信頼性の高いAIを社会に実装することにより、技術開発とイノベーションの創出に取り組む一方、プライバシー侵害やマイノリティの人々に不公平な判断が行われるAIによる差別などによって、社会的差別が拡大する恐れがあります。そのため、AI等のテクノロジーの活用とAI倫理も今回の新たなマテリアリティの要素に組み込んでいます。
今回の13のマテリアリティは、NTT DATAのミッションや今後の事業成長への思いが込められた内容にリニューアルされているので、ぜひ多くの方に認知してほしいですね。
サステナビリティ経営を通し、社会をより良い方向に牽引していきたい
――今後のサステナビリティ経営推進本部の目標についてご紹介ください。
マテリアリティに関しては、定めて終わりにはなりません。今回決めたマテリアリティに対する取組みが着実に進んでいるかをしっかりと把握して、PDCAを回していくことが必要です。そのため、評価基準となるKPIを策定し、関係組織と連携して着実に実行に移していきます。また、自組織においても、自社としてのGHG排出量の削減への取組みを通じた「NTT DATA NET-ZERO Vision 2040」の推進、サステナビリティビジネスの推進、マテリアリティ等、社員へのサステナビリティの浸透を進めるサステナビリティエンゲージメントの向上等に取り組んでいく方針です。
――別所さんは今回のプロジェクトのやりがいについて、どのように感じていますか?
グローバル約20万人の社員の指針の一つとなるマテリアリティについて、国内外のメンバーと力を合わせて推進できたことに大きなやりがいを感じています。
NTT DATAはBtoBが中心の企業ですが、私たちが提供するサービスがサステナブルであれば、それを通じてお客様もエンドユーザーに対し「サステナブル経営に取り組んでいる」企業として、差別化にもつながります。10年前と現在では、サステナビリティ経営がビジネスに与える影響度は確実に高まっており、そうしたお客様への貢献ができる企業となっていくための土台作りに日々携われている環境は、モチベーションにつながっています。
――転籍当時に目指していたキャリアを、いま着実に手にされているんですね。最後に、今後の事業推進にかける思いをお話しいただけますか?
これは佐々木社長がよくおっしゃる言葉ですが、サステナビリティ経営は、「完全に事業との相乗効果を期待できるもの」と、「トレードオフ(何かを得ると何かを失うという両立しえない関係)になるもの」があります。より多くの社員にその点を理解してもらい、サステナビリティを日常のさまざまな事業活動のなかで意識し、プラスの影響を生み出していくことが今後ますます重要になると思いますので、まずは今回定めたマテリアリティの意義や会社のなかでの位置づけを伝えていきたいと考えています。
サステナビリティへの関心が高まれば、会社全体の業績やブランドの向上につながり、ひいてはお客様や社会全体にも良い影響が広まっていきます。社会をより良い方向に牽引できるよう、これからもグローバルメンバーとも連携し、業界に先駆けサステナビリティ経営を強力に推進していきたいと考えています。


