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2016年12月6日技術ブログ

多様化するスタジアムのスポーツ観戦

2020年に向けて構想が進むスポーツ観戦の未来像。スタジアムで味わう新しい体験とは。 サッカーJ1、大宮アルディージャでトライアル導入された Wi-Fiマルチキャスト技術とスマホによる多視点視聴、 専用アプリを使った地域活性の取り組みを紹介します。

Jリーグでのトライアルを終えて

見る、支えるという2つの側面

サッカーJ1の「大宮アルディージャ」は、2016年7月から本拠地の「NACK5スタジアム大宮」(埼玉県さいたま市大宮区)で、ITをスポーツ観戦に応用した取り組みを始めています。

スタジアムにWi-Fi環境を整備することで、専用アプリをインストールしたスマホから接続して、試合中継や応援番組、選手の追っかけ映像が楽しめるという仕掛け。これらは「スマートスタジアム化構想」の一環です。

───「スマートスタジアム」とは、どんなものですか。

小笠原 ITをきっかけにして、新しいスタジアムの形をつくるというのが大きな定義です。スタジアムだったり、街だったりに対し、ITによる付加価値を付けて、役割を広げていく取り組みです。米国の「リーバイス・スタジアム(※1)」などが先行事例として有名ですね。

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

NTT 新ビジネス推進室 2020レガシー担当 小笠原賀子担当部長

───一般的にはITとスポーツはあまり相容れないものと思われがちですが、実は親和性が高いと。

小笠原 ええ。スポーツには、実際に「する」という側面、試合や演技を「見る」という側面、選手や仕組みを「支える」という側面、大きく3つがあります。そのうち、どの側面でもITが活用できるシーンがあると思っています。

NTTグループとしてスマートスタジアムを色付けるものとして、今回のトライアルは「見る」「支える」がテーマです。

───具体的には?

「見る」という側面では、観客の皆さんに対して「サービスとして生の試合をもっとよく見せる」「もっとわかりやすく見せる」という観点でマルチキャストシステムを使う、といった環境づくりをしています。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

テレ玉×ひかりTV「Ole!アルディージャPlus」は、スタジアム内限定のオリジナル応援番組。

「支える」という側面はさらに広く、チーム運営を直接支える以外にもファンクラブ会員となって支えるとか、地域の方々が自分たちのクラブを愛する気持ちなどを高めるとか、そういう緩やかなつながりまでを含めて考えられるでしょう。

地域連携の文脈では、マネタイズの方法なども含めた取り組みを、今からやりたいと思っているところです。ITを使ったデジタルマーケティングを使って、地域とクラブ、あるいは地域と選手を繋いでいきたいですね。

スマホの利用には抵抗がない

───専用アプリは大宮のチームカラーであるオレンジをあしらったデザインのほか、動きや機能もよくできているという印象がありました。サポーターやチーム、メディアも含めて反応はどうでしたか?

柿元 2016年10月22日の試合直後、観客の何人かの方々にグループインタビュー形式で集まっていただきました。内訳は、試合観戦に慣れている層と、初めてスタジアムに来ましたというビギナー層です。

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

NTT 新ビジネス推進室 地域創生担当 柿元宏晃さん

柿元 年間パスを持って応援に来るようなコア層は、欲しい情報が明確にあります。「普段よりも、もう少し試合データを詳しく見たい」といったニーズにかなった機能に着目していました。

一方、ビギナーは全く違います。初めてスタジアムで見る試合で何もわからないので、選手を紹介しているコンテンツから情報を得たようです。見ているポイント、コンテンツが違うので、同じアプリでも楽しみ方も2通りあることがわかりました。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

トレーディングカードのようなデザインのコンテンツ「オリジナル選手カード」では、スタジアムで選手のプロフィールをチェックできるため、応援のビギナーに役立つ。

───それは想定していた通りの使われ方だったのでしょうか。

柿元 あまり使い方の案内をしていなかったのですが、想定以上に使いこなしていただけたようです。ライブ動画は何秒か遅らせて配信しているため、いいプレイがあった時に手元を見るとちょうどリプレイになっています。途中でそれに気づいて、画面を見ていたという意見は多かったですね。

───スタジアム内のWi-Fi速度についてのコメントはありましたか。

柿元 人によって感覚が違うと思いますが、一般家庭のWi-Fiと同等か、少し遅い程度に感じる方が多かったようです。次回も使いたいという意見が多かったのはビギナー層の方でした。

地域を盛り上げる手助けに

───アプリには、スタジアム周辺の地域を盛り上げようという仕掛けがあります。その狙いは。

小笠原 試合がある時、街には1万人くらいの観衆が集まってきます。せっかくなので、その方たちにスタジアムだけではなく、その周辺でもお金を使ってもらえれば、地域がクラブを持っている経済的な価値になりますよね。スタジアムがその役割を果たすきっかけになればと、まずはクーポンのシステムを考案しました。

クーポンの提携先としてお声がけしたのは、20~30店舗くらいです。我々が集めたというより、大宮には元々「大宮ナポリタン会」という、ナポリタンを街の新名物にする、駅前の商店によって立ち上げられたグループがあり、会の参加店にお声がけをさせていただいています。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

公式アプリには、地域の飲食店で使えるクーポン機能も搭載。

今後はIT的な仕掛けも含めて、もう少しレベルアップしていかなければと思っています。スタジアムの観客に来て欲しいと思っているお店に、オープンなプラットフォームから登録してもらうところまでいくのが、理想的なケースです。そうすれば、マネタイズが可能になる気がします。

それから、店舗における試合コンテンツの再利用や、パブリックビューイングなども課題ですね。大宮には「大宮公園(※2)」や「鉄道博物館(※3)」といった、施設がたくさんあるので、そうした施設にお声がけするほか、さいたま市ともうまく連携できればいいかもしれません。

また、Jリーグのような地域に密着したスポーツは地域間のシナジーを生むので、対戦相手の街との、相互の送客まで含めて、お手伝いしていきたいと思っています。

───Jリーグの試合には2つの都市が必ず出てきますから、面白い取り組みになりそうです。

小笠原 大宮のスタジアムが盛り上がっていることが伝われば、アルディージャの対戦相手サポーターに「アウェーのスタジアムへ行きたい」と思ってもらえるでしょうし、さらにお互いに良くなっていけば、もっと新しい取り組みもできると考えています。

※1リーバイス・スタジアム

2014年にオープンした、米国カリフォルニア・サンタクララのスタジアム。NFL(プロアメリカンフットボール)サンフランシスコ・フォーティナイナーズが本拠地とする。2016年2月に行われた第50回スーパーボウルの舞台となった。米ヤフーや独SAPなどの企業が公式スポンサーとなり、Wi-FiやBluetoothなどのワイヤレス環境のほか、携帯電話の分散アンテナの拡充、スマホとの連動、デジタルサイネージや飲料のオーダーシステムなど、先進的な環境を提供している。

※2大宮公園

埼玉県さいたま市大宮区および見沼区にある県営公園。 東京都・埼玉県近辺に約200社ある氷川神社の総本社である「大宮氷川神社」に隣接。サッカー場のほか、陸上競技場、双輪場、野球場、体育館、弓道場、水泳競技場などが敷地内にある。

※3鉄道博物館

JR東日本の創立20周年記念事業として、埼玉県さいたま市大宮区大成町に2007年に開館。2015年に来館800万人を達成した。2018年夏に新館の建設と本館の全面リニューアルオープンを予定、既存の施設を順次閉鎖して改修工事を行っている。 http://www.railway-museum.jp

2020年までにできること

放送に使われた技術を応用

───特定多数へ同時に映像を届ける「Wi-Fiマルチキャストシステム」は、スタジアム内でどのくらいの人数をカバーできるのですか。

小笠原 エリア上だと1つのアクセスポイントに対して300~350人くらいです。観客の100%が同時に接続できるわけではありませんが、画面を立ち上げている人に対して、情報を送り続けています。その割合が4割くらい。今後、もし足りないようであれば、変えていきます。

人が集中しているスタジアムでは、手元のスマホまでWi-Fiの電波が確実に届くか、が最も難しいところです。技術を設計に落とし、スタジアムの中でどう配置すればよいかは、非常に大きなノウハウです。

スタジアムにおけるWi-Fiの提供に関しては、今、NTTBP(※1)というグループ会社が実績も含めて日本で最大手になっています。今回もスピード感を持って細かくチューニングしていけたのは、彼らの力が大きいです。

ビームフォーミングがされている高密度Wi-Fi。

ビームフォーミングがされている高密度Wi-Fi。

スタジアム内には、全75箇所のアクセスポイントが設置された。アクセスポイント1箇所あたり300~350人が接続できる。NTTBPが設置した。

スタジアム内には、全75箇所のアクセスポイントが設置された。アクセスポイント1箇所あたり300~350人が接続できる。NTTBPが設置した。

───視聴できる映像は、どのようなものでしょう。

小笠原 NTTデータに実施いただいたWi-Fiマルチキャストシステムをつかったライブストリーミングです。視聴しようと受け続けている方に対して映像を送り続けます。

スタジアム内のWi-Fiと専用アプリを通じて、スカパー!の試合中継映像が手元で見られる。目の前のプレイとわずかなタイムラグがあるため、決定的なシーンのリプレイ映像として視聴できる。

スタジアム内のWi-Fiと専用アプリを通じて、スカパー!の試合中継映像が手元で見られる。目の前のプレイとわずかなタイムラグがあるため、決定的なシーンのリプレイ映像として視聴できる。

視聴画面を立ち上げていない方に対しては、VODのように見たいコンテンツを見に行く間だけストリームが発生します。

アプリへの配信では、試合前の解説プログラムなども充実。チームの応援を立体的に楽しむための仕掛けを施す。

アプリへの配信では、試合前の解説プログラムなども充実。チームの応援を立体的に楽しむための仕掛けを施す。

───Wi-Fiマルチキャストシステムについて、NTTデータから解説をお願いします。

及川 簡単に言うとローカル放送のようなもので、チャンネルを切り替えるといろんなテレビ番組が見られるのと同じです。一方通行で映像を送りっぱなしにするので、VODのようにクラウドにアクセスするといったやり取りはありません。

NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 課長 及川晃樹

NTTデータ 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ デバイス協調技術担当 課長 及川晃樹

ネットワークやサーバに一切負荷がかからないのが特徴で、大勢に対して一斉同報で配信するのに向いている技術です。

通常のWi-Fi通信では1対1の双方向による通信(ユニキャスト)で帯域を共有するため、同時に接続できる端末数に限りがある。1対Nの片方向による同報配信(マルチキャスト)は同時接続数に制限なく、輻輳のないサービスが提供できる。

通常のWi-Fi通信では1対1の双方向による通信(ユニキャスト)で帯域を共有するため、同時に接続できる端末数に限りがある。1対Nの片方向による同報配信(マルチキャスト)は同時接続数に制限なく、輻輳のないサービスが提供できる。

───受け手にとっては通信というより、放送に近い感覚ですね。

及川 そうですね。Wi-Fiを使っているのでベースは通信なのですが、放送に近い概念になっています。元々この技術はマルチメディア放送で使われていたもので、それを応用しています。

技術とアイデアの掛け合わせ

───この技術を使うと、スポーツ観戦では他にどのようなことができるのですか。

及川 今回のトライアルではやっていませんが、もう1つのコンテンツ配信方法であるファイルキャスティングを使うことができます。

これは例えば、スマホに動画ファイルやPDFファイルなどをダウンロードさせて、後から見られるという技術です。シフトタイム放送とも言いますが、見逃したシーンを帰り際に見るとか、家に帰ってから見ることもできますし、クーポンなども送れます。逆に、チームの応援歌のようなファイルをダウンロードしてからスタジアムへ行くといった使い方もできますね。

───スタジアムの体験をお土産として持って帰れるのは面白いと思います。

及川 試合後のインタビューとかロッカールームの映像などは、試合の興奮が冷めないうちに見たいものですが、帰りの電車もあるから無理だという方もいるでしょう。そんなシーンで役立ってほしいです。

またスポーツだけではなく、スタジアムに集まった方々が離散するとき、わざわざ来てくれた特典として、何かしらのコンテンツをお届けするサービスがつくれたら面白いなと思っています。

───シーンを切り取ったダイジェスト映像をユーザーに見せるのは、メジャーリーグのサイトがいち早く取り組んだ印象があります。海外でこうした動きは進んでいるのでしょうか。

及川 アメリカのスポーツ界では、広く提供されていますよね。

柿元 グループインタビューのコア層の人の意見を聞くと、海外のファンのように試合の戦術が気になると言います。そうした分析を提供するのもあり得るでしょうね。

小笠原 英国のプレミアリーグを視察したときは逆に、ルールを知らなくても楽しめるクジがありました。ゲームの最初のゴールが、開始から何分後の時間帯に入るかだけに賭けるんです。そうすると、とにかく今入れてくれなきゃダメだ!という試合の見方になるんですよ。どちらのチームでもいいから!と(笑)。

───技術とアイデアを掛け合わせると、無限の可能性があるようです。

小笠原 スポーツの観戦は、きっといろんな楽しみ方があります。私たちがいろんなことをやってみるうち、お客さんが少しでも引っかかってくれたら新しい興味が開かれますから。そんな新しい楽しみ方を提供していきたいですね。

あと4年での発展を見越して

───NTTデータにおける今後の展開を聞かせてください。

及川 ライブストリーミングとファイルキャスティングに関する技術開発は終了しています。あとは事業部の方で温めてもらい、商業化してもらう段階にまで来ています。

内藤 Wi-Fiマルチキャストの技術を使ったエリア限定のコンテンツ配信は、全英オープン(※2)でまずトライして、昨年はFC今治(※3)でも行いました。今回の大宮でのトライアルでは、少し商用に向けた出口を探る目的がありました。

NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 放送・情報サービス事業部 放送ビジネス統括部 放送ビジネス営業担当 課長 内藤一章

NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 放送・情報サービス事業部 放送ビジネス統括部 放送ビジネス営業担当 課長 内藤一章

2020年に繋がる話として、まずは大勢の人が集まるスタジアムで楽しんでいただくサービスに、引き続き取り組みます。そのきっかけがWi-Fiマルチキャストですが、それに加えて本当にファンや地元の方たちに喜んでもらえるサービスを考えていきたいです。

あとはスポーツだけでなく、B to C、B to B to Cのビジネスに取り組まれているクライアント企業と、商業施設などでの実証実験も重ねていきたいです。

───どういった商業施設での利用が考えられますか。

内藤 まだ実現していませんが、例えばモールの中の映画館などでマルチキャストとVRの技術を組み合わせた新しい体験ができるといったサービスが考えられそうです。

もちろんクーポンや映像コンテンツのように、そこに来て初めて手に入るコンテンツを持ち帰っていただくサービスの可能性はあるので、いろんなロケーションでやっていきたいですね。

───オリンピック・スタジアムはいかがですか?

及川 私としては、そうした競技場への導入を目指していきたいです。外国の方々が持ち込んだスマートフォンで簡単に観られるのがWi-Fiのメリットです。その時にはマルチリンガルの多言語放送も形になっているはずなので、よりインバウンドの方に合った情報が提供できるメディアになれると思っています。

───4年後で外国の方がスムーズに使うためには、Wi-Fiくらい一般的に普及した技術の方がいいという考えもありますね。

及川 ええ。その頃には、接続もだいぶ安定もしていますし、今よりもさらに映像が送れる帯域が増えていると思います。帯域が増えるとチャネルも増え、画質も良くなりますから。

あとは大事な使い方として、防災情報の配信があります。スタジアムなど大勢の人が集まるところでは、地震などが発生した際、多言語で的確に情報を伝えることが重要です。過去にそうした実証実験を何度もやっています。

───皆がそれぞれ1台ずつ持っている端末への防災情報提供は、安全にスポーツ観戦を楽しむうえで役立ちそうです。

及川 映像や音声だけでなく、避難先の地図を送るといった使い方もできますから、これから取り組んでいきたいですね。

小笠原 そうですね。オリンピックは通過点でしかありませんが、その手前で実績を積んで「何がスタジアムの中で本当に求められているのか」を明らかにしたり、そのニーズに合わせた機能を実装したりすれば2020年にも繋がっていくと思います。こうした活動が、我々のやるべきことだと考えています。

※1NTTBP

NTTグループにおけるWi-Fiに関する専業会社。正式名称は「エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社」。

※2全英オープン

マスターズ、全米オープン、PGA選手権と並ぶ、ゴルフのメジャー選手権。1860年創設の全英オープン選手権は、4大トーナメントのうち最も歴史が古い。NTTデータはオフィシャルスポンサーとして協賛している。

※3FC今治

愛媛県今治市をホームタウンとする四国サッカーリーグ所属のクラブで、Jリーグ加盟を目指している。創設は1976年。サッカー元日本代表監督の岡田武史さんが代表を務める。

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