- 目次
データはあるのにAIで上手に使えない理由
多くの組織には、業務システムのデータ、表計算ファイル、報告書、議事録、外部統計、分析資料など、さまざまな情報が蓄積されています。これらをAIが横断的に参照できれば、調査や分析、資料作成の効率は大きく高まります。
しかし実際には、「データはあるのに使えない」という状態に陥りがちです。その理由の一つは、AIがデータの場所を把握していても、そのデータを何の判断に使うのか、どの粒度で見ればよいのか、どの条件では使ってはいけないのかを理解できないからです。AIが業務判断に使える材料を出すには、データをAIが「読める状態」にするだけでなく、「業務目的に沿って使える状態」に整えることが重要です。
その前提となるのが、AIが業務目的に沿ってデータを使える状態に整備する「AI-Ready Data」という取り組みです。AI-Ready Dataは、AIが読み取れる形式にデータを変換するだけでなく、データの意味、業務上の位置づけ、判断に使う際の前提条件や注意点まで含めて、AIが適切に参照・解釈できる状態にすることを意味します。
図1:データはあるのに使えない状態
AI-Ready Dataとは何か、なぜドメインコンテキストが必要なのか
AIが業務データを扱うには、データそのものだけでなく、意味、更新時点、利用できる業務目的などの説明情報も必要です。AIがこうした情報を解釈できなければ、一見正しそうなデータを参照できたとしても、業務上妥当な判断はできません。
この整理にはメタデータが有効です。メタデータとは、データそのものではなく、データを説明するための情報です。例えば、データの名称、更新日、項目の意味、集計単位、対象期間、利用できる業務目的、利用時の注意点などが含まれます。AI-Ready Dataでは、こうしたメタデータを通じて、データ構造や関係性をAIと人が分かる形にすることが重要です。
ただし、ファイルやテーブルごとに説明を付けるだけでは十分ではありません。業務データは、項目名や定義だけを見ても、実際の使い方までは分からないことが多いからです。AIが業務目的に沿ってデータを選び、解釈し、判断を支援するためには、その背後にある業務文脈もあわせて整理する必要があります。本記事では、業務における判断ルールや前提条件など、こうした業務文脈を整理した情報を「ドメインコンテキスト」と呼びます。
例えば、受注額、出荷額、請求額、入金額はいずれも売上に関係する指標ですが、意味は異なります。経営会議と営業活動の進捗確認で見るべき数字も同じとは限りません。また、単純に比較できない条件や、判断前に確認すべき前提がある場合もあります。こうした違いをAIに理解させるには、データの定義だけでなく、業務上の使い分けも言葉にしておく必要があります。
ドメインコンテキストには、例えば次のような内容が含まれます。
- 業務で使う言葉の定義
- 似ているが意味の異なる指標の使い分け
- 分析時に確認すべきデータの組み合わせ
- 単純比較してはいけない条件
- 判断時に必要な確認事項
- よくある誤解や例外値の扱い
こうした情報が整っていると、AIはデータを選ぶ時点から、より業務目的に沿った判断をしやすくなります。
図2:ドメインコンテキストによる整理
自治体におけるデータ活用分析で見る、AIに渡すべきドメインコンテキスト
具体例として、自治体におけるデータ活用分析を考えてみます。自治体には、住民基本台帳、国勢調査、政府統計の総合窓口(e-Stat)の統計、独自調査、施策実績、議会資料、過去の計画書など、多様なデータや文書があります。
例えば、観光施策の効果を分析する場合、AIが観光客数だけを見て「来訪者が増えているため施策は成功している」とまとめることがあります。しかし、地域経済への効果を見るなら、宿泊者数、観光消費額、日帰り客と宿泊客の内訳、季節要因、イベントによる一時的な効果なども確認する必要があります。
この場合、AIに渡すべきなのは観光客数のデータだけではありません。観光政策の担当者がデータを評価する際の知識や判断基準も必要です。具体的には「観光施策の評価では、目的に応じて見る指標が変わる」「地域経済への効果を見る場合は、宿泊者数や観光消費額も確認する」「イベント期間の一時的な増加と継続的な増加は分けて見る」といった内容です。
そのうえで、関連するデータにメタデータとドメインコンテキストを付与します。観光客数データには、集計単位、対象期間、調査方法、利用できる分析目的、単独利用時の注意点を記載します。宿泊者数や観光消費額のデータには、観光客数との関係や、地域経済への効果を見る際の利用観点を記載します。こうした準備により、AIは分析目的に応じたデータ候補を選びやすくなり、人間もAIが示す分析観点を確認しやすくなります。
図3:自治体におけるデータ活用の例
AI-Ready Dataを整備する実践ステップ
AI-Ready Dataの整備は、ユースケースから逆算して進めることが重要です。組織全体のデータを一度に整えるのではなく、「どの業務課題を解きたいのか」「AIにどの判断を支援させたいのか」という具体的な利用シーンを起点に考えます。最初は、課題と分析目的が明確で、利用するデータと判断の前提を絞り込みやすい業務が適しています。例えば、商品企画、経営企画、営業戦略、政策立案など、複数のデータや文書を見比べて意思決定する業務が候補になります。
進め方は、次のように整理できます。ここでいうメタデータは、各データや項目に付与される説明情報です。スキーマ、品質情報、作成元、更新頻度、対象期間、粒度、関連する業務用語、参照すべき判断ルールなどを、データカタログやメタデータ管理基盤で管理します。一方、ドメインコンテキストは、業務判断に必要な前提情報です。具体的には、業務用語、指標定義、業務フロー、判断ルール、例外時の扱い、利用上の注意点などを、ドキュメントやナレッジグラフとして整理します。
- 1.業務チームが、解きたい業務課題と分析目的を明確にする
- 2.業務チームが、利用候補となるデータを洗い出す
- 3.業務チームが、ドメインコンテキストのたたき台を作る
- 4.業務有識者が、ドメインコンテキストを確認する
- 5.データ管理チームが、業務チームが整理したドメインコンテキストをもとに、メタデータとドメインコンテキストを付与する
- 6.業務チームが、AIの結果を確認し、データ管理チームとともに、不足している知識やメタデータを改善する
このサイクルにより、最初から大規模なAI-Ready Dataの基盤を作るのではなく、特定の業務課題に必要な範囲から小さく整備できます。そして、実際のAI活用で不足した知識やメタデータを補いながら、基盤を継続的に育てられます。
メタデータとドメインコンテキストが整うと、AIが参照したデータ、用いた指標定義、分析の前提を人間が確認しやすくなります。AI時代のデータ活用は、データをためるだけでも、AIに読ませるだけでも十分ではありません。ユースケースから逆算してドメインコンテキストを整え、AI-Ready Dataを育てることが、AIを業務に根づかせる第一歩になります。
図4:知識を育てる流れ


AIエージェント (AI Agent)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/ai-agent/
データ&インテリジェンスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/data-and-intelligence/
あわせて読みたい: