NTT DATA

DATA INSIGHT

NTT DATAの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2025.11.25技術トレンド/展望

持続可能な価値を創出するためのAIエージェントとは

-未来のAIエージェントのデザイン・技術・適用戦略を考える-

生成AIの進化により、私たちのビジネスや生活は大きく変わりつつある。特に、AIエージェントは単なる自動化を超えた新たなパートナーとして注目されている。NTTデータでは、Smart AI Agentのさらなる進化の方向性の一つとして、人とAIエージェントの望ましい関係性を設計するためのエージェントデザインフレームワークの検討を進めている。本記事では、AIエージェントの活用を検討している方向けに中長期的に成果を生み出すためのAIエージェントの導入における示唆を提供する。

※本記事は「スペシャリストが語る ビジネス変革に効く生成AI最新動向」の連載記事です。
目次

1.持続的な成果につながるエージェントデザインの視点

2024年10月に当社では、AIエージェントが自律的に対象業務のタスクを抽出・整理・実行する生成AI活用コンセプト「Smart AI Agent」を発表しました。Smart AI Agentでは、AIエージェントに求められる能力として7つの能力を定義しています。中心となるモデルの推論能力は基礎的な生成AIモデルの能力であり周辺の能力を支えます。業務の理解・遂行能力は、業務の目的や内容を自律的にタスクを実行する能力です。その際に必要な情報に素早くアクセスし活用するためのデータのアクセシビリティが必要です。また、人と連携しながら作業を進めるための人間との協調性、そして既存の業務ツールと連携するためツールとAIの統合が必要になります。その他、現実世界とやりとりする業務では世界の知覚・予測・操作や、現実世界への出力が必要になります。これらの能力を高め、また連携させることで、エージェントをビジネスでより効果的に活用できます。

図1:ビジネスにおいてAgentに求められる7つの能力

ビジネスではエージェントにこのような能力が求められますが、本記事では、これらの能力全般に関わる側面として、「人とAIエージェントのより良い関係性」に焦点を当て、そのデザイン手法の研究事例を紹介します。
「人とAIエージェントのより良い関係性」を実現するために、Smart AI Agentではさまざまなコアコンポーネントを開発しています。上記の7つの能力においては特に「業務の理解・遂行能力」や「人間との協調性」に資するものとして、マルチエージェントやUITL(User In The Loop)等の技術をSmart AI Agent のコアコンポーネントとして提供しています。これらのコアコンポーネントを活用し、人とAIエージェントの円滑な協働を目指しています。

本記事で紹介するデザインフレームワークは、これらのマルチエージェントやUITLを用いた協働デザインの将来的な発展形として位置づけられるものです。NTTデータでは、将来、人とAIエージェントが一体となって業務に取り組む世界の実現を見据え、人とAIエージェントの望ましい関係性のあり方を検討しています。

2.持続可能な価値創出のための考え方-Well-goingと「ゆ理論」

人とAIエージェントの望ましい関係を考えるにあたって、まず、そのプロセスが「よい状態」であることを捉えるための考え方として「Well-going(ウェルゴーイング)」という概念を参照します。これは、京都大学の出口教授を中心に提唱・要件整理されたもので、グループとして「行為が目的達成に向けて順調に進行している状態」を意味します(※1)。人とAIエージェントが共に活動するグループにおいて、この「遂行順調性」を実現することが、持続可能な価値創出のカギとなります。

次に、そのような「よい状態」をデザインするにあたって、活用できる考え方がNTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司氏と早稲田大学のドミニク・チェン氏が提唱する「ゆ理論」です(※2)。「ゆ理論」では、グループとしてのよいあり方(わたしたちのウェルビーイング)をデザインする際の質的な指針として、以下の3つの要素が重要だとされています。

「ゆらぎ」とは「価値や関係性の変容・適応性」を意味し、変化を適切に作り出すとともに適応していく視点です。
「ゆだね」とは、「柔軟な委譲・協調性」を意味し、人間やAIエージェントにとって適切な自律性のレベルを見極める視点です。
「ゆとり」とは、「プロセスの充実性」を意味し、一時的な成果獲得を最優先しその過程や手段を問わないという成果偏重の視点ではなく、成果に至るプロセスの質を当事者視点で高め、意味や価値を発見し育つ余白を大切にする視点です。これらの概念の関係性を以下の図2に示します。

図2:Well-goingを実現するための概念枠組み

注)Well-goingの実現において、メンバーが獲得していることが望ましい資質・能力としてWell-being Competencyという概念が記されているが、紙面の関係で本記事では説明を割愛する。詳細は参考文献を参照。日本電信電話株式会社(NTT)社会情報研究所、金沢工業大学(KIT)、執筆:渡邊淳司(NTT)・横山実紀(NTT)・平真由子(KIT)(2024).ウェルビーイング・コンピテンシー ホワイトペーパー NTT-KIT 実践事例増補版.
https://www.rd.ntt/sil/project/socialwellbeing/article/well-being_competency_wp.html

(※1)

横山実紀, 土屋志高, 渡邊淳司, & 出口康夫. (2024). <論文> 共同活動のプロセスを評価する Well-going の要件. 京都大学文学部哲学研究室紀要, 23, 1-23.

(※2)

渡邊淳司,ドミニク・チェン:ウェルビーイングのつくりかた─「わたし」と「わたしたち」をつなぐデザインガイド,ビー・エヌ・エヌ(2023),

3.NTTデータが考えるエージェントデザインフレームワーク

人とAIエージェントからなるグループのよい状態を実現するために、AIエージェントが「ゆらぎ・ゆだね・ゆとり」の3つの観点からどのように働きかけが可能か検討し、結果を表1にまとめました。これは持続的な価値創出に向けたAIエージェントのデザインフレームワークと位置づけられます。横軸はデザイン指針である「ゆらぎ(価値や関係性の変容・適応性)」、「ゆだね(柔軟な委譲・協調性)」、「ゆとり(プロセスの充実性)」を示しており、縦軸はAIエージェントの介入対象である4つの層(個人、グループ、AI自身、環境)を示します。

各セルでは、両軸の観点を踏まえてAIエージェントに期待される役割を整理しており、このマトリクスを用いることで、望ましい関係性を実現するために、どこにどのように働きかければよいかを俯瞰的に検討できます。

表1:持続可能な価値創出のためのエージェントデザインフレームワーク

4.エージェントのデザインが成果にどうつながるのか?

企業におけるAI導入では、定量的な成果が重要視されます。ここで紹介したデザイン要素が成果にどのように貢献するか、ストーリーの概略を説明します。
「ゆらぎ」への対応により、環境変化への迅速な適応と新たな発想の促進が可能となり、製品やサービスの陳腐化を防ぎ、売上成長と顧客価値の向上につながります。
「ゆだね」への対応により、定型業務をAIエージェントに任せることで人は創造的な業務に集中でき、AIとの協働により高付加価値を生み出します。また、意思決定の迅速化と工数削減により、利益率も向上します。
「ゆとり」への対応により、働き方やプロセスの意味を見直す視点です。価値観に合った働き方と持続可能なペースにより、エンゲージメントと学習効率が高まり、離職率の低下と生産性向上が実現します。

これら三要素を連動させることで、組織の柔軟性や健全性、事業の持続可能性を同時に高めることができます。

5.今後注目すべきエージェントの技術要素

「ゆらぎ・ゆだね・ゆとり」の3要素を備えた人とエージェントの関係性を実現するために、以下のような技術要素に今後注目していく必要があります。現時点のSmart AI Agentにおいても一部は実現されていますが、今後のさらなる高度化に向けては、引き続き研究開発が求められる技術要素となっています。
「ゆらぎ」に対応するためには、状況の変化を的確に捉え、適応するとともに、創発的な出力生成が行えるようにするための技術が必要となります。
「ゆだね」に対応するためには、第一に、AIエージェントが専門家業務を代替できる能力を身につける必要があり、その上で人やエージェント間の協調の方法を調整しつつ、人の信頼を得ながら適切に権限を委譲する技術が求められます。
「ゆとり」に対応するためには、個人の価値観に沿った働き方や成長を支援する機能が重要です。個人やチームの価値観の推定・共有、個人別に異なるプロセス価値を充実させるための支援や、人・エージェントに対する評価・成長トラッキング・フィードバックの仕組みが必要となります。

これらの要素が組み合わさることで、AIエージェントは単なる自動化ツールから、戦略的パートナーへと進化していくと考えられます。

表2:持続可能な価値創出のためのAIエージェント要件と技術要素

6.エージェントの適用戦略のポイント

NTTデータでは、生成AIビジネスの今後の展開として、自動化のレベルがタスク単位からプロセス全体、さらにはビジネス全体へと段階的に高度化していくと考えています。その実現に向けて、エージェントも主に作業者をサポートする役割のCopilot型から、より自律的かつ協調的に振る舞うAgentic AIへと進化していく必要があります。

図3:NTTデータが構想する生成AIビジネスの将来展望

このように生成AIによるプロセスの自動化、そしてビジネスの自動化へと適用範囲を広げていくにあたって、本記事のデザインフレームワークを用いて、AIエージェントの段階的な適用戦略を検討することができます。
まずは定型業務への適用から始め、成功体験を積み重ねることで組織内に受容を広げます。ここではAIエージェントへの委譲を適切にコントロールする必要があるため、「ゆだね」に着目したデザインアプローチが有効と考えられます。
次に、複数業務への拡大や非定型業務への対応を進め、エージェントの適応力を育成します。ここでは環境や状況の変化を捉え、適応できることが重要となるため、「ゆらぎ」に着目したデザインアプローチが有効と考えられます。

最終的には、部門横断のプロセス再設計や新たな価値創出に向けて、人とAIエージェントが一体となって仮説検証を行い共創していくフェーズへと移行していきます。ここでは、長期的な視点で組織のメンバーの成長を重視する「ゆとり」に着目したデザインアプローチが有効と考えられます。

表3:AIエージェント適用戦略

7.おわりに-社会変革を共に駆動するパートナーへ

本記事で紹介した内容は、将来的なSmart AI Agentの進化の方向性の一つとして検討しているものです。
エージェントを単なる自動化のための道具ではなく、人と一体となって価値を創造していくパートナーと捉え、その望ましい関係性のデザインを行っていくことで、よりよい形でエージェントを社会に適用し、持続的な価値創出が可能になると考えています。

NTTデータでは、未来に向けて、企業や社会の皆さまと共に、人とAIの協働による豊かな社会の実現に取り組んでいきます。

記事の内容に関するご依頼やご相談は、こちらからお問い合わせください。

お問い合わせ

お問い合わせ

記事の内容に関するご依頼やご相談は、
こちらからお問い合わせください。

お問い合わせ