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2025.5.29技術トレンド/展望

3D再現の最前線:3D Gaussian Splattingの活用シーンと課題

近年、デジタルツインやメタバースというキーワードの注目に伴い、高精細な3D再現技術に関心が集まっている。そうした中で高速のレンダリングと高精細な描画を両立できる手法として、3D Gaussian Splatting(3DGS)が脚光を浴びている。本稿では、3DGSの仕組みや既存手法との違い、活用シーン、課題について解説する。
目次

3D再現技術の必要性

近年、メタバース(※1)やデジタルツイン(※2)といったキーワードが注目され、物体や空間を高精度に3Dで再現する技術が、さまざまな分野で関心を集めています。3D再現技術の進展によって、仮想空間上での建築物のリアルな可視化や、遠隔地にいながらの没入型体験、製造現場でのシミュレーションやトレーニングなど、現実とデジタルを融合させた多様な活用が実現しつつあります。
こうした活用が期待される一方で、「3D空間を再現する」ための構築や準備には高い技術的・作業的コストが伴い、多くの現場で導入の障壁となっています。導入コスト削減のための技術として、これまで主にフォトグラメトリと呼ばれる手法が用いられてきました。これは、複数の画像から特徴点を抽出し、点群生成、メッシュ化、テクスチャ貼付という工程を経て3Dモデルを構築する方法です。ただし、フォトグラメトリには処理時間が長くなりがちであることに加え、メッシュ構造では質感や光沢といった微細な表現が難しいという課題もあります。
こうした課題を背景に、より効率的かつ高品質な3D再現を可能にする新しいアプローチとして注目されているのが「3D Gaussian Splatting(3DGS)」です。

(※1)

多くのユーザーが同時に参加でき、現実に近いリアルな体験が可能な三次元の仮想空間。

(※2)

現実のヒト・モノ・コトのデジタルコピーを仮想空間上に表現する技術。

3D Gaussian Splatting(3DGS)とは?

3D Gaussian Splatting(3DGS)は、フランスの国立研究機関”Inria”が2023年に発表した、カメラ等で撮影した複数枚の画像をもとに、物体や空間を高精細に3D再現する技術です。
入力としては、フォトグラメトリと同様に複数視点からの2D画像を使用しますが、出力の構造や再現の仕組みはフォトグラメトリとは大きく異なります。
フォトグラメトリが点群やメッシュを用いて形状を再現するのに対し、3DGSはポリゴンやメッシュを使わず、空間上に多数のガウス分布(ぼかしを持つ点)を配置し、それらを直接重ね描きすることで、視点の変化に応じた自然な外観を再現します。これにより、質感や光沢、透明感といった細かな視覚表現にも対応可能で、よりリアルで滑らかな3D描画が実現されています。また、GPU上での高速なレンダリング処理にも対応しており、リアルタイム性にも優れています。
このように3DGSは、高精細かつリアルタイムな3D再現を実現する新たなアプローチとして注目を集めています。

図1:3DGSイメージ

3DGSの想定活用シーン

3DGSは、その高精細な描画性能と高速なレンダリングを活かし、建築や学術・教育・観光、スマートシティー、ゲーム・XR分野などへの応用が進められつつあります。
たとえば建築分野では、カメラやドローンを用いて実在する建物や内装を撮影し、設計支援や現場確認に向けた3Dビジュアライゼーションとしての活用が期待されています。また、現地に赴かずとも高精細かつ立体的に空間や物体を閲覧・記録できることから、学術・教育・観光分野においても注目が集まっています。スマートシティー領域では、ドローンや街路カメラによって撮影された市街地の画像から、3DGSを用いた高精度な地図や施設モデルの構築が試みられており、都市計画、災害対策、交通網のシミュレーションなど多様な用途が見込まれます。ゲーム・XRの分野では、実写ベースのフォトリアルな仮想空間づくりが進んでいて、3DGSが没入感の高い体験を効率的に構築できる手法として注目されています。
このほか、Eコマースにおける製品の360度表示や、警察機関での現場検証支援など、さまざまな分野での導入が期待されています。

3DGSの課題

多くの分野で活用が期待される3DGSですが、現時点では以下の表のように、いくつか課題があります。

No. 課題内容 主な対策
1 複数視点からの画像が必須のため、屋外や広範囲空間では撮影コストが増大 ドローンや360度カメラの活用
2 人や車など動く対象の再構成が難しく、アーチファクト(画像の乱れや不自然な部分)が発生する可能性がある 動的シーン含めたモデル化手法の検討
3 トポロジー情報(メッシュ構造)を持っていないため、CADやBIMとの連携が困難 3DGSモデルの高精細メッシュ化
4 オブジェクト単位での編集(選択、移動、削除)が難しく、ガウスを移動・削除した領域は欠落して見えてしまう オブジェクト単位での編集が容易なツールの開発、欠落領域の補正手法の検討
5 大規模シーンではガウス数が膨大化しやすく、メモリ消費が増大 LOD(Level of Detail)制御
6 フォーマットやパラメーター定義の統一が未整備 フォーマット仕様の標準化検討

この中でも、実ビジネスへの活用に向けて特に影響が大きいのは課題No.4「オブジェクト単位での編集の難しさ」です。
実際の3DGSモデルの運用では、撮影方法や対象、活用ケースに応じて、特定の物体や空間の移動・削除といった編集作業が発生することは少なくありません。
ガウス分布による表現は高精細な描画に優れますが、従来のメッシュ構造を持たないため、オブジェクト単位での選択・移動・削除といった基本的な編集操作が困難です。またガウスを移動・削除すると、その領域が欠落して見えることがあり、モデル全体の破綻や品質劣化が起こるケースがあるのです。 この課題への主な対策としては、オブジェクト単位での選択・移動・削除といった操作を容易に行えるツールの開発や、ガウス削除後の欠落領域を補完する手法の検討が挙げられます。特に欠落部分の補正については、近年の深層学習の進展により、Image Inpainting(※3)を応用した多視点画像補完手法が研究されており、3DGSへの応用が期待されています。NTT DATAはこの技術に着目し、3DGSにおけるガウス削除後の欠落領域を自動的に検出し補完する手法の研究開発を、株式会社アイヴィスと共同で進めています。この取り組みにより、実運用を考慮した柔軟なモデル編集と、編集後も違和感のない高品質な再現精度の両立をめざします。

図2:Image Inpaintingを活用したガウス削除後のモデル補完

(※3)

画像の欠損部分や不要な領域を周囲の情報から自然に補完・再構成する技術。

今後の展望

3DGSは、これまで困難だった写実的な3D再現をリアルタイムに実現する革新的な技術として、さまざまな産業での活用が期待されています。
一方で、編集性やデータ運用といった実務上の課題もあり、実業務への適用にはツール整備やワークフローの標準化が不可欠です。 今後は、フォトグラメトリなど他技術とのハイブリッド化、編集支援ツールの開発、業界共通フォーマットの策定を通じて、3DGSは「3D再現の新たなスタンダード」として、より広範な領域での実用化が進んでいくでしょう。

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