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2021年1月28日INSIGHT

市民も巻き込む スマートシティ実現に不可欠な2つのコト

デジタル化を進めるために、市民も含めた多様なプレイヤーの連携・参加がこれからの社会に重要になってくる。今回の情報未来研究会※は慶應義塾大学環境情報学部 教授 田中 浩也氏の講演を元にデジタル時代の多様なプレイヤーの社会参加の在り方を検討する。

NTT DATA Innovation Conference 2021において本記事に関する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。

(※)情報未来研究会
「情報未来研究会」について
「情報未来研究会」はIT社会の潮流を見つつ、健全な社会や企業の在り様を探るため、NTTデータ経営研究所の創立以来、継続的に実施している活動です。NTTデータ経営研究所アドバイザーを務める慶應義塾大学の國領二郎教授を座長に据え、経営学および情報技術分野の有識者とNTTデータ及びNTTデータ経営研究所メンバーの合計12名を委員として、今年度は「WITHコロナ」をテーマとした議論を開催しています。

情報未来研究会委員(敬称略、50音順)※2020年5月時点

氏名所属
稲見 昌彦東京大学先端科学技術研究センター教授
井上 達彦早稲田大学商学学術院教授
岩下 直行京都大学公共政策大学院教授
江崎 浩東京大学大学院情報理工学研究科教授
國領 二郎(座長)慶應義塾大学常任理事総合政策学部教授/株式会社NTTデータ経営研究所 アドバイザー
柴崎 亮介東京大学空間情報科学研究センター教授
妹尾 大東京工業大学工学院経営工学系教授
本間 洋株式会社NTTデータ 代表取締役社長
三谷 慶一郎株式会社NTTデータ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー
柳 圭一郎株式会社NTTデータ経営研究所 代表取締役社長
山口 重樹株式会社NTTデータ 代表取締役副社長執行役員
山本 晶慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授

田中浩也氏講演「Civic EngagementとSmart City, Healthy Life」

デジタルとフィジカルの融合「デジタル・ファブリケーション」

私は3Dプリンターなどを用いて、デジタルデータをもとにモノづくりをする「デジタル・ファブリケーション」を専門としています。小学生だった1980年にパーソナル・コンピューターでゲームを作り、“インターネット元年”とも呼ばれる1995年に大学に入りました。そして、スマートフォンの普及が進んだ2010年に、当時もう一つの潮流でもあった「デジタル・ファブリケーション」の研究に舵を切りました。
デジタル・ファブリケーションの魅力は、私たちの目で見て、触れることが出来る「モノ」に対しデジタル技術が直接変化を与えられることにあります。モノづくりに、デジタルの力を一味加えることで、デジタルとフィジカルが組み合わさった新しい可能性が生まれると考えています。

図1:15年周期のテクノロジーの普及(田中氏講演資料より)

図1:15年周期のテクノロジーの普及(田中氏講演資料より)

スマートシティとデジタル・ファブリケーション

私の専門はもともと建築デザインなので、デジタルとフィジカルの組み合わせという観点から、現在はIoTと組み合わせたスマートシティの領域に注目し、さまざまなスマートシティのプロジェクトに関わっています。

スマートシティにおいては、さまざまなデータを活用して都市マネジメントを最適化していこうといったことが議論されるわけですが、スマートシティ化を目指す自治体において必ずと言って良いほど課題として挙がるのが、「データ活用のメリットを理解してもらえない」ということです。特に印象的だったのは「4つの『ない』」で、データ活用に関する提案は「見えない」、「描けない」、「触れない」、「関係ない」の四重苦だと言うのです。

スマートシティ化を進めるにあたっては、住民からのデータ取得についても検討されます。その際、住民には積極的にデータ提供に協力してほしい一方で、住民から集めるデータの種類と、その用途について極めてデリケートな設計が必要で、かつ住民のデータ活用に対する理解が必要不可欠です。 「四重苦」の問題は、目に見えないデータというデジタルの世界と、目に見えるフィジカルの世界である「モノ」づくりの融合であるデジタル・ファブリケーションに携わってきた私にとって、まさに取り組むべき課題であり、この「四重苦」の「ない」を「ある」に変える課題解決のストーリーを作ることにしました。

スマートシティの実現にむけて、ポイントとなるのは、「デジタル・ファブリケーション」だと考えています。目に見えないデータ活用のメリットを、実際目で見て触れることの出来る「モノ」で感じてもらい、その価値を示す事が出来れば、4つの「ない」を「ある」に変えることが出来ます。

そしてもう一つ重要なのが、「クワトロ・ヘリックス・シナリオ」です。これは、産官学民それぞれの役割がきれいに回るためのコーディネーションが重要であるという事を意味します。全員が「まちを良くする」という共通のベクトルを持つことが重要なのですが、そのためには「個益(=個人やそれぞれの組織の利益)」があるように全体をデザインしないと持続しません。ここでコーディネーションをするのは、最も中立的な立場といえる大学の役割だと考えています。

図2:自治体とのディスカッション内容(田中氏講演資料より)

図2:自治体とのディスカッション内容(田中氏講演資料より)

「三段階のロールモデル」~鎌倉市でのスマートシティ化プロジェクト~

鎌倉市の防災に関するスマートシティ化プロジェクトでは、先ほど挙げた「デジタル・ファブリケーション」の観点から、データ活用が政策に反映され、最終的に実際に目に見える形で町が変わるということが重要だと考え、まず自治体の方々の思いの実現を優先することにしました。そして、「クワトロ・ヘリックス・シナリオ」に基づき、産官学民が連携しトータルな関係性を作るため、「企画段階」、「実行段階」、「成果段階」における、「三段階のロールモデル」を作りました。

「企画段階」では、自治体に地域で何が課題で、何を市民とやっていきたいかを整理してもらいます。この地域のニーズに対し必要なテクノロジーのシーズを大学が持つ技術セットや、企業の製品群から選定し、パッケージとして提供するのです。企業にとっても自社製品の提供は製品の認知度向上といったメリットに繋がります。

「実行段階」では、自治体の広報を通じて市民に呼びかけ、実際にワークショップといった形で取り組みに参加してもらうことにしました。自治体は、呼びかけは行うものの、市民の個人データは持ちたくないという事だったので、大学で個人データを管理し、研究目的で利用する時は倫理審査で確認をすることになりました。大学が集めた個人情報を編集し、政策に反映しやすく加工したものを自治体に渡すのです。大学の中立的な立場が生かされる形といえます。

「成果段階」では、大学が収集した個人データに基づき、もう一段上の地域コミュニティレベルでデータ分析した結果から見えてきたことを鎌倉市へ提示し、それを受けた鎌倉市には避難看板の設置個所を変更するといった、目に見える街のフィジカルな部分にその結果を反映することを約束してもらいました。こうすることで市民も、「実験に参加し個人のデータを提供したことで、自分たちの街が目に見える形で良くなった」と、データ活用のメリットをわかりやすく実感してもらえます。

「データウォーク@かまくら」

現在、鎌倉市では具体的なスマートシティ化に向けた第一弾として、市民参加型の「データウォーク@かまくら」という取り組みを行っています。市民に、センサーを搭載した「スマートシューズ」を履いて鎌倉の街を歩いてもらい、歩いて得られたデータを、自身の歩行改善や鎌倉のまちづくりにどのように活かすことができるか、皆で考えるワークショップを開くという内容です。

鎌倉市のスマートシティ化プロジェクトの「企画段階」で上がってきた地域の課題は、避難ルートに関するものでした。鎌倉は海に近く津波の危険性があるという事と、高齢者が多いという事で、防災においては「ダブルパンチ」ともいえるリスクを抱えています。これに対し、鎌倉市は市民への正確な情報提供のため、3次元のハザードマップを公開しているのですが、それだけでなく人間のリアルな行動データを重ねていかなければならないという話になったのです。そこで、“企業からの製品提供”として、No new folk studioという企業が出しているセンサー入り「スマートシューズ」を紹介しました。

スマートフォンのGPSでは人の方向データは「点」になってしまいますが、このスマートシューズのデータからは極めてリアルな行動データを取得することが出来ます。 さらに、災害に強い街づくりのためだけでなく、参加してもらう市民個人のメリットも感じてもらうことが必要です。今回紹介したシューズは、右足と左足の動きがわかるだけでその人の右足と左足それぞれの動きがわかり、歩き方を確認したり、問題点を発見できたりします。

図3:データウォーク@かまくら(田中氏講演資料より)

図3:データウォーク@かまくら(田中氏講演資料より)

鎌倉市でこのセンサー入りシューズの機能の活用アイデアを検討してもらったところ、最終的に「年代別の推奨避難ルート」を作成しようということになりました。 ただセンサー入りシューズは、センサーと足の位置がずれていると正確なデータが取れません。つまり、利用者の足に合ったシューズを作らなくてはいけないのです。そこで“大学からの技術提供”として、3Dプリンターを活用し、個人個人の左右の足の違いや指先の違いに適応した「スーパーフィットシューズ」を作ることにしました。

リハーサルとして既存の防災マップの避難ルートを歩いてみたところ、迷いやすいポイントや歩きにくい箇所が、シューズから得られる行動データと地図との重ね合わせによって判定できることが見えてきており、今後は実際に得られたデータから歩行者の年代別に現れる違いなどを確認していくことになります。そのほかにも、津波が来てから高台に逃げるまでに間に合うかというシミュレーションをしたり、三次元デジタルマップツールを使い、津波が来た時に「島」になる部分を見つけ、近場でも避難できる場所を特定することも考えています。

現在は「企画段階」が終わり、自治体から市民へ呼びかけを行う「実行段階」に来ています。今後、得られるデータを政策に繋がる情報としてまとめ上げ、避難ルートの作成から、「看板の場所を変える」、「避難所を作る」といった、日ごろ、市民が街の中で物理的に変化を感じられる形までもっていきたいです。

編集後記:多様なプレイヤーによる協働型スマートシティの実現に向けて

スマートシティの推進は多様なアプローチがありますが、自治体固有の課題解決に向けては市民の具体的なニーズの把握が不可欠です。そのためには、テクノロジーと距離がある市民を巻き込み、市民参加型の取り組みにする必要性があります。そこで重要になるのは自治体職員の役割といえます。外部の組織が働きかけても、自治体を中心とした動きがなければ、市民含めたプレイヤーが連携する基盤が作れず成果に繋がりません。そして、市民参加型のスマートシティを実現するためには自治体職員主導で住民のニーズに沿ったテーマを見つけ、市民に提示することが何より大事になります。さらに、自治体職員が市民のニーズと企業のシーズを繋げると同時に、その際に生じる「ちょっと足りない部分」を3Dプリンターやプログラミングで埋められることが出来れば、多様なプレイヤーが連携しやすくなり、地域の課題がよりスムーズに解決されるといえるでしょう。今回紹介された鎌倉市のプロジェクトは、大学からのアプローチでスタートしましたが、本来は自治体の職員主導で取り組むことで、初めて産官学民の協働によるスマートシティが実現されるといえます。

(情報未来ディスカッションより)

終わりに

研究会の第4回では、デジタル化の中で多様なプレイヤーの参画によって実現する新しい社会について講演・議論がなされました。田中氏が語った内容は、スマートシティの取組だけでなく地域社会の課題解決やオープンイノベーションなど多様なプレイヤーが絡む領域に幅広く適応できる考え方です。新しい社会の実現に向けては、様々なプレイヤーの協働が不可欠です。中心となるプレイヤーが主導で動き、様々なプレイヤーを繋げると同時に、それぞれの利益を考えながら、全体をデザインすることが出来れば、スムーズな協働が実現できると考えます。

<研究会の予定>

「情報未来研究会 Withコロナ」インタビュー編

「情報未来研究会 Withコロナ」研究会編

※各回のテーマは変更となる可能性があります

編集・執筆:情報未来研究会 事務局

講演情報

NTTデータ主催のInnovation Conferenceに、情報未来研究会委員の江崎氏、國領氏、三谷が登壇します。
企業や社会がWithコロナ時代においてデジタル化とどう向き合うべきか、本セッションを通じてこれからのデジタル社会の展望を議論します。皆さまのご参加をお待ちしています。

NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会
2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信
2021年1月28日(木)~2月26日(金)オンライン展示期間
2021年1月28日(木)16:45~17:35

「Withコロナ時代のデジタル社会の展望」
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎 浩 氏
慶應義塾大学 総合政策学部 教授 NTTデータ経営研究所 アドバイザー 國領 二郎 氏
NTTデータ経営研究所 エグゼクティブ・オフィサー 三谷 慶一郎

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

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