2021.3.9特集

Withコロナ時代で加速するビジネスモデルのパラダイムシフト

NTTデータ、NTTデータ経営研究所は、『「オンライン・ファースト社会」という新しい日常』提言や情報未来研究会を通じて、Withコロナ時代でのデジタル化の課題や方向性の検討を行っている。本レポートでは、この一環として、早稲田大学の井上達彦教授にビジネスモデルのパラダイムシフトをテーマに話しを聞いた。

ビジネスモデルに関する5つのパラダイムシフト

Q:ウィズコロナによって生じた変化として、何を感じていますか?

ビジネスモデルのパラダイムシフトが加速していると考えています。ただし、それはコロナ渦の影響で新たに発生したものではなく、この20年間で既に始まっていたと思っています。したがって、方向性が変わる、ゼロから変化が起こるようなベクトルが生じているのではなく、そのベクトルの長さ、推進力が加速しているという捉え方です。私はビジネスパーソンに対し講演を通じて、このパラダイムシフトがそれぞれの会社で起こっているかどうか、次の5つの問いかけをしています。

パラダイムシフト(1)オープンイノベーション

21世紀に入ってすぐに(2003年頃)、オープンイノベーションが話題になりました。従来、メーカーは社内で全て開発し、それを物販で回収する自前主義を取っていました。しかし、製品がモジュール化され、かつ寿命が短くなり、海外との競争も激しくなっています。製品はすぐ陳腐化し、投資回収にかけられる期間がより短くなっているのです。なので、自社開発せず既に外部にある技術を買ってくる等、開発コストをおさえると同時に、販売面でも自社物販だけではなく、他社へのライセンス販売、スピンオフなどで収益を伸ばそうとしています。自社に閉じるのではなく他社との連携の中でビジネスを成長させていく、それがオープンイノベーションですが、10年以上経って、これは本当に進んでいるのでしょうか。

パラダイムシフト(2)プラットフォーム

プラットフォームの効率がますます注目されています。伝統的なパイプライン型企業のように、開発、生産、流通、アフターサービスのように一直線に流れる型の企業と比べ、プラットフォーム型の企業のほうが、倍くらい効率が良いと言われています。従業員規模は半分で、同じ売上を実現するケースや、営業利益が10%に対して20%など大きく異なる例もあります。自分たちには関係ないという話ではなく、もともとはパイプライン型の伝統的な企業でも、プラットフォームを組み合わせることで、安定性と成長性を実現しているケースもあります。ビジネスパーソンには、どうやってプラットフォーム化を自社にアドオンできるかを真面目に考えているか問いかけます。

パラダイムシフト(3)サブスクリプション

スポットで売り切りの企業と比べ、サブスクリプションでの販売をしている企業のほうが、成長の伸びが5倍程度異なるようです。売り切りというのは、売り切る瞬間に全ての活動を最適化し、それが終わったらあとはおまけみたいなもので注力しない。しかし、サブスクリプションの場合、顧客との継続的な関係を前提とし、KPIも売上高より、顧客とつながり続けること、顧客の継続性が大事になります。デジタル化で企業と顧客との直接的な繋がりを可能にする技術が進展してくると、サブスクリプションのほうが技術の特性を生かしたビジネスモデルを設計できると言われています。

パラダイムシフト(4)フリーミアム

フリーミアムというと、ネットの世界で自分たちには関係ないと思われますが、色々なやり方があります。フリーミアムといえば、「多くの方に無料体験版を使ってもらい、その中の一部(例えば5%)の人に、より高い機能のものを使ってもらう」、「期間限定(例えば1か月)で無料にして長く継続したい場合は有料プランにする」のようなものが思い浮かぶかもしれませんが、それだけではありません。例えば、伝統的なSIerが顧客に提案したり、サービス提供する際、「この部分は無料ですが、実装してシステム構築するときには有料です」というのもある意味フリーミアムです。コンサルティングでも「最初の提案は無料で」というのもフリーミアムです。このように色々なビジネスで、フリーミアム、お得感を出す仕掛けは構築できるのです。自社のビジネスにフリーミアムの考え方を取り入れる場合、どういった形態になるのか。このような発想をすることが必要だと思います。

パラダイムシフト(5)シェアリング

今の若い人たちをみていると、物を所有せず、シェアリングしてニーズを満たすのが当たり前になってきています。シェアリングというのは持続可能な社会に関連する思想でもあるので、今後重視していかないといけません。そして、この流れは企業にとっては非常にインパクトが大きいといえます。物を売り、ブランドイメージで所有欲を満たすことをやってきた企業には辛いかもしれません。しっかりそういうシフトを考えているかを質問します。

これらの5つが2000年に入ってからの主だったパラダイムシフトです。そして、それぞれは互いに関連してくるのです。例えば、オープンイノベーションを進めるためには、オープンプラットフォームを築くことになります。そしてシェアリングは、プラットフォーム上でニーズをマッチングさせることになります。フリーミアムとサブスクリプションの2つはもともと重複するところがあるでしょう。これらが相互に関連しあって、業界に共通する流れ、つまりトレンドを作っていると考えていただきたいです。5つのパラダイムシフトのうち、自身の業界においてどれが最も重要となるかということは、各自がしっかりと考えていく必要があります。

パラダイムシフトがなぜ加速するのか

Q:なぜそのようにパラダイムシフトが加速するのでしょうか?

大きくわけると、「デジタル技術の発展」と「社会制度の変化」があります。まず技術の変化ですが、デジタル技術の特性として、限界費用がゼロ、複製が容易というものがあります。物理的なモノというのは使っていくうちにその価値は減少していきます。一方、情報というものは複製や伝送が容易で、使えば使うほど、さらに他の情報と組み合わせて使うほど、新しい価値が創出できる特性を持っています。技術の進化によって演算処理向上や記録メディアのコスト低下が起こることで、これら情報が持つ特性が加速していると言われています。

図1にあるように、一般的に技術の進歩は急速に立ち上がります。一方、人間や社会の変化適応力は徐々にしか変わっていきません。最初のうちは、私たちは“もっと技術発達して欲しい”と言いますが、技術の進歩が進んでくると、今度はそれについていけなくなってしまいます。2020年は、本来、私たちは技術に追いついていないはずだったのです。個人も、チームも、会社、社会もデジタル技術を十分に使えないはずでした。しかしコロナ渦が起き、いわば技術を使わざるをえない状況となりました。結果的に、社会が技術に追いついてきているといえます。

もちろん、コロナ渦が終われば、私たちの変化適応力はまた緩やかな状態に戻るでしょう。しかし世界を含め、コロナ渦によって技術の進化に対応した企業、起業家、スタートアップ、イノベーターがいます。日本社会全体が極端な話もたもたしていても、中国やシリコンバレーが先に行けば、その競争に巻き込まれ、日本の企業も対応せざるを得なくなります。そのため、従来の緩やかなカーブと比べたら、勾配はかなり大きくなり、パラダイムシフトが加速していくというのが私の予測です。

図1:コロナ渦においてパラダイムシフトが加速する仕組みの解説図

図1:コロナ渦においてパラダイムシフトが加速する仕組みの解説図

6つ目のパラダイムシフト

今まで紹介した5つのパラダイムシフトについては、業種や、地域、国によって状況が異なるものです。しかし、すべてに共通して重要なパラダイムシフトがもう一つあります。それは、ビジネスモデル、事業設計の進め方です。

ビジネスを立ち上げる際、マーケットの情報を完璧に近い形で集め、競合分析を行い、自分のリソース分析、技術の確認などを完全合理主義で済ませていくのが、事前合理性や計画合理性の世界で、ビジネスリスクを事前にすべて洗い出しその対応まで考えておきます。そうではなく、リスクをつぶすタイミングは事前でなくてもいいというのが、今流行りのリーンスタートアップやアジャイル開発などの事業構想プロセスです。事後合理性や修正合理性の世界です。細かいリスクを少しずつ見つけてはつぶしていき、最終的にはリスクが減っていく感じです。会社として一番重要なのは、ビジネスモデルの作り方を、こういった新しい考え方で進めていくことだと思います。

図2:ウィズコロナ社会の主なパラダイムシフト

図2:ウィズコロナ社会の主なパラダイムシフト

Q:ビジネスモデルの変化において、どのようなことが向き合うべき課題でしょうか?

重要なのは失敗だと思います。小さな失敗をしっかりとできているかどうか。リーンスタートアップなどについて知っている方がほとんどだと思いますし、取り入れている企業もあると思います。実践している企業に失敗した経験を尋ねると、失敗していないという答えが返ってくることがありますが、それは実践しているとは言えません。イノベーションを起こすためには、失敗しないといけないのです。イノベーションの成功確率を考えると、失敗せずにイノベーションが起きることはまずありません。

ただし、失敗とは、致命的な失敗ではありません。プロトタイプを作り、思ったような仮説が検証できないことを失敗の定義とすると、プロトタイプを作らなければ失敗すらできません。ところが、大抵の場合、会議室で分析し、発想し、アイデアを出してまた調査や分析に戻りと、行ったり来たりします。同じところをぐるぐる回って足踏みしている状態で終わることがあまりにも多いです。

Q:なぜ日本の企業は失敗の経験を積むことができないのでしょうか?

一つの理由は、大企業における組織の壁が分厚いことです。全ての事業部を独立採算とし、厳格に経営すると、すべてを事業部組織の中で完結しなくてはいけなくなります。ビジネスモデルイノベーションは部門を超えるものですが、生産プロセスだったら生産管理の中で、製品だったら製品開発部門の中だけで行い、部門を超えて行うことができないのです。そこを厳格に管理している日本企業であればあるほど、ビジネスモデルイノベーションには至りません。

この部門、事業部では情報を取るだけで良い、採算は度外視し、その情報を生かして別のところで儲ける、そのように「損して得取れ」のようなことが、昔はできていたと思います。しかし、アメリカ式のカンパニー制を実直に導入した日本企業は、その管理責任や収益責任に縛られ、「面白いアイデアだけど自分たちの部門ではできない」という感じになってしまいます。

Q:どのように事業の推進や撤退の判断をすればよいのでしょうか?

成功や失敗という言葉を使っていますが、実際イノベーションを起こしている人たちは、うまくいかなかったことを、「失敗した」とは思っていません。仮説検証が出来たと考えるのです。仮説がしっかり検証できていれば、そのプロトタイプが売れなくても、売れない原因が何であったかを検証できれば成功となります。情報を集めるという発想でプロトタイプを作っているのだと思います。

逆に、伝統的な企業においてありがちなのですが、マーケットへのローンチを成功の基準としている場合が非常に多いです。しっかりと情報を集め、作りこみ、会議室でも評判が良く、満を持して製品としてマーケットに出すのですが、鳴かず飛ばずになってしまう。

テストマーケティングを行い、プロトタイプもめちゃくちゃ綺麗なもの作るのですが、完璧なものを目指して頑張っているだけに、逆にネガティブな情報は聞きたくない、拾いたくないという態度になってしまうことが多いです。本当は、それは逆なのです。

これからの時代、マーケットはどんどん不確実になっていくので、たくさんの製品やサービスを世に出していくしかないです。例えば、アップルも全ての製品がヒットしたわけではないですよね。マーケットにある程度たくさん出した中で大きく売り上げを伸ばしたものが出てくれば、組織としては成功なわけです。たくさん出る環境を作ることがまず大事で、そこを通り抜けないと、大ヒットや新しい事業の柱というものはなかなか生まれないです。

そのイノベーションは、ゼロから新しいものを生み出す(ゼロイチ)ではなく、もともとあるものの組み合わせ(新結合、1と1の組み合わせ)で良いのです。ただし、その新しい結合にはゲテモノも含まれていて、価値を生み出すかどうかはわからない。その価値の多元的な評価は、マーケットが行うものです。なぜなら、マーケットは多元的な評価軸を、みんな十人十色の目でみているからです。

組織の中で評価しようとすると、事業部の少ないリソースでできるだけ多様性を評価できるようにしますが、マーケットの多様性は組織では再現できません。組織の中の限られた人たちが評価するだけでは、原理的に、絶対見落としが生じるのです。ですから、事業部長が言ったことは全て正しいかというと、そうではないのです。組織は今まで頑張って、事業を数多くやって、製品別に担当者を設けてその担当者がマーケットをみて代弁しています。しかし、それでもマーケットの多様性の一部を代弁しているにすぎず、マーケットの実態には追いつきません。そのため、割り切って、マーケットに出してしまうように変わってきているのです。

<関連書籍のご案内>

井上達彦 著
ビジュアル ビジネスモデルがわかる(日経文庫) 2021年4月刊行予定

<研究会の予定>

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