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2021年3月19日INSIGHT

ZOZOと考える、デジタル×リアルで変わるリテールの「顧客体験」

ECの台頭やコロナ禍でリテールのあり方が見直されている今、オンラインのみならずリアル店舗でもデジタル化が進みつつある。これにより購買体験はどう最適化されるのだろうか。この新たな購買体験がリテールにもたらすもの、それを実現する組織のあり方について考えていこう。

テクノロジーがもたらすリテールの変化

NTTデータがリアル店舗のIT活用の支援をしている中、NTTデータ 常務執行役員 有馬 勲は、「店舗でスマホを利用する消費者が増えた」という。

「従来からアプリで商品を検索することは行われていた。最近では、友達とスマホでやりとりしながら購入する商品を相談する光景もよく目にする。スマホでの電子決済が増え、ポイントも付けられるなど、消費者はスマホ前提でお店を利用するようになっている。店員側もスマホで検索して消費者と一緒に画面を見ながら接客することも普通だ。一昔前では消費者の前で店員がスマホを扱うなど考えられなかった。ECだけではなく、リアル店舗もまたオンラインになりつつあるといえるだろう」(有馬)

株式会社 ZOZO 代表取締役社長兼CEO 澤田 宏太郎氏は、ECの世界では「もはやAIはテクノロジーとして特別なものではなく、使いこなせて当然になっている」と語った。そのような中、重要になりつつあるのが、いかにデータのリアルタイム性を担保するかだという。

「さまざまなプラットフォームやシステムが連携された結果、小売業ではリアルタイムなデータの価値が上がっている。顧客の属性情報は昔からあったが、数カ月前の購入履歴など古い情報でマーケティングにはほぼ生かせなかった。何倍も重要なのが、昨日の行動履歴などリアルタイムに近い情報である。リアルタイム性のあるデータをマーケティングで活用できるかが今のECでは非常に重要だ。決して派手な技術ではないが効果は大きいと実感している」(澤田氏)

いまZOZOが注力しているのは、AIを扱える人材の積極的な採用と、組織への定着だ。1日数百万人になるZOZOのサイト訪問者のうち、誰が今日商品を買ってくれるか、機械学習によって8~9割の確率でわかるという。

「AI活用には2年ほど前から取り組んでいる。アップデートを繰り返しながらようやく実用のレベルに達した。そして、今日商品を買わないだろうと判断された人に購入してもらうためのプロモーションに取り組んでいる。この取り組みが売り上げに大きな効果を生んでいる」(澤田氏)

有馬も、ECでできていたリアルタイムなデータ取得がリアル店舗でも可能になりつつあることに期待を寄せる。

「NTTデータでも、レジ無しデジタル店舗出店サービス『Catch&Go』を小売業界向けに提供している。Catch&Goは、消費者が顔認証で入店して、商品を手に取り店を出たあとで決済が完了するサービスである。店側では、誰が入店したのか、どの商品を手に取ろうとしているのかもわかる。消費者が買うか迷っている段階から把握でき、どの売り場をまわったかの情報も取得できる。データを蓄積していけば、ECのように、その消費者が今日どの商品を購入してくれるのかなども、かなりの確率で判断できるようになるだろう。そうなれば、効果的なプロモーションを展開する機会も広がる。ECではできても、リアルではできていないといった領域が、これから限りなく小さくなっていくはずだ」(有馬)

澤田氏はこれを受けて「ECでいう“お気に入り”を集約し活用することが非常に重要だと考えている」と展望を語った。

テクノロジーを活用したカスタマーエンゲージメントの高め方

テクノロジーの進化により、リアル店舗の役割が「購買」から「体験」に変わっている、と有馬はいう。「いかに消費者に楽しい体験を提供できるか。リアルタイムデータの分析により問題を把握し、解決策をお客様と一緒に作り上げていきたい」(有馬)

澤田氏も、ECでもリアル店舗と同じ課題感を持っている、と答える。「ECでも、商品を探して買うというところではAIの進化に伴い差別化が難しくなっている。メディア化、エンタメ化が求められ、バリューチェーンの上流への変化が求められている点では、リアル店舗もECも同じ状況だと感じる」(澤田)

3~5年先を見据えた将来の展望と取り組みについて

澤田氏は、小売りとは何かを突き詰めた結果、最上流──つまり製造にまでさかのぼる必要があるのでは、という議論をよくしているという。

「小売りでのパーソナライズ化を進めていくと、最終的には、その消費者がほしいと思った内容にカスタマイズされた商品を提供できるよう、製造まで踏み込んでいく必要がある。製造は、アパレル業界にとって他の製造業と比べて弱い領域だ。製造領域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことで、ようやく最上流から最下流までがつながるようになる。アパレル業界自体がこの先盛り上がっていくためにこうしたことも必要ではないだろうか」(澤田氏)

有馬はこの話に続けて「もう少し近未来で、店舗に置いてある何万、何十万の商品について、消費者が目的とする商品が今どこに置いてあるかがわかるような技術をつくりたいと私は考えている。それができれば、“目的買い”で来店した消費者が、店員に尋ねることなく、スマホのガイドに従い瞬時に目的の商品にたどり着けるようになるだろう。これは、サプライチェーンの効率化にも寄与する技術になると期待している」と語った。

さらに先の未来に向け、NTTデータでは基礎となるような新しいテクノロジーを世界中から発見するチームがある。そこでは、顧客の業務課題も理解したうえで新しいテクノロジーの可能性を見抜くケイパビリティの向上をめざしている。「これまでは想像もしなかったような、新たなテクノロジー活用領域に気付くところから、実際に店頭で試してみるところまでを、ぜひやっていきたい」(有馬)

今後のリテール業界にとって大切なポイントやビジネスのヒント

澤田氏がここ10年ほどアパレル業界のECに携わっていて感じるのが、世の中の進化は意外と遅いということだそうだ。

「10年前に想像したほどには達していないというのが正直なところ。しかし今まさにコロナ禍を受けて時代が変わろうとしている。これは業界にとって大きなチャンスでもあるだろう。そのとき私としては、ECという枠組みだけで、ものごとを考えたほうがよいと考えている。EC専業だからこそ見えてくるものがあるからだ。この10年、リアル店舗とECをいかにして共存させ、融合を図るかを考えてきたが、融合自体に意味がなかったことも数多くあった。そのため、まずは余計な事柄は取り払って、ネットとECの中でどうやって事業を組み立てていくのかだけを、ひたすら考えていくことこそ大事だと考えている」(澤田氏)

そうすることで、ムダなく変化を遂げられるとともに、最終的にはリアルとECの融合のかたちも見えてくるのではないか、と澤田氏は問いかける。

有馬氏はそれを受けて、「私も、ネットとリアルの融合というのはあくまで手段だと思っている。同じようにDXに関しても、何のためのDXなのかをしっかり定義しないままだと、なかなか進めることは難しいだろう」と語り、自分たちは何のためにビジネスをしているのか、自分たちが消費者に提供できる付加価値は何であるのかなど、まずは再定義してみることから始めることが大事だと力説した。

従来であれば、店舗は店頭に並べた商品や製品だけを考えていればよかった。しかし、これからは消費者が店舗に足を運ぶ目的はモノではなくなる。消費者に提供できる付加価値は何なのか、しっかりアピールしなければならない。

そこで一つ参考になるのが、NTTデータのグループ会社が支援しているスペインのスーパーのケースだ。そのスーパーでは、消費者を健康にするために店舗へ来てもらうものとして、コンセプトを再定義した。このコンセプトに合わせて品ぞろえを大きく変え、健康に寄与するメニューを顧客に提案したり、商品の効用などを知らせたりするアプリを提供している。

「私も2年ほど前にそのスーパーを訪れたが、『コンブチャ』(※)だけで十種類もの商品が置いてあった。アプリからは、『コンブチャ』にどのような効用があるか、どのように飲まれているかなどの情報も提供される」(有馬)

このように、自社やそのサービスのコンセプト、消費者の来店理由を明確にすると、テクノロジーをどう生かしたらいいのかも見えてくるという。有馬は「消費者に提供する価値という本質を見据えなければ、そこで使うべきテクノロジーも見えてこない。言い換えれば、テクノロジーを活用することで、いかにして価値の本質を消費者に提供できるか、そこが最大のポイントとなるだろう」と語り、この対談をまとめた。

(※)

特定の菌類を、紅茶または緑茶と砂糖で発酵させて調製した微炭酸の飲料で、海外では健康効果があるとされ人気が高い。日本では「紅茶キノコ」という名称で呼ばれている。菌類のゼラチン状の塊が昆布に似ていることから、日本語の「昆布茶」が由来となったと言われている。

本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。

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