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2021年4月21日INSIGHT

世界銀行との共創から得たSDGs成功のカギ

SDGs(持続可能な開発目標)の達成にはデジタルテクノロジーが欠かせない。NTTデータもデジタル3D地図サービス「AW3D」の提供によってSDGsの達成に貢献している。ここでは「AW3D」を使った世界銀行の先進的なプロジェクトや、企業がSDGsに取り組むことの意義について解説していく。

世界最高レベルの精度を実現した「AW3D」

「『AW3D』は現実の地球をデジタル化し、3D地図として表現する技術サービスです。デジタルで都市や国土が扱えるようになるため、現況の把握、予測、最適化が行えるようになる」NTTデータ ソーシャルイノベーション事業部 部長 筒井健は、「AW3D」の詳細についてこのように述べた。

「AW3D」の地図データは、人工衛星で地形、建物、地表に存在する物体などを撮影し、そのデータを画像解析やAIを使って立体化することで作成されている。その精度は世界最高レベルで、宇宙から地表にある50cm大の物体を識別できるほどだ。これだけの精度が出せるのは「マルチビューステレオ解析」という技術があるから。近年、急速に打ち上げが増加している人工衛星から送られてくる、数十~数百枚の画像データを同時に解析することで、従来よりも格段に精度をアップさせている。

また電波を発するレーダー衛星を活用し、雲や煙越しでも地表の様子を読みとり地図化することができる技術を開発したことで、たとえば台風の雲に覆われた地表や噴煙下の火口も、地図として書き出せるようになった。これにより洪水、土砂災害、火山噴火などの自然災害発生時に、天候に関わらず現場の状況を宇宙から把握できるのである。

「AW3D」の地図データは、AIを活用して用途に合わせて加工され、産業や交通、医療など、多くの領域で利用されている。例えば、株式会社日立パワーソリューションズは、同社の洪水氾濫解析シミュレーションソフトで、「AW3D」の地図を使って高精度な洪水対策を行えることを実証した。また清水建設株式会社では、都市計画や高層ビル建築時の空気の流れ、建物への風荷重などを解析するために「AW3D」の地図データを活用している。

高精度、コストパフォーマンスの高さ、そして130カ国、2,000以上のプロジェクトで採用されてきた実績と信頼。こうした特長を持つ「AW3D」を利用して、筒井は「さらに多くの人と一緒に持続可能な都市、国土づくりを推進したいと思っている」と意気込みを語った。

貧困を生む原因のひとつ「データの貧困」問題に取り組む世界銀行

続いて世界銀行 独立評価局の横井博行氏から「SDGs×デジタルの取り組み」についての話がされた。横井氏によると、世界銀行の役割は「極度の貧困の撲滅」「繁栄の共有の促進」のミッションのもと、開発途上国への資金、技術、知識を提供することにあるという。

SDGsの目標として第一に掲げられている貧困の撲滅。過去25年間に12億人の貧困者削減という成果が上がっているが、この3~5年は進捗に陰りが出ている状況だ。

「その理由は、世界155カ国中57カ国が、過去10年で貧困層の調査を1回以下しか行っておらず、貧困層の生活や生活圏、必要としているサービスについて全く把握できていないことにある。これを世界銀行は『データの貧困』と名付け、解決のために、テクノロジーを使った3つの戦略を考えている。それがBUILD、BOOST、BROKERだ」(横井氏)

BUILDとは、デジタルテクノロジーインフラをつくっていくこと。具体的には、貧困者にデジタルIDを提供したり、「AW3D」のような技術を使って地域のリスク分析を行い、リスクの高いところにサービスを優先的に提供したりなど、さまざまな活動がある。BOOSTとは、テクノロジーを使えるよう支援して、貧困層の人々や、その国の制度、組織を高みへと引き上げるという戦略。そしてBROKERでは、民間企業との連携をはじめ、世界銀行がハブになることで新たなプラットフォームを構築し、新たな価値創出を目指している。たとえば民間企業が持つデータを途上国の開発に役立てるための枠組み「Development Data Partnership」もこの戦略に沿って生まれた。

横井氏が所属するこの独立評価局とは、世界銀行が行っているこうした数々の取り組みを評価する組織となる。

「AW3D」のデータから道路整備による都市成長インパクトを解析

独立評価局で行う「都市の空間的成長管理」の評価に、「AW3D」を活用している。「都市の空間的成長管理」とは、増加する世界人口に対して土地をどう用意するか、どういう街づくりをすれば、増加人口を賄えるかを検討するために重要な施策で、「住みつづけられるまちづくり」は、SDGsの目標のひとつにも掲げられている。

独立評価局は「AW3D」を使って、世界銀行が道路整備を支援したモザンピーク・マプトと、インド・ムンバイのデジタル3D地図を作成し、都市の成長のインパクトを調査。整備した道路の周辺に高層建築物が密集していれば、土地の効率的な活用が進んでいることになる。しかし調査の結果、マプトでは水平方向への宅地開発は促進したものの、垂直方向、つまり建物の高層化は進んでいなかった。ムンバイでは水平・垂直の両方向とも、目立った成長がなかったという。

「主要道路周辺で都市開発が進む……という仮説に基づいて行われた道路開発支援だったが、この評価でその仮説が十分に実証されていないとわかった」(横井氏)

これまで高精度なデータがなかったために実証が難しかったことが「AW3D」によって明らかになり、「ではどうすればSDGsの実現につなげていくことができるのか」を議論できようになったと、横井氏は調査結果の意義を語る。

SDGsという大きな目標に向かって企業はどう参画していくべきか

世界銀行のように、公平性を重んじる公共セクターと、効率を得意とする民間セクターが、SDGsという目標に向かって連携を加速させていくためには、どういう取り組みが必要かという問いかけに横井氏は、「よくあるITプロジェクトだと、官が発注して民が請ける、つまりそれぞれの土俵にそれぞれの人がいるという環境が多いが、共通の土俵をつくり、共通の言語で話すことが必要。さらに公共・民間の両者が、ベンダードリブンやプロダクトドリブン、ソリューションドリブンといった考え方から、本来実現すべき目的を見つめ直すオブジェクトドリブンに切り替えることも重要」だと語る。

一方で横井氏からは、NTTデータがどうやってコストを抑えつつ世界銀行向けに「AW3D」の地図をカスタマイズできたのか、という投げかけがあった。これに対し筒井は、コストパフォーマンスが良いのには2つの理由があると説明する。

「ひとつは我々がシェアリングの意識を強く持っているということ。我々の3D地図を多くのユーザーに使ってもらい、そこでのフィードバックをもとに価値向上とコスト低減を図っている。もうひとつはデジタルテクノロジーの活用だ。数多くの用途・ニーズに対して、ビジネスのサステナビリティを確保したうえで、カスタマイズを実現していくため、デジタルテクノロジーの活用にエンジニアリングチームは日々格闘している」(筒井)

国際機関から見た日本企業の取り組みについて話がおよぶと横井氏は、「製品・サービスのクオリティだけでなく、アカデミックの領域で知名度と実績をつくることも機会獲得につながる」と語る。スタンフォード大から派生したとある企業は、SDGsのソリューションを「ネイチャー」に発表したのをきっかけに、注目されるようになったという。

また横井氏は、企業がさまざまな組織と幅広くコミュニケーションを取り、技術や活用メリットについて説明していくことも必要だと語り、次のようなメッセージでセッションをまとめた。

「SDGsの推進にあたって、テクノロジーの活用は前提条件だ。世界銀行をはじめ国際機関では、テクノロジーをどうつかっていくか一生懸命考えているが、アイディアがなかったり、どういうテクノロジーがあるのかわかっていなかったり……という課題もある。今後このフィールドの中で、新たなマーケットが拡がっていく可能性は大きい。日本企業やいろいろな人が持っているソリューションをかけあわせながら、一緒に新しい社会の構築に携わっていけたらと思っている」(横井氏)

本記事は、2021年1月28日、29日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2021での講演をもとに構成しています。

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