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2023年1月6日技術ブログ

ドローンで山岳遭難救助 ~JICコンテスト好成績達成の舞台裏~

2022年10月、北海道上士幌町にてドローンやロボットを活用して遭難者を捜索・救助する大会が開催された。出された難題に対し、NTTデータ社員も参加したチームが唯一課題を達成した。その舞台裏に迫る。
目次

近年増え続ける遭難のリスク

近年の登山ブームで、登山を楽しむ人が増えており、同時に遭難事故も増加しています。十分な準備をせずに油断してしまう人が多いためか、低山での発生率が高くなっています。日帰りで登れるような低山とはいえ、季節や天候によっては気温が下がり、場合によっては命にかかわる事態に発展しかねません。

夜間捜索のためにドローンを活用するメリット

遭難した場合、二次災害の可能性があるため、夜間の捜索は打ち切られますが、発見・救出は一刻を争います。そこで、夜間でも飛ばせるドローンを使った捜索が実現できれば、安全を確保しながら捜索を続けることができます。
災害対応分野におけるロボットの製品化に向けた研究・開発を加速し、ドローンによる夜間捜索を実現するため、Japan Innovation Challenge(以下JIC)(※1)という大会が開催されています。大会では、遭難者に見立てたマネキンを山中に置き、遭難者を救出することを想定した課題が設定され、参加チームは、各々の技術で課題に取り組みます。

(※1) Japan Innovation Challenge

https://japan-innovation-challenge.com/

JIC2022の大会舞台裏

大会には、企業のチーム、高校や大学の学生や教員などで作られたチームなど、様々な方々が参加し、各自のスキルを最大限活かして課題に挑戦します。
NTTデータの社員も、ドローンエンジニア養成塾(※2)という、ドローンの技術開発に関する知識を習得するための講座に参加した生徒が有志で作ったTeam Ardupilot Japan(以下TAP-J)(※3)というチームのメンバーとして2017年から大会に挑戦しています。

図1:遠隔制御される機体を見守る様子

図1:遠隔制御される機体を見守る様子

2022年10月に開催されたJapan Innovation Challenge 2022(以下JIC2022)では、側索現場から離れた場所から遠隔操作でドローンを使用することを想定し、ドローンを数時間待機させた後、約5km離れた場所から遠隔制御で飛行を開始させるという、これまでにない難しい課題が設定されました。
大会では、厳しい自然環境によって多くの問題が発生しましたが、対策を工夫することで問題を解決し対処してきました。

図2:待機中のドローン

図2:待機中のドローン

ドローンは電源を入れた状態にしておくだけで多くのバッテリーを消費するため、飛行直前に電源を入れるのが普通です。大会では、設置後はドローンの周囲に立ち入ることができないため、電源をオンにしたまま待機できる大きなバッテリーが必要ですが、大型のバッテリーは重量が重く、飛行時間や飛行速度に影響します。捜索範囲は離陸した場所から最大4kmに及ぶため、長距離を高速に飛行できなければ課題を達成することは難しくなります。そのため、大型のバッテリーを機体近くに設置し、離陸時に切り離す方式を採用しました。他にも様々なアイデアが出ましたが、直前までチーム内で議論し、最も信頼性の高い方法として採用した方式が上手く機能し、課題達成に至りました。

5km離れると、通常の無線機で遠隔制御すること難しくなります。今回使用した機体は、LTE回線を使ったインターネットによる遠隔制御システムを搭載しました。LTE回線を通してインターネットにドローンが直接接続されることで、原理的には世界中どこからでもドローンを制御することが可能です。ただ、既存の機体はそのような前提で作られていないため、単に通信機をつなげればよいという訳にはいきません。そのための仕組みづくりや検証を、大会の何カも前から繰り返し行うことが必要になりました。

図3:LTEによる遠隔制御システム

図3:LTEによる遠隔制御システム

市販の機体に、新しい機能を追加することは容易でありません。追加した機能が機体の飛行性能に影響する可能性があるため、メーカーはそのような改造を認めないからです。

TAP-Jが使用している機体は、チーム名にもある通りArdupilotというオープンソースのドローン制御ソフトを使用しています。Ardupilotは、マルチロータータイプのドローンの他、シングルローター機や、飛行機、VTOL機、ローバーと言われる地上を走行するロボットや、水中ドローンにも対応した制御アプリケーションで、様々なタイプの無人機を動かすことができます。

図4:VTOL機の例

図4:VTOL機の例

LTE回線を使って外部から機体を制御する場合、インターネットにつながった小型のコンピュータをフライトコントローラとは別に機体に載せ、それが中継役となり、インターネットから受けたコマンドをフライトコントローラへ送信し、機体からの情報をインターネットへ送信することで、遠隔地から機体の情報を把握しつつ、機体に対して指示をします。

図5:ドローンと直接通信を行う無線機

図5:ドローンと直接通信を行う無線機

LTE回線は、携帯電話などで使用されるものですが、大会が行われた会場のような地域では、安定した通信ができるとは限りません。ドローンは正しいルートを設定すれば、通信ができない状況でも飛行を続けることができますが、飛行中のドローンがどのような状況にあるのかは、常に把握する必要があります。そのため、予備の回線として、サブギガと呼ばれる周波数帯の無線機を別に搭載しました。

この無線機は、インターネットを介さず機体と直接通信を行うため、LTE回線の電波状況に左右されないという特徴があります。通信に制限があるため、主回線として使うことはできませんが、機体から約8km離れた場所で通信できることが確認でき、予備回線として有効であることが分かりました。

図6:ロボットの事前テスト

図6:ロボットの事前テスト

TAP-Jは、これまで様々な条件下で、発見と駆付の課題に成功してきました。今後は、システムの信頼性向上を目指しつつ、新たな挑戦として救助の課題にも挑戦していく予定です。JIC2022では、TAP-Jとしては初めて救助の課題に挑戦しました。こちらは、課題の達成には至りませんでしたが、大会史上初めて、ロボットでマネキンに触れることができました。マネキンは重量が約50kgで、大きさも実際の人間に近いため、マネキンをロボットに載せるには高い技術が必要です。それを厳しい自然環境で行うため、難易度はさらに上がります。今年度は、全てが一からの開発になりました。事前のテストでは、マネキンをロボットに載せることができましたが、大会では悪天候に加え、安定した通信を行うことも難しく、課題の達成には至りませんでした。今後は、対策を検討し、課題を達成するとともに、実現した技術を実際の現場でも活用できたらと考えています。

大会は、実際に事故が起こりうる山中で行われるため、ここで得た技術や知見は、即応用の効くものです。テストでは機能していたものが、現地では動作しないなど、現場に則した課題に取り組んだ成果だからです。

(※2) ドローンエンジニア養成塾

https://www.drone-j.com/ades

(※3) TAP-J

https://ardupilot.jp/

より身近なドローンの活用に向けて

ドローンやロボットが広く活用されることで、将来はより身近な用途での利用が期待できます。ドローンを活用した医療物資や生活必需品の輸送を実現するため、様々な技術が開発され、法律が整備されようとしています。そのためには、安全性が認知され、利用することのメリットを多くの人が感じることで、技術が人々の生活に溶け込み、馴染みのあるものとして認知される必要があります。その第一歩として、捜索・救助などでの活用が重要なものとなります。これまでできなかった夜間の捜索が可能になり、遭難した人をより早く救助することができれば、活用する機会はより多くなり、そのために新たな技術開発が行われ、よりよい技術に発展します。そして、活用することのメリットが認知れれば、新たな分野での活用が広がり、広く一般に使われる技術となるでしょう。

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