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2023年3月24日展望を知る

【業界動向】2023年、「製薬業界」に訪れる5つの変化を解説

すでに日本に訪れつつある、超高齢化社会。病床の逼迫、医療費増加──、医療危機が懸念される一方で、製薬業界ではブレイクスルーとなるイノベーションの兆しが見られはじめている。デジタルテクノロジーは製薬業界をどう変えるのか。NTTデータの関根志光が、製薬業界の最新動向を解説する。
目次

「薬剤費抑制」「新薬開発コスト」、製薬業界を襲う2つの逆風

今、製薬業界を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。

超高齢化社会を迎えた日本は、増え続ける高齢者を減り続ける働き手で支えなければならない逆ピラミッド構造になっています。その状況において医療費の増加は喫緊の課題です。増え続ける患者に対して、限られた予算で医療を提供していかなくてはなりません。

一般的に薬剤費は医療費の多くの割合を占めています。医療費の増加が課題になっている中では、医療保険制度が崩壊しないように薬剤費を抑えようという流れもまた必然。保険医療に適用できる医薬品とその価格を定める薬価制度は、製薬会社にとって厳しい改正が繰り返し行われています。

こうした要因もあり、国内の医薬品市場の成長は鈍化が続いています。

製薬会社への逆風はそれだけではありません。風邪や高血圧など、多くの人がなりやすい病気の治療薬の市場は飽和状態で、新薬の研究・開発もされ尽くされています。

必然的に新薬の研究・開発の余地が残されているのは、難病・希少疾患などの領域に限られてきますが、その成功率は決して高くありません。

一般的に新薬の研究・開発は9~17年程度の期間と数百億円の投資を必要とします。薬剤費が抑制される一方で、新薬の研究・開発の難易度とリスクは年々高まっているのです。

さまざまな逆風にさらされている製薬業界。しかし現在、他の多くの産業と同じように、製薬業界にもデジタル化の波が押し寄せています。

限られた予算の中で事業を行っていくにはDXによる業務効率化が不可欠です。また、製薬業界のDXは既存の枠を飛び越えた、まったく新しい体験を提供する可能性を秘めています。

例えば、患者に関する大量のデータが蓄積・共有されることで、製薬会社は患者一人ひとりに個別最適化された薬を提供できるようになるかもしれません。また病院で処方箋をもらうと、薬局に行かずとも自宅に薬が届けられている時代が来るかもしれません。

製薬業界の危機的状況を乗り越えるだけでなく、デジタルテクノロジーによる高度な医療体験の実現が期待されているのです。

厳しい経営環境の中で高度な医療を実現していくために、そしてこれまでにない新しい医療体験を実現するために、製薬業界はDXによるバリューチェーン全体の変革が求められています。

これから製薬業界に訪れる5つの変化

抜本的な変革が求められる製薬業界のバリューチェーン。そこではすでに厳しい経営環境からブレイクスルーするためのいくつかの兆しが見えはじめています。

1.創薬研究のDX

先ほど述べたように、従来は医薬品の開発には長い年月と莫大な費用が必要とされていました。創薬の種となる化合物を発見する研究領域においては、その成果が思うようにいかないことも少なくありません。

そこで今、創薬研究の領域をDXしていくことが、製薬業界の大きなトレンドになっています。イメージングや統計解析などさまざまなテクノロジーを駆使して、研究者をサポートしたり、AIによって24時間稼働する研究室を作ったり。マシンの情報処理能力が向上したことで、これらのアウトプットの精度も速度も飛躍的に上がっています。

この創薬研究のDXの先進事例と言えるのが、新型コロナウイルスの「mRNAワクチン」を開発したモデルナです。mRNAとは体の中で特定のタンパク質を作らせるための設計図を伝達する物質のこと。新型コロナウイルスのmRNAワクチンとは、体が抗体を作るきっかけとなるタンパク質を作り出すためにmRNAを投与するものです。そしてこのmRNAは、新型コロナウイルス以外にも、さまざまな薬に応用することが期待されています。

2010年に創業したモデルナは、AWSと提携してAIを駆使したバイオテクノロジー企業として、mRNAプラットフォームの構築に取り組んでいました。AIで2万個ものmRNAの配列パターンを学習することで、モデルナは新型コロナウイルスのmRNAワクチンのテストをわずか42日で完了させたのだそうです。

デジタルを前提としてビジネスモデルが構築されているモデルナは、製薬会社の未来像の1つと言えるかもしれません。日本でも大手製薬企業がデジタルを駆使した研究室を再構築するなど、創薬研究のDXは徐々に盛り上がりつつあります。

2.MR(医療情報担当者)のDX

医療費及び薬剤費の抑制は、創薬だけでなく営業の領域にも影響を及ぼしています。昨今の厳しい経営環境を背景に、製薬会社が抱えるMRの人数も半数以下になっているところが少なくありません。

製薬会社で病院への営業活動を行うMRは、これまで人対人の属人的な世界でした。しかし、時世の流れや新型コロナウイルスが流行したことで、そもそも病院に入ることができない時期が続きました。

売上減少に伴うMRの生産性向上への求めと、新型コロナウイルスの流行によるリモート化のトレンドを背景に、近年、MRの世界でもDXが進むようになりました。

例えば、病院への訪問をオンライン面談へと変更することで、業務効率が向上するのはもちろんのこと、会話の内容を記録できるようになるため、データ分析に基づいた効果的なMR活動が展開できるようになります。

今後、MRの提案する薬は、風邪や高血圧などの誰でも効く薬から、難病・希少疾患をはじめとする個別最適化された薬に変わっていくでしょう。患者の細かいプロフィールまで含めた提案をしないと、薬が適切に使ってもらえない時代になります。DXにより、データに基づいた高度な提案をできるMRだけが生き残る時代がやってくるでしょう。

3.RWD(リアルワールドデータ)の活用

患者の細かいデータが大切になるのは、MRに限った話ではありません。例えば、病院で初診の際に、以前他の病院に通院していたときにどのような病状だったのか、どのような薬を飲んでいるのか、そういったデータが共有されていれば、より精度の高い個別化した医療の提供が可能になるでしょう。

そこで今、医療・製薬業界で活用が進んでいるのがRWDと呼ばれるデータベースです。RWDは電子カルテ、保険者データ、レセプト(医療費の明細書)などのデータを指し、そのデータベースにはさまざまな病院、保険組合、薬局などからデータが収集され管理されています。

新薬の研究開発においても、これまで治験などで収集した数百人のデータをもとに行っていたのが、RWDを活用することで数十万、数百万人もの実臨床データを参照することができるようになります。

どういう病状の患者がどういう薬を使い、どのように検査の値が変わっていったのか。このようなデータは新薬の研究開発の生産性を向上させ、これまで世になかった薬を生み出すことにつながっていくでしょう。

最近ではFitbitなどのウェアラブルデバイスで計測したデータやゲノムなどのPHR(Personal Health Record)の活用も期待されています。さまざまなデータは、製薬業界のパーソナライズ化を果たすための一助となるはずです。

現在、RWDには、厚労省が提供するNDB(National Data Base)のほか、民間企業が提供するデータベースも含め、さまざまなものが存在します。

次世代医療基盤法に基づく認定事業として、一般社団法人ライフデータイニシアティブと共にNTTデータが推進する「千年カルテ」もそのうちの1つ。

全国の病院と提携して、累計150万人以上の電子カルテデータを有しています。薬の投薬、検査値の推移など、詳細な情報が記録されており、これらを多角的に分析することで、さまざまな疾患の治療方法の発見につながっていくことを期待しています。

4.DTx(デジタルセラピューティクス)

これまでご紹介してきたDXの例は製薬会社の業務をサポートするものでした。一方で、これからご紹介するのは患者さんの体験自体がデジタル化するというものです。DTxとはアプリで実際に病気を治療しようという試みのこと。

米国・WellDoc社が糖尿病患者向けに開発したデジタル治療アプリ『BlueStar』は、2010年に米国食品医薬局(FDA)から医療機器として承認を受けた、世界初のDTxです。患者の血糖値や血圧、服薬状況、食事、運動などの管理をアプリがサポートすることで、糖尿病の治療を行います。

日本でもCureAppというベンチャー企業がニコチン依存症治療アプリや高血圧症治療アプリを開発しているほか、アステラス製薬がWellDoc社と共同で『BlueStar』の開発に着手するなど、すでにDTxへの取り組みが活発化しています。

今は製薬会社に限らず、さまざまなプレイヤーがDTx市場に参入しようとしています。アプリ開発に関していえばITベンチャー企業の得意とするところですが、疾患への知識や処方する病院とのネットワークには、製薬会社に一日の長があります。

今後の製薬会社のDTxへの取り組みに期待したいところです。

5.患者体験のシームレス化

スマホアプリやウェアラブルデバイスの普及は、医療と患者との接点を、点から線へと変えていく可能性があります。

これまで医療と患者には「病気になって病院へ行く」「薬局で薬を処方してもらう」というような限られた接点しかありませんでした。今後は病気未満の状態である「予防」、そして通院後の「予後」まで、医療の提供範囲は広がっていくでしょう。

たとえば、心不全や心筋梗塞などの場合、バイタルデータから発症する前に危険な兆候を見つけてアプリからアラートを出すという予防・予後のアプローチが考えられます。日常と医療の垣根は徐々になくなっていき、患者の体験はより「シームレス」になっていくでしょう。

製薬業界においても、患者とは病院や薬局の中だけでの関係だったのが、より継続的な関係に変わっていくのではないでしょうか。薬を処方した後に継続的にアプリで服薬支援をするなど、製薬会社も単純に薬を売るだけではなく、サービスを提供するようになっていきます。

今後の製薬業界は、サービス提供者へと移行していく企業と、製薬会社の従前の本分である創薬を突き詰めていく企業で、2極化していくのかもしれません。

NTTデータが目指すMX(メディカルエクスペリエンス)

医療の世界に訪れたDXの波は、製薬会社のバリューチェーンに大きな変革をもたらそうとしています。そしてこのDXは、医療をより個別最適化したもの変えていくでしょう。

私たちNTTデータは、医療DXとは「患者中心の医療体験(Medical Experience)」を実現するために行われるべきだと考えます。

予防・治療・予後。患者の生活全体に寄り添い、あらゆる個別のニーズに応える医療。その鍵を握るのは「データ」です。

ゲノムデータやバイタルデータなどのPHRと病院の電子カルテなどのEHRが接続して構築されるRWDのデータベースは医療体験をパーソナルかつシームレスなものへと移行させるでしょう。

あらゆるRWDは製薬企業にフィードバックされ、新薬そして提供サービスを新たな地平へと導いてくれるはずです。

NTTデータでは、PHRとしてHealth Data Bankという企業向けの健康管理データベースを提供しているほか、EHRとして千年カルテ・NationalDataBase(NDB)分析支援サービスなども提供しています。

これらの豊富なデータに関わる知見やアセットを活用しながら、さまざまなサービスとの連携により、今後も製薬会社のDXのお手伝いをしていきたいと考えています。

NTTデータの考える製薬ビジネスの未来に関するレポートはこちら

https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/lifescience/

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