空飛ぶ自動車
自動車が空を飛ぶ姿はSF映画でよく表現されていますが、実際に空を飛ぶことはできるのでしょうか。実は、これまでに数々のトライアルが行われてきた中で、飛ぶことに成功し、既に実用化されているものや販売開始待ちのものがあります。例えばパラシュートを付けた「Maverick参考1」や、折り畳み式の翼を備えた「AeroMobil参考2」などが有名です。しかし、コストパフォーマンスが悪い、滑走路が必要、航空機と同じ免許が必要、などのさまざまな課題を抱えているため、現状ではレジャーや、陸路での移動が困難な地域での移動などに用途が限られるでしょう。尚、これらの課題に立ち向かった最新事例として、先日「Molnar G2参考3」という機体が発表されました。ジャイロコプターと車を掛け合わせたような機体で、軽量かつコストパフォーマンスを追求した点に新規性があります。こうした新しい取り組みの勢いもあり、少しずつ空飛ぶ自動車の用途は広がっていく期待感があります。また、トヨタが「エアロカー」(空飛ぶ車と思われる)の構造に関する特許を出願し参考4、Googleの創業者が空飛ぶ車のスタートアップに膨大な投資をする参考5など、近年は大企業が空飛ぶ車に注目する動きも見られます。従来、イノベーション投資のリスクから大企業はチャレンジを避ける傾向が続いていましたが、素材や飛行方式や自動運転などの直接的な技術革新に加えて、オープンイノベーションやベンチャー連携の加速がチャレンジの敷居を下げました。これを機に開発が一気に進む可能性もあり、目が離せません。
自動車以外も空を飛ぶ
自動車を飛ばす発想は面白いですが、目的や用途の面から考えると、人が乗れて空を便利にパーソナルに移動できれば良く、「クルマ」に求められる形状や機能とのハイブリッドにこだわる必要は無いのかもしれません。実際に、巨大なドローンを使うアイデアや、ヘリコプターとジェット機を掛け合わせてコンパクト化したパーソナルエアクラフト「Lilium Jet参考6」などが登場してきています。いずれも搭乗者は1~2人を想定したもので、自動車を飛ばすというよりも、飛べるものに人を乗せる、という発想です。特にLilium Jetは、垂直に離着陸可能で最高時速は400km、ライトスポーツエアークラフトに分類されるため免許も簡単に取得できるなど、非常に高いポテンシャルを感じさせるものです。「クルマ」にこだわらなければこうした選択肢も有力候補になってきます。
需要はあるのか?
ところでこれらの空を飛ぶモビリティは、そもそも何の需要に答えるものなのでしょうか。ひとつの解答は「便利で早くて安全で快適でコストの安い移動手段」です。空を飛ぶことで従来の移動手段に取って代われるか、がカギになります。この方向で攻める場合、コスト面で地上型モビリティに勝ることは難しいと言わざるを得ません。自動運転タクシーの登場参考7やIoTによる交通制御&渋滞緩和が実現すれば、地上型モビリティを利用するコストはさらに下がります。地上型モビリティと競合しない場所や、早さや快適さなど別の要素で大きなアドバンテージが必要になるでしょう。例えば、救急車や消防車が空を飛んで現場へ急行できれば、従来よりも早さの面で絶大なメリットがあり、人命救助や被害を最小限に留められる確率が高まります。こうしたケースでは(安全面やコストや着陸場所など他に考慮すべき点も多いですが)将来置き換わる可能性もあるでしょう。
もうひとつの解答は、「新たな価値やビジネスマーケットの創出」です。例えば高階層のフロアに空飛ぶモビリティの発着場が併設されたタワー型のホテルが登場し、直接空からチェックインするなど、新たな体験や楽しさを提供できれば、空飛ぶモビリティ利用プラン向けの特別な食事、土産、広告、建設など、さまざまな関連ビジネスの需要が新たに生まれます。さらに進み、やがて発着場付きの住居が建設されるようになれば、個人の生活スタイルに空飛ぶモビリティが入り込み、"空飛ぶモビリティ関連マーケット"が拡大することも考えられます。この方向で攻める場合、新たな価値をどのように設計するか、サービスを通じてユーザに満足感や納得感を与えられるかがポイントになりますが、モビリティを開発する企業だけでは推進が難しく、都市設計まで視野に入れた大きな構想が必要になります。そのため、当面は小規模に実現できそうな無難な方法が取られる可能性が高いです。例えば、空を自由に動き回れること自体を楽しさとして前面に出すエンターテインメントが考えられます。まずは観光地などで、パーソナルに空を飛び楽しむ体験を提供する仕組みが登場してくるでしょう。
空飛ぶバスのビジネス
ここまでご紹介してきたように、空を飛ぶモビリティはさまざまな課題を抱えているだけでなく、「便利で早くて安全で快適でコストの安い移動手段」「新たな価値やビジネスマーケットの創出」といった厳しい要件を乗り越える必要があるため、ビジネスとして採算を取れるまでには多大な困難を伴うと想像できます。しかし、それでも空を飛ぶモビリティを使ったビジネスの構想は実際に練られています。例えばAirbusは、空飛ぶ自動運転車を2017年にテスト飛行する計画参考8を明らかにしました。将来的にはスマホで予約した後、近くの停留所に行き、相乗りで空へ飛び立ち都市内を移動するという、空飛ぶ自動運転バスの交通システムを実現する構想があります。地上を走る従来のバスやタクシーとの競合が懸念される中、どのような作戦でビジネスとして成り立たせるのか、そして法制度などの制約や障壁も気になりますが、公共交通インフラとして空飛ぶモビリティの活用が検討されているのは非常に楽しみです。人が空飛ぶ車を求め、技術が進展する以上、空飛ぶ車に未来はあると信じています。
図1:空を飛びたい車