1.Eコマースからデジタルコマースへのパラダイムシフト
Eコマースの黎明期から、店舗でのビジネスとの関わりは、「(1)クリックアンドモルタル」→「(2)O2O(※1)・オムニチャネル」→「(3)OMO(※2)・ニューリテール」というトレンドで遷移してきています。(1),(2)は、リアルとの連携とはいえ、Eコマースの延長線で語られるサービス・業務が多いですが、(3)は、もはやEコマースの延長線ではなく、すべての購買体験に関わるものとなっているのが大きな違いです。
図1:Eコマースと店舗の関わり方の変遷
多くの小売業にとって、Eコマースは新規サービス、新規業務であり、既存のビジネスとは切り離して立ち上がってきたケースが多いです。そして、O2O・オムニチャネルというサービスも、その延長線で実現できるレベルの、ECと店舗との融合施策がほとんどです。
しかし、デジタルコマース(OMO・ニューリテール)は、もはやECの延長線では実現できず、既存のサービス・業務を「変革」して初めて実現できるもの、ととらえることが重要です。
図2:デジタルコマースの本質
この一見単純そうな理屈こそが、デジタルコマースの実現を難しくする本質であり、これを理解して取り組み始められるかどうか、が、このトレンドに対応できるかどうかのポイントになります。
2.デジタルコマース実現の困難さ
既存サービスの変革を伴うデジタルコマースでは、関わるステークホルダ(組織)や連携が必要な社内ITシステムが多くなり、複雑化します。これを理解してデジタルコマースへの対応を上手に推進できている企業は多くはありません。
図3:ECとデジタルコマースの複雑度の違い
うまくいかないケースの一例としてあげられるのが、従来のECの部門に、「オムニチャネル」→「デジタルコマース」のミッションを与えて検討を始めるケースです。
デジタルコマースはもはやECの延長線にはなく、既存の業務に対し、時に痛みを伴う変革が要求されます。このような変革を推進するのに、従来既存業務と分離した「新規領域」として取り組んでいたEC部門が、既存業務・既存組織とのしがらみを乗り越え、スクラップビルドを主導していくのは、とても難しいことと想像されます。
図4:デジタルコマースへの取り組みの分岐点
3.デジタルコマースへ対応するための処方箋
上述を踏まえ、Eコマースからデジタルコマースへのパラダイムシフトに対応するためには、以下の5点がポイントになると考えます。
- 経営層自らがトップダウンで「変革」の必要性を掲げること
- 経営層の後ろ盾をもったリーダー(Chief Digital Officer)を全体整合・統制の責任者としてアサインすること
- 「変革」後の絵姿を具体的に構想し、関わるステークホルダ全体で共有し、合意形成を図ること
- 「絵に描いた餅」にならないよう、具体的な実現手段の仮説をもちながら、構想を実現するためのITグランドデザインを行うこと
- 複雑化することが想定されるITプロジェクトを確実にマネジメントできるよう、適切に社内・社外のリソースをアサインすること
NTTデータでは、上記「(3)」の手段として、サービスデザインの手法を推奨しています。サービスデザインというと、アイデアを創発するための手段としての側面が注目されがちですが、我々は、そのプロセスによる「社内合意形成」がもう一つの効用ととらえています。また、「(4)」の手段として、デジタルコマーススイートの整備を進めています。想定される半歩先の未来のカスタマーエクスペリエンスを想定し、先進のテクノロジーを実装につなげるための実証、PoCの推進を行うなどし、従来のオムニチャネル向けのITソリューションにとどまらず、OMO・ニューリテールを実現するためのソリューションの拡充に努めています(※3)。
図5:NTTデータのデジタルコマース実現へのアプローチ
4.まとめ
デジタルコマース(OMO)の実現には、従来のECの延長線だけではなく、既存の変革を伴うことを理解して対応策を講じる必要があります。
また、構想を具現化するために、複雑化するITプロジェクトを実現するためのパートナー選定、社内リソースのアサインが重要になります。
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