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2024.7.1技術トレンド/展望

真のAI民主化時代の投資戦略~生成AI×データ×文化~

生成AIの登場により、「AI活用機運の高まり」と「AI活用障壁の破壊」が実現され、専門家でなくてもAIを自律的に活用できる“真のAI民主化”が進みつつある。それに呼応し、ビジネス価値を産むための投資戦略が求められているが、どのようにすれば良いか分からないという声も聞く。そこで本稿では、“真のAI民主化”時代における投資戦略と、投資を活用して解くべき課題、それに対するアプローチを幅広く紹介する。
目次

生成AIがもたらす“真のAI民主化”

「すごいね。その作業をAIでやらせたの?」最近はそのような言葉がビジネスや日々の生活で聞こえてくるようになってきましたが、この状況には二つの理由があります。

一つ目は「AI活用機運の高まり」です。近年ChatGPTに代表される、まるで人間のように文章や画像をアウトプットできる“生成AI”と呼ばれるものが出現していますが、その技術進化の衝撃は計り知れず、人がAIに対して興味を持つきっかけとなっています。

二つ目は「AI活用障壁の破壊」です。すなわち、チャットのようなインターフェースが普及したことで、専門家でなくともAIを簡単に使いこなし、要約や情報検索などで業務の生産性を向上させたり、新たなコンテンツ/価値を創造したりすることが可能となりました。

つまり、「AI活用機運の高まり」と「AI活用障壁の破壊」により、従来のように専門家へ頼ることなく、誰もがAIを活用できる世界観=“真のAI民主化”が実現されつつあります。

“真のAI民主化”時代における理想の投資戦略

“真のAI民主化”の実現に伴い、企業としてもAIの恩恵を受けたいところです。そのための経営戦略として、“生成AI”だけでなく、“データ”や“文化”にも投資を行い、後述する課題を解決することが理想的だと考えます。

図1:“真のAI民主化”における投資対象と解くべき課題

図1:“真のAI民主化”における投資対象と解くべき課題

生成AI:人間の代わりとしてアクションを実施する存在

従来、人に代わってAIに様々なアクションを実行させることは人類の夢でしたが、生成AIの登場により実現可能なものとなってきました。ただ、ビジネスの現場で生成AIにアクションを実行させるには、課題が二つあります。

第一の課題は企業情報の理解です。ビジネスの現場では、企業独自の情報も考慮し、かつ理由を説明できた上で、アクションを実施する必要があります。一方で、一般的な生成AIは公知の情報しか備えておらず、企業独自の情報を補完する必要があります。なお、補完を行う仕組みとしてはRAG(Retrieval-Augmented Generation)がありますが、これまでは主にテキスト情報が対象であり、理由の説明も困難でした。しかし、現在は図表などのデータも扱えるマルチモーダルRAGや、理由を説明するための、ナレッジグラフなどの意味理解手法を組み入れたGraph RAGも登場しており、これらを活用することで企業情報の理解が大いに進むと考えられています。

第二の課題は、アクションを実行するための、ワークフローの生成とそれを実行するためのシステム連携です。これも、現在の一般的な生成AIでは対応困難な課題ですが、簡単にアプローチする手段として、AI Agentと呼ばれる技術に注目が集まっています。ただ、AI Agentにも得意不得意があり、複数のAI Agentを組み合わせるなどの工夫をした上で、活用することが望ましいと考えられます。

図2:生成AIによるアクションの実行

図2:生成AIによるアクションの実行

データ:アクションに必要な情報を供給

生成AIが手元の情報を理解しアクションを実行できるとしても、生成AIに対して企業独自の情報を供給できないとなると、一般的なことしかできず、ビジネス的な価値も低くなってしまいます。つまり、企業独自の情報をいつでもビジネスで使えるよう、用意しておくことが鍵となります。

特に大企業では大量のデータがプラットフォーム上に存在すると思いますが、その大量のデータが、「安くて」「早くて」「美味い」、言い換えると「Agility高く」「コスト効率よく」「ビジネス品質で」という3条件を満たした状態で用意されていないと、気軽には使えません。そして、これら3条件を満たそうとする時、状況次第で3条件がトレードオフの関係になり、同時に実現させることが困難になることがあります。一方で、3条件を個別の課題として分解すれば、それぞれに有効なアプローチがあります。

「Agility高く」に対しては、組織ごとにオーナーシップを持ち、データを商品のように企業内で流通させるData Meshというアプローチがあります。なお、Data Meshは企業全体の組織やプロセス設計も含む跳ねる話ですが、まずはアーリーアダプターとなる組織から徐々に浸透させていくことが推奨されます。

「コスト効率よく」については、データなどの利用状況を可視化し、時に自動で削除などの対応を行うFinOpsという手法があります。

「ビジネス品質で」に対しては、そもそもデータ欠損や表記ゆれなどが原因であり、初手としてデータ統計情報や、データの加工状況を可視化するData Observabilityというアプローチがあります。

図3:アクションに必要なデータの供給方法

図3:アクションに必要なデータの供給方法

文化:AI活用機運の醸成

生成AIとデータの観点で投資を行い、仮に課題が解決して万全の仕組みが整ったとしても、文化的に馴染みがなければAI活用はすぐに止まってしまいます。歩みを進めるには、小さな成功事例を積み重ね、その事例をコミュニティーやポータルサイトなどで訴求し草の根的に仲間を作り、徐々にAI活用機運を高め、最終的に文化として定着させることが必要です。

一方で、無邪気にAI活用を促進することは危険であり、リスクマネジメントもまた課題となります。例えばAIは精度100%になることはなく、いわゆるAIが嘘をつく「ハルシネーション」や、第三者の著作権などの権利の侵害、個人情報や機密情報の出力、といったリスクが指摘されています。AIによって得られる便益を最大化するためには、これらAIの特性を踏まえた上で、社会的要請も考慮しながら、ビジネス機会創出とリスクマネジメントのバランスの取れた統制が必要となります。

図4:AI活用時におけるリスクマネジメントの必要性

図4:AI活用時におけるリスクマネジメントの必要性

現実的な投資戦略

前章では「“生成AI”だけでなく、“データ”や“文化”にも投資をすべき」と記載しましたが、予算には限りがあり、現実的には優先順位を付ける必要があります。優先度はもちろん会社の状況次第ですが、以下の進め方例は、スモールスタートの観点でベターと考えています。

  • 1.黎明期:半年
  • まず“生成AI”に集中して投資を行い、利用できるデータをRAGにて最大限に活用し、成功事例を複数創出する。
  • 2.成長期:1年
  • 成功事例が複数揃った後、“文化”にも投資を行い、成功事例を持つ組織+興味を持つ組織からなるコミュニティーを発足しつつ、必要なルールを全社的に定める。発足したコミュニティーをカンフル剤として成功事例を蓄積しつつ、並行してニーズを収集する。
  • 3.成熟期:複数年
  • ニーズを実現するために必要なデータを洗い出し、それを利用可能とするべく“データ”へ年単位で投資する。

おわりに

本記事では、“真のAI民主化”における投資戦略、ならびに課題とアプローチを紹介しましたが、技術の進化は日進月歩であり、日々アップデートが必要です。NTT DATAでも、引き続き最新情報のキャッチアップを行いつつ、それをベースにお客さまの戦略策定、課題解決のためのケイパビリティーを磨いて参りますので、お困りの際は、ぜひ当社にお声がけください。

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