- 目次
生成AIを活用したデジタルペルソナとは?
近年、顧客ニーズを正確に把握し、より進化したサービスの提供をするため「人間の行動や思考をどれだけ深く再現できるか」が重要性を増しています。しかし、顧客ニーズを把握するための手法である、アンケート調査やフォーカスグループインタビュー、テストマーケティングなどの調査活動では、コスト・スピード・対象範囲の面で限界があり、複雑で創発的な顧客行動を把握することは困難でした。
NTT DATAが開発を進めるAIエージェントの強みを活かした生成AIベースのデジタルペルソナは、この課題を克服する新しいアプローチです。デジタルペルソナは、人口統計属性・心理特性・行動傾向・興味関心など、多様な情報を統合して生成される“デジタル上の顧客像”です。生成AIにより、これらのデジタルペルソナは単なるプロフィールにとどまらず、自然言語で対話し、状況に応じて一貫した考え方や価値観をもつ「デジタルの人」として振る舞います。これにより、実際の顧客や個人のようにリアルな反応・議論・意見形成をシミュレーションすることが可能となります。
顧客理解を深化させるデジタルペルソナのモデル作成
デジタルペルソナは、以下の多面的なデータなどをもとに構築します。
- 人口統計データ(年齢、性別、地域など)
- 心理学的特性(価値観、嗜好、興味関心)
- 行動データ(購買行動、ブランド接触履歴)
- CRMや顧客データベース
- 議事録やプレゼン資料
- Web/SNS情報
- 過去の顧客調査結果
ニーズに応じてCRMなどから得られる実データと外部情報を組み合わせ、自動でデジタルペルソナを生成することで、より実在顧客や人物に近いモデルを生成します。
企業活動を変革するデジタルペルソナのビジネスへの応用
デジタルペルソナの技術は、ペルソナとの対話や、ペルソナ同士のやりとりをシミュレーションすることで、以下のような幅広いビジネス領域で活用できます。
・マーケティング戦略立案
キャンペーン前にターゲット層の反応をシミュレーションし、メッセージやクリエイティブを最適化
・製品開発
新製品の機能やデザインに対する顧客評価を事前に検証し、改善点を抽出
・営業提案
顧客セグメントごとのニーズを把握し、提案内容をパーソナライズ
・人事・組織開発
従業員の反応や組織変革の影響を予測し、リスクを低減
・教育・トレーニング
顧客対応や危機管理のシナリオを仮想環境で練習
・対話可能なデジタル幹部
事前レビューや壁打ち、組織変革、戦略策定、投資判断に関する幹部同士の議論
・カスタマイズされたコンテンツ生成
ターゲット層を表現するデジタルペルソナを活用し、嗜好や行動、コミュニケーションスタイルに合わせたコンテンツを生成
こうした活用が広がることで、企業は「市場に出す前に顧客の反応を把握し、失敗しない意思決定を行う」ことが当たり前になると予想しています。デジタル上に再現された顧客や従業員、さらには幹部ペルソナ同士が仮想空間で意思形成を行うことで、企業活動の多くがシミュレーション駆動型(Simulation-Driven)へと進化します。結果として、商品企画から組織運営、戦略立案に至るまで、現実世界で試す前に最適解を高速に探索できる「未来予測型の経営」が実現します。
Social Simulation Platformのご紹介
NTT DATAでは、イノベーションセンタのイタリアチームがSocial Simulation Platform(以下SSP)と呼ばれる、生成AIペルソナ技術を統合した高度なシミュレーションを実行するための基盤を開発し、まずは海外を中心に展開を始めています。SSPの主な特徴・機能は次の通りです。
1.デジタルペルソナ管理
一覧画面から複数のペルソナを確認でき、個人特性や行動傾向、意見傾向をIDカード形式で閲覧
2.チャット機能
各ペルソナと1対1で対話でき、自然な会話や日本語・英語での質問、商品・デザイン画像やPDF、パワーポイント資料などを添付した反応確認などが可能
3.フォーカスグループの設定
フォーカスグループは、複数のデジタルペルソナが自動的に議論を行い、自然な相互応答を生成する機能です。従来の対面型フォーカスグループを生成AIで再現し、よりスピーディーかつ低コストで深い顧客の“洞察(Insight)”を得ることができます。
4.フォーカスグループの分析
フォーカスグループの議論結果は、以下の観点で確認・分析できます。AIエージェントが進行を管理しており、議論の要点整理から改善案の提案まで自動的に実施します。
- 議論の改善サマリー
- 各ペルソナの意見サマリー
- 改善案
- 実際の会話ログの参照
5.感情分析を可視化するDashboard
Dashboardは、ペルソナとのインタビュー結果やチャット内容を自動的に分析し、可視化するための機能です。単なるログ表示ではなく、生成AIによるテキスト理解・感情推定・要点抽出を組み合わせ、意思決定に使える洞察(インサイト)として下記のようなグラフを出力する点が特徴です。
- 属性分布
- 感情分析
- キーポイント抽出
SSPは、単なる市場調査ツールにとどまらず、業界や業務の枠を超えて多様なシミュレーションニーズに応える“汎用的な対話・行動シミュレーション基盤”として開発を進めています。さらに、ヨーロッパを中心に顧客との共創を推進し、実用性の検証や課題の抽出を行うことで、実際の業務に役立つ価値提供を目指しています。
マーケティング、製品開発、営業、組織運営、研修、人事、さらには経営層の意思決定支援まで、幅広い用途に柔軟に適応できるプラットフォームを目指しており、企業が抱えるさまざまな問いや仮説検証に対して、迅速かつ低コストで答えを導き出すことが可能になります。
未来をデザインし経営を導くデジタルペルソナ
生成AIの高度化によって、デジタルペルソナはより豊かな個性(価値観・感情・行動パターン)を持ち、現実の人間に近い反応を示すようになります。これにより、単なる「仮想顧客」や「シミュレーション用エージェント」を超え、企業や社会における意思決定そのものを支える新たな“デジタル個体”として進化していくでしょう。
企業活動においては、デジタルペルソナを活用し、市場反応だけでなく、社会的変化、価値観の多様化、消費行動の揺らぎなど、従来の調査では見えなかった「変化の予兆」を捉え、意思決定に活かすことが可能となります。
さらに、デジタルペルソナは特定の顧客セグメントにとどまらず、従業員・市民・投資家・医療患者・利用者など、多様なステークホルダーの視点を同時に再現できる存在へと拡張していくことで、企業において、「過去データに基づく計画」から「未来をデザインする経営」へとシフトしていくでしょう。
将来的には個人レベルでも自分自身のデジタルツイン・意思決定アシスタントとしてのデジタルペルソナが普及し、日常の選択やキャリア、ライフプランの検討をサポートする時代が訪れるかもしれません。
社会全体が、人間とデジタル人格が共存し、相互に学び合うエコシステムへと変化していくことが予測されます。
今後の展望
デジタルペルソナは、意思決定の幅を広げ、人間の認知バイアスを補い、現状と未来を多面的に理解するための『デジタル上のもう一つの社会』を形成していきます。こうした進化により、企業・行政・個人はいずれ、現実世界で行動する前に、多様なペルソナとともに未来を検証し、最適な選択肢を見つけることが当たり前となる世界がくるでしょう。


AIエージェントが変えるビジネスの未来についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/0910/
あわせて読みたい: