プロフェッショナルとしてサステナビリティ経営をけん引する推進本部
――まずは、サステナビリティ経営推進本部のミッションや役割についてご紹介いただけますか?
NTT DATAは、環境や社会への影響を踏まえ、持続的に成長していくための重要課題として、「3つの柱(3 Positives)」と「13のマテリアリティ」を設定しています。「3つの柱」とは、経済活動を前向きに進める「Prosperity Positive」 と、地球環境や社会にプラスの影響をもたらす「Planet/People Positive」を両立させることを意味します。企業活動と事業活動の両面から、社会課題や環境課題の解決に取り組んでいます。
その中で、サステナビリティ経営推進本部は、全社の取り組みを推進する司令塔として、主に3つの役割を担っています。1つ目は戦略策定です。グループ全体のサステナビリティ経営の方向性を定め、事業計画に反映しています。2つ目は事業部門の横断的なサポートです。サステナビリティビジネスの情報収集や提供を行うほか、個別案件の支援、さらにはNTT DATA自身の環境負荷低減にも取り組んでいます。3つ目は外部への情報開示です。自社の取り組みや成果を発信することで、透明性を高めるとともに、企業価値の向上を目指しています。
私はその中でも特に、2つ目の「事業部門のサステナビリティビジネス推進のサポート」を担当しています。
――推進本部ならではの強みや、他部署にはない役割について教えてください。
推進本部の大きな強みは、グローバルを含む全社組織としての幅広い視点と、サステナビリティの知見、外部団体や他企業とのネットワークです。
私たちは、組織名にもある通り、サステナビリティのプロフェッショナルである必要があります。サステナビリティの知見を得るために、海外グループ会社からの情報を元に先行している欧州の動向を把握したり、外部団体の会合などで有識者や他社と交流することで業界全体の今後の動きを探ったり、常に情報感度を高く保ち、動向を見極めるよう努めています。また、それらの情報は組織内でも共有し、組織全体としての力を向上させるようにしています。
これらのサステナビリティの知見をビジネス拡大につなげていくため、サステナビリティに関連するビジネスを行っている事業部門を全社から集め、サステナビリティビジネス推進TF(タスクフォース)を立ち上げ、活動しています。サステナビリティのビジネス自体は事業部門が提供するので、私たちの組織は事業部門のサポートを行う立場。このTF活動の中では、ビジネスにつながる情報の提供を目的とした月1回の情報共有会の開催や、個別のプロジェクトの知識やリソース面でのサポートを行うことで、事業部門でのサステナビリティビジネスの拡大を目指しています。
環境課題解決と事業を両立させるために。部門を超えた“つながり”を先導
――佐藤さんが環境分野に関心を持ったきっかけは何でしたか?
幼い頃から、祖父母の住む自然豊かな場所で過ごす時間が大好きで、自然はとても身近な存在でした。そんな私にとって大きな影響を与えたのは、『素敵な宇宙船地球号』という環境問題をとりあげたテレビ番組と、それをもとにした本でした。「このままでは地球が危ない」と幼いながら強く感じ、「自然を守りたい」という想いが生まれました。その気持ちこそが、今のキャリア選択につながっています。
――幼少期から環境問題に関心があったとのことですが、推進本部で働こうと思った理由は何ですか?
入社後は法人向けシステム開発のPMを経験し、その後は食や農業ビジネスの企画推進に携わりました。しかし、社会的意義の高いテーマでも、「事業として持続可能にする難しさ」を痛感したのです。事業部門に求められることは、お客様の方針に沿って最適なソリューションを提供すること。それは必ずしもサステナビリティに直結するわけではありませんでした。この経験が、「環境課題に取り組みながら事業としても成立させる仕組みをつくりたい」という想いにつながっています。
サステナビリティ経営推進本部を選んだ一番の理由は、その思いを実現できる環境があったからです。事業部門に所属しながら個人の力で学び、仲間を集めて取り組みを広げることには限界があります。一方で推進本部では、サステナビリティに関する知識を得ながら、事業として環境課題を解決していける仕組みづくりに携わることができます。
最もやりがいに感じているのは、事業部門で検討してきたことに私たちの持つケイパビリティが加わり、サービスとして世に送り出されることです。自分が直接表舞台に立つわけではありませんが、プレスリリースとして発表されるのを目にすると、チームの一員として大きな喜びを感じます。
――これまで携わったプロジェクトの具体例を教えてください。
代表的な取り組みのひとつが「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」に関するプロジェクトです。欧州では電気自動車用バッテリーのトレーサビリティや温室効果ガス排出量の情報開示を義務付ける規制(ELV規制)が進められており、日本の自動車メーカーも対応が求められていました。そこで、日本で最初となるバッテリートレーサビリティプラットフォームの構築に向けて検討を開始しました。
検討を進める中で、事業部門には規制や温室効果ガス算出に関する知識が十分に整っていない状況がありました。私たちは欧州各国の法律の施行に向けた動きや欧州側のデータスペースの詳細などについてタイムリーに情報を共有し続けました。その結果、NEDOの事業に採択され、経産省が推進する「ウラノスエコシステム」のファーストユースケースとしてプロジェクトを実現することができました。
このプロジェクトをきっかけに、化学物質のトレーサビリティ管理システムや、企業間データ連携を支援するサービス「X-Curia」などへも取り組みが広がり、NTT DATAのデータ連携基盤分野における活動の幅が広がっています。
――サステナビリティビジネスを進めるうえでは、個別課題の解決だけでなく、全体最適を意識した視点が重要です。
そうですね。サステナビリティの取り組みは、一社や一部門だけで完結するものではなく、業界全体や複数企業をまたいだ協働が不可欠です。データ連携基盤によるデータ流通もまさにその例であり、全体最適を見据えながら仕組みを構築していく必要があります。
ここのようなサービスを形にしていくには、NTT DATAの社内においても分野や事業部門を越えた連携が欠かせません。推進本部は全社組織としての横断的な役割を担っており、異なる事業部門をつなげていくことでプロジェクトの前進をサポートしています。
また、冒頭で触れた「サステナビリティビジネス推進TF」では、社内の幅広い事業部門からメンバーが集まり、各分野の有識者が知見を持ち寄っています。この場を通じて互いの専門性を掛け合わせ、新しいアイデアや価値を生み出すことができればと考えています。
デジタルを活用した「つくる力」と「つなぐ力」で拓くサステナビリティの可能性
――サステナビリティビジネスを推進するうえで、いま感じている課題はありますか?
社内の課題は主に3つあります。
1つ目は、「環境価値」と「経済価値」をどう両立させるかです。サステナビリティビジネスは社会にとって必要な取り組みである一方、「収益につながりにくいのでは」と思われることもあります。実際、案件数は増えてきているものの、収益性という点ではまだ課題が残っています。だからこそ、私たちが外部団体などでルールづくりに積極的に関わり、持続可能な市場そのものを育てていくことが重要だと考えています。
2つ目は、NTT DATAならではの強みをどう生かすかです。NTT DATAにはシステムを「つくる力」と、ネットワークにとどまらず業界や企業の枠を超えて人や仕組みを「つなぐ力」があると考えています。例えば、バッテリーや化学物質のトレーサビリティのように、一社だけでは解決できない課題に対して、業界全体を巻き込んだプラットフォームを提供できるのは大きな強みです。NTT DATAだからこそできる取り組みを、もっと形にしていきたいと思っています。
3つ目は、社員への「事業にサステナビリティの観点を組み込む」意識の浸透です。サステナビリティビジネス推進TFでは、サステナビリティに直結するビジネスに携わるメンバーが集まっていますが、それ以外のビジネスでも実はサステナビリティにつながることがあります。例えば、再生可能エネルギーで稼働するデータセンター(三鷹データセンターEAST等)を利用していたり、衛星画像をもとにした全世界デジタル3D地図(AW3D)のデータが資源や環境分野にも活用されていたり、主とするビジネスに付随してサステナビリティの観点を組み込むこともできます。こうした取り組みを「自分の仕事の延長線上にあるもの」として全社員に認識してもらいたいと考えています。推進本部では、全社員向けのオンライン研修や、全社セミナー、ワークショップを通じて学びや気づきの場を提供しています。
――最後に、推進本部での挑戦や、佐藤さんご自身が目指している未来について聞かせてください。
私は「ITの力で社会の仕組みを変えることで、環境問題の解決に貢献したい」という想いを持ち、NTT DATAに入社しました。今はまさに、温室効果ガスの削減や資源循環の仕組みづくりに携わることができており、大きなやりがいを感じています。
これからも先ほどお話しした課題に一つひとつ向き合いながら、NTT DATAならではの強みを発揮し、社会やお客様、そして環境にも価値を届けられる仕組みをつくっていきたいと思います。ITを通じて持続可能な未来を形にしていく、その挑戦を続けていきたいです。


