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2020年7月28日INSIGHT

“紙よさらば” Vol.1 ブロックチェーンが導くペーパーレス化への道

デジタル推進を目標に掲げ業務改革に取り組む企業は多いが、紙の手続きは必要という固定観念も根強く残っている。これを覆す技術として注目されているのがブロックチェーンだ。これを活用し、貿易業務に携わる業界各社とともに長大で複雑な業務プロセスのデジタル化に挑んでいる赤羽喜治部長に、紙が有する物理的な制約を無くし、脱ハンコ、脱紙を実現するためのポイントについて取材した。

◆日本が向かう先は「デジタル鎖国」か

――新型コロナの影響でリモートワークが普及し、新たな働き方が定着し始めましたが押印等のために出社する事例が多々あります。このままではペーパーレスの実現は不可能ではないかと危惧しています。

赤羽経済産業省などが主導し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の対応を進めていますが、その一方でアナログな手続きをそのまま電子化する事例をよく耳にします。この状況では、ペーパーレスの取り組みは限定的にしかならないため、紙を使って何をしたかったのか一度立ち止まって考える必要があると思っています。これまで日本企業は、乾いた布を絞るかのように知恵と努力で業務ごとの最適化に挑んできました。それぞれ個別のシステム化への対応は大いに評価される内容ばかりです。しかし、ここにきてアナログからデジタルへの変革期に入ると、これまでのような局所的な最適化だけでは通用しなくなります。今まさに日本の商慣習を見直す時期に来ているのです。

その時に各社が従来通り、個別の仕組みを作るとなれば、膨大な投資に耐えられなくなるはずです。さらには世界とのインターオペラビリティ(※1)も必要になります。世界の動向、特に全く新しいデジタルの仕組み作りに国として動き出したASEAN諸国などと比較すれば、数年後の日本は「デジタルガラパゴス」となっているかもしれません。これまで日本が培ってきたデジタル技術を生かすためにも、“共有プラットフォーム”を使うことを前提にした新しい取り組みが必要なことを強調します。そのために貿易コンソーシアムを立ち上げ議論を重ねてきたのです。

◆仮想通貨はほんの一例

――今、ブロックチェーンを貿易業務に活用するためのプラットフォーム構築に尽力されていますが、その取り組みの考え方を教えてください。また、ブロックチェーンと聞くと仮想通貨を連想してしまいます。何が違うのでしょうか。

赤羽ブロックチェーンは、仮想通貨のビットコインで知られるようになった技術のため、一般的にはどうしても仮想通貨や海外送金のイメージにつながってしまいます。しかし、これはブロックチェーンを活用した一例に過ぎません。ブロックチェーンは、取引を検証可能で恒久的な方法で記録することのできるオープンな「分散型台帳」技術です。分散型台帳とは、これまで各システムが個別のデータベースに格納していた台帳データをブロックチェーン技術によってネットワークを介し皆で共有する仕組みのことです。その高い汎用性から、金融だけでなく幅広い分野で応用できるものなのです。分散型台帳では、同じ台帳データが複数のシステムに配置され、ユーザーからの書き込み要求があれば、それが全システムで共有され、それぞれのシステムで検証し同じ書き込みがされることで同期していきます。そのため各システム間での合意形成ルール(コンセンサスアルゴリズム)こそが、ブロックチェーン技術に欠かせない要素となっています。
私たちが取り組むのは、オープンでグローバルな貿易エコシステムです。貿易業務は国や業界を跨いだ関係者が多く、仕組みが複雑なため従来の技術では実現不可能といわれてきました。ここにブロックチェーンを組み込み、参加者間の情報共有が可能になるプラットフォームを構築していきます。私たちが目指すのは貿易文書の電子化にとどまらない新たな価値の提供です。NTTデータで多くの社会インフラ構築・運用を手掛けてきた経験を活かして、新しい社会のしくみを生み出していくことが私たちのミッションなのです。

図:貿易プラットフォーム イメージ

図:貿易プラットフォーム イメージ

◆加速する海外の電子化法制

――分散型台帳の普及が、紙を無くす起爆剤になるのではないかと感じました。そこで気になるのが、これまで紙が担保していた原本性を電子データにどのように付与していくのか、といったポイントです。どのように解決していくのでしょうか。

赤羽電子データの原本性を実現するには分散台帳のような新技術だけでなく、法律での担保が重要となります。貿易関連でいえば、昨年の商法改正では荷物の送り状は電子化しても良いと明記されましたが、有価証券性を持つ船荷証券の電子化については言及されないままでした。同じ貿易書類でありながら片方だけ言及されないというのは、法律的には担保されていないと解釈されかねず、電子化へのハードルを上げる結果になってしまっています。
一方、国連の専門部会である「UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)」は2017年に一般的な有価証券を電子的に扱うためのモデル法(MLETR:Model Law on Electronic Transferable Record、電子的移転可能記録に関するモデル法)を策定しています。これを基に各国で法整備の検討を行う流れになっており、バーレーンではすでに立法化され、シンガポールでも法律を整備する方針です。デジタル対応では日本より圧倒的に遅れていたASEAN各国でも一気に動きを加速させており、このままでは日本がデジタル後進国になる懸念さえ抱いてしまう、そんな状況です。

◆なくすべきは固定概念

赤羽MLETRでは電子的記録が紙と同等の原本性を持つ要件として (1)単一性 (2)占有性(3)完全性 の3点を挙げています。
これまでの紙文化では、原本は物理的に一つのみで、誰かがそれを占有するといった考え方になります。一方で分散型台帳では参加者が同じデータを共有していることが担保され、分散型台帳上のデータを原本として考えることができます。つまり分散型台帳以外のシステムのデータや印刷した紙はその写しと考えるわけです。台帳上の単一のデータを参加者で共有する一方、編集権限を持つ参加者を限定し、かつ編集履歴を分散台帳上で共有することで透明性を確保し、占有できているという状態を担保するという考え方になります。
紙を無くしていくには、紙文化を所与の前提とした私たちの固定概念をまず捨てないといけません。新しい技術を取り入れ、新たな社会を作り出していくには、そもそも紙という物理的な媒体を使って実現したかったことに立ち返って再度文化を設計しなおしていく必要があると思います。

◆フェアでセキュアなプラットフォーム提唱を目指す

――紙がいまだに威力を見せる状態では、海外の動きについていけないことになるのではないでしょうか。各国の取り組み状況と合わせて、今後の展開への考えを教えてください。

赤羽国内では急激なデジタル化への移行を迫られた結果、単にアナログのイメージのまま電子化していく事例が散見されます。中にはリアルさを求めて電子印影を傾けるといった類の機能まであるという話も聞きますが、これは本質的なことではないと思っています。海外動向を注視しながら新たな「デジタルガラパゴス」を作ることなく紙の電子化議論が積極的に行われていくことに期待したいですね。そのための活動を続けていく方針です。
貿易プラットフォームの海外動向をみると、欧米だけでなくアジアでの取り組みが活発化しています。ASEANでは前述したようにDXへのリープフロッグ(※2)を目指しており、中国は一帯一路構想やデジタル人民元への流れをにらみながら積極的な行動を起こしています。貿易プラットフォームの陣取り合戦が勃発している状況です。特定国家や企業によるデータの寡占・偏重が起きない、フェアでセキュアなプラットフォームを日本から提唱しなくてはいけない。その意味で私たちはこの取り組みの重要性を意識し、高い壁に挑んでいきたいと考えています。

(※1)相互接続性。複数の異なるシステムが接続しあえるようにデータ形式やプロトコルの互換性が確保されていること。

(※2)新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展の段階を飛び越え一気に進展すること

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