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2021.8.6事例&対談

#1 イノベーションを文化に ~北欧に見る、誰も取り残さないデジタル社会~

ニューノーマル時代の新しいデジタル社会。そこには「イノベーション」はもちろん、誰も取り残されない「インクルージョン」の考え方が必要だ。イノベーションが根付くデンマークで活動するロスキレ大学の安岡准教授とNTTデータでオープンイノベーション活動を推進する渡辺の対談を通じて、今後必要とされる社会の在り方をひもとく。

目次

0. いま、イノベーションに必要な視点

新型コロナウイルスは、社会を一変させた。この社会課題を乗り越え、今後描くべき新しい社会像を描くためにはデジタル技術の力を活用していくことが必要不可欠だ。このような中、NTTデータ経営研究所ではNTTデータグループの保有するデジタル技術に関するさまざまな知見を活用し、ニューノーマル時代の新しいデジタル社会に関する提言、「Re-Design by Digital ~デジタルによる社会の再構築~」をまとめた。
「目指すべきデジタル社会の方向性」「デジタル社会を支える情報システムの在り方」「デジタル社会実現のために必要となる人材」の3つの観点から、具体的に実現すべき7つのメッセージを発信している。
今回は、このうちの2つ「あらゆる生活者が参加し対話できる社会」(インクルージョン)と、「新しい価値を創造する社会」(イノベーション)に着目したい。

既存のビジネスモデルの改良だけでは、新型コロナが巻き起こした急激な環境変化を乗り切るのは難しく、新しい価値をもたらすビジネスの創造が必要だ。一方で、これからわれわれの目の前に現れる社会課題は、難解で答えの見えないものが多くなるだろう。これを解きほぐしていくためには、単一ではなく多様な価値観、視点を持ちながら議論していくことが重要となる。そのために、あらゆる生活者が参加でき、対話できる社会をつくりあげていく必要がある。
イノベーションは社会に大きな変化を与える。華々しい勝者が誕生する一方で、取り残される敗者も生むだろう。果たして、新しい価値を創造することと、誰ひとり取りこぼさない観点。これらは両立するのだろうか。

本稿では、デンマークにおいて参加型デザイン・リビングラボ等の共創手法を専門として活動するロスキレ大学の安岡 美佳准教授と、NTTデータで技術を有するベンチャーと企業をつなぐオープンイノベーション活動「豊洲の港から」を推進する渡辺 出の対談を通じ、新しい社会の在り方を模索する。

1. 「豊洲の港から」がもつ意味

渡辺イノベーションを起こすためには「場」や「仲間づくり」が大切です。NTTデータでは、NTTデータと顧客の大手企業、先端技術を持ったベンチャーの三者がWin-Win-Winの関係となるオープンイノベーションの創発を目的に、2013年から「豊洲の港から」という活動を行っています。半歩先のテーマを設定し、先進的な取り組みを実施しているスタートアップに登壇いただくことで新規ビジネス創発の機会とする定例会(ベンチャーイベント)の開催や、世界各地でオープンイノベーションコンテストを開催することでビジネス協業を目指す取り組みなどを続けてきました。また、「豊洲の港から」では、エコシステムを作ってコミュニティを拡大しており、現在メンバーは4,000名ほどになっています。
初期のコンテストの受賞企業には「マネーフォワード」や「freee」といった、今やフィンテックのメガベンチャーとなっている企業も含まれています。

【図1】「豊洲の港から」のイノベーター・ネットワーク

図1:「豊洲の港から」のイノベーター・ネットワーク

渡辺「豊洲の港から」をきっかけにした協業事例として、イスラエルのバイタルデータ企業「Binah.ai」と、NTTデータのヘルスケア事業部が協業してビジネス化を進めている案件や、無人店舗の技術を持つ中国の「cloudpick」と協業して日本でのデジタル店舗構築に向けて取り組んでいる案件があります。また、SNSから市民の困りごとを拾いあげるAIエンジンを開発しているスペインの「Citibeats(旧・Social Coin)」とNTTデータのTwitterデータを分析するチームが連携して、社会課題を解決するソリューションの事例もあります。

安岡オープンイノベーションの活動は、ヨーロッパではVCやアクセラレータがそれぞれ分担して行っているのが一般的です。NTTデータはこれを1社で横串を通し、しかも2013年から行っているのは大きな強みですね。オープンイノベーションの活動というのは、すぐに結果が出るわけではありません。なので、その推進は企業体力がないとできない。大企業がオープンイノベーションの活動に取り組んで、それを発信していくことに対し、期待値は大きいと思います。

2. イノベーションを起こす仕組みが根付くデンマーク

安岡私は2005年から北欧に住み始め、今年で17年目になります。もともとはグループウェアの研究をしていましたが、本当に使い勝手のよいシステムを作るためには、システムデザインの初期段階からユーザーを巻き込むことが重要だと考えました。日本での博士課程の指導教官から北欧のユーザー参加型デザインを聞き、関心を持ちました。そして現在は「リビングラボ」を研究トピックとしています。

デンマークは電子政府の世界的な評価が高く、コロナ渦においても、「適切な人へ適切な時期にワクチン注射の連絡がいき、打ち終わった記録もすぐにデジタルに反映できる」というように、レジリエンスな社会を支えています。使い勝手がよく考えられていて、ITが生活を豊かにすることを住民が感じられるようになっています。

日本とデンマークには大きな違いがあると考えます。それは民主主義教育が根付いている点です。デンマークには、ホロコーストなどの歴史的な反省から、民主主義を維持し続けられるように選挙や議論、議事を取るときの仕組みを工夫し、少数意見を反映させるヒアリングを行うことが根付いています。民主主義は「多様な意見を取り入れつつ社会における最大幸福を達成する」ことだと教えられており、いろいろな意見を聞き決断することが重要だと考えられています。マイノリティであった考えが数年で多数意見となることもある現代社会において、少数意見を取り込むことを志向する民主主義の考え方は、変化があった時にいち早く対応できる仕組みが組み込まれているといえます。

イノベーションの起こりやすさに関係している、多様性を生かしたディスカッションの場がリビングラボです。リビングラボは社会を変える手助けをするもので、一度作っておくとうまく仕組みに乗っかってインタラクションや新しい発見につながりやすいです。具体的な例としては、IKEAのイノベーション組織といわれる「SPACE10」(スペーステン)があります。オープンコラボレーションスペースでは、3~6か月かけてリビングラボ的な取り組みが行われることもあります。IKEA内だけでなく、外部企業や地域の人を巻き込んでアウトプットを出していくこともあります。イノベーションのハブとして認知されることで、結果的にとがった人たちが集まるエリアになっています。

【図2】IKEAのリビングラボ「SPACE10」

図2:IKEAのリビングラボ「SPACE10」

渡辺会社だと「直近のビジネスにつながるか」、「マーケットが大きいか」といった事が重視されがちですが、多様な意見を引き出すには、まだ着目されていないマイノリティの意見にも注視することが大事になってきます。さらに、生活者視点を取り入れるという意味で、リビングラボのように街中により近いところの場が必要と考えています。NTTデータとしても、生活者のニーズをくみ取って、企業としてどうしていくのかという活動を強化していかなければなりませんね。

3. 継続こそがイノベーションを生む

渡辺オープンイノベーションは成果が見えにくいので、「いつ実がなるのか」、「早く収穫したい」という話になりがちです。短期的・長期的な視点からイノベーション活動の価値をとらえ、その価値を多くの方に発信していきたいです。時間はかかるが粘り強くやっていくことで成果は出ますし、同じ課題感を持っているメンバーが増えることで、可能性が広がっていきます。デンマークでも長い時間をかけて今の世界が来たという事だったので、継続することの重要性は実証されていますね。

渡辺活動の持続性を高めるためには、小さな成果でも積み上げていくことが重要です。大きな成果につなげることはどうしても時間がかかってしまうので、少しでいいので進捗を目に見える形に仕上げて世の中に発信していくことが大事になります。

安岡一方で、長期ビジョンを示すことも大事ですね。

渡辺まさにそうですね。その中に、仮説としてどういう活動をしていくかという最終的な目標を設定できるとよいです。実行まで落とし込めないと、いつまでたっても目標が達成されないという課題が出てきます。

渡辺「豊洲の港から」の活動が続いているのは、トップのコミットメントがあるという事も大きく影響しています。トップには適宜報告を入れ、経営陣の描くイノベーションの世界観や形を取り入れるように意識しています。全方向でコミュニケーションをとり、信頼関係をつくることが継続するうえで重要になってきます。

渡辺どうしてもこのような活動は、途中から短期的な利益を求めてしまうようになるので、そこをコミットできるような経営戦略を作らないといけません。経営に責任主体組織を作り、リソースを与えて中長期的な役割を与えるべきではないでしょうか。

4. 誰も取り残されない社会へ

渡辺安岡先生が話されたデンマークにおける「誰も取り残さない、誰しもが取り残されない」という考え方が心に響きました。個人的には、身体的、精神的、あるいは経済的な障がいのある方、コロナ渦で制約を受けている方をITの力でサポートしていく仕組みを追求していきたいと思っています。経済的な効果にフォーカスしがちではありますが、いろいろな立場の人が考えている課題を広く拾い、リビングラボのような場所で解決にチャレンジしていくことが今後より重要になるのではないでしょうか。さまざまなベンチャーが既に世界中でチャレンジを始めており、一緒に手を組んで社会実装を進めることが必要だと感じました。

安岡素晴らしい考えですね。これからデジタル化が避けられない社会になります。デジタルはもろ刃の剣で、社会を良くもできるし、悪くもできる。例えば、人々を監視する社会にするのか、人々を守る社会にするのか。デジタル化が進むことで人間の能力は拡張されます。障害のある方、立場の弱い方が社会に貢献し、社会に進出する可能性が広がっており、それをサポートしていくことが重要だと思います。

5. まとめ

本対談において、少数の意見を取り残さないことこそが、将来のイノベーションの創出につながる重要な要因であることがうかがえた。また、それには時間も体力(資金)も必要となる。
欧州では、日本との文化的、社会制度的な違いから、複数のプレーヤーがそのような環境を支えているが、日本では難しいのが現状だろう。その意味において、社会基盤を支える使命を持つNTTデータが、「豊洲の港から」という枠組みの中で、継続的にスタートアップ連携をしていることの意義が見いだせた。
今後は、社会のデジタル化が進む中、企業だけでなく、個人の単位で社会にさまざまな機会で直接参画することが可能になってくる。今後、そういった個人、生活者(特に、弱者、少数者を含め)の視点をいかに社会システム、サービスに取り入れていくべきか、企業としての姿勢が問われている。

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