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2021年11月18日事例を知る

レジに並ばずお買い物。ダイエーの「ウォークスルー店舗」とは

コロナ禍を経験し、私たちの生活のあらゆるシーンで非対面・非接触のニーズが高まっている。こうした課題に直面している小売業界は、労働力不足にも頭を悩ます。これらに光をもたらす施策として、レジ精算が不要な新しいスタイルの店舗「ウォークスルー店舗」に注目が集まる。株式会社ダイエーは、次代に向けた検証のため東京・豊洲のNTTデータ本社内にウォークスルー店舗をオープン。非接触の店舗は「本当に便利」とユーザーも唸る。今回はこの実証実験に迫る。
目次

1.非対面・非接触でレジ支払いのない、新たな顧客体験を提案

商品の会計を行う物理的なレジが存在しない小売店舗の実現に向けた取り組みが、日本でも動き始めている。その背景にはどの業界でも不可欠な業務効率化・生産性向上はもちろんのこと、店舗運営に関わる人手不足、そして今般のパンデミックで激変した消費者ニーズへの対応がある。

ダイエーにおいてシステム全般に関わる取り組みを管轄し、店舗運営のデジタル化を推進するICT戦略本部 ICT企画部 部長の山内洋氏はこう語る。

株式会社ダイエー ICT戦略本部 ICT企画部 部長 山内 洋氏

株式会社ダイエー ICT戦略本部 ICT企画部 部長
山内 洋氏

「やはりコロナ禍を経験して非対面・非接触のニーズが高まっていますし、買い物にかける時間をなるべく短くしたいという省時間意識も増えています。そう考えたとき、ネックとなるのがレジ。コロナ禍以前から、レジに並び、財布からお金を出して支払うという一連の行動は、楽しい買い物体験の中でもマイナスの要素となりがちでした。それがコロナ禍を経て、対面の接客はもちろんのこと、セルフレジであっても不特定多数の人が触ることへの警戒感が生まれ、レジに関するニーズが一気に顕在化したと捉えています」

これらの課題解決に力を発揮すると考えられるのが、デジタル技術だ。「ダイエーは会社の方針として、『小売のあらゆるプロセスにおけるデジタル化の推進』を掲げています。2021年は、お客様からのニーズも高いレジ・決済回りのデジタルを活用した改善に取り組んでいます」と山内氏。“いちばんわかりやすい形”(山内氏)として、レジ精算がないウォークスルー店舗の実現をイメージしているとのことで、「お客様の負担になりやすいレジの場面を一切なくすことで、買い物を楽しんでいただける新しい顧客体験を提供できると考えています」と話す。山内氏の言葉のとおり、ダイエーは2021年9月2日、NTTデータが提供する「Catch&Goサービス」を活用したウォークスルー店舗を東京・豊洲のNTTデータ社内にオープンした。

2.NTTデータの呼びかけにダイエーが応えて協業が始まる

Catch&Goサービスは、あらかじめユーザー登録を行った利用者が、スマートフォンアプリに表示したQRコードをゲートにかざして入店することで、レジでの支払いを行うことなく、手に取った商品をそのまま持ち帰ることを可能とするものだ。

QRコードをゲートにかざして入店

QRコードをゲートにかざして入店

店舗に設置したカメラと商品棚の重量センサーで手に取った商品を認識。スマホは入店後は一切不要で、手にした商品はオンラインカートに自動追加される。セルフレジのようにスキャンの必要すらなく、その場で個人のバッグに入れることも可能だ。また、一度手にしたものを棚に戻した商品はオンラインカートから自動削除される。ちなみに、同行者も入店時に認証されたアカウントで買い物できる仕組みになっている。

店舗に設置されたカメラ

店舗に設置されたカメラ

NTTデータ社屋内に設置されたこのウォークスルー店舗は、サービス名にちなんで「CATCH&GO」と名づけられた。両社は同店舗を、ウォークスルーにおける業務オペレーションの運用検証を行う実証店舗と位置づけている。登録ユーザーは主にNTTデータの社員。扱う商品は弁当や飲料、菓子、冷凍食品など約600品目で、営業時間は朝9時から夜8時までとなっている。

そもそもダイエーとNTTデータの出会いはいつ、どのようなきっかけで生まれたのか。NTTデータでDX推進とデジタルマーケティングに関わるITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部長の内山尚幸は、当時を振り返る。

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部長 内山 尚幸

ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部長
内山 尚幸

「2019年9月から半年ほど、当社で東京・六本木にCatch&Goサービスを紹介するショールームを設置しました。ダイエー様にはそこで実際にウォークスルーをご体験いただき、当社のウォークスルー店舗に関する取り組みをご理解いただきました。その後、Catch&Goサービスを採用したリアル店舗で実際に効果を検証してみなければ将来的な本格展開にはつながらないと判断し、当社内にウォークスルー店舗を設置する話が決まりました。そして興味を持っていただいた複数企業の中からダイエー様にお声かけした次第です」

NTTデータから声をかけたのは2020年秋のこと。その後ディスカッションを重ね、最終的には2021年2月、プロジェクト始動が正式決定した。実はダイエーとしても、それ以前にセンサーとカメラを使った実験を社内で行っていたという。ただ、基幹システムと接続する形ではなく、あくまでスタンドアロンの実験的取り組みであったようだ。

山内氏は決断の経緯をこう語る。「Catch&Goサービスは当社での実験に比べてレベルが高く、何人もが同時に店舗に入っても問題なくセンシングできるソリューションです。日本でもリアル店舗へのウォークスルー導入がかなり近づいてきたと実感しました。NTTデータからの提案は、ダイエーの発注システムとつなぎ、物流ネットワークにも組み込んで実際の店舗同様に進めるとのことでしたので、当社としても将来的な店舗展開に向け大きな期待を抱き、協業を決断しました」

3.将来的な路面店実現の足がかりとして検証を進める

店舗での検証において、まずダイエー側は、商品の発注・補充、入荷時の処理、さらには店内のメンテナンス等も含め、トータルで効率化をチェックしたいとの考えがある。もちろんその先には今回のようにユーザーが限定されたクローズドな環境だけではなく、将来的に一般向けの路面店を展開可能か見極めたいという思惑もあるとのことだ。また、スマホアプリを通じて、賞味期限が近づいた弁当などの見切り販売を通知することで、フードロス削減に取り組む狙いもあるという。

一方のNTTデータは、顧客企業のビジネス・業務(オペレーション)・ITの3要素すべてを変革したDX推進のために、ビジネスモデルとして実際にどのように活かせるかを検証したいとの思いがある。
「Catch&GoサービスというITシステムの精度には自信がありますが、実店舗でオペレーション改善をどれだけ進められるか、それによってビジネスにどれだけ良い効果を与えられるかを確かめたい」と内山は話す。

その“自信”の精度については、店舗内に10人の客が入っている状況でも各個客が手に取った商品をしっかり捕捉でき、決済も問題なく行える。更に誤検知による請求ミスもほぼ起きないことが確認された。精度に加えて、棚にどの商品が何個あるかといった店舗内の商品や顧客の動きを可視化し、そのデータをスマホからリアルタイムで確認できる点も強みだと、内山は強調する。実際、オープンから1カ月経っていない9月末時点で、データ分析に基づく商品棚卸の業務改善が行われている。

「昼に売れる商品、夜に売れる商品といったように時間帯別のデータや、来店客の行動データを分析し、商品の入れ替えを始めています。一般の店舗とは異なり、土日は営業しないなどイレギュラーな部分をアレンジしながら、完全な自動発注に向けた準備も進めています」と山内氏は成果を語る。

4.出店までの苦労を乗り越え想定を上回る成果を得る

他方で実現に向けては、当然ながら苦労もあった。山内氏は「今回はこれまでにないスタイルの店舗を出すということで、何もかもが初体験で、苦労は尽きませんでした。そもそも当社の基幹システムを他のサービスと連携することがこれまではありませんでした。さらに、すべての商品の画像を商品マスターと紐づけてAIに学習させる作業も大変でした」と、これまでのデジタル化施策との勝手の違いを振り返る。「ただ、オープン前も後も、NTTデータは課題に一つひとつ丁寧に取り組み、解決してくれている印象です」と付け加えた。

対して内山は、システムとの接続やAIの学習はいわばNTTデータの本領の部分であり、“わかっている”世界であるため柔軟に対応できた一方で、「商品入荷時のトラックがビルのどの位置に横付けされ、そこから店舗までどのように商品が運ばれ、店員がどういった基準で配置するのか、さらにはフードロスを出さないための対策など小売業界ならではの業務についてはまったくわかっていませんでした。ダイエー様に一から教えてもらいながら、極力無駄をなくしつつ、店舗として回せるスタイルを設計していく作業に苦労しました」と話す。

ちなみに店舗運営に関わるダイエー側の人員は、午前中に入荷する商品の処理を行うのが1人、それ以外の時間帯は無人で運営可能とのことだ。一方、客数は当初の想定を上回っていると山内氏は話す。
また、利用者からネガティブな意見はまったく聞かれず、「最初こそ手に取った商品をそのまま持ち出すのが不安だったようですが、一度慣れてしまえば本当に便利だと言われます」と内山は強調する。

今後について、山内氏は具体的な計画はまだこれからだとしながらも、「スタイルはともかく、何かしらの形でウォークスルー店舗を実現していきたいとの思いは強く抱いています。課題はいろいろとありますが、NTTデータに協力してもらい、一つひとつ解決することで、路面店も必ず実現できる。なんとか実現したいと思っています」と展望を示した。

最後に内山は、「データをリアルタイムに捕捉・蓄積することで、プライシングや物流の最適化、効果的なプロモーション、商圏や立地場所の特性にフィットする店舗スタイルの開発など、できることはまだまだあります。当社は、ダイエー様のビジネスをIT活用により深めていくところで、さらなる貢献を追求していきます」と力強く語った。

株式会社ダイエー
1957年創業。20世紀後半にスーパーマーケットの一大チェーンを築き上げた。2015年、イオンの完全子会社となり、現在は関東・近畿でスーパーマーケットを展開。デジタル技術も積極採用しながらスーパーマーケットの新たな価値を追求している。

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