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2023年3月13日展望を知る

再生可能エネルギーを最大限活用!
エネルギーデータ流通・活用の取り組み

カーボンニュートラルの実現に向けて、大量導入が求められている「分散配置型再生可能エネルギー(DER)」。しかし、DERには天候など自然に影響される不安定な面もある。普及に必要なのは、需要家に最大限利用してもらえる対策。例えば、蓄電池やEVなどを活用した配電の高度化や市場メカニズムの高度化などだ。そのためには、IT基盤を活用した大量なエネルギーデータを流通・活用できる仕掛けや経済圏づくりが欠かせない。その最前線の取り組みについて解説する。
目次

再生可能エネルギー経済圏のリボンモデルを実現するデジタルツイン基盤

カーボンニュートラルが喫緊の課題として認識されている背景に、気候変動とエネルギー問題があります。気候変動でいえば、2022年も世界で記録的な猛暑、異常な干ばつ、大規模な山火事、大雨や氷河の融解による洪水などが頻発し、地球規模で大きな被害が生じました。エネルギー問題では、ウクライナとロシアの戦争で燃料費が高騰し、世界中でエネルギー供給の不安が高まっています。

図1:政府は2050年排出と回収でCO2実質0億トンを目指している

図1:政府は2050年排出と回収でCO2実質0億トンを目指している

上図は、政府が2050年に目指すカーボンニュートラルの全体像です。非電力部門では、EVに代表される電化を進め、電力部門では原子力や水素に加え、再生可能エネルギー比率を50~60%まで引き上げるチャレンジングな目標が掲げられています。その目標達成に欠かせないのが、分散配置される再生エネルギー(DER:ディストリビューテッド・エナジー・リソース)の大量導入です。

これまで電気の配電網は、大規模発電所を源流として川上から一方通行で送られる形式でした。しかし、DERが普及すると、発電設備から電気を送る、蓄電池に貯めるなど双方向のやりとりが必要になり、配電網は混雑します。その回避のためには、ローカルエリアでの需給マッチングなど、高度なエネルギーマネジメントが必要となります。

グリーンエネルギービジネス推進室 江原 貴之

グリーンエネルギービジネス推進室
江原 貴之

例えば、メガソーラーや風力発電といった再生可能エネルギー発電設備や太陽光発電を備えた戸建て住宅が増加すると、それに伴い蓄電設備や移動式の非常用電源やEVなども普及していきます。そういった状況で電気を送ったり貯めたりすると、必然的に配電網に混雑が発生します。電気は供給側(発電し送電する側)と需要側(使用する側)のバランスが常にとれていなくてはいけないといった原則があるので、このバランスを取ることが重要になるのです。

そこでNTTデータが目指しているのが、「再生可能エネルギーのデジタルツイン(DTC)基盤」の構築です。大量に分散されるDERのデータをダイナミックに流通させ、デジタルの力で再生可能エネルギーを主力電源化することを目指しています。

図2:エネルギーのデジタルツイン基盤は、フィジカルとデジタルの世界観が一体となる

図2:エネルギーのデジタルツイン基盤は、フィジカルとデジタルの世界観が一体となる

上図は、エネルギーのDTC基盤が実現するフィジカルとデジタルの世界観を示したものです。ここでまず必要になるのは、再生可能エネルギーや蓄電池のリソース情報を集めるためのセンサー、デバイス通信、プロトコルなどのコネクティビティを担保することです。データを集める仕掛けができたら、そのデータを活用してシミュレーションをおこない、供給側と需要側をマッチングする判断をします。その結果、実際に電気の融通が可能になります。融通には取引先が存在しますが、取引の内容がわかるようにブロックチェーンなどを使ってトレースできる仕掛けが必要です。これらを一気通貫でぐるぐると回していくわけです。

再生可能エネルギー普及に向けた社会課題は需給データの流通性

図3:再生可能エネルギーを取り巻く全体像と課題

図3:再生可能エネルギーを取り巻く全体像と課題

再生可能エネルギー普及に向けては課題もあります。上図左は、先ほどのフィジカルとデジタルの世界観を俯瞰図にしたものです。供給サイドから見ると、まず事業者などのDERホルダーがいて、通信プロトコルがあり、電力を集めて供給する電力供給者、小売り事業者とつながって、最後に利用者である需要家がいます。

さらに、バックヤードでは配電事業者が電力のグリッド(配電線)を使った安定供給を担当。また、このバランスを保ちながら、需給調整市場や容量市場、電力卸しなどに対応させて取引を成立させる仕掛け、いわゆる市場メカニズムも存在しています。

この中で大きな課題となるのが、需給データの流通性です。現状は、個々のセグメントでそれぞれが必要なデータを取得することで、需給データがメッシュ(網の目)のようになっています。これにより、データの流通が滞ってしまいます。本来、必要なのは、上図右のUberのように、需要と供給をマッチングし促進させる「リボンモデル」。そこで、先ほど提案した再生可能エネルギーのDTC基盤が電力データ活用にハブになれば、再生可能エネルギー経済圏のリボンモデルが実現できると考えています。

スマートメーターを使った電力データ活用のハブ機能

では、実際に再生可能エネルギー経済圏のリボンモデルをどのように社会実装すればいいのか。ここでは、先行して電力データ活用のハブ機能を社会実装している事業として、「電力データ管理協会(電管協)」の事例を紹介します。

現在、日本では8,000万世帯にスマートメーター(電気使用状況を見える化する電力量計)が普及。これによって、特に需要家側の電力使用データを取得できる環境が整っています。電管協は全国のスマートメーターのデータを集約し、データレイク化。さまざまな目的で活用できるような環境整備を進めています。

スマートメーターのデータを価値に変える「データ活用サービス事業者」もすでに存在しています。そのひとつである『GDBL』は、東京・関西・中部電力が出資し、NTTデータも出資をしている会社で、電力利用以外にも、都市計画、防災計画、見守り、脱炭素など、多目的でデータを活用しています。

例えば、エリア内に設置されたスマートメーターの電力量から、電気由来のCO2排出量を推定し、市全域・区・町丁目といった単位ごとの地域実態を把握するサービスを提供しています。また、公共施設など、特定施設の再生可能エネルギー設備導入状況、電力量、全施設の合計値を自動集計し、施設ごとの省エネ率・再生可能エネルギー率等の推移、PV導入有無、経年変化を可視化しています。個人に向けては、住民等個人が閲覧可能なホームページやアプリ上に、自身の世帯データを把握可能なコンテンツの掲載やそれぞれの居住地域の統計データを提供。行動変容へつなげるきっかけとしています。

もちろん、再生可能エネルギー経済圏の「リボンモデル」としても可能性を秘めています。Uberのモデルでは、タクシードライバーの位置データと利用者の位置データと掛け合わせてマッチングさせています。これを再生可能エネルギー経済圏に当てはめると、需要動向がわかるスマートメーターのデータと供給動向がわかるDERデータを掛け合わせることで、需給マッチングを行うマーケットプレイスである「場」としての価値も高めるということになります。

ここからは、DER保有者の行動について触れていきます。

図4:DER保有者の再生可能エネルギーに関する振る舞いは今後、自律分散的かつ相対的になると考えられる

図4:DER保有者の再生可能エネルギーに関する振る舞いは今後、自律分散的かつ相対的になると考えられる

上図は、スマートメーターのデータから見るDER保有者の再生可能エネルギーに関する行動例です。深夜は価格が安い夜間電力を買って蓄電池に貯めて、朝方は買った電力を使ったり、日中から夕方は自家発電した電気を貯めたり売ったりします。そして夜は貯めた電力を使うなど、効率的な動きをしています。

この効率的な動きを活用すれば、例えば、昼間の余剰電気を蓄電池に充電し夜間にEVへ充電したり、安価に購入しエコキュートに利用したりできるでしょう。また、工場では、電力需要に合わせて設備を稼動し、電力会社からインセンティブを受取ることも考えられます。

ただし、現状では需給バランスのミスマッチが発生しているのも事実です。分かりやすい例では、電力需給ひっ迫で節電要請が出ている一方で、再生可能エネルギーの余剰電力が発生しています。FIT(固定価格買取制度)制度やFIP(Feed-in Premium)制度が進み、東京都は新築の住宅に太陽光パネルの設置を義務化する条例を制定するなどして、太陽光発電が普及したことが一因です。その結果、出力抑制を実施し、使い道がない電気が捨てられるケースも増えています。この解消にも、電管協(電気管理技術者協同機構)が進めるスマートメーターのデータ活用が有効に作用するでしょう。

NTTデータが目指す再生可能エネルギーの経済圏を作るイネーブラー

需給マッチングにも、いくつか解決すべき課題があります。一つ目が、データは誰のもの?という問題です。スマートメーターのデータ活用には本人許諾が必要で、需要家側には電管協が利用許諾を取るスキームを構築しています。一方、マッチングをするならば、供給側であるDER保有者にも許諾を取らなくてはなりません。例えば、こちら側も電管協のスキームを適用するのが合理的ではないでしょうか。

二つ目は、データ流通性の問題。多様な目的のデータ活用を進めるには、データをアンバンドル化(切り離される、バラされる)して、サービス事業者や市場、配電事業者、電力供給者などへ流通し、多目的で利用できるような環境を整備する必要があります。

三つ目は、コネクティビティの課題です。現状では、DERの設備情報を集める通信の標準化が進んでいません。例えば、コネクティビティを担保するために、3つのルートを採用してはどうでしょうか。まず、次世代のスマートメーターで議論されているIoTルート。次に、DERに直接接続する直収ルート。そして、アグリゲーター経由での収集ルートです。標準化のためには、この3つのルート、いずれかを経由で接続連携できるように、コネクティビティ機能を用意することを考えなくてはいけません。

これらの課題を解決した先には、電力データ活用の可能性が生まれます。先ほど、GDBLで紹介したのは電力以外での活用事例ですが、ここからは再生可能エネルギーの需給バランスについて、どのようなことが考えられるのかを紹介します。

まず、配電管理です。電力データを活用すれば、配電事業者が課題としているコネクト&マネージ(※1)やノンファーム型接続(※2)、余剰電力の出力抑制回避を効率化できる可能性があります。次に、市場メカニズムです。現在は、小売りや卸、需給調整市場、容量市場と縦割りでデータを収集していますが、今後、ダイナミックプライシング、ローカルフレキシビリティ市場(※3)、同一市場(※4)など、既存の市場メカニズムを横通しする取引が生まれると、より需給データが疎結合(依存関係が弱く独立性が高い状態)して、アンバンドルに流通・連携する必要性が高まります。

図5:エネルギーデータプラットフォーム活用の4つの方向性を結合・連携して、価値の相乗効果を生み出すようなデータ活用が求められる

図5:エネルギーデータプラットフォーム活用の4つの方向性を結合・連携して、価値の相乗効果を生み出すようなデータ活用が求められる

こういった方向性に進むことを考えると、データのプラットフォームは上図のようになると考えます。供給側であるアグリゲーターや蓄電池の話、配電高度化の話、需要側ではGDBLのようなデータ活用の話、そして、市場メカニズムの話があります。これらを有機的に結んでいくデータのプラットフォームをアンバンドルに用意していくことが必要になってくると思っています。

では、私たちNTTデータの役割はどういったものになるのでしょうか。それは、再生可能エネルギーの経済圏を作るイネーブラーです。この世界観は一気にではなく、段階的に進むものです。その段階によって必要な要素、スケーラビリティ、オープンソース、コネクティビティ、アジャイルといったさまざまなケイパビリティを保有し、全体を作っていくインテグレーターとして貢献したいと考えています。

すでに2022年度から、こういった考え方を共感、賛同していただける仲間とコンソーシアムを形成しています。例えば宮古島では、エネルギーDTC基盤として、EVチャージメント接続実証や送配電会社とユースケース実証など、小規模ながら実証実験も進めています。これからもNTTデータは、カーボンニュートラルの実現に向けて、エネルギーDTC基盤で再生エネルギー経済圏を構築のパートナーを集めています。ぜひ一緒に、社会課題の解決に向けてチャレンジしていきましょう。

(※1)コネクト&マネージ

従来のように、電源がフル稼働しても問題ない十分な電線容量を確保する考え方ではなく、電源をまず接続し、それを送電容量に収まるようコントロールする考え方

(※2)ノンファーム型接続

特定の電源に対して固定的に送電を割り当てるのではなく、空きがある送電に対して動的に電源を割り当てる方法の電源接続形態

(※3)ローカルフレキシビリティ市場

ローカルエリアでDERを相互に融通しあう取引市場のこと。日本にはまだないが整備検討中

(※4)同一市場

卸市場と需給調整市場の取引を1度で行えるような市場のこと。再生可能エネルギーで融通頻度が増大することに対応すべく国で議論・検討されている

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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