人工知能による知的処理
ハードウェアとソフトウェアアルゴリズムが進化することで、コンピューターは人間の知的活動の一部を代行できるようになります。ハードウェアの性能は10年で1000倍のペースで向上しており、レイ・カーツワイル参考1は、2025年には人間の脳を完全にシミュレーション可能な演算速度が実現されると予言しています。ソフトウェアアルゴリズムは主に2種類の方向でさまざまな研究がされています。ひとつは「脳」を解明・再現することで思考や感情を理解する方向、もうひとつは機械学習を通じた知識集約の方向です。各国がプロジェクトを立ち上げ、積極的に「脳」の解明を進めています。人間の脳構造をチップ上に再現したNPU(Neural Processing Unit)と呼ばれる新しいタイプのCPUや、Deep Learningと呼ばれる人間の脳に近い構造を有したパターン認識技術などの研究開発も進行中です。機械学習による知的処理としては、既にチェスや将棋でコンピューターが人間のプロに勝利する段階まで来ています。今後は医療分野での過去事例に基づく診断支援やコールセンターでの対応切り分け等への応用が期待されています。人工知能による知的処理が進むことで、簡単な作業はコンピューターが代行するようになり、人間は新しいものを作り出す創造性や発想力が求められるようになると考えられます。
実世界センシングと分析
センサー技術は小型化、精密化が進んでおり、またセンサーから得られた情報を分析するコンピューター性能も、先ほどの「人工知能による知的処理」で記載したように進化しています。こうした背景から、ありとあらゆる情報がセンサーで収集・分析されることで、実世界の把握と予測が可能になります。例えば、小売店では顧客の位置情報や品物を取る動作を基に店内のレイアウトを最適化したり、医療面では人が着る服からバイタルデータを常時モニタリング参考2して緊急時に救急車を手配したり、SNSの投稿から犯罪調査や凶悪事件の予測をしたり、高速道路などの老朽化を事前に察知するなど、さまざまな応用が可能です。センサーデータ活用はインフラとして実施されるようになり、社会は個別最適から全体最適へとシフトしていくでしょう。今後は大量のデータをどうわかりやすく見せるか、その整理方法や表現方法に工夫が求められていくと考えられます。
スマートインフラストラクチャー
スマートシティに代表されるように、インフラがソフトウェアにより最適制御され、効率的なエネルギー消費や生活者への高い利便性が実現されると考えています。特にサプライチェーンの進化は大きく、生産ラインでは人間と協働するロボットが導入され、状況に合わせて学習・自動制御されるようになります。物流センターではロボットによる自動ピックアップや梱包の後、無人ヘリコプターによる発送参考3まで実用に向けた研究がなされています。また、自動車の自動運転技術も高度化しています。IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)の報告によると、2040年には一般道を走行する自動車の最大75%が自動運転車になるとの予測があります。インフラのスマート化が進むことで、ロボットによる自動化と最適化が産業面を中心として拡大するでしょう。技術の進化に合わせて法整備も必要となってくると考えられます。
図:実世界センシングと分析