1.なぜ今、グローバルAIガバナンスに取り組むのか
生成AIは、ソフトウェア開発、営業、マーケティング、顧客サポートなど、企業活動のあらゆる領域で活用が広がっています。さらに近年は、AIエージェントのように自律的に判断・実行する技術も登場し、企業が管理すべきリスク対象は急速に拡大しています。
AIの活用領域が広がる一方で、その拡大に誤情報、知的財産権、プライバシー、サイバーセキュリティなどのリスクも増加しています。さらにEU AI Actをはじめとした各国・地域の規制対応も求められるようになり、「AIを活用したい」と「リスクを管理したい」を同時に実現する必要があります。
NTT DATAにおいても世界各地でAI活用が進んでいますが、各地域がそれぞれの考え方でルールを整備するだけでは、リスク管理の水準にばらつきが生じ、本社が全体を把握できない、グループ全体の方向性が揃わないといった課題が生じる可能性があります。
そこでNTT DATAでは、AI活用を制限するためではなく、安心して活用を拡大するための仕組みとして、グローバルAIガバナンスの構築を進めています。
2.各国・地域で異なるAI規制
グローバルAIガバナンスを推進する上では、各国・地域の規制への対応が欠かせません。一方で、AIに関する法制度や政策の方向性は地域によって異なります。
EUではEU AI Actを軸に、高リスクに分類されるAIシステムへの厳格な管理や透明性・説明責任を求める包括的な規制体系が整備されています。
米国ではAI分野における競争力や安全保障の観点から政策整備が進められているものの、現時点では、包括的な法規制よりも分野別・州別のアプローチが中心になっています。
日本ではAI事業者ガイドラインなどを通じて、イノベーション促進とリスク管理の両立を重視した柔軟なガバナンスが進められています。
このように、AIをめぐる規制や政策の方向性は国・地域によって異なります。複数の国・地域で事業を展開するグローバル企業には、こうした異なる要件に対応しながら、グループ全体として一貫したガバナンスを実装していくことが求められます。しかし、実際にグローバルでAIガバナンスを機能させるためには、規制対応にとどまらないさまざまな課題があります。次章では、その中でも特に重要な3つの課題を取り上げます。
3.グローバル企業が直面する3つの課題
課題1:共通ルールと各国・各地域の規制対応の両立
グローバル企業にとって一つ目の課題は、グローバル共通のルールと、国・地域ごとに異なる規制への対応をいかに両立するかという点です。前述のとおり、AIに関する規制や政策の方向性は国・地域によって異なります。一方で、こうした複数の規制やルールに対応するために地域ごとに異なるルールや運用を作り上げると、グループ全体として一貫したガバナンスを実現できません。
反対に全てをグローバルで統一しようとすると、地域固有の規制に十分対応できない可能性があります。そのため、共通の原則を定義しながらも、地域ごとの要件を柔軟に取り込める構造が求められます。すべてを統一するのではなく、共通化すべき領域と地域ごとに最適化すべき領域を整理することが重要です。
課題2:ガバナンスの実装と標準化
多くの企業がAIポリシーやガイドライン、フレームワークの整備を進めています。しかし、ガバナンスにおいて特に難しいのは、設計したルールを実際の業務に落とし込むことです。フレームワークを策定しても、現場が何を実施すればよいのか分からない、組織ごとに異なる運用が行われる、担当者によって解釈が異なるといった課題は少なくありません。
その結果、ガバナンスの品質が組織や担当者に依存し、グループ全体で一定の水準を保つことや、継続的に改善することが難しくなります。AIガバナンスは文書を整備するだけでは機能しません。実際の業務プロセスへ組み込み、継続的に運用できる仕組みとして定着させることが重要です。
課題3:技術進化への対応とシンプルなガバナンスの維持
AI技術は急速に進化しています。生成AIに加え、AIエージェントをはじめとする新たな技術も次々と登場しており、ガバナンスにも継続的な見直しが求められます。一方で、新しい技術が登場するたびに個別ルールやレビュー体制を追加していくと、ガバナンスは複雑化してしまいます。
その結果、本来リスクを管理するための仕組みが現場の負担となり、AI活用そのものを阻害する可能性もあります。そのため企業には、必要なリスク管理を維持しながらも、技術の変化にも柔軟に対応でき、現場が理解しやすく運用しやすいシンプルなガバナンスを実現することが求められています。
4.NTT DATAが進めるグローバルAIガバナンス
これら3つの課題に対応するため、NTT DATAではグローバルAIガバナンスの実効性を高めるさまざまな取り組みを進めています。
まず、これらの取り組みをグローバル横断で推進する基盤として、NTTデータグループ社では2023年にAIガバナンス室を立ち上げました。AIガバナンスでは、法務、セキュリティ、技術など、さまざまな観点からリスクを捉える必要があります。そのため、各分野のスペシャリストを集め、AIガバナンスを専門に担う組織を構築しています。この推進体制のもと、3つの課題に対してそれぞれ次のような取り組みを進めています。
課題1の「共通ルールと各国・各地域の規制対応の両立」に向けては、NTT DATA共通のAIリスクマネジメントポリシーや、その具体的な実践方法を整理したPlaybookを整備しました。各国・地域でAI規制や事業環境が異なる中でも、共通の原則に基づいて意思決定できる環境を構築することで、グローバル全体で一貫性のあるガバナンスを実現することを目指しています。
一方で、ルールを策定するだけでは、ガバナンスを十分に機能させることができません。課題2である「ガバナンスの実装と標準化」に向けては、各地域会社との定期的な対話やヒアリングを通じて、AI活用の実態や運用上の課題を継続的に把握しています。地域ごとに事業特性や組織体制、AI活用の成熟度は大きく異なるため、本社主導で一律の仕組みを展開するのではなく、こうした地域ごとの状況を踏まえながら、グローバルで共通化すべき部分と地域ごとに対応すべき部分を見極めながら、実効性のあるガバナンスの実装を進めています。
さらに、ガバナンスを日々の業務に定着させるため、AIリスク管理を既存の案件管理や品質保証プロセスに組み込む取り組みを進めています。案件の提案から設計、開発、提供までの既存業務フローの中でAIリスクを評価することで、新たなプロセスを過度に増やすことなく、業務効率とガバナンスの両立を図っています。
また、課題3である「技術進化への対応とシンプルなガバナンスの維持」に向けて、NTT DATAでは、新たな技術が登場するたびに個別の管理プロセスを増やすのではなく、既存のガバナンスの枠組みを継続的にアップデートするアプローチを取っています。具体的にはグループ共通のAIリスクマネジメントポリシーを定期的に見直し、新たな技術やリスクを継続的に反映しています。
同時に、ガバナンスを過度に複雑化させないため、技術の種類ごとに異なる管理の仕組みを設けるのではなく、利用方法やリスクの大きさに応じて管理の強度を変える「リスクベース」の考え方を基本としています。
このリスクベースの管理をグローバルで実践するため、AI案件やリスク情報を可視化するダッシュボードやプラットフォームの整備にも取り組んでいます。AI案件をグローバルで網羅的に把握し、それぞれのリスクレベルに応じて管理することで、すべての案件を一律に審査するのではなく、リスクの高い案件にガバナンスのリソースを重点的に配分することができます。
これにより、技術の進化に柔軟に対応しながらも、ガバナンスを過度に複雑化させることなく、事業のスピードとリスク管理の両立を目指しています。
5.今後の展望
NTT DATAが目指しているのは、ポリシーを策定して終わるガバナンスではありません。推進体制を整え、グローバル共通の原則を定め、それを現場の業務プロセスへ組み込み、継続的なモニタリングと改善を行うことで、技術や事業環境の変化に適応できるガバナンスへと高度化していきます。
今後は、AIエージェントやPhysical AIなど新たな技術の普及に伴い、AIは情報を生成するだけでなく、他のシステムと連携して判断・実行し、物理空間にも作用するようになります。それに伴い、企業が管理すべき対象やリスクもさらに広がっていきます。NTT DATAではこうした変化に対応するため、AIガバナンスを継続的に進化させるとともに、将来的にはAIにとどまらず、さまざまなテクノロジーを横断的に捉えるテクノロジーガバナンスへと発展させていくことを目指しています。
グローバルAIガバナンスの目的は、AIの活用を制限することではなく、適切にリスクを管理しながらAIの可能性をビジネス価値につなげられる環境を作ることです。NTT DATAは、世界各地の組織と連携しながら実装と改善を重ね、AIをはじめとするテクノロジーの活用とリスク管理を両立する、事業の成長を支える経営基盤としてのガバナンスを構築していきます。


生成AI(Generative AI)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
AIエージェント(AI Agent)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/ai-agent/
AIガバナンスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/data-and-intelligence/governance/
AIガバナンスコンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/responsible-secure-ai/
あわせて読みたい: