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2021.2.16特集

ペイシェントヒストリー ~データ活用が導く未来の医療~

#Future Story ~未来を助けるペイシェントヒストリー~

子供のころから数えると、一体いくつの病院で受診してきただろう。生まれた病院、馴染みのクリニック、そして移り住んだ町の総合病院。

どこの病院へ行っても、医師は私の体を知り尽くしていて、常に的確な診断をしてくれる。そういえば「昔、初めて行った病院でMRI検査を受けたとき、ケガの治療でボルトが埋まっていることを説明し忘れ、結局検査にならずにこっぴどく叱られた」なんて話を祖⽗から聞かされ、驚いたのをよく覚えている。

病院からの帰り道、ふとそんなことを思い出しながら歩いていると、ビルの大型ビジョンの中で、キャスターが「難病の少女 先祖に救われる」というニュースを読み上げている。どうやら遺伝的な難病にかかっていた少女が、蓄積されている両親、祖父母の代の医療データ、“ペイシェントヒストリー”に基づく治療を受けて、ついに完治したらしい。

自分の医療データも、自分の為だけじゃなく、いつかどこかで誰かの役に立ってくれると思えば、病院通いも悪くはない。そう思わせてくれる、心温まるニュースだった―――

これまで、どんな病気で何回病院に行ったか、答えられる人はいるだろうか。いま現在、もし自分がそれを記憶していなければ、誰も知っている人はいない。持病があっても、初診の病院では、紹介状がない限り0から症状を説明しなくてはならない。
しかし、自分のスマートフォンや病院側のカルテで予め既往歴がわかっていれば、診療はもっとスムーズに、もしかしたら治療方法までも変わるかもしれない。
そして、先ほどの「難病の少女」のストーリーのように、先祖代々まで遡ったデータがあれば、未知の難病をも解決する糸口になることもありうるだろう。

少し先の未来、これが現実になる可能性を秘めた取り組みが、既に始まっている。各医療機関に点在してきた個人の医療データを、一括して管理し、利活用するための取り組み、「千年カルテ」だ。

医療データを未来へ繫げる「千年カルテ」

「千年カルテ」は、NPO法人 日本医療ネットワーク協会と一般社団法人ライフデータイニシアティブが進める、全国民の生涯医療記録を保存し、集積した医療ビッグデータを利活用するエコシステム「EHR(※)を中心とした医療情報循環モデル」実現を目指すプロジェクトだ。
NTTデータは、ITインフラを提供する立場でこのプロジェクトに参画している。

(※) EHR(Electronic Health Record)

EHRとは、個人の過去の病歴や診断、投薬、アレルギー、検査データ、バイタルサイン、各種画像記録など、過去を含めた個人の健康にかかわる一連の情報を電子化したもの。従来のカルテの電子版と言えるEMR(Electronic Medical Record)と比較し、医療機関を超えてその情報を共有・連携することを前提としている点で大きく異なる

千年カルテは、全国の医療機関から集まる大量の診療データを蓄積するデータベースEHRを構築し、さらにこれを個人が特定できないよう、匿名のうえ加工し二次活用用途としても提供することで、EHRを用いた医療の促進を医療データの二次活用による収益によって支え、自立採算で継続的に運用する仕組みを目指している。

自分のために 誰かのために

EHRの浸透は私たちにどんなメリットをもたらすのか。
真っ先にあげられるのが、個人への臨床記録の提供だ。単なる風邪から大病まで、自分がいつどういう症状で、どんな治療を受けたのかが、すべてデータ化され、スマートフォンを使っていつでも閲覧することができる。すべての人のEHRが整備されれば、誰もがいままでどんな病気にかかって何回どこの病院に行ったのか、正確に答えられるようになる。

さらなるメリットをもたらすのが、病院やクリニック、薬局等における診療データの共有だ。患者のEHRをそれぞれが参照することで、患者本人から聞かなくても、むしろそれ以上に正確な情報に基づいた診療や薬の処方が可能となる。旅先で突然具合が悪くなり駆け込んだ病院であっても、長年通い慣れた行きつけの病院と同じ情報で医師が診察をしてくれる。「全国の医師が自分の主治医」と言える世界がくるかもしれない。

そして個人の医療を超えて、社会的に大きなメリットをもたらす可能性があるのが、EHRをベースとした医療ビッグデータの二次活用だ。千年カルテでは、EHRの情報を個人が特定できないレベルまで加工を施し、研究施設や製薬企業などへの提供を進めている。膨大な臨床データの活用は、医学研究や新薬の開発などの領域に大きな進歩をもたらす可能性がある。

超えなくてはならない2つのカベ

カルテの電子化とその共有

千年カルテが目指す、EHRが浸透した社会への道のりは決して平坦ではない。立ちはだかるカベのひとつが、EHRのベースとなるカルテ情報の電子化とその共有だ。
これまで、それぞれの病院ごとに個人のカルテが作成されてきた。その情報の多くが紙で、また電子化されていても各病院が厳重に管理する情報として病院の外に出ることはなかった。

千年カルテの発足の背景には、2011年の東日本大震災も大きく影響している。当時、被災地において医療機関のデータは壊滅的な打撃を受けた。紙のカルテは津波で流出し、電子化されたカルテも保存されたPCごと消失した。
これをきっかけに、カルテの電子データ化に向けた機運と、その保管方法のありかたについての意識が大きく変わった。
千年カルテは、万が一の災害による病院側のデータ消失に備え、診療データの遠隔保存と緊急時に自院の情報を参照可能とする災害サポートの役割も担っている。

千年カルテに賛同し、電子化したカルテを自身の病院のためだけでなく、他の医療機関との共有や二次活用に向けて提供する医療機関は、各地域の基幹病院を中心に現在100を超えている。全国にある病院、診療所は約10万。EHRのメリットに加え医療機関におけるカルテ情報管理のメリットも提供しながら、千年カルテは、まずは300の医療機関の参画を目指しEHRの普及促進を進めている。

個人情報のカベ

多くの医療機関が千年カルテに参加すれば、おのずと医療データ活用の未来がひらけるかというと、そうではない。なぜなら、医療データは患者、つまり私たち自身の極めてセンシティブな個人情報だからだ。個人データが、さまざまな機関に提供され、管理されると聞くと抵抗感を示す人も多いだろう。多くの人が直感的に不安を感じるのは明白だ。

このプロジェクトに参画したNTTデータは、医療データ活用の先に開かれる未来を想い描きながら、一方でデータ提供をする側の立場にたち、一人一人が安心して利用できるよう、極めて高いセキリティーレベルのシステムを構築している。

生活者の視点に立ち、より便利で豊かな社会を創り出していく。そこには必ず安心で安全な仕組みが設計されていなくてはいけない。

業種を超えたデータの二次活用

医療データの活用は、決して医療の世界に閉じた世界の話ではない。スマートフォンやスマートウォッチと連携し、運動した実績によってポイントを付与する健康促進プログラムがある。また、国内外の生命保険会社で、健康診断結果など個人データを開示すれば保険料が割引になる商品も既に登場している。このように企業による個人の健康データを活用したサービスは今後、ますます増えていくだろう。

自立採算によるEHRの普及を目指す千年カルテにとって、業種を超えたデータの二次活用は重要だ。この時カギとなるのが、大量なデータの中から、企業が必要とする情報を速やかに抽出・加工し、提供するシステムの整備である。
多種多様な業種を跨いでそのデータが活用されれば、私たちの暮らしをもっと豊かにする新たなサービスの誕生に繋がるだろう。システム構築を通じてこれに貢献する。プロジェクトに参画し、EHRの普及を目指すNTTデータの、もう一つの思いがそこにはある。

未来のためにデータを集める

ここ数年ですっかり身近になったスマートウォッチでは、「呼吸」「脈拍」「血圧」「体温」「意識レベル」などを手軽に計測することが出来る。こうした“バイタルサイン”は、EHRの蓄積対象となる立派な“医療情報”だ。一方で、スマートフォンを使って買い物をすれば、購入した食料品の履歴も蓄積することが可能だろう。
この2つを日々蓄積し、健康診断の際に病院で自身のEHRに登録してもらうことを想像してみる。医師はそのデータを見て、すぐに生活習慣病のリスクを指摘してくれるかもしれない。今までバラバラに、そして無関係だったデータの組み合わせが、思わぬ価値生む良い例だ。

千年カルテでは、いまは「ゴミ」と思うような一見無価値なデータであっても、それらの組み合わせがいつか「宝物」になるかもしれないと信じて、データを蓄積し続けている。そんな願いが込められているのが、冒頭の「難病の少女」のストーリーだ。
個人の健康にまつわるデータは、いわば電子カルテに隠れた宝物。直近の数年ではなく、まさに「千年」を見据えたとき、集積されたデータは子々孫々の健康を守ることに繋がる。

医療データを蓄積し、社会全体で共有し活用する。その先に広がる新たな社会の姿を思い描きながら、千年という長いスパンで人々の健康を守るプロジェクトは、一歩一歩、着実に進んでいる。

監修:一般社団法人ライフデータイニシアティブ 代表理事 医学博士 吉原 博幸 氏

- NTTデータは、「これから」を描き、その実現に向け進み続けます -
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