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2022年4月21日展望を知る

生活者視点でつながる社会“Smarter Society”実現に向けて
~デジタル技術を社会へ実装する方法~

行政・企業・学校・個人が連携して、デジタル技術を活用して生活者の真の課題を解決していく“Smarter Society”実現には何が必要なのか。東京大学でFoundXディレクターとしてスタートアップ支援とアントレプレナーシップ教育に従事する馬田隆明氏とともに、社会変革に向けたデジタル技術の社会実装方法を紐解く。モデレーターは、フリーキャスター木場弘子氏が務めた。
目次

4つのカテゴリー『CCAC』の発展と融合でデジタル化を推進

代表取締役副社長 山口 重樹

代表取締役副社長
山口 重樹

まず、対談に先立ってNTTデータ 代表取締役副社長 山口重樹によるプレゼンテーションが行われ、NTTデータが目指す“Smarter Society”の姿とともに、その実現に向けた技術や考え方、そしてその「社会実装の必要性」について語った。
山口は「デジタル技術が社会に与えるインパクトは、個々の技術やサービスで考えるのではなく、それらが融合したらどのような効果があるかを考えていく必要があります。それにあたりデジタル技術を4つのカテゴリーに分けました。その頭文字を取って『CCAC』とここでは称します」と口火を切った。『CCAC』とは、

  • (1)カメラやGPSなどのセンサーとリアルからデジタルに変換して人間の認識能力を拡張するConvert(コンバート)技術。
  • (2)5GやIoTなど、あらゆるものをつないで、時間・場所の制約から解放するConnect(コネクト)技術。
  • (3)処理のプログラムによる自動化やAIを活用したデータ分析など、新たな因果を発見し、人間の処理能力を拡張するAlgorithm(アルゴリズム)技術。
  • (4)人間の理解しやすい形でデータを可視化し、人間の認識能力を拡張するコグナイズ(Cognize)技術

「企業がデジタル化を推進していく目的は、顕在化された顧客課題の解決だけではありません。将来の環境変化から予想される潜在的な課題を踏まえた“真の課題”を発掘し、デジタル技術『CCAC』を活用して、課題解決支援を価値に変えていくことです」(山口)

山口はこれを「顧客価値リ・インベンション戦略」と呼ぶ。そして、この考え方は社会のデジタル化を考える時にも有効だという。

「社会のデジタル化では、より良い社会のためという抽象的な観点でサービスを企画することがあります。しかし、必要なのは、「顧客価値リ・インベンション戦略」による課題解決の考え方を活用し、誰がどのように便利になるのかを明確にすることです」(山口)

そのために求められているのは、消費者、勤労者、市民といった、さまざまな立場の生活者のライフジャーニー全体を一元的にとらえて、潜在的な課題を発掘し、企業、行政、学術が既存の枠を超えて連携した課題解決だ。また、デジタル技術が最大限効果を発揮できる制度や法律とデジタルによって新たに発生する課題を解決する制度や法律も含めて社会実装を考える必要もあるという。

「行政、企業、個人が連携して、デジタル技術を活用することで、生活者の真の課題を解決していくよりスマートな社会、Smarter Societyの実現が求められていると思います」(山口)

続いて、東京大学 FoundXディレクター 馬田隆明氏と山口との対談が、フリーキャスターの木場 弘子氏をモデレーターに迎えて行われた。

社会実装を成功させるために必要な4つの原則

フリーキャスター/千葉大学客員教授 木場 弘子 氏

フリーキャスター/千葉大学客員教授
木場 弘子 氏

木場馬田さん、NTTデータの考えるSmarter Societyというコンセプトをどのように捉えていますか。

馬田色々なステークホルダーが連携するのは、非常にいいことです。これまでの社会を否定するわけではなくて、よりスマートにしていくという意味で「Smarter」という言葉を使っているところに共感しました。

木場では、Smarter Societyの実現に向けて、デジタル技術をどう社会に実装するかについてディスカッションしていきます。最初に馬田さんから、社会実装とは何かについてお話ください。

馬田社会実装の定義はさまざまですが、私は特定の技術やサービスがキャズムを越えて大多数に届き、社会に普及している状態だと考えています。

社会実装のためには技術的イノベーションが必要だと認識されていますが、それだけではありません。同時に補完的イノベーション、いわゆる、制度や組織、社会の在り方、仕事のやり方、仕組みの刷新などが必要です。この2つが揃ってはじめて、生産性が向上すると言われています。

社会実装のためには技術だけを発展させるのではなくて、技術を活かせるように社会を変えていくことが重要です。社会への実装という発想から、社会と一緒にどうやってこの技術を受け入れていくのか、「社会“への”実装」ではなくて「社会“との”実装」といった発想が求められています。

木場デジタル技術を生かせる社会に変えていくために重要なことは何でしょうか。

東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明 氏

東京大学 FoundX ディレクター
馬田 隆明 氏

馬田「デマンド」と、成功の4原則となる「インパクト」、「リスクと倫理」、「ガバナンス」、「センスメイキング」です。基礎であり前提となるデマンド、つまり、顧客が欲するものでなければ、どんなに優れた技術でも受け入れられません。技術視点のサプライサイドから、顧客視点のデマンドサイドへの発想転換が必要です。

デマンドは課題から生まれます。そして、課題とは「インパクト(理想)」と現状のギャップです。つまり、理想を示すことで新しいデマンドを顕在化できるということです。実際にスタートアップや社会起業家も、理想を掲げることによって新たに課題を提起して、それを埋めるためのサービスや技術を実装していく手順を辿っています。理想の未来を描くことが、次のビジネスの機会を生みだすのではないでしょうか。

次に、「リスクと倫理」「ガバナンス」です。デマンドを生み出した上で、リスクと倫理をしっかり考えます。技術には必ず新しいリスクが生まれるので、馴致(じゅんち)して制度を作るにはガバナンスが必要です。

最後に「センスメイキング」。どんなにいいものでも、納得感や腹落ち感がなければいけません。納得感や腹落ち感を醸成していくためには、受け手が自分自身で意味を見つけていくセンスメイキングというプロセスが必要。そのためには、信頼が必要になります。社会実装では、小さな実績や仕組みなどの方法論を使って、信頼を作ることが大事だと思っています。

木場山口さん、馬田さんのデジタル技術の社会実装に関するお考えはいかがでしたか。

山口私たちNTTデータの考えと共通するところがあり、嬉しく思いました。生活者視点で社会と一緒にデジタル技術を実装し成果を出していくという考えは、非常に重要だと思います。

馬田特に、デジタル技術を社会実装していく過程では、「学習する組織」と同じように「学習する社会」でなければいけません。デジタルは、多くの人にとって新しい技術。社会として失敗を受け入れながら学び、その過程で新しい制度が必要なこともあります。実装の担い手である企業や個人だけではなく、技術を受け取る側や社会の側も、新しい技術をうまく受け入れる方法を、学びながら実装していくことが求められます。

木場私はテクニカルなことに詳しいわけではないのですが、生活者視点の重要性には共感します。優れた技術があっても、それが生活者に伝わって使いこなすまで行くには、コミュニケーションが必要です。その部分での成功例などがあれば、お聞かせ下さい。

馬田実装する側が正しい答えを示すという形でなく、実装する側と受け取る側が一緒になって、本当に使えるかどうかの仮説検証をしていくことで成功している例があります。そのプロセスこそ「センスメイキング」です。

木場一緒にやるという意味では、ユーザーの思いを吸い上げることも、企業の大事な役割ですね。

山口まさに、「生活者視点で考えていく」ことが大切です。生活者の潜在的な真の課題を一緒に発掘して、どうやって解決していくか、誰にどんな価値を提供するかを生活者と提供者が一緒になって考えていくことが必要だと思います。

不確実性、個人情報、高齢化。Smarter Societyの実現に立ちはだかる課題

木場Smarter Society実現に向けて、ここからは課題と対策について伺います。まずは馬田さん、課題にはどのようなものがあげられますか。

馬田Smarter Societyを実現するためには、新しい技術を導入しなければなりません。そのときには、少なからずリスクが生まれます。先ほど触れていた通りですが、リスクを馴致するために、ガバナンスや制度、仕組みを変えていかないと、技術が活かされないと思っています。

新しい技術は、何が起こるかわかりません。計算できるリスクだけでなく、実装したときに予想していなかったようなアクシデントが起こるかもしれない。そうした不確実性をコントロールの範囲内で収まるように仕組みを整えておく必要があります。

山口私も同じ考えです。個人情報に対する権利の保護において、現在、個人情報が自分でコントロールできなくなる事態が生じつつあります。

これに対してNTTデータでは、「My Information Tracer™」(略称mint)というサービスを提供しています。個人情報を預かって、その利用について所有者から同意を得た上で活用するサービスです。パーソナルデータ流通プラットフォームというもので、いわゆる“情報銀行”と考えれば分かりやすいでしょうか。

山口情報銀行の具体的な活用シーンには、政府が推進する「引越しワンストップサービス」があります。引越しは自治体や電力会社、銀行などへの届け出が煩雑ですが、NTTデータのパーソナルデータ流通プラットフォームを活用して、本人同意に基づき情報を適切にコントロールして全ての手続きを代行します。現在、北陸のある都市で実証実験を行っており、実現を目指しています。

木場課題の解決にはさまざまな業界の協力が必要になってきますね。

山口社会実装を進めるには、行政と学術と民間、産・官・学の連携が不可欠です。更に言えば、社会課題を解決するには、民間企業の積極的な参加が求められていると思います。そのときに欠かせないのが、会社のビジョン、ミッション、パーパス(存在意義)に合っているかどうかです。産・官・学のさまざまな組織から集まった人財が心をひとつにするために、プロジェクトのパーパスやミッションを定めて共有することが、社会実装を成功させて意義あるものにする上で重要になります。

木場馬田さんが考える課題解決のヒントを教えて下さい。

馬田人財という面では、特にアントレプレナーシップ=起業家精神が非常に大事だと思っています。アントレプレナーシップは起業に留まらない、より広い概念として捉えたほうが良いと考えており、不確実性の高い中で何かを実装するときにアントレプレナーシップは必要ですが、新しいものを受け入れるときにもアントレプレナーシップが必要です。アントレプレナーシップを多くの人が身につけることによって、新しいものを受け入れて学習する社会、そして、学びあう社会が生まれるはずです。

木場産・官・学連携でしのぎを削って良いものを作る。そのプロジェクトに携わっている方々も家に帰れば生活者なので、そういった感覚もそれぞれが活かすべきですよね。つい、高い所から考えてしまいがちですが、皆が生活者として必要なものを整理して、要望するということも大事だと感じました。

絶えず学び続け、発展する社会を実現する

木場Smarter Societyを実現に向け、どういった思いを持って取り組んでいくべきかお聞かせください。

山口Smarter Societyを実現するには、既存の制度ありきではなくて、生活者起点で、本当に生活者が困っていることをどう解決するかといった観点が重要です。デジタルは社会、経済、経営にインパクトを与えて、変革を促します。例えば、サーキュラーエコノミー、シェアードエコノミー、今後グリーンを進める上での新エネルギーを含めた需給マッチング、といった、デジタルによって可能となるマーケットメカニズムや新たなマッチングをするメカニズムデザインを活用すれば、無駄のない社会の実現に貢献できます。

馬田何ごとを進めるにしても、複数のステークホルダーが存在する世の中になっています。ステークホルダーの納得感、腹落ち感=センスメイキングを醸成していく動きも非常に大事です。そして、民間企業にはステークホルダー同士を繋げる役割も期待されています。ビジョンを掲げて、色々な方々を巻き込んでいくことには時間がかかりますが、継続的に取り組む姿勢が必要です。

木場個々の企業や団体、業界だけでなく、手をつながなくては物事を成し得ない局面なのでしょうね。

山口馬田さんがおっしゃった「継続的」に実施していくことは、大変重要だと思っています。NTTデータの掲げるSmarter Societyを、“Smart”ではなくて“Smarter”としたのもその意味が込められています。終わりがなく、“より Smart”(=“Smarter”)な社会にするため、生活者の課題をどう解決するかを企業や行政、市民と一緒に常に考えなくてはいけません。絶えず学び続ける人財が必要です。

馬田Smarterという言葉はいいと思います。この先、世の中により良いビジョンが生まれ、今の常識が変わるとき、そこに向けて自らも変わっていく。そのためには、学び続ける必要があります。冒頭、学習する組織の話がありました。学習する社会をビジネスでも学術でも、そして政府でも一緒に作っていけるといいですね。

山口デジタルを活用して、お互いが信頼し合える社会、また多様な考え方が共存できる社会、絶えず学び続けて発展する社会を実現するため、「まず、私たちは行動します」という決意を表明し、締めくくりとしたいと思います。

木場是非、行動を期待したいと思います。今日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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