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2022年4月27日事例を知る

堅い企業がどう“やんちゃ”する?―イノベーションを生み出す、スタートアップとの共創の秘訣―

枠からはみ出す取り組みを否定してきたような企業でさえも、急速な時代の流れによりイノベーションの必要性に気づき、スタートアップ企業と共創することで自分たちにない発想を補おうとしている。しかし、企業文化になじまない提案、社内の賛同者の探し方、スタートアップ企業との連携など、課題も多い。「堅い企業」というイメージがあるNTTデータとJR東日本が、それらの課題をどう解決しようとしているのかを語った。
目次

意欲に燃える「ぽっぽや魂」で地域・鉄道・社会を変える

株式会社InnoProviZation 残間 光太郎 氏

株式会社InnoProviZation
残間 光太郎 氏

残間オープンイノベーションをテーマにした意見交換会の第3弾です。今回は、JR東日本スタートアップ(以下、JR東SUP)の柴田社長をお招きして、“堅い企業”イメージがあるNTTデータとJR東日本、ともに官からスタートした企業が、今どのような形でイノベーションに取り組んでいるのか、課題と解決策などについて意見交換ができればと考えています。まず、NTTデータが取り組むオープンイノベーション「豊洲の港から」を渡辺さんに説明してもらい、続いて柴田社長に事業概要とその取り組みをお話いただきたいと思います。

渡辺「豊洲の港から」は、NTTデータとお客様企業、スタートアップの3者がお互いに「Win-Win-Win」の関係になるよう新規ビジネス創発を目的に活動しています。内容については第1回目(https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/1011/)で詳しく説明していますので、こちらをご参照ください。

柴田JR東SUPの設立は2018年、JR東日本の100%出資です。事業目的はオープンイノベーションによる共創活動を加速させることで、内容はスタートアップ企業へ出資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)です。出資先のなかにはJR東日本と全く相いれない文化や考え方を持つ企業もありますが、あえて「JR東日本の出島」という独立した存在で異文化との取引を通し、優れた事業アイディアやビジネスモデルを取り入れ、より豊かな社会や暮らしを創り上げていこうというのが私たちのミッションです。

図1:JR東日本スタートアッププログラム

図1:JR東日本スタートアッププログラム

「豊洲の港から」で実施するコンテストと同様に、私たちも年1回「JR東日本スタートアッププログラム」(https://jrestartup.co.jp/program/)を実施しています。このプログラムは、JR東日本のインフラを活用した新しい事業、新しい技術へのチャレンジを募るもので、4年間で923件の応募がありました。採択した企業には、「JR東日本のインフラで年度内に実証実験する」ことをコミットしています。毎年20社程度と事業共創し、これまで92件の実証実験を行いました。その中から41件の新規事業が生まれています。

残間どのようなアイディアが採択されているのですか。

柴田駅ナカを利用した無人AI決済店舗、最先端技術を導入した駅そばロボット、駅の遊休スペースを活用した魚の陸上養殖など多種多様です。私たちが持っている社会実装力とスタートアップ企業の独創的なアイディア・技術を掛け合わせることで、「鉄道会社では発想できないけど鉄道会社だから実現できる新規事業」を創ることができます。「地域を変える、鉄道を変える、より良い社会を創る」。これが私たちの活動のキーワードです。

図2:駅そば×ロボットの新規事業

図2:駅そば×ロボットの新規事業

駅そばロボットは、歴史ある駅そば業態と最新のロボットテクノロジーという異色の掛け合わせから生まれた新規事業です。当時、たこ焼きロボットで食産業の変革に挑戦していたコネクテッドロボティクス社と出会い、共同で日本初となる駅そばロボットの開発に着手しました。麺を容器から取り出し、茹でて洗い、締めて丼に盛る。この工程をロボットが自動で行います。駅そば店は人手不足や高齢化により店舗数が年々縮小しています。昔ながらの駅そばという食文化を未来に残したいという想いから、これまで例のないロボティクス技術と融合した新規業態が生まれたのです。現在、海浜幕張駅と東小金井駅、王子駅の3店舗で実際にロボットがそばを作っています。

残間ワクワクするような話ばかりですね。ところで、スタートアップから柔軟な発想で事業提案がきても、JR東日本さんの企業文化になじまず、採用されないケースがあるのではと推測します。

JR東日本スタートアップ株式会社 柴田 裕 氏

JR東日本スタートアップ株式会社
柴田 裕 氏

柴田山のようにあります。門前払いや事業化見送りも多くあります。社会インフラを担う企業、特に人命を預かる鉄道会社にとっては、「石橋を叩いても渡らない」ような企業文化は重要なものとして、受け継がなければいけないと自覚しています。しかし、全ての事業や領域がそうではありませんよね。変えなければならないこと、新たな挑戦が必要なところも沢山あります。私たちの役割はそこにあると考えています。社員やスタートアップの皆さんには「黄色い線の内側で“やんちゃ”しよう」と話しています。変えてはいけない使命を守りながらも、変えていくべきところは果敢に変えていく。元はと言えばカネも技術も何もないところからレールを敷いた「ぽっぽや魂」があります。文化の違いも乗り越えられると思っています。

渡辺アイディアを募集する際、NTTデータでは事業部門の課題を洗い出し、そこにマッチングするようなスタートアップ企業を集める活動をしています。JR東SUPさんも同様でしょうか。

柴田大きなテーマを設定して、幅広く提案をいただきます。たとえば直近のテーマは、「地域共創」「デジタル共創」「地球共創(SDGs)」でした。withコロナ時代の新しい暮らしや社会を創ろうと掲げたテーマです。そのテーマに応募していただいた中から、自分たちの課題解決に合致するようなアイディアをみつけていく進め方をしています。最近では、「課題先行型マッチングイベント」、通称「逆ピッチ」という形でJR東日本の事業部門の具体的な課題解決につなげる流れが少しずつですが出ています。ただやはり、事業部門を巻き込んで課題を洗い出していくのに苦労するため、NTTデータさんの手法に凄さを感じます。

コーポレート統括本部 グローバル戦略室 渡辺 出

コーポレート統括本部 グローバル戦略室
渡辺 出

渡辺採択しても実際に事業をするのは事業部門ですから、彼らの現場で同意を得るのは汗をかきますね。私たちも事業部門を巻き込むために、現場の課題やスタートアップとの協業ニーズを定期的にヒアリングしています。早い段階で現場とコミュニケーションをとることでミスマッチを防ぐことができますし、現場の協業に対する熱量をあげることができると考えています。

イノベーションは多産多死から育てるのが基本

残間先ほど駅スペースで魚の養殖をやっているという話がありましたが、いきなり話が飛んでくる部署は慌てるのではないですか。

柴田「面白いのでは」と言ってくれる社員が必ずいます。受け止めてくれる社員がいなければ手をつけないでしょうね。いかに理論的に正しいという手法があっても、やはり現場の「ひと」が動かないと事業は走りません。大企業の場合、地域や社会を変えるという目標が、社員の気持ちを動かすことがあります。魚の養殖は、常磐線の浪江駅(福島県双葉郡)で行います。そこに込められた地域貢献や震災復興の思いを共感できれば、事業の見え方が変わり「ぽっぽや魂」に火がつきます。新規事業は、こうしたやりがいや共感が大切なように思います。

残間どうやって賛同者を探し出すのですか。やってもいいという人にアプローチする手法を教えてください。

柴田私たちの事業共創は、「三位一体」で進めます。スタートアップ企業と私たちCVCとJR東日本の事業部門の3者が、案件ごとにチームをつくって、事業共創に取り組むのです。よくあるケースは、このチームに入ると知らぬ間に賛同者になっているというパターンです。巻き込まれていくうちに、新規事業の面白さにハマっていきます。あとは、協業先となりそうな事業部門にお願いして、「ダメなら撤退」や「失敗OK」であることを伝えるなど、あの手この手で口説いていきます。最初は全く賛同者が出ませんでしたが、いくつか事業が生まれていくうちに、少しずつ賛同してくれる部門や人が増えていっているように思います。

渡辺事業共創を興す際には関連するステークホルダーの方々に説明が求められると思いますが、この辺はいかがですか。私たちNTTデータでは様々なステークホルダーの方に説明する際に、既存事業との距離によって苦労することがあります。

柴田NTTデータさんに比べて自由度は高いと思います。このCVCを作った時も多くの議論がありましたが、本社の意思決定にとらわれずに自由に判断できるように、「出島」組織として切り離してスタートしています。なので、事業共創にあたっても資本提携にあたっても、有難いことにこの出島で相当な意思決定ができるようになっています。
ただ、その前提は本社の求める目標を達成することです。会社形態なのでもちろん利益などの財務目標はありますが、いま私たちが期待されているのは新規事業の数、もっと言えば新規事業にチャレンジする数です。私たちの取り組みはNTTデータさんに比べ10年は遅れています。つまり、リターンを稼ぐ段階ではなくて数をこなす時期なのです。ヒットを求められるベテラン選手ではなく、バッターボックスに入ることに必死な新人選手。思いっきり振った結果、三振したとしても監督からは責められません。

残間イノベーションは多産多死だと思います。たくさんアイディアを創出する事によって、質の良いものがいくつか出てくる。経営管理的な絞り込み戦略とは逆の方向なのかもしれません。それを経営者層が理解していることが素晴らしいです。

連携に不可欠なリスペクトとビジョンの共有

残間今後の事業運営での課題をどのように見ていますか。

柴田大企業とスタートアップ企業の連携をさらに進めていきたい。残念ながら、両者の間にはまだ高く厚い壁があります。これを何とか取り払いたいと考えています。「大企業では発想できないけど大企業だから実現できる新規事業」が沢山あるはずです。残念ですが、大企業から斬新なアイディアやテクノロジーは生まれにくいでしょう。そこはスタートアップの知恵や技術を取り入れて、大企業しか成し得ない「社会実装」という形でそれを後押ししていくという連携が必要なのではないでしょうか。まずは、お互いの壁を取り払ってフラットに話し合うこと、そしてお互いをリスペクトすることが必要だと考えています。

残間それが基本ですね。スタートアップ企業が下請け扱いになってしまうような問題が起きてくる話も聞きます。お互いにリスペクトすることが大事であり、さらに将来のビジョンの共有ができればいいと思います。

渡辺我々の取り組みでも一緒にオープンイノベーションをやっていこうといいつつ、付き合い方のマインドチェンジが必要なケースもありますね。ビジョンの共有ができているところは最後までうまく仕事が進みます。一方で、ビジョンがぼやけている場合や、パーツごとのメリットのすり合わせに留まっていると、途中で課題が生じてきます。今は最初に協業を話し合う中で、お互いが目指す世界観をすり合わせることを大事にしています。お互いのビジョンが最初からぴったりと合うことは稀です。だからこそ、合わせる努力が必要だと感じています。それをやるのが我々のチームの役割です。

柴田そのとおりですね。大企業は自分たちのことしか考えなくて、スタートアップ側は自分たちのモデルを広めたいから大企業のインフラを使いたいというような感じで、お互いを見ようとせずに自分本位になってしまうとうまくいくわけがないですね。

残間柴田さんのところで2021年10月から「未来変革パートナーシッププログラム」を立ち上げられ、既存のプログラムよりシード期(※1)のスタートアップ企業と協業しようとしていますね。どういう狙いがあるのでしょうか。

柴田間口を広げたかった。今までのスタートアッププログラムだと採択された案件の実施期限を年度内としているので、ある程度ビジネスモデルが出来上がっていたりプロダクトがあったりするスタートアップでないと難しいという弱点がありました。シード期まで対象を広げることで、もっと共創パートナーの数を増やせるのではと思っています。さらに、社内の共創パートナーも増やしたい。JR東日本のグループ企業もメンバーシップに入れるようにしましたので、ここから事業共創の仲間を増やしていきたいと考えています。

渡辺仲間を増やすために「豊洲の港から」ではイベントを活用して、社員がイノベーション活動に共感し、自分にもできるだろう、という思いを作り上げています。入社当時の熱い思いを呼び戻してもらえるように仕組んでいます。もっと社内イベントを増やして社員の情熱を掻き立てるのもいいかもしれません。

残間語り尽くせないですが、最後にこれだけは言っておきたいというようなメッセージがあれば聞かせてください。

柴田大企業とスタートアップ企業との間にある、埋められない溝を埋めるのは、残間さんがおっしゃったような「ビジョンの共有」なのだと、あらためて思いました。地域を変える、鉄道を変える、よりよい社会を創る。大企業とスタートアップだからこそ実現できる明るい未来を創る新規事業に、これからもチャレンジしていきたいと思います。失敗する事業も多いですが、諦めずに「やんちゃ」し続けます。

渡辺改めて感じたことは、スタートアップの人たちが思い描くビジョンを大企業が面的に広げ、それを実現させていく。そのためには、ビジョンのすり合わせと共に私たちにはリードする役割があると思います。また、多くのビジョンを聞きながらNTTデータが描く企業や行政が業界を超えて連携することで実現する豊かな社会「Smarter Society」(※2)をどのように創るのかの議論に生かしていきたいと思います。

残間本日はありがとうございました。

(※1)

ベンチャー企業の成長段階はシード期、アーリー期、ミドル期、レイター期の4段階にわけられ、シード期は企業立ち上げの準備段階を指す

(※2)信頼をつむぎ、一人ひとりの幸せと社会の豊かさを実現する“Smarter Society”

https://www.nttdata.com/jp/ja/korekara/socialdesign/

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