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2022年6月8日トレンドを知る

メタバース×金融機関 ビジネス参入のリスクと可能性

2021年秋以降、メタバース関連の開発や投資が盛んになっている。世界のメガテック企業が巨額の投資やサービスの投入を進めている状況からも、今後さらに加熱していくことが予想される。金融機関にとってはビジネス参入によるリスクもあるが、新たなサービス提供等、大きな可能性も見込まれている。
本稿では、メタバースと金融ビジネスの接点や今後の可能性について述べる。
目次

メタバースの概要については、「バーチャルイベントを支える「メタバース」とは?」
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/1217/)をご参照ください。

1.メタバースの概況

1997年にNTTデータ(当時はNTTデータ通信)が開設した女性向けのバーチャルモールサービス『まちこ』や、2000年代後半に世界的ブームとなった『Second Life』(※1)など、メタバースの先駆けとなるサービスは複数存在していました。技術的な要因などを背景に、2010年代に入る前にはSecond Lifeのブームは終息を迎えましたが、近年になり、インターネット回線の高速化や端末の性能向上、VRゴーグルの軽量化といった技術的進歩によって、メタバースは再び注目を集めています。

2021年度の世界のメタバースの市場規模は約626億ドル(約8.1兆円)でしたが、米金融大手シティ・グループ(Citi Group)のレポート(※2)では、2030年までに最大13兆ドル(約1,600兆円)に達する可能性があると予測しています。日本企業の本格参入も相次いでおり、NTTドコモやパナソニックを始めとして、各社の市場開拓へ向けた動きが加速しています。

NTTデータグループでは、NTTデータNJK社で開発を進める「NTT XR Coworking」(※3)等、NTTグループ全体で取り組む「NTT XR」(※4)と連携し、様々な方面からメタバースに係るサービス展開の検討を進めています。

(※2)シティ・グループ レポート(Metaverse and Money)

https://www.citivelocity.com/citigps/metaverse-and-money/

2.メタバースと金融の接点

Gartner(ガートナー)は、2026年までに、世界で4人に1人が1日1時間以上をメタバースで過ごすようになると予測しています。ビジネスシーンでの活用も増えていくことが予想されます。
メタバースの中で人々が生活し経済活動を行うようになると、価値交換の仕組みが必要になります。この価値交換の仕組みを、メタバースの特徴を踏まえてどのように活用していくかが、今後のメタバースにおける金融サービスの広がりを検討する上で重要な要素となってきます。

ここで、Second Lifeにおける価値交換の例を見てみましょう。
Second Life内の経済活動には「リンデンドル」という独自通貨が用いられ、ゲーム内において土地・物品の売買等で稼いだ通貨を、アメリカドルなど現実通貨にも換金できるといった特徴がありました。

Second Lifeのブームから約15年経過した現在はブロックチェーン技術が発展し、メタバース内通貨として暗号資産が使えるようになったことや、NFT(※5)によって所有者の明確化や希少性の担保が可能となったことによって、メタバース内の価値を現実世界の価値と紐づけて売買するといったことが成立するようになりました。
Second Life内のリンデンドルは当時仮想通貨と呼ばれることもありましたが、リンデンラボ社が管理・監視する「電子マネー」の一種でした。Second Lifeではサービスのプラットフォーマーが価値管理も実施しており、サービス内のあらゆる価値を決めていたのです。現在は、暗号資産のような独立した技術が融合することで、プラットフォーマーが価値を操作出来ない仕組みを実現している点で、メタバースの価値交換の仕組みは進歩したと言えるのではないでしょうか。

続いて、メタバースと現実社会の金融サービスはどのような点で異なるのか、融資を例に取って考えていきます。
メタバースにおいて土地や物品の売買が行われるようになると、融資のニーズも出てきます。
ここで1つ考えたいのが、融資先についてです。現在のメタバースにおいては、アバターの本人確認の方法が確定していません(図1)。そのため現実社会の誰にどの程度融資しているか分からないケースや、融資ポートフォリオの分散が意図しない形になるケース(図2)が想定されます。
現状はこれらの状況に対する対策のコンセンサスがあるわけではありませんが、今後こういった課題に対して、メタバース上での融資についてのルール整備が関係者の中で並行して行われていくのではないかと想定されます。

図1:現実社会とメタバースの様々な紐づき方

図1:現実社会とメタバースの様々な紐づき方

図2:融資のケース例

図2:融資のケース例

アバターにAIが紐づいている(=無人の)状況や、自然人とアバターが多:多で紐づいているような状況では、融資先は「個人」でも「法人」でもない可能性が出てきます。また、融資元という観点で考えると、メタバースにおけるルールが整備されていない現状では、現実社会における一個人や金融機関以外の企業がメタバース内で金融機能を提供するケースも想定されます。
こうした様々なケースを検討していくと、法人・個人とは異なる「新たな融資先」の概念が出現するといった、現実社会における金融サービスの概念を超える、新たな概念創出の可能性があることが見えてきます。

それと同時に、融資が回収できないことや、マネーロンダリングやクロスボーダー取引など、新たなトラブルや不正の懸念も出てくるでしょう。これらに対する有効な対策として、融資を行う際にメタバース上のアセットをNFT化することが考えられます。実際、現実世界においてもNFTを担保とした融資サービスは広がっていますが、メタバースにおいても仮想不動産をNFTとして担保に設定する住宅ローンの提供が始まっています。

(※5)NFT(非代替性トークン(non-fungible token))

ブロックチェーン上に構築されるデジタルデータの一種。発行者および所有者、また、取引履歴がすべて記録され、ユーザー同士で取引を行うときにも、所在が明確であるため不正が起こりにくい仕組み

出典:仮想土地のNFTを担保にしたメタバース住宅ローン(BUSINESS INSIDER JAPAN 2022/2/2記事)
https://www.businessinsider.jp/post-250066

3.金融機関のメタバース参入には、規制の整備が必要

2022年2月、米銀大手のJPモルガン・チェースは、メタバース上にラウンジを開設したことを発表(※6)するなど、金融機関のメタバース参入が進んでいます。一方日本国内では、一部の金融機関においてはメタバース参入の動きも見られますが本格的な参入はこれからです。

金融機関にとっては、メタバース参入により若年層の取り込みや顧客接点の創出といった効果が期待できますが、法整備の遅れに伴う法的リスクの見通しの悪さが、ビジネス的な踏み込みの弱さにつながっています。

シティ・グループのレポート(※7)によると、「メタバースがインターネット技術の新たな繰り返しであるならば、世界各国の規制当局、政策立案者、政府からより厳しく監視されるだろう。取引所やウォレットにおけるマネーロンダリング防止規則、分散型金融(DeFi)の利用、暗号資産、財産権などの問題に対処しなければならない」と規制対応への必要性をレポートしています。
先に挙げたSecond Lifeでは、リンデンドルの現実通貨との換金を非課税でできたため、脱税に使われるケースやマネーロンダリングに利用されるケース、違法ギャンブルなども問題になりました(現在はさまざまな規制がかけられているということです)。

また、複数のメタバースにまたがる不正行為への対応、さらにはメタバース内で行われるクロスボーダー取引(国籍が違うユーザー同士の取引)についても法的な整理が必要です。メタバースが安全な経済活動の場として活用されるためには、こうしたルールを明確にし、定着させる必要があります。

それでは、こうした規制やルールの整備は誰が行うのでしょうか。
現在国内では、ガイドライン整備などを目的としたメタバース関連団体の乱立が、新たな課題として挙がっています。

表:国内のメタバース関連団体(2022/5時点)(※8)

団体名参加者目的・ビジョン活動内容
日本デジタル空間経済連盟SBIHD、野村HD、日本マイクロソフト、ソフトバンク他デジタル空間における経済活動を活性化し、日本経済の健全な発展と豊かな国民生活の実現に寄与することを目的とする政策提言・報告書の提出、政府、国内外の行政団体との対話、情報発信など
一般社団法人 メタバース推進協議会養老孟司東大名誉教授、溝畑宏元観光庁長官、自治体他メタバース空間内での生活文化・コミュニティの形成、ビジネスの普及・促進のためのルールメイク(ガイドライン整備、ルールメイキング戦略、標準化)を目的とする政策提言、勉強会、啓発活動の実施など
NPO法人バーチャルライツソーシャルVRの当事者800名程VR空間における表現の自由とプライバシー保護の擁護を図るとともに、VR/メタバース文化の振興を目的とする政府等への政策提言、ホワイトペーパー等の作成、啓発活動の実施など
一般社団法人Metaverse JapanPwC、パナソニック コネクト、KDDI、SOMPOHD他メタバース領域で個人やコミュニティが多様性を尊重しながら自由に活躍する社会を創ることを目指す勉強会、情報発信など
一般社団法人日本メタバース協会FXcoin、Ginco、Coinbest他メタバース・ビジネスのサポーターとなることを目指す勉強会、ビジネスマッチングなど

2022年5月末時点で、メタバース関連団体の乱立回避に向けた合流の動きが出てきていますが(※9)、世界のメタバース市場が急拡大する中で日本が遅れをとらないようにするためには、団体の集約(統一化)と規制・ルールの整備が急務でしょう。

(※6)JPモルガン・チェースのメタバース参入(bloomberg 2022/2/16記事)

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-02-15/dimon-s-portrait-roaming-tiger-jpmorgan-opens-metaverse-lounge

(※7)シティ・グループ レポート(Metaverse and Money)

https://www.citivelocity.com/citigps/metaverse-and-money/

(※8)メタバース関連団体

・日本デジタル空間経済連盟
https://www.sbigroup.co.jp/news/2022/0415_12982.html
・一般社団法人 メタバース推進協議会
https://jmpc.jp/
・NPO法人バーチャルライツ
https://www.npovr.org/
・一般社団法人Metaverse Japan
https://metaverse-japan.org/
・一般社団法人日本メタバース協会
https://japanmeta.org/

(※9)メタバース主力2団体、相互加盟へ 乱立回避へ共同歩調(日本経済新聞 2022/5/30記事)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB309EW0Q2A530C2000000/?unlock=1

4.金融分野におけるメタバースを用いたサービスの広がり

金融機関が参入するには課題もありますが、メタバースの活用で新しい金融サービスを創出できる可能性もあります。

センシングファイナンス(※10)×メタバース

メタバースでは、現実社会以上にあらゆるデータを収集することができます。人々のコミュニケーションや行動変容を始めとした膨大な収集データは、より精緻な融資の管理やデジタルマーケティングなどに活用していくことが可能です。

サステナブルファイナンス(※11)×メタバース

メタバースをデジタルツイン(※12)として活用することも可能です。様々な事業やサービスに投資する前に、仮想環境における環境負荷やCO2排出量のシミュレーションによって取り組みを評価することができ、より効率的にサステナブルファイナンスを推進することができるでしょう。

保険×メタバース

メタバース内のデジタルコンテンツやアバターに掛ける保険が登場することも考えられます。

上記は一例ですが、今後金融機関にはメタバースを見据えた新規ビジネス創出の検討を進めていくことが求められます。

(※10)「センシングファイナンス」はNTTデータの商標です。(以下記載についても同様)
「センシングファイナンス」の可能性

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2019/051501/

(※11)サステナブルファイナンス
金融分野のグリーン推進・サステナブルファイナンス

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/1129/

(※12)デジタルツイン

デジタルツインとは、現実の世界にある物理的な「モノ」から収集した様々なデータを、デジタル空間上にコピーし再現する技術のことを指します。コミュニケーション空間として活用されるメタバースとは異なり、現実社会の課題解決を目指す、いわばシミュレーション環境として活用が見込まれているのがデジタルツインということになります。

5.まとめ

本稿では、メタバースと金融ビジネスの接点や今後の可能性について紹介しました。NTTデータはメタバースを取り巻く環境変化、動向を注視し、金融サービスの未来について考えていきます。

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