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2023年4月5日事例を知る

「保存する」だけでなく「活用する」。
Web3時代のデジタルアーカイブの価値とは~バチカン図書館×AMLADの挑戦~

世界各地の図書館や美術館などに保存されている文化資産。それらは、人類の辿ってきた足跡を残すものとして高い希少価値を持つ反面、常に劣化のリスクにさらされている。そんな中、注目を集めているのが、デジタルアーカイブだ。
今回は、NTTデータが取り組むデジタルアーカイブソリューション「AMLAD」の取り組みをご紹介。世界中の文化資産を所蔵するバチカン図書館とともに行っている取り組みをもとに、「保存する」だけでなく「活用する」フェーズへ向かうデジタルアーカイブの未来を考える。
目次

希少な文化資産をデジタルアーカイブ化する「AMLAD」とは?

NTTデータが提供するデジタルアーカイブソリューション「AMLAD®(アムラッド)」。この技術を活用したプロジェクトでは、希少な価値ある文化資産を数多く保有する国内外の公共機関や企業の2Dおよび3Dデータのデジタルアーカイブ事業を支援している。たとえば、海外ではバチカン教皇庁図書館(以下、バチカン図書館)や、ASEAN事務局および東南アジア諸国の文化機関、日本国内では石川県立図書館や秋田県立図書館、高野山大学などがその一例だ。

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 ソリューション開発担当 主任 佐藤 明世

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部
デジタルソリューション統括部 ソリューション開発担当 主任
佐藤 明世

「図書館や美術館などの文化機関の所蔵品だけでなく、企業の情報資産もデジタルアーカイブの対象になります。その展開の幅は年を追うごとに広がっています」と語るのは、AMLAD事業に携わるデジタルソリューション統括部の佐藤明世。

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 ソリューション開発担当 主任 近藤 志帆

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部
デジタルソリューション統括部 ソリューション開発担当 主任
近藤 志帆

また、同部署の近藤志帆も、その特徴を語る。
「美しい状態で保全するだけでなく、すぐにデータを探し当てられるようにするための検索の仕組みにもこだわっています」

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 営業企画担当/ソリューション開発担当 課長 長谷部 旭陽

社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部
デジタルソリューション統括部 営業企画担当/ソリューション開発担当 課長
長谷部 旭陽

AMLADチームを率いるのは、同部の課長を務める長谷部旭陽。なぜデジタルアーカイブが重要なのか、その意義を語った。
「世界中の文化機関には、数多くの貴重な文化資産が眠っています。しかし、それらは現地に行かなければ見ることができず、かつ、現地に行っても探し当てるのがとても大変なものでした。しかし、デジタルデータを適切にアーカイブ化すれば、世界中どこにいても、自分の見たいものを、自由に、手軽に、探し当てて見ることができる。これは、デジタルアーカイブの大きな意義です」

世界中の文化資産を所蔵するバチカン図書館との提携。

2014年からは、バチカン図書館との提携をスタート。160万冊を超える書籍、8万点を超える手書文献、30万点以上のコイン・メダルや15万点以上もの印刷物など、同図書館が所蔵する貴重な文化資産のデジタルアーカイブを進めていった。

「もともとバチカン図書館でもデジタルアーカイブには大きな関心があったといいます。最初に話を受けてから2年がかりで準備を進めて、デジタルアーカイブの公開にこぎ着けました。それ以降も継続してパートナーシップを結んでいます」(長谷部)

今回、特別にバチカン図書館のチェーザレ・パシーニ館長にも話を伺うことに。NTTデータとのパートナーシップについて振り返る。
「私たちの所蔵物は、保全のために細心の注意を要するものばかり。AMLADのデジタルアーカイブソリューションは、これらの極めて価値のある所蔵物を、損耗させずに長期保存していくことに貢献してくれています。『世界中から収集された所蔵品を人種や血統、文化、宗教、政治、理念の別なく公開し、研究活動や科学的発展を支えていく』という、私たちバチカン図書館のミッションに、NTTデータは大きな役割を果たしてくれました」

現地から語ってくれる、パシーニ館長。

現地から語ってくれる、パシーニ館長。

バチカン図書館が誇る膨大な文化資産のデジタルアーカイブ。その過程は、決して平坦ではなかったという。

「単に所蔵物のデジタルデータをつくって残すだけではありません。図書館の分類や規格に則った国際的なデータ構造に準じて格納しなければならない。しかも、そうした分類や規格だけではなく、バチカン図書館独自のローカルルールもあり、それらすべてをシステムに反映させなければならない。奥が深い世界です」(近藤)

「単に『技術を持っています』だけでは終わらないのがNTTデータらしさ。クライアントはどのような課題を持っているのか、どのような組織で動いているのか、どのような法律が関係するのか、どのような慣例やルールが存在しているのか……まずは顧客が置かれた背景を深く理解した上で、システム化という解決策を提供する。それが私たちの強みですから」(長谷部)

実際にデジタルアーカイブ化された数多くの文化資産は、世界中の研究者に活用されているという。
「特にコロナ禍で研究者が図書館に訪問できないとき、デジタルアーカイブは図書館のミッションの継続に重要な意味を持つものとなりました。どんな場所にいても、どのような人でも、目録を検索すればデジタル化された所蔵物を閲覧できましたから」(パシーニ館長)

「保存する」だけでなく「活用する」。新たなステージに進んだAMLAD。

上記のような取り組みを進める中で、AMLADチームとバチカン図書館は、デジタルアーカイブの新たな可能性を考えはじめる。

「デジタルアーカイブ事業を進める内に、コンテンツを『保存する』だけでいいのか、という問いにぶつかりました。保存して、検索して、見られるようにする……たしかにそれは尊いことかもしれない。でも、それだけではコンテンツの価値を引き出していることにはなりません。これからは保存したものを『活用する』ことも考えるべきだと思うようになりました」(長谷部)

そして、2023年2月NTTデータはバチカン図書館とともに、価値あるデジタルコンテンツを所蔵する機関とその支援者とをWeb3の技術を用いてつなげる実証実験をスタートさせた。
この実証実験では、オンライン上でバチカン図書館への支援者を募集し、その支援活動に対する返礼品をNFT・ブロックチェーン技術を用いて提供。支援者はウェブサイト上から支援の申し込みを行い、本プロジェクトの情報をSNSでシェアすることでバチカン図書館への支援を証明するNFTを得る(図1)。そのNFTを所有することにより、ウェブサイト上で、バチカン図書館が保有する文化遺産15点の特別なコンテンツである高精細画像と、本プロジェクトのために作成されたそれらの文化遺産の解説文を閲覧できるようになるのだ(図2)。

このプロジェクトで発行された「バチカン図書館を支援したことを証明するNFT」は永続的に改ざんできないかたちで残り続け、また、それを所有するユーザは自由にその証明を他者に見せることができる。このようなNFTの特徴を活かすことが、新たなオンラインコミュニティ作りにつながるとNTTデータは考えている。

図1:「支援者向けウェブサイトイメージ」 左:トップページ 右:コンテンツ閲覧ページ(バチカン図書館が作成した、返礼品である高精細画像と解説文が表示されます)

図1:「支援者向けウェブサイトイメージ」
左:トップページ 右:コンテンツ閲覧ページ(バチカン図書館が作成した、返礼品である高精細画像と解説文が表示されます)

図2:サイトに掲載される15点のコンテンツ(サイトでは高精細な画像を見ることができます)

図2:サイトに掲載される15点のコンテンツ(サイトでは高精細な画像を見ることができます)

バチカン図書館も、この取り組みに大きな期待を寄せている。
「NTTデータがつくり上げようとしている新たなコミュニティのかたちに価値を見出しているのは、バチカン図書館だけではないはず。NTTデータはきっと、世界中でさまざまなパートナーとこうした新たな仕組みをつくり続けていくことでしょう」(パシーニ館長)

この取り組みに対して、長谷部は「やりたいことに対して最適な技術が見つかった」と語る。
「改ざんできない、永続的に残る、自由に活用できるなどといったWeb3の技術は、個人の意思や信頼関係をもとにしたつながりやコミュニティをつくることに適しています。そして、デジタルコンテンツをもとに新たなつながりやコミュニティをつくることは、まさに私たちが望んでいたデジタルアーカイブを『活用する』ことに他なりません。社会全体でWeb3の価値や意義を探る中で、このプロジェクトはWeb3時代の最初のユースケースになる可能性があると信じています」(長谷部)

バチカン図書館との会合の様子(2022年11月)

それぞれのメンバーが語る、これからのデジタルアーカイブ。

バチカン図書館に限らず、希少なコンテンツを有する文化機関や企業などが支援者たちとコミュニティを形成し、オンライン上で拡大していく……今回の実証実験の先に描くのは、そのような未来像だ。3人のメンバーが改めてAMLADの可能性を語る。

「例えば歴史的な文化資産だけでなく、現代アートのようなコンテンツも対象になるかもしれません。『古い遺産をデジタル化してアーカイブするAMLAD』から『価値あるコンテンツをデジタル化して、もっと活用できるようにするAMLAD』へ。私たちの存在意義は、そこにあると思っています」(長谷部)

「もっとデータの見せ方にもこだわっていきたいですね。2Dデータから3Dデータに移行したり、さらに3Dデータを動かしたり。綺麗に残す・見せるだけでなく、そこに演出を加えて付加価値を付けたら、もっと価値を享受できる人の裾野は広がるのではないかと思っています」(近藤)

「今回の取り組みを機に、文化機関への新たな貢献のかたちをつくれたらと思います。文化資産を『残す』だけでなく、『より多くの人に届け、感動を生み、そしてつながりをつくる』といった、これまでになかった価値を創出する仕組みをつくりたい。それが、文化を守ったり、盛り上げたりすることにつながって、文化・美術界に携わる人たちの役に立てたらいいなと思います」(佐藤)

最後に、実証実験を終えた今、リーダーの長谷部が今後の展望について話した。
「Web3の世界が始まって、きっと今の私たちが知らないような変化がデジタル上で起こっていくでしょう。数年後には、きっと今からは想像もつかない新しい当たり前ができているはず。その中で、私たちは新しいつながり・コミュニティのあり方を創造していきます。今回の仕組みはその第一歩にすぎません。ただひとつ言えるのは、新しい当たり前をつくるのは、今までになかったサービスだということ。そして、そのようなサービスは、頭で考えるだけではなく実際に行動を起こしてみる、実践の中でしか生まれないということ。行動を起こせば、身の回りから社会全体へと波紋のように影響が広がっていき、当たり前が変わっていく。そう信じて、とにかく実践を続けていきたいと思います」(長谷部)

まとめ

今後もNTTデータは、バチカン図書館との実証実験の結果を踏まえ、Web3技術を用いたAMLADサービスの改良と本格展開を進める予定だ。また、今後もバチカン図書館をはじめとする世界各地のクライアントと協力し、貴重な文化遺産の保全に貢献するとともに、各国各機関とその支援者との新たなコミュニティ構築に貢献していく。

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