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1.組織や分野を横断したデータ活用を実現するデータスペースの特徴と可能性
近年、組織や分野を横断してデータを安全かつ信頼性を確保しながら共有・活用する仕組みとして、「データスペース」が注目されています。データスペースは、データの管理権を各主体が保持したまま連携できる仕組みです。行政・企業・研究機関など、多様な主体が連携する社会課題の解決を支える基盤として期待されています。
データスペースは、異なる主体が保有するデータであっても、必要な相手へ必要な範囲で信頼性を担保しながら共有できるという特徴があります。さらに、そのままでは活用が難しい個人情報や営業情報などの機密性の高いデータも、秘密計算や匿名加工といったプライバシー強化技術(PETs)と組み合わせることで、内容の秘匿性を確保したまま連携・活用できます。データスペースが安全なデータ連携を支え、PETsがデータ自体を保護することで、これまで共有が難しかったデータも活用できるようになります。
現在、データスペースは製造業における自動車・蓄電池サプライチェーンでのカーボンフットプリント情報の共有などに活用されており、今後は防災、電力、医療など、さまざまな分野への展開が期待されています。
こうしたデータスペースの考え方は、近年社会的な課題となっているクマ対策にも応用できる可能性があります。クマの出没は山間部だけでなく、人の生活圏や通学路、農地、観光地、鉄道・道路周辺にも広がります。そのため、自治体や研究機関、住民など多様な主体が保有する情報を、信頼性を確保した上で適切な相手へ届け、迅速な意思決定につなげることが求められています。
2.クマ対策にデータスペースがもたらす価値
では、データスペースはクマ対策にどのような価値を提供できるのでしょうか。
クマ対策においては、クマの出没情報を、必要な相手へ適切に届ける仕組みが重要です。具体的には、「クマが出た」という情報が改ざんやフェイク投稿ではないという真正性を確保した上で、その情報を関係者に適切に共有し対応を進められるよう、情報の状態管理や利用者に応じた公開範囲の制御、対応履歴の管理などが必要となります。
こうした課題に対し、データスペースの特徴が活かされると考えています。データスペースは、データを一元的に集約するのではなく、各主体の管理下に置いたまま、必要な相手へ必要な範囲で安全に連携できる仕組みです。まず、認証・認可によって発信元が確かな主体であることを確かめ、なりすましを防ぎます。データ本体が改ざんされていないことは、電子署名などデータ自体に真正性を与える技術と組み合わせて担保します。その上で、内容が事実かどうか(フェイクでないか)は単一の情報だけでは判断できないため、来歴や確認状況を把握し、受け手が複数の情報を突き合わせて信頼度を判断できるようにします。
次章では、クマ対策に「データスペースの考え方」を適用した構想のことを「クマ対策データスペース」と位置付け、自治体や学校、住民など、それぞれの立場でどのように活用できるのかを具体的にご紹介します。
3.クマ対策データスペースの具体的な活用イメージ
具体的には、自治体、学校、現場対応者(警察や猟友会など)、政策担当者(国や県)、住民が、クマ対策データスペースの共通の情報基盤を利用しながら、それぞれの役割に応じた情報を取得します。これにより、利用者は、情報を正確に把握し、必要な行動や意思決定を迅速かつ適切に行うことができるようになります。
例えば、自治体職員がクマの目撃情報や被害通報を受け付け、住民や関係機関へ必要な範囲で情報を共有する場合、通報がAIカメラによる検知なのか、住民からの目撃情報なのかを確認するとともに、その情報の信頼性や確認状況を踏まえて対応を判断します。
具体的な活用イメージを示すため、以下では自治体職員向けおよび政策担当者向けの画面例を紹介します。なお、画面内の地図・地区名・数値は説明用のサンプルであり、実際の出没状況や被害状況を示すものではありません。
図1:自治体職員のアプリ画面イメージ。住民やセンサーからの通報を一覧して対応を判断する。
住民や学校へ情報を公開する際には、出没地点をそのまま公開するのではなく、地区単位で表示するなど、利用者に応じた情報提供が可能です。また、AIカメラの画像に個人情報が含まれる場合には、データマスキングなどの技術を活用することで、プライバシーを保護しながら必要な情報だけを提供できるようになります。
一方、国や県の政策担当者は地域ごとの出没状況や被害状況を把握し、支援地域の優先順位や対策方針の検討に活用できます。住民や観光客はクマ出没情報や注意喚起、安全な迂回経路などを確認することで、安全な行動を選択できます。また、学校では出没状況に応じて登下校ルートの変更や見守り体制の強化を迅速に判断できるようになります。このように、利用者ごとに必要な情報を適切な形で提供することで、迅速な意思決定を支えることができます。
図2:政策担当者のアプリ画面イメージ。各地区の状況からリスク指数を出し優先順位をつける。
クマ対策には多様な関係者の連携が欠かせません。データスペースは、各主体が情報を信頼できる形で連携できる共通基盤を実現します。まだ構想段階ではありますが、データスペースを活用することで、関係者が共通の認識に基づき行動できるクマ対策の実現につながります。
さらに一歩進んだ活用として、クマの個体識別への応用についても考察していきましょう。
4.同じクマなのか、複数のクマなのか、クマ対策データスペースの可能性
クマの出没情報をデータスペース上で共有するだけでは、十分な対策にはつながりません。クマ対策において実務上の大きな論点となるのが、「同じ個体が移動しているのか、それとも複数の個体が生活圏に入り込んでいるのか」を判断することです。
クマの体格や歩き方などから個体を推定できる場合もありますが、監視カメラやAIカメラだけで常に個体を特定することは難しく、また、DNA鑑定やGPS首輪は個体識別の高い精度を持つものの、すべてのクマへ適用することは現実的ではありません。
そこで有効となるのが、単一の情報だけで個体を断定するのではなく、複数の証拠を組み合わせて「個体仮説」を更新していく考え方です。ここでいう「個体仮説」とは、目撃情報やセンサー情報など複数の情報を統合し、「同じ個体である可能性」や「別個体である可能性」を継続的に評価・更新する考え方です。例えば、学校付近での目撃情報や農地の被害痕、防犯カメラ映像、AIカメラによる検知、足跡、DNA鑑定結果などを関連付けることで、個体に関する仮説を継続的に更新していきます。
その結果、同一個体と判断されれば移動経路を推定して警戒範囲を絞り込むことができ、複数個体の可能性が高ければ、警戒範囲の拡大や出動体制の強化など、状況に応じた対策を講じることが可能になります。
クマ対策データスペースは、これまで個別に管理されていた目撃情報やセンサー情報、DNA鑑定結果などを、信頼性と来歴を保ちながら横断的に連携し、個体に関する仮説を継続的に更新・共有していく基盤となり得ます。これにより、同一個体の移動なのか複数個体の出没なのかという見極めに基づいて、警戒区域の設定や出動判断などをより効果的に進められることが期待されます。
5.クマ対策データスペースの社会実装に向けて
国のクマ被害対策ロードマップでは、2030年度までに緊急時の対応体制の強化や推定個体数・捕獲目標数の明確化、ゾーニング管理計画の策定などを進める方向性が示されています。こうした施策を実効性のあるものとするためには、関係者が信頼できる情報を共有し、共通の状況認識のもとで意思決定できる基盤が不可欠です。クマ対策データスペースは、その実現を支える有力な基盤の一つになり得ると考えています。
NTT DATAでは、データスペース総合サービス「X-Curia®」や、防災分野における情報連携基盤「D-Resilio®」など、データスペースやデータ連携基盤の社会実装を進めています。こうした知見は、クマ対策にとどまらず、防災や地域見守りなど幅広い地域課題への展開も期待できます。自治体や研究機関、企業など多様な関係者と連携しながら、データに基づく地域の意思決定を支える仕組みの社会実装に取り組み、安全・安心な社会の実現に貢献していきます。
本稿で示したクマ対策データスペースは、データスペースを社会課題へ適用する一つのユースケースとして、今後の議論や実証、さらなる社会実装につながることを期待しています。


データスペース 取り組みの紹介についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/dataspace/
X-Curiaの紹介についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/x-curia/
D-Resilioの紹介についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/d-resilio/
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