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2026.4.30技術トレンド/展望

“Technology first”から“Issue first”へ--マドリードで確認したデータスペースの転換

データスペースは「つくること」がゴールではない。企業や組織の枠組みを超えて、データ資産を活かせるかどうかが、いま問われている。
2026年2月、スペイン・マドリードで開催された世界最大のデータスペースイベント「Data Spaces Symposium 2026」。第4回を迎えた今年のモットーは“Accelerating adoption. Increasing impact.”(「採用を加速し、インパクトを拡大する」)。筆者はDay 1のPanel discussion「Many countries, one concept: how data spaces take shape worldwide」に登壇した。コロンビア、韓国、ブラジル、スペイン、カナダ、そして日本。6カ国の代表がそれぞれのアプローチを持ち寄り、データスペースの多様な展開を議論するセッションである。
目次

1.開催国スペインが示した「実行力」

「構想は語られ尽くした。次は実行だ」--。会場の空気を一言で表すなら、そうなるでしょう。
シンポジウムの中でも存在感を放っていたのは、ホスト国スペインです。デジタル変革・公共サービス省のスペイン政府初代データ総局長(元職)Ruth del Campo氏が登壇し、国家データスペース戦略の成果を報告しました。現在約300のプロジェクトが進行中、約4億ユーロ(約748億円)の資金が動員されており、55のすべての地域・自治州で展開されています。とりわけヘルスケア分野では、機密性の高い医療データの共有が公立病院のネットワーク間で実現し、臨床試験の効率化や個別化医療のデータ活用に成果を上げています。また、農業分野でも、土壌効率の向上や持続可能性の確保に向けた多数のプロジェクトが動いています。

図1:スペインの国家戦略スライド“The Spanish Path: Convergence & Reality”
(Ruth del Campo氏の発表資料より)※発表者およびIDSAより許可を得て掲載

もうひとつ注目すべき変化として、今回はじめて「AI×データスペース」が独立テーマに設定されました。企業や組織が保有するデータを連携し、利活用していくためには、安全で信頼性を確保しながらAIを利用できるデータ基盤や環境が不可欠だという認識が定着しつつあります。防衛分野でも、EDA(European Defence Agency:欧州防衛機関)がフェデレーテッド型データスペースモデルの採用を紹介し、データスペースの特徴を生かし、国家主権を保ちながらデータを共有するデータ利用管理の仕組みづくりが進んでいます。

2.次のフェーズへの問い

進展が見える一方で、「この先どう進めるか」という議論も活発でした。
Bettina Tratz-Ryan氏は、現在の製造業のデータスペースを、5つあるハイプサイクルの第1段階目「イノベーショントリガー(黎明期)」段階にあると位置づけ、今後のスケール展開の鍵はデータファーストの文化を組織に根付かせることが不可欠であると主張。さらに、データ分析に基づいて意思決定を行う体制へ移行するためには、デジタル化とデータのガバナンス構造の構築が重要であると指摘しました。

IDSAビジネスバリューレポート概説書では、NTT DATAもGuidance & Steeringのメンバーとなっています。(下記スライド写真の右側に記載)

図2:Bettina Tratz-Ryan氏の発表資料

パネルディスカッションでは、IPAの津田氏が本質的な問いかけをしました。

写真1:パネルディスカッションで登壇する津田 通隆 氏(独立行政法人情報処理推進機構 情報分析官/Open Data Spaces Chief Architect)

「データスペースの原論を読んだ人は何人いますか?」と会場に呼びかけ、UC BerkeleyのFranklin、Googleらによるオリジナルコンセプトに立ち返るべきだと主張。データスペースを規制対応の手段としてだけ見るのではなく、分散型データ管理という新しいパラダイムシフトとして捉え直す。実際、津田氏がチーフアーキテクトとして率いるOpen Data Spaces(以下、ODS)では、米国企業発のData Meshの考え方も軸に据え、企業内のデータ管理を企業間のデータ連携へと拡張するアプローチを取っています。規制の先にある成長の道筋は、こうした原点回帰の中から見えてくるのではないか--。そのような投げかけでした。

2026年4月1日にはODSの設計思想からリファレンスアーキテクチャ、プロトコル、ミドルウェアに至る一連の成果物を公開しました。分散型データ管理を「技術パラダイム」として社会実装していくための具体像が、ここに示されています。
参考:https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260401.html

3.NTT DATAからの提言:規制対応を超えたビジネス価値へ

これらの議論を踏まえ、筆者らは発表「Unlocking Business Value Through Data Spaces: Insights from Global Practice」で、ひとつの考え方を示しました。
筆者が伝えたかったのは、“Compliance opens the door — business strategy keeps it open.”ということです。規制対応はデータスペース導入の有効なトリガーです。しかし、その先に進むためには、まず自社データを整備し、マシンリーダブルな状態(AI Ready)に引き上げ、最終的にはAIに活発に活用される状態(AI Active)まで持っていくことが前提となります。

データ基盤の整備とデータスペースの活用は、別々のフェーズではなく地続きの取り組みです。自社データを整えるプロセスそのものが、組織を超えた価値創出への道を開きます。データスペースの本質的な価値は、組織の中に眠っているエンタープライズデータを、組織を超えて安全に活用することにあります。

たとえばサプライチェーンでは、Tier-2、Tier-3による供給リスクは自社データだけでは見えません。複数企業のデータがつながることで、リスクの早期検知や調達先の動的な切り替えが可能になります。
AIについても同様です。オープンデータや汎用モデルだけでは競争優位は生まれません。各社が持つ製造条件や品質データを、データ利用管理を可能にしながら持ち寄ることで、自社単独では構築できない予測モデルが実現する。データスペースは、そうした企業固有データの越境活用を可能にするキーイネーブラー(実現の鍵)なのです。

写真2:筆者の登壇。DS-HLAMのネットワーク効果モデルを解説

では、組織を超えてエンタープライズデータを活かすために、どう設計すればいいのか。発表では3つの原則を軸に議論しました。

信頼境界の設計

組織間連携では「全データを共有する」前提は成り立ちません。製造業で言えば、品質データはTier-1と共有しても、コストデータは決して出さない。何を、誰と、どのような条件で共有するのか--。データ利用管理に基づく信頼境界は最初から設計する必要があります。

信頼の非対称性の克服

データスペースは二者間APIではなく、信頼レベルの異なる多対多の関係です。参加するすべての組織が対等にルールメイキングに関与できるフェデレーテッドガバナンスを共同設計することで、特定の主体への依存を排しながらエコシステム全体の信頼を担保できます。

ネットワーク効果のエンジニアリング

参加者が増えるだけでは価値は生まれません。重要なのは、参加者が増えるほど各参加者が得られる価値も増大するという正のフィードバックループを、意図的に設計することです。

このパネルディスカッションでは、アナリストファームや産業界・標準化団体を代表するさまざまな登壇者の間で、“Technology first”ではなく“Issue first”への転換が必要だという認識が共有されました。考えてみれば当たり前の話ですが、データスペースではこの「当たり前」がなかなか定着しませんでした。

欧州におけるデータスペースは、データ主権やGDPR(EU一般データ保護規則)対応といった欧州固有の社会課題・政策課題を起点に設計されてきました。このアプローチは公共領域では確実に機能しています。スペインの医療データ連携やEDAの防衛データスペースが示すように、社会システムとしてのデータスペースは着実に立ち上がっています。

一方で、民間企業が自らの経営課題からデータスペース設計に到達するまでのカスタマージャーニーは、まだ十分に描かれていません。だからこそ今が、公共領域で培われた基盤の上に、企業のビジネスロジックを接ぎ木するタイミングです。企業が直面している経営課題やオペレーション上の課題(ペインポイント)をまず定義し、そこからカスタマージャーニーを描く。課題解決の手段としてAIやデータスペースが自然に組み込まれていく流れをどう設計するかが、これからの導入の鍵になります。

4.セッションを超えたコラボレーション

講演以外にも、シンポジウムの合間に複数のサイドミーティングが実現しました。
筆者の発表では、東京大学越塚研究室との共同研究「DS-HLAM」(Data Space High-Level Architecture Model、arXiv:2509.12210)も紹介しました。DS-HLAMは、IDSA(International Data Spaces Association https://internationaldataspaces.org/)、Gaia-X(https://gaia-x.eu/)、ODSといった異なるアーキテクチャの上に形式的な抽象化レイヤーを構築し、相互運用性を数理的に分析するツールです。世界には先に述べたODS、さらにはIDSA、Gaia-Xのようなモデルがあります。

また日本のバッテリートレーサビリティプラットフォームや欧州発の自動車業界データスペースCatena-Xはデータ連携エコシステム実装の一例とも言えます。仕様を厳密にすればするほど導入障壁は上がり、緩めすぎれば混乱が生じうる。このトレードオフを厳密に分析し、ネットワーク効果を最大化する道筋を示すことが、DS-HLAMの狙いのひとつです。

写真3:IDSA設立10周年のパネル前で記念撮影(筆者ら)

また、ODS-RAM(Open Data Spaces Reference Architecture Model)とMX-Port(Manufacturing-X Port)の日欧間連携に関する専門家会議が開催され、今後の協力に向けた議論が行われました。展示ブースでは、Prometheus-Xが同意管理・秘匿処理を組み合わせた軽量な相互運用アプローチを紹介しており、データスペースの実装手段が多様化していることを感じさせました。

写真4:Prometheus-Xブースでの議論

5.データスペースの「次」を作るのは誰か

3月にはIOFDS(International Open Forum on Data Spaces)が開催され、AI統合、実用ユースケース、そしてコンセプトからインパクトへの移行をテーマに、さらに議論が深まりました。同時期には関連イベントとしてWorld Forum on Data Spaces & AI 2026も開催され、データスペースとAIの交差領域に関する議論が続きました。

マドリードでの2日間を通じて感じたのは、データスペースが明確な転換点にあるということです。欧州の実装は着実に進み、グローバルな連携も動き出している。そして今、規制対応を超えてビジネス価値創出に踏み出すタイミングが来ています。

NTT DATAは、ビジネスゴール起点のデータスペース設計という視点を武器に、日本・欧州・グローバルサウスを含むマルチステークホルダー連携のハブとして、社会課題解決や、データ利活用を通した企業のビジネス創出に不可欠な仕組みづくりとその役割を果たしていきます。データスペースの「次」を作る。その担い手であり続けるために。

写真5:IDSAテレコム業界メンバーとの交流

データスペース 取り組みの紹介についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/dataspace/

国・地域を超えたデータスペース協調と新ビジネス創出に向け、グローバルチームを発足についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/031001/

A Proposal for High-Level Architectural Model Capable of Expressing Various Data Collaboration Platform and Data Space Conceptsについてはこちら:
https://arxiv.org/abs/2509.12210

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