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2023年4月6日展望を知る

組織とビジネスを変革し、新たな価値を創造するDX人材育成

企業価値向上において、DXや共創が大きなテーマとなっている。その推進役を担うDX人材をいかに育て、活躍してもらうための仕掛けが重要になる。DX人材育成の具体的な取り組みについて、旭化成でデジタル共創本部長を務める久世和資氏と、NTTデータ代表取締役副社長の藤原遠がディスカッションした。
目次

企業価値の向上に不可欠なDX人材

約2700年前に活躍した中国の政治家、管仲の著書といわれる「管子」に「終身之計、莫如樹人(終身の算を立てるなら、人材を育てなさい)」という一節がある。継続的な成果を上げるには人材育成が重要、と紀元前から説かれていたことがわかる。その言葉が示す通り、近年人材育成の重要性がますます高まっていると、NTTデータ代表取締役副社長の藤原は語る。

代表取締役副社長 藤原 遠

代表取締役副社長
藤原 遠

また、企業価値向上の実現には経営戦略と人材戦略の密接な連動が必要と述べ、「経営戦略におけるITの位置づけが、単なるオペレーションの効率化から事業の創出へとシフトし、DX戦略が経営戦略の中核に位置づけられるようになりました。だからこそ、これからの価値創出にはDX人材育成がますます重要になっています」という。

DX人材の重要性は高まっているが、多くの企業がその育成にさまざまな課題を抱えている。NTTデータでは、これまで多くのお客さま企業のDX人材育成の支援の実績から、それらの課題を大きく7種類に整理している。

図1:DX人材育成に関する7つの課題

図1:DX人材育成に関する7つの課題

4つのピリオドで進む旭化成のデジタル変革

DX人材の育成に多くの企業が課題を抱えている中、業界のDXをリードしてきた旭化成は、これまでどのような課題と向き合い乗り越えてきたのだろうか。旭化成DXの取り組み全体像について取締役 兼 専務執行役員 デジタル共創本部長の久世和資氏は次のように語った。

旭化成株式会社 取締役 兼 専務執行役員 デジタル共創本部長 久世 和資 氏

旭化成株式会社
取締役 兼 専務執行役員 デジタル共創本部長
久世 和資 氏

「旭化成では、2015年頃からDXの取り組みをはじめました。そしてその段階をデジタルの『導入期』『展開期』『創造期』『ノーマル期』の4つのピリオドで捉えています」(久世氏)

図2:4つのピリオドで進むデジタル変革のロードマップ

旭化成のDXの「導入期」は現場密着型でスタートした、と久世氏。
「製造業は、研究開発や生産部門など現場の意見が強い傾向があり、最初は彼らのデジタルに対する理解や信頼を得ていくことに注力しました。現場が困っている課題にDX推進チームが一緒に取り組みながら、現場でデジタルを使いこなせるデジタルプロ人材の育成も進めました」(久世氏)

そして2020年頃からはじまった「展開期」へと、久世氏は解説を続ける。

「展開期では、DXに対する理解を管理職や経営層に浸透させ、デジタルへの投資の活性化と全社展開のスピードアップを図りました。経営層も含めた全社員が一定のデジタルリテラシーを持つ状況をめざしてグループビジョンを作成し、2021年にはデジタル共創本部も設立。『DXオープンバッジ』というプログラムをはじめたのもこの時期になります」(久世氏)

DX推進初期段階の鍵はDX人材育成の可視化

図3:5段階のうちレベル3までを全従業員の取得をめざす

図3:5段階のうちレベル3までを全従業員の取得をめざす

DXオープンバッジの特徴は、教材の内製化と、バッジの取得はあくまでも任意である点。任意の制度でありながらも、受講した社員の口コミ効果や、会長や社長などトップ層が先陣を切って取得し、全社員に向けて情報発信したことで素早く浸透。これまで70パーセントの社員がレベル1を取得するにいたっているという。

「レベル1は、『AI入門』『IoT入門』『IT入門』『Garage入門』という4つのコースで、レベル2はすこし難易度が上がり、『マーケティングの基礎』を加えた5つのコース。レベル3はPythonのプログラミングなど9つのコースがあって専門性も上がるため、1つのコースだけ取得すればバッジが付与される仕組みになっています」(久世氏)

DXオープンバッジは、その名の通り「スキルの見える化」がコンセプトになっている。若手から役員、社長や会長まで、誰がどのスキルを取得しているかが「見える化」されることがモチベーション・アップにもつながると考えている。
一方、NTTデータでも「スキルの見える化」をめざし、プロフェッショナルCDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)という制度を15年以上にわたって運営してきた。その内容について藤原は次のように語る。

図4:全社員がいずれかの人財タイプを選択する

図4:全社員がいずれかの人財タイプを選択する

「『プロフェッショナルCDP』では、さまざまな人財タイプ(専門性)を設定するとともに、『アソシエイト』から『プリンシパル』までレベルが定義されています。資格の取得状況だけでなく、上位レベル者が面談で経験や技量を確認することで、レベルの到達度合いを見極めています。また、技術やビジネスの変化に合わせて『サービスデザイナ』などデジタル関連の人財タイプを新設するなど、専門性の定義そのものを常にアップデートしています」(藤原)

伴走による高度プロフェッショナル人材の育成

旭化成とNTTデータの人材育成における、スキルの見える化と全体のスキルアップを見てきたが、その中でも、デジタルにおける高度なプロフェッショナル人材はどのように育まれているのだろうか。「導入期」の終盤から取り組んできたデジタルプロフェッショナル人材の育成について久世氏は語った。

「旭化成はマテリアル、住宅、ヘルスケアの3つの事業領域から構成されています。マテリアル事業領域では材料開発のスピードアップが課題となっています。デジタル技術やデータを活用し、材料開発を圧倒的に高速化し、革新的な材料開発を可能にする『MI(マテリアルズ・インフォマティクス)』を積極的に導入しています。MIを、各事業の技術開発部のメンバーが使いこなせることが重要で、MI中級とMI上級の人材育成を進めています」(久世氏)

図5:旭化成のデジタルプロ人材育成

図5:旭化成のデジタルプロ人材育成

MI中級人材育成では、現場の実課題をテーマに設定することと、伴走による支援がポイントになると久世氏。

「例えば『お客さまであるタイヤメーカーの要求性能を満足する合成ゴムの新規グレードを開発したい」といった開発現場の課題に対し、デジタル共創本部のチームがメンタリングコーチとして参加者に伴走する形で支援し、課題を解決していきます。またそのような中級人材を育成できるような人材を上級として認定し、今までに中級と上級を合わせて300人以上が現場で活躍しています」(久世氏)

MI人材育成と並行して取り組んでいる生産、製造、工場の現場の課題をデータ分析により解決できる「パワーユーザー」の育成についても、順調に人材が育ち、250人に達しているという。

「『パワーユーザー育成』では、デジタル共創本部のデータサイエンティストに加え、『原理原則アドバイザー』も伴走者として育成に関わっています。この役割は、工場や製造現場で活躍されていた元工場長や元センター長が担い、データ分析結果と現場の製造ラインや製造装置との関連を解明・解説してもらっています」(久世氏)

最近では、営業や購買、品質保証などの部門からも自分たちの業務にデータ分析を活用したいという声があがり、『パワーユーザー育成』への参加者が増えているという。

人材育成を加速するコミュニティ活動

旭化成では、2022年12月に開催したDX戦略説明会の中で2024年末までに2500人のデジタルプロ人材を育成すると社外に向けて公表している。その育成において重要なのがコミュニティ活動だと久世氏は強調する。

図6:上級人材が中心となって営まれるコミュニティ活動

図6:上級人材が中心となって営まれるコミュニティ活動

「旭化成の人材育成ではコミュニティ活動を重視しています。デジタル共創本部の支援だけで2500人を育成することは難しいですから。MIであればそれぞれの部門の上級人材が中心となり、情報共有やコミュニケーションを活性化し、中級人材の育成を進めています。」(久世氏)

NTTデータでも、コミュニティを活用した高度な人材育成施策として、全社の技術戦略・技術開発を担う技術革新統括本部(通称:技統本)が主催する「技統本塾」がある。少人数制の塾形式をとり、日本を代表するようなトップ技術者から直接指導を受けることができると、藤原は語る。

「『技統本塾』はある種の徒弟制度のようなもので、塾長に気軽に相談ができますし、卒業生によるコミュニティ活動も活発です。塾での活動を通じて、社外で有名になるような高度な技術者が育ってきている実感があります」(藤原)

事業部の壁を超えて共創を進めるための取り組み

旭化成は2022年12月に発表したDX戦略の中で「共創」が重要なキーワードになるという。「共創」を重視する背景、「共創」による価値創造について、久世氏は次のように語った。

「社会環境が変わるスピードが高まる状況において、新しいビジネスを一つの事業部門だけではもちろん、一つの企業によって創り出すことが難しくなっています。社内組織の壁、企業の壁、それから国の壁をも超えてともにクリエイションする仕組みや組織風土が重要だと考えています」(久世氏)

図7:共創を推進する旭化成の取り組み

図7:共創を推進する旭化成の取り組み

その仕組みの一つが「Asahi Kasei Garage」である。デザイン思考とアジャイル開発を組み合わせて共創を進めるアプローチ手法・支援プログラムとして、デジタル共創本部ができた2021年に立ち上げられた。

「旭化成の中でも特にマテリアルの事業領域では、これまで品質や機能の高いマテリアルを開発し製造することでビジネスになっていました。しかし、これからは、お客さま視点でめざすべきビジネス変革や社会変革を発想するデザイン思考を徹底し、全く新しい事業モデルや価値創造をしていきたいと考えています」(久世氏)

さらに、アイデアを実装する段階ではアジャイル的に進めることが重要だという。

「マテリアル事業はこれまで新たな材料を研究開発、生産ラインを設計し、工場をつくるという装置や設備に依存した世界でした。デジタル化によってアイデアをクイックに実現できますから、アジャイル開発によってそのスピードアップを促進していきたいと考えています。現在、Asahi Kasei Garageではさまざまな事業から共有された20以上のテーマに対して共創を進めています」(久世氏)

これからは業務とビジネスモデルの革新が不可欠であり、それを促進するために「デザイン思考×アジャイル開発」による共創が重要だという。では、共創はなぜ新しい価値を生み出すのか。その理由について、久世氏はこう語る。

「お客さまや市場のニーズを掴むだけでは、感動するような新しいサービス、製品、ソリューションを生み出すことはできません。必要なのは、お客さまも気づいていないような潜在的なニーズへと辿り着くことです。そのために、異なる経験、多様なバックグラウンドのあるメンバーとともに取り組むことが近道であると考えています」(久世氏)

NTTデータが提供する「共育」プログラム

NTTデータでは、お客さま企業向けにDX人材育成プログラムを提供している。その内容について、藤原は次のように解説した。

「お客さまのデジタル人材育成を実現するための『Dive in DX®』というプログラムを提供しています。例えばあるお客さまの場合、社内のさまざまな部署から3~40名ほどのリーダーの方に集まってもらい、DXを推進する人材に育成します。ITには詳しくはないが実務において高い専門性を持つ『スーツ人材』が、テクノロジーやビジネス、リーダーシップを学んでいくことで、デジタルに関する事業構想を提言するだけでなく実践もできるようになるのです。
また、『デジタルサクセス・アカデミー®』は『Dive in DX®』を基に発展させたプログラム。まさに旭化成で進められている『共創』をテーマに、業界を超えた企業が集まり、デジタル人材の『共育』によって、新たな価値を生み出すことをめざしています。2022年の10月から開始し、異なる業界から6社の企業に参加いただきましたので、この輪をどんどん広げていきたいと考えています」(藤原)

図8:会社全体のDXを推進する人材育成プログラム

図8:会社全体のDXを推進する人材育成プログラム

図9:共創プログラムには現在6社が参画

図9:共創プログラムには現在6社が参画

データの利活用がDX変革の源泉

現在、旭化成はあらゆる業務に従事するすべての社員がデジタルを当たり前のように活用する「デジタルノーマル期」へと移行しようとしている。そこで重要になってくるのが、データの利活用だと久世氏は語る。

「社内や社外のデータも含め、データを蓄積するだけでなく上手に使いこなせることがDXによる変革の源泉です。旭化成ではそのためのデータ活用基盤も用意し、リテラシーを有する人材育成も進めています。データを活用する際には、データの質や粒度を揃えるという前処理も必要になります。データ活用基盤はできるだけ現場の社員が苦労せずに使いこなせるものでなくてはいけないと考えています」(久世氏)

図10:旭化成のデータ利活用のサイクル

図10:旭化成のデータ利活用のサイクル

また旭化成が重視する共創を進めていく上では、データの共有が重要な役割を果たすことになるが、共有すべきデータを見極めることも重要なテーマだと久世氏は言う。

「例えば旭化成で取り組んでいるプラスチックリサイクルの『BLUE Plastics』というプロジェクトは、サプライチェーンを構成する多様な企業との共創です。企業の枠を超えた共創においてどのデータを他社と共有し、どのデータを自社の強みとするかの見極めは簡単ではないと実感しています。特に前述の『MI』に関しては日本の各マテリアルメーカーが進めている取り組みですから、あるレベルのデータは企業の枠を超えて共有した方が開発の効率が圧倒的に高まるはずです」(久世氏)

組織風土や制度の変革への試行錯誤

企業の中に眠っているデータの活用をいかに活性化していくか。社員一人ひとりがデータ活用、ひいてはDXの価値そのものを理解するには、組織風土や制度の変革も必要になっていくだろう。
旭化成でも、各事業部がお客さまのことを考えるあまりにデータを抱え込む傾向があるというが、むしろ共有した方が最終的にはお客さまの利益になるという認識を浸透させていくことが重要だと久世氏は語った。

一方で、事業が大きく変化するなか、組織風土だけでなく人事制度も変えていかなければいけないと、NTTデータの人事制度について藤原が説明する。

「事業環境が大きく変わる中、社員一人ひとりが高いプロフェッショナリティを身につけて、それを処遇できるような変革も進めていこうとしています。これまでは、より大きな組織をマネジメントすることで昇格していくのが一般的でしたが、これからは、マネジメントはちょっと苦手でも、極めて高い専門性を有する社員を、最大で執行役員の一歩手前くらいのレベルで処遇できるようにしたいと考えています」(藤原)

DXへの取り組みに欠かせない『人』『データ』『組織風土』の中でも、人はすべての起点になると、久世氏はこのディスカッションを締め括った。

「データを使いこなすためのリテラシーもガバナンスも組織風土も人によってつくられます。そして人材育成において欠かせないのも『共創』です。企業の枠を超えた取り組みによって新しい価値を生み出すだけでなく、携わった社員も成長させることができると考えています」(久世氏)

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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