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2023年4月26日展望を知る

保険×ヘルスケアビジネス スタートアップや研究機関との未来共創

保険業界のDXをはじめ、保険ビジネスのコンサルティングも行うNTTデータは、保険会社とともに生活者の安心安全や健康をテーマにさまざまな事業を展開している。一方、ヘルスケア領域においては、画像解析やXRなどのテクノロジーを駆使した新たなビジネスの創出や研究が進んでいる。そこで本記事では、未来の生活者の姿を描くNTTデータと、技術面から新たな視座を与えるベンチャー企業や研究機関との共創の可能性を探る。
目次

NTTデータが描く少し先の未来社会

2030年、生活者を取り巻く環境はどうなっているのか。少し先の未来を予測するため、NTTデータでは、「政治」や「社会」といった視点で生活者環境の調査・分析を行っている。いくつか紹介すると、まず日本全体の医療費はここ10年間、前年比2.4%増の右肩上がり。増え続ける医療費は社会課題のひとつになっている。また、コロナ禍でストレスを感じている人の割合は前年比1.4倍。コロナが与える心理的な影響はまだしばらく続いていくと考えられる。これに対して、ウェルビーイングに取り組む企業は63%となっており、健康経営に取り組む企業は増加している。また別の視点にはなるが、企業に関してのデータとして、AIを導入している企業の割合が39%となっており、欧米に比べると低いものの増加傾向にあるという。こういった分析から、NTTデータが見据える近未来の社会を、NTTデータで保険業界向けコンサルティングをリードする矢野 高史は、こう説明する。

「さまざまな視点での環境分析を踏まえて、NTTデータとしては、生活者を中心とした未来像として『テクノロジーを活用してより健康で安心安全に暮らせる社会』をめざしていきます。そこでは自然とデータが取得・分析され、パーソナルなヘルスケアエクスペリエンスが実現していきます」(矢野)

図1:テクノロジーがもたらすインパクト

図1:テクノロジーがもたらすインパクト

一人ひとりが健康データを自動取得し、心身のあらゆる状態を観察。取得したデータは高セキュリティレベルで管理されつつ、そのデータをもとにAIがパーソナライズされたサポートで行動変容を促進する。そんな日常の中で、生活者は無理なく自然と健康になっていくようなヘルスケア社会。これがNTTデータの考える「2030年の生活者を取り巻く社会のイメージ」だ。さらに、日常生活についても具体的なイメージを持っていると矢野は語る。

「食事は、AIコンシェルジュによって健康を踏まえた献立の提案がされたり、エレキソルトのように実際に塩分を取らなくても塩味を感じられる技術の活用により、適切な塩分摂取量になるよう制御してくれたりします。運動に関しては、心身の状態に合わせて最適な運動メニューを提案したり、著名なトレーナーがバーチャルでコーチングしたりといったことも可能になるでしょう。休養という観点では、脳波を捉えてリアルタイムに睡眠状態をコントロールし、より質の高い睡眠をサポートしたり、肌を分析してパーソナライズされた化粧品の提案をしたりするような美容ケアも考えられます」(矢野)

この世界観を支えるのが「生活者視点のヘルスケアエコシステム」であり、エコシステムを築き上げるため、NTTデータは国や地方公共団体、保険会社など、さまざまな企業や団体との連携を模索している。

図2:生活者視点のヘルスケアエコシステム

図2:生活者視点のヘルスケアエコシステム

高齢化が進む地域の課題をITの力で解決

AIを中心とした先端技術とナレッジを駆使して、さまざまなサービスを展開するテックベンチャー企業であるゼネラ株式会社。そのゼネラが福井県若狭町で課題解決に取り組んでいる。2019年の若狭町における高齢者の割合は34.4%。「2035年問題」と言われている高齢者の予想割合である33.4%を、若狭町はすでに超えている。そこで生じている「健康で元気な高齢者を増加させる」という課題に対して、2019年から福井大学がある取り組みを行っていた。それは寝たきりを予防するための検診だ。この検診により、寝たきりの入り口となるサルコペニアという筋肉量の減少を早期に検知でき、一定の成果は出ていたという。しかし、新たな問題が発生。検診を実施するためのマンパワーや、サルコペニア患者をサポートする介護サービスが不足していたのだ。それを解消するのがゼネラの取り組みだった。

「まず検診の簡素化を考え、画像解析などを使って、拡大検診というパッケージを作り、少人数で検診ができるようにしました。その次に、症状改善の活動をサポートするためのデバイスとして、家庭用のスマートミラーを作りました。運動と食事に関するコンテンツをミラーの中に入れて、高齢者の方に配布しています」とゼネラ 代表取締役 兼 チーフデジタルオフィサーの藤田 正則氏は話す。

図3:家庭用スマートミラー

図3:家庭用スマートミラー

なぜミラーだったのか。藤田氏はこう説明する。

「健康のためとは言え、行動変容を起こすことは容易ではありません。しかし、ほとんどの人が日々の生活の中で、鏡に向き合うタイミングがあります。ミラー型にすることで、表面温度や脈拍といった健康情報を、普段と変わらない行動の中で自然と取得できると考えました」(藤田氏)

主に高齢者が使うデバイスなので、UIやUXにもこだわっている。その一つが、操作を覚える必要がないように、音声で操作できるようにしているところだ。他にも防災機能や、家族や他の人とつながれるようなメッセージング機能を搭載することで、生活の中に溶け込むようなデバイスをめざしており、今後もさらに機能を追加していくという。

機能が追加されて高齢者だけではなく、家族全員が使うデバイスになったときに、コンテンツはどうマネジメントしていくのだろうか。藤田氏によると、「利用者の年齢層をカメラとAIで検知し、年齢層に合ったコンテンツを自動で出力する機能を搭載」しているという。ここでも生活者が「自然に」使えることを重視していることがわかる。

図4:スマートミラーのさまざまな機能

図4:スマートミラーのさまざまな機能

体験を変化させることで行動変容を促す

東京大学大学院情報理工学系研究科で、主にバーチャルリアリティの研究をしている鳴海拓志准教授。その研究の一つとして行っているのが、バーチャルリアリティを使ったコミュニケーションによって、人の体験を変化させるというものだ。具体例として「クロスモーダル知覚による知覚体験の編集」が挙げられる。クロスモーダル知覚とは、人間の五感の相互作用による知覚のことだ。視覚は視覚、味覚は味覚と独立していると思われがちだが、実際には互いに関係し合っている。見た目が変われば、味が変わる経験をしたことがある人も多いだろう。このクロスモーダル知覚をテクノロジーの領域で活用することで、好きな感覚の体験を作り出せると鳴海氏は説明する。

「ヘッドマウントディスプレイを付けた人にバタークッキーを食べてもらう実験をしました。実際はバタークッキーなのですが、画面越しに見るとチョコレートクッキーに見え、装置からチョコレートの香りを出しておいたのです。その結果、8割以上の方がチョコレート味を感じました。つまり、バーチャルリアリティを使うことで、味の体験を変えられる。これを応用することで、味の薄い病院食や制限食を好みの味付けに変えたり、減塩につなげたりすることができます」(鳴海氏)

食べ物の大きさを変えて見せることで、食べる量を制御できるという研究もある。食べ物の周りにプロジェクションマッピングで映像を投影。視覚による食べ物のボリュームの推定を変化させるのだ。実は、以前からお皿の大きさで食べる量が変わることがわかっている。これは小さな皿の中の食べ物は大きく見えるという錯視によるもので、この錯視を活用。食べ進めるに従って、プロジェクションマッピングでお皿の大きさを小さくしていくと満腹感が高まるという。

図5:プロジェクションマッピングによる錯視

図5:プロジェクションマッピングによる錯視

鳴海氏は身体が変わることで行動が変わるという研究も行っている。メタバースでは自分の代わりとしてアバターを使うが、アバターによって実際とは異なる別の自分になることができ、行動や思考が変化するという研究だ。

「筋肉質なアバターのときにダンベルを持ち上げると軽く感じ、細身のアバターのときには重く感じることがわかっています。生身の身体は変化していないにもかかわらず、アバターというデジタルな身体が変わっただけで、身体の使い方が変わってしまうのです。他にもアバターから来るイメージによって、思考や行動が変わるということもわかってきています。ヘルスケア領域での活用方法として、スリムなアバターで痩せた自分をイメージさせると、それに引きずられて高カロリーの食事は摂らないようになるのではないかといった研究も進められています」(鳴海氏)

図6:アバターを用いた知覚変化実験

図6:アバターを用いた知覚変化実験

共創によるヘルスケア社会の実現

保険の未来を考えるうえで、上記のようなテクノロジー活用例を踏まえ、保険ビジネス戦略を変革させることが重要であると、矢野は説明する。

「まずはZ世代やアルファ世代の若い世代に、保険の重要性を日常の中で体感してもらうために、顧客接点の拡大を図っていく必要があります。また、顧客情報を取得しながら健康維持につながるヘルスケアサービスを提供することで、保険金の支払いを抑制したり、サービスの中に保険商品を組み込んだりすることも考えられるでしょう」(矢野)

図7:未来像を踏まえた保険ビジネス戦略の検討観点

図7:未来像を踏まえた保険ビジネス戦略の検討観点

NTTデータが検討しているビジネス案として、「バーチャル空間での運動サービス」がある。バーチャル空間でトレーナーとともにフィットネスして、健康を増進。その利用回数やバイタルデータの良化に応じて、保険料を割り引くというものだ。保険会社としては、保険金の支払い抑制につながるというメリットがある。他にも、美容をフックにしたウェルビーイング増進や、高齢者に対しては普段から美容を意識してもらうことで認知症の予防につなげるといったサポートを実施する「美容付帯保険による健康増進支援」という案もある。

「『変身カラオケ』は、バーチャル空間上で歌手になりきって、何千人規模観客の前で歌うというサービスです。歌が得意ではない人も、運動まではいきませんが日常生活の中で楽しみながら健康増進ができるのではないかと考えています」(矢野)

「バーチャルYouTuberなど、バーチャルな身体でパフォーマンスする人が増えています。そういった活動をしている人に話を聞くと、新しい自分に気づけたり、自分の価値観に気づいてウェルビーイングが上がったりしている人も多いです。『変身カラオケ』でもウェルビーイングにつながるシステムができるかもしれません」(鳴海氏)

今後、NTTデータはゼネラ社と協力し、生活者の健康な未来を実現する先進ソリューションの開発や、地域創生・健康推進を実現する取り組みの保険会社への提案などをともに行っていく。また鳴海氏とは、バーチャルリアリティを活用し、アンコンシャス・バイアスへの気づきを与え、メンタルヘルスケアにつながるようなサービスの開発に関して連携を模索中だ。
NTTデータは2022年12月、こうした外部との「共創」を目的とした施設「ヘルスケア共創ラボ」をオープンした。未来像を想像するだけでなく、実際にテクノロジーや世界を体感することで、より現実的で魅力的なサービスをクイックに共創していくための施設だという。企業や研究機関だけでなく、生活者も巻き込んで、それぞれの視点でアイデアを出しながら、より良い生活ができる未来社会の創造をめざしていく。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとに構成しています。

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