今度どのようにIoTと向き合うか
部門を横断して参加者が集う
豊洲のNTTデータ内にある共創スペース「INFORIUM 豊洲イノベーションセンター」。その晩は18時半から、続々と人が集結しました。“INFORIUM TALK”と名付けられた本サイト「INFORIUM」主催のイベント。今回のテーマは「IoTで変わる日常 ~近未来の暮らしを考える~」です。
集まったのは、日頃より何らかのかたちでIoTに関する業務を行っているメンバーです。およそ30人の出席者は部門も複数にまたがったほか、社外のクライアント企業からも数名の参加がありました。
家電連携とスマートホーム、電力、ロボティクス。あらためて今、NTTデータが各部門でIoTに注力していることが、出席者の顔ぶれからも見て取れます。そこには部門ごとの動きを人の交流で横方向に連携させたいという主催側の意図も感じられました。
一方で、個人としてIoTに関心があるといった他の部門やクライアント企業からの参加者も見られました。事前にグループ分けされた参加メンバーは、各テーブル4~5人に分かれて着席します。なかには、分身ロボット「OriHime」(※1)を使ってワークショップに参加する人もいました。
「OriHime」をパソコンやタブレットとつなげて操作することで、遠隔でのコミュニケーションが行える
イベントの狙いは「未来の暮らしを豊かにするIoTのアイデアを創出する」こと。まず、参加者たちは個人のテーマ整理を1枚のワークシートに記入し、参加への動機付けを確認。それを手に、他のグループメンバーに自己紹介します。
当日参加者に配られたワークシートの一部
モノとAPIのエコノミーを生む
ワークショップへ入る前に、IoTをめぐる現状の確認とヒントを探るべく「インプット編」として、イベントホストとゲストの2人によるトークが設けられました。ホストトークに登壇したのは、技術革新統括本部・技術開発本部長の風間博之(かざま・ひろゆき)です。
NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部長 風間博之
風間本部長の講演は「私たちは今度どのようにIoTと向き合うか」がタイトル。IoTを取り巻く技術トレンドとして、2020年には300億個のIoTデバイスが普及するという見通しを紹介しました。
「IoTサービスは、モノのデータをセンサーで収集、分析し、その結果をさらにモノの動作に反映させるという仕組みからなっています。それらがインフラ、製造、接客、モビリティといったさまざまな分野に浸透し、ビジネスを変革しつつあるのです」
今後、社会に大きなインパクトをもたらす技術トレンドのうち、まず「フィジカルとデジタルの融合」に目を向けることが必要だとしました。ARやVR、音声技術で臨場感のあるユーザーインターフェースが実現し、自動運転やロボットがデジタル世界から物理世界への直接的な働きかけを加速。これらにIoTやAIを組み合わせることで多種多様なサービスが実現できると説きます。
また、IoTプラットホームの代表的な例に「スマートスピーカー」の急速な普及を挙げて、インターネットを通じた現実世界のモノとAPIの自由な組み合わせが無限のサービスの可能性、つまり「モノとAPIのエコノミー」を生むと解説しました。ただし、IoTシステムへの攻撃は拡大傾向にあり、セキュリティの確保が重要課題であると力説します。
IoTによって「繋がる世界」の先に何があるか。実世界に散在するモノのデータを収集、分析、活用できるようになると、モノのコンテキスト(状況)をどう扱うかが鍵になる。コンテキストからは新たなデータソースが生まれ、それらを活用したエコシステムがつくれるのではないか。風間はこうした一連のモデルをIoC(=Internet of Contexts、コンテキストのインターネット)と呼びました。
「コンテキストとは、ひと言で言うと『気配り』ができる状態にあること。つまり、私たちはIoTをベースにして、気配りができる環境をつくり出せます。先回りして状況を知るデータを貯めることで、気配りができる状態で迎えられるのです。技術的にはAIなどが絡んでくるでしょう。ユーザーが何を欲しているのか把握するのは大事ですが、あまりに個人情報を逐次取られるのは気持ち悪いという感想もあるだろうから、加減とともに制度も必要です」
重要なのは「リアルな世界とバーチャルな世界の接点にデータの連続性を持たせ、サービスの多様性をもたらすこと」(風間)。頷きながらその言葉を聞くイベント参加者の姿が印象的でした。
オリィ研究所で開発されているテレプレゼンスロボット。カメラやマイク、スピーカーが搭載されているため、インターネット回線を介して自分の分身のように操作できる。http://orylab.com/
個人の生活とビジネスの現場から発想
体験価値をIoT機器で向上させる
続いてゲストトークに登壇したのは、and factory株式会社(※1) 代表取締役CEOの小原崇幹(おはら・たかまさ)さんです。and factoryは、本サイト「INFORIUM」でも以前に取材したIoTデバイスを集結させた体験型宿泊施設「&AND HOSTEL」を手がける企業です。2018年度内にはインバウンドの利用者が見込める地域を中心に、さらなる出店が決まっているそうです。
and factory 代表取締役CEOの小原崇幹さん
&AND HOSTELは、IoTデバイスを手がける企業と連携して「近未来のIoTのある暮らし」が体感できるのが特徴です。「IoT機器は技術系のサイトなどで話題になりながらも、実際に試せる場所が少ない」と小原さんは指摘。また部分最適化された1つのデバイスだけでなく、それらの連携によって実現する「コト」に落としていくことが必要だと語ります。
もともと同社はスマートフォンのアプリ開発を手がけていますが、「Smartphone Idea Company(※2)」としてさらなる価値を創造、不動産や建築に携わるメンバーとともにホステル事業を開始した経緯を持っています。そのため、APIの異なるエアコンや照明といった個々のIoTデバイスすべてを1つのアプリで操作できる統合管理アプリケーションを独自に開発できたという強みがあります。
未来の家プロジェクトの構想図(提供:and factory株式会社)
デバイスの連携で体験価値の向上を図るビジネスは、風間が先に述べた「モノとAPIのエコノミー」を予感させるものです。さらに小原さんは最新の事業として、NTTドコモ、横浜市とともに取り組む「未来の家プロジェクト」を紹介しました。
IoT機器をクラウド接続して、快適で健康な暮らしをサポートする未来の住宅をつくるプロジェクトです。居住者のリラックス度や活動量などの生活状態を可視化することで、健康管理に気づきを与えることを目的にしたスマートホームが実際に設置され、2017年12月からは人が実際に住んでどれくらい健康になるかの実証実験が行われています。
未来の家でも、スマートフォンで健康状態の閲覧・管理と電化製品の操作ができるようにする構想を持っている(提供:and factory株式会社)
小原さんは、ヘルスケアや健康モニタリングの機能を有する家電、いわゆる「医電」を紹介。IoT化された冷蔵庫が栄養バランスを管理したり、洗濯機が病気の予兆を教えてくれたりする未来が待っているというのです。このような刺激的なトピックを耳にしたイベント参加メンバーたちが、いよいよワークショップに入ります。
本当に必要とされる技術とは
各テーブルでホストトーク、ゲストトークの感想をシェアしあった後、今日のテーマ「5年後にIoTを活用して実現したい暮らしとは?」が発表されました。まずは個人ワークとして、それそれが現段階でのラフな案をシートに書き込んでいきます。
その後、グループ内でアイデアを共有する時間へ。シートに書いた個人のアイデアを3分ずつの時間で披露していき、続いて、発案者に対して2人のメンバーが5分ずつアドバイスしていくスタイルです。
アイデアを広げ、深める作業を経たら、再び個人ワークへ。最初のアイデアにタイトルを付け、再編成して完成させます。
でき上がった全員分のシートを無記名で壁に張り出したら、10分間のギャラリーウォークタイム。1人2票を持ち「自分のアイデアより良いところがある」という基準でアイデアを選んで投票しました。
会場からの得票数が最も高かったアイデアに与えられる「INFORIUM賞」は、育児にIoTを使う提案。赤ちゃんの泣いている理由を、音声認識とビッグデータから解析する。風間が選んだ「NTTデータ賞」は、味覚の定量化にIoTのセンサーを使い、料理の味をデータでシェアするというもの。最後の「and factory」賞は小原さんが選出。IoTを家の中だけではなく、外の空間で用いることで、人々が「止まる」場所と理由を特定するというアイデア
IoTサービスに携わる部門を横断して、社外から参加者やゲストも招いて企画したイベント。風間は全体を振り返って「IoTというテーマでやれたのが嬉しい。会社から見ればIoTにやるべきことやチャンスを見ていながら、もう一歩を踏み出さないといけないところがまだまだある。そのために部門同士の横の繋がりが必要になると考えています」と語りました。
ゲストとしてトークや講評を担当したand factoryの小原さんは「このようなイベントの機会は貴重。グループワークで皆さんが話されている様子には刺激を受けました。アイデアのなかには、実際に大きな企業が水面下で開発しているものも混ざっていた。こうした『本当に必要とされている技術』を考えることでIoTが一般化した社会へのイメージが湧き、皆さんのビジネスにも繋がるのだと感じました」というコメントを残しました。
参加者からは「成功している企業の話を聞けて良かった」「自分では浮かばないようなアイデアが出てきて面白かった」と感想が挙がるなど、IoTの活用について改めて考える機会となったようです。
生活者として社会に暮らす個人の生活と、ビジネスの現場で求められるIoTサービスの提供を重ねながら、活発にアイデアを交わし合った濃密な時間。交流会で見られた参加者たちの充実した笑顔からは、十分な手応えが伝わってきました。
and factoryでは、多様なメンバーとともに、スマートフォンが持つ事業展開への可能性にとり組んでいる。