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DEI推進を進める企業の課題
いま、DEI推進の重要性が高まり、様々な施策が行われています。特にジェンダーギャップの解消は喫緊のテーマで、採用比率、管理職比率、家事育児分担など、男女問わず仕事と生活の両立ができる環境整備が進んできました。2023年6月5日に発行された一般社団法人日本経済団体連合会の「『男性の家事・育児』に関するアンケート調査結果」によると、2022年の男性の育児休業取得率は47.5%となり、その前の年(29.3%)から大きく上昇しました。しかし、女性の育児休業取得率95%と比較すると男性の育児休業取得率は約半分であり、平均取得期間も女性の平均が約1年(367.1日)であるのに対して男性は約1.5カ月(43.7日)しかありません。
法改正や企業の制度等環境整備が進む中、一人ひとりがアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の存在に気づき、企業風土を変革することが大きな課題として残っています。性別役割分担意識等の無意識の思い込みが存在するなど、家事・育児・介護等と仕事とを両立しづらい職場風土がジェンダーギャップ解消を阻害しているのです。
DEI推進に長年取り組んできたNTT DATAでは、2023年度時点で男性の育児休職及び育児目的休暇の取得率は105.7%、平均取得日数は86.9日となっています。男性社員の育児参画意欲は増加傾向にありますが、社内で実施した男性社員の育児休暇取得に対する調査で、取得に際して課題と感じるものとして最も多かった回答が「上司・周囲の理解」でした。他方で、長期間職場から抜けることで「プロジェクト遂行への影響を不安視」する回答も一定数あり、今の職場風土において葛藤があることが分かります。
「アンコンシャス・バイアス」を自覚すると職場も変わる
アンコンシャス・バイアスそのものに良し悪しはありません。しかし、男性の育児休職は珍しい、取得しても短期間だろう、といったアンコンシャス・バイアスに気づかずにいると、そこから生まれた言動が知らず知らずのうちに相手を決めつけ、価値観を押し付け、対立を生み出してしまうことがあります。一人ひとりが対話し、意図や価値観、根底にある原体験を理解しようとすることで、相互理解・相互尊重ができるようになります。アンコンシャス・バイアスに気づくことができれば、疎外感や不公平感の解消のみならず、一人ひとりが活躍できる土壌も醸成されるでしょう。例えば、「育休取得は自分のキャリアにとってマイナスになる」「育休は仕事上“ブランク”である」といったアンコンシャス・バイアスを持っている方もいるかもしれません。しかし実際には、育休はスキルアップの機会でもあるというデータもあります。パーソル総合研究所の「男性育休に関する定量調査2023.4」によると、育休を取得した男性の3-5割が「時間管理力」「タスク管理力」「俯瞰力」「不確実性への対応力」といったスキルの向上を実感しているのです。また、「中長期の育休取得は、他のチームメンバーにとって負荷でしかない」というアンコンシャス・バイアスもあるかもしれません。これも、自身のアンコンシャス・バイアスに気づけば、「中長期の育休は組織力向上の機会だ」と肯定的に捉えなおし、仕事の割り振りや評価・処遇に関してなどのプロジェクト運営の工夫につなげることもできるでしょう。
VR技術の力で仕事と生活の調和を推進
NTTデータでは、アンコンシャス・バイアスへの気付きを促すためのオンライン研修を全社員に行っているほか、2022年度より東京大学と連携し、VRで没入感のある疑似体験ができるワークショップを開発・トライアル実施してきました。
座学で知識を獲得することは必要不可欠ですが、それだけで日常的なコミュニケーションスタイルを変えることは難しいものです。VRでそれぞれの立場を疑似体験することで、相互の根底にある原体験、意図、価値観を理解し、対立せずに対話しやすくなります。2視点VRワークショップ「現場リーダーとワーキングペアレント編」(以下2視点VRワークショップ)では、顧客や上司と部下に挟まれる現場リーダーの視点と、仕事と子育てを両立する育児中社員の視点の双方を疑似体験した後、ワークライフバランスや仕事を通じた自己実現についてディスカッションします。
多様な社員の活躍を促進する2視点VRワークショップ(3:23)
東京大学の研究(ムーンショット型研究開発事業の一環)では、2視点VRワークショップによって体験者の約84%にポジティブな効果が認められたという結果が出ています。
NTTデータが社員を中心に行った実証実験では、従業員エンゲージメント(主に能力発揮)が向上し、管理職から若手社員まで、様々な立場の社員の行動変容を促すことを確認できました。「部下の家庭やプライベートに配慮しながら仕事の相談をするようになった(管理職)」「妊娠中の妻とお互いの働き方や育休について話し合い、上司や同僚に相談した結果、育休取得の協力をしてもらった(男性社員)」「時短勤務で効率性を重視していたが、(仕事の依頼の背景等)他の人の話を積極的に聞くようになった(女性社員)」といった協働姿勢への変化がありました。最もしわ寄せを受ける立場にある若手社員も変化しています。育児や介護といった生活面の制約が少ない若手社員にとってプライベートの楽しみが先輩の仕事のフォローで減ってしまうことは受け入れがたいものです。しかしVRワークショップで自分の将来をより具体的にイメージすることができ、「育児中の先輩をカバーする不公平感が減り、以前より気持ちよく引き受けるようになった(若手男性社員)」等、同僚同士の助け合いをポジティブに捉えられるようになったのです。
男性社員とNTTデータグループ副社長がVR体験も交えて対談
NTT DATAでもDEI推進の一つとして男性育児参画・育休取得を推進しており、“男性も女性も、誰もが意向どおり仕事と育児を両立できる会社”の実現を目指しています。その取り組みの一環として、「男性育休」をテーマに、男性社員とNTTデータグループのCHROを担当している副社長の中山 和彦との対談を行いました。
対談参加者
対談では、男性育休を二回取得した社員から、「上長に対してとにかく早く育休取得の意向を伝えること」が大切だという振り返りがありました。半年くらい前から相談し始めれば人事面の調整もできるので、上長も受け止めやすいからです。相談を受け止めた側の上長は、「チーム全体のケイパビリティを上げるきっかけ」として捉えることで、チーム全体が協力的になることができている、といいます。「有識者の社員に頼り続ける体制に陥らず、育休取得をチームビルディングのきっかけにすることで、組織力は大きく向上できると実感しています」(当該上長)
上長にあたる社員
仕事と育児の両立は育休取得で終わりではありません。中山は、「育休取得中のみならず復帰後も、みんなで助けるという雰囲気が醸成されている職場が増えていると感じる」と語ります。「協力関係が上手くいかないと『子持ち様』と批判する声も大きくなる一方で、しばらくすると今度は上長の方が親の介護で休みたい、仕事と介護を両立しないといけない、という立場になります。仕事をみんなで分担していることが意識できると、『お互い様』になれます。」(中山)
育休を取得した社員
また中山は2視点VRを体験し、「相手の立場で考えなさいとよく言うが、言うは易し」であり、相互理解における「体験」が有効であることを再確認しました。
NTTデータグループ 代表取締役副社長執行役員 CHRO 中山 和彦
「仕事と生活の調和が取れた社会」の実現に向けて
仕事と生活の調和が取れた社会を実現するためには、テクノロジーを活用しながら行動変容を促進するとともに、データサイエンスとエビデンスによる効果の見える化を進めることも大切です。
NTTデータでは、横浜市立大学と産学官共創ラボを設立し、子育て世代の時間貧困や男女共同参画をはじめとした社会課題を解決するため、仕事と生活の調和に関する共同研究を開始しました。
仕事と生活にまたがる研究は未だ少なく、産学官で連携した共同研究によって施策効果の見える化やイノベーション創出を促すことで、一人ひとりが自律的に仕事と生活の調和ができるようになる未来を目指しています。
NTT DATAは今後も社内外と協力して、仕事と生活の調和が取れ、誰もが活躍できる社会に貢献できるよう進めていきます。
NTTデータも参画する、「子育て世代の時間貧困解消と男女共同参画を目指した産学官共創ラボ」:
https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2024/kyosolab20240719.html
NTTグループの男性育休取得促進への取り組みについて:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/091200/
NTTデータグループのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/dei/people/
未来を体感し、新しいビジネスをその場で創造するイノベーション起点「ヘルスケア共創ラボ」:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/hcclab/
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NTTデータグループ 代表取締役副社長執行役員 CHRO 中山 和彦
NTT DATAの中期経営戦略の柱は人財と組織の最大化、キーワードはBest Place to Workです。もともとNTT DATAは歴史的な経緯の中で女性が比較的働きやすい仕組みを整えてきましたが、副業の取り扱いや休みの取り方やリモートワーク等、整備すべきことはまだまだあります。逆説的ですが、最後に自分の面倒を見てくれるのは家族です。家族というユニットでの関係を大前提に、社員一人ひとりが仕事と生活の調和が取れるよう、社員にとって魅力的な会社であるよう取り組んでいきます。