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2026.4.28業界トレンド/展望

SDVが創る未来の暮らしとその挑戦

100年に一度の変革期にある自動車業界。なかでもトレンドとして注目を集めているのが『SDV(Software Defined Vehicle)』だ。SDVは、販売後もソフトウェアのアップデートにより機能追加や改良が可能な車を指す。その進化は、車自体の在り方はもちろんのこと、私たちの生活にも大きな変化を与えるかもしれない。この記事では、自動車産業をけん引するグローバルプレイヤーであるHonda、FAW-Volkswagen、BOSCHと、SDVの拡大をソフトウェア面から支援するNTT DATAが語った内容をもとに、SDVが創る未来とその実現に向けた取り組みを紐解いていく。
目次

SDVが実現する3つのビジョン

車の新たな潮流として語られるSDVだが、企業や業界によって受け取り方に幅がある。どこに価値の中心を置くかで、重視する範囲が変わるからだ。日本を代表する自動車メーカーであるHondaが捉えるSDVの核は『顧客起点』。HondaのSDV事業開発統括部に所属する波多野 邦道 氏は、「HondaではSDVの価値を、継続的な進化によるきめ細かな価値提供と捉えており、これを超個人最適化と呼んでいます。顧客の要望にとことん応えるためにSDVを使い、生活を豊かにし、新しい可能性を広げるツールにします」という。

一方で、ソフトウェアの専門家として産業全体を俯瞰し、SDVをより広義なエコシステムとして捉えるのがNTT DATAだ。自動車事業部の布井 真実子は、「VUCAの時代において、顧客のニーズは絶えず変化します。その変化に対し、後から機能や価値を変えられることこそがSDVの本質的な価値です。また、車は移動する巨大なセンサーであり、街の情報を集約するデータの塊でもあります。つまりSDVとは、車両単体を指すのではなく、それを取り巻くエコシステム全体を指す概念だと捉えています」と語る。

SDVを社会のエコシステムの一端として捉えているNTT DATAでは、SDV領域において『持続可能な都市生活』、『安心安全な自動車社会』、『進化し続けるクルマ』という3つのビジョンを掲げ、その実現を後押ししている。

『持続可能な都市生活』とは、データの循環と透明性により都市・産業・人をつなぐ基盤を構築し、持続可能な社会を実現すること。NTT DATAは、その実現に向けてさまざまなサービスを用意しており、SDVによる価値提供もそのひとつの要素となっている。その象徴的な事例として、布井は『脳健康モニタリングサービス™』の取り組みを挙げた。

「NTT DATAでは、運転行動と脳の健康を結びつけ、運転行動から脳の健康度を自動的に推定するソフトウェアを開発。自然かつ継続的にモニタリングすることにより、ドライバーが長く健康に運転を継続することを目指しています。運転データという日常の情報を、ヘルスケアという全く異なる領域へ還流させ、新たな価値を創出する。SDVには、こうした発想も重要です」(布井)

NTTデータ 自動車事業部長
布井 真実子

『安心安全な自動車社会』に関してもソフトウェアは重要だ。「ソフトウェアの活用で、車が交差点の情報など外部環境と連携し、より安全な運転を支援することが可能になります。一方で、車は人の命を預かっているプロダクトであり、誤ったアップデートは許されません。セキュリティを含む新たなリスクを乗り越え、ソフトウェアならではの安全性を確立することに尽力しています」と布井は力を込める。

そして、販売後もソフトウェアのアップデートによって機能追加や改良が可能なSDVを象徴するのが『進化し続けるクルマ』という考え方だ。これを実現するためには、開発プロセスそのものの変革が不可欠となる。

「車の価値を進化させ続けるためには、開発プロセスやアーキテクチャの刷新が必要です。クラウド技術の活用、標準化、オープン化といったソフトウェア業界の手法を取り入れつつ、ハードウェア特有の難しさも乗り越えていく。私たちはその両立に挑戦しています」(布井)

この3つのビジョンは、程度の差こそあれ、自動車メーカーや大手サプライヤーも目指すべき目標だ。ここからは、それぞれの立場から、より深掘りをしていきたい。

持続可能な都市生活に寄与するSDV

「フォルクスワーゲンは長らく最高品質を追求してきましたが、自動車業界の焦点は、顧客体験を実現するソフトウェアへと移っています」と指摘するのは、『FAW-Volkswagen(中国の国有自動車メーカーである中国第一汽車集団(FAW)とフォルクスワーゲンが出資して設立した合弁企業)』のMarcel Bodensiek(マルセル・ボーデンジーク)氏だ。

一例が、ある動画のワンシーンだ。

FAW-Volkswagen Director Digitalization and Organization
Marcel Bodensiek(マルセル・ボーデンジーク)氏

「若い女性が駐車中の車の前に立ち、手を振る。すると、車が自動運転モードでゆっくりと駐車スペースから出てきて、彼女の目の前で停車する動画です。これはまさに、中国の消費者が求める便利でスマートな体験の象徴。しかし、伝統的な自動車メーカーは、こうした機能を自社の車に取り入れるのに苦労しています」(ボーデンジーク 氏)

苦労する理由のひとつが、開発サイクルのスピード感だ。伝統的な自動車メーカーは複数の車種を持ち、それぞれ異なるプラットフォームや技術を使用している。そのため、従来の開発プロセスでは、新車開発に48~54カ月を要する。一方、中国にはわずか12~18カ月で新型車を開発している新興メーカーも存在する。背景にあるのは、「顧客体験」と「機能性」に焦点を絞り、すべての機能を発売時点で完璧に搭載するのではなく、OTA(Over The Air:無線通信による更新)によって発売後に継続的に追加していく柔軟な開発姿勢だ。

そこで、FAW-Volkswagenは、自動車のソフトウェア開発で用いられる考え方である『Vモデル』を新たに定義。『拡張Vモデル(Extended V Model)』として、ユーザー自身がスマートフォンアプリでソフトウェアを更新できる仕組みを採用した。拡張Vモデルでは、車両レベル・機能レベル・部品レベルで必要機能を定義し、実装・検証を経てOTAで配信する。新しいモデルでは、ユーザーがスマートフォンアプリと自宅のWi-Fiや5G通信で自動車のソフトウェアを更新する設計だ。

ボーデンジーク 氏は、これらの開発プロセスも踏まえて、最近の開発で顧客体験を高めたFAW-Volkswagenの施策を2つ例に挙げる。

一つは、購入して車にインストールできるデザインテーマ『レトロスキン』の提供だ。昔のモデルの雰囲気を再現でき、フォルクスワーゲン ゴルフやフォルクスワーゲン ビートル(タイプ1)をイメージした案も準備しているという。
「機能性においても、便利さだけでなく、感情に響く要素を大事にしています。懐かしさを感じさせるレトロな体験で、顧客の感情に訴えます」(ボーデンジーク 氏)

もう一つは、5~6年先を見据えた自動運転への取り組みだ。自動運転では、快適さと同時に退屈さも生じる。そこで、車内で映画やゲームを楽しむ「走るリビングルーム」としての体験を提供するソフトウェアを、OTAで追加し続ける構想だ。AIも統合し、大規模言語モデルを用いた、友人との自然な会話のような操作も目指しているという。

自動運転技術の普及と安心安全な自動車社会の実現

SDVは、自動車の至上命題である安心安全も進化させる。波多野 氏は自社の取り組みについて、「Hondaでは、安心安全ネットワークと呼ぶ3つのポイントがあります」と語る。

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 SDV事業開発統括部 先進安全・知能化ソリューション開発部 エグゼクティブチーフエンジニア
波多野 邦道 氏

「車自体の性能を高め、交通システム全体の中で協調して事故を減らしていく。さらに、車の情報を社会に提供することで、スマートフォンを持っている歩行者や自転車が近づいてくる車に気づき、行動を変容する機会を与えることもできます。加えて重要なのは、ドライバーや車を使っている人間の体調なども考慮し、より安全に行動できるようにすること。先ほど布井さんから認知状態を把握する話がありましたが、そうしたことも安全を担保する上では重要な一つの要素だと思っています」(波多野 氏)

その先には、自動運転による安心安全の進化も見据えている。「自動運転の技術をAIと掛け合わせて発展させることで、一般道でも積極的に運転支援を行い、お客さまの運転のミスをカバーする機能も開発中です」と波多野 氏は続ける。

もちろん、自動運転の実現には越えるべき壁も存在する。その最たるものが、社会受容性だ。FAW-Volkswagenのボーデンジーク 氏は、「技術の進化に対し、人の意識変化や社会の受容ペースにはギャップがあります。また、地域ごとに法律や要求も異なり、簡単に一つの技術や一つの結論が世界中で通用するわけではありません」と指摘する。

その解決の一助として、NTT DATAの布井はAI活用に期待を寄せる。
「法律の策定においては、AIがそのプロセスを補完し、スピードアップさせることも可能になるはずです。社会実装における課題に対しても、ソフトウェア技術やデータ活用、そしてAIが影響を及ぼすことで、エコシステム全体の進化が加速していくのではないでしょうか」(布井)

「進化し続けるクルマ」を支える、組織と開発モデル

技術の進化と市場の変化に対応し、進化し続けるクルマを開発するためには、企業の組織構造や文化そのものの変革も求められる。世界最大級の自動車機器サプライヤーであるBOSCHに所属し、digital.autoイニシアティブをリードするDirk Slama(ディルク・スラマ)氏は、実現に向けたポイントを3つ挙げた。

Robert Bosch GmbH Vice President
Dirk Slama(ディルク・スラマ)氏

『意思決定のスピード』と、『専門家への権限委譲』。特にソフトウェアの世界では、技術的な専門性を持つ人材が即座に判断・実行できる環境が求められる。そして、『単一ではない複数のDNA』。スラマ 氏は、「AI開発、ソフトウェア開発、電気・電子部門では文化もスピードも異なります。ゆえに、部署に合わせた複数のスピードに対応できる柔軟な組織運営が必要です」と語る。

digital.autoイニシアティブではこれらの考え方を実現するために、『マルチスピードデリバリーモデル』を導入。異なる分野の組織や工程を連携させ、段階的に進化していく柔軟な開発体制を目指しているという。ここで重要になるのが、ソフトウェアのように頻繁に更新される領域と、ハードウェアのように変更が難しい領域をゆるやかに連携させる設計手法『ルーズカップリング(疎結合)』だ。

「『ルーズカップリング(疎結合)アーキテクチャ』を採用することで、安全性に影響しない領域では、ユーザーが自由に設定できる余地を持たせる一方、走行制御など安全に直結する領域は厳格に管理する。変化の速い部分と安定が求められる部分をうまく切り分けることが、今後の車づくりの鍵になります」(スラマ 氏)

効率的に進化し続けるクルマを開発するには、マルチスピードデリバリーモデルに加えて、標準化も重要だ。ソフトウェアの利点のひとつは、新しいバージョンを作成でき、さまざまな場所で使い回せる点にある。しかし現在では、地域ごとにプライバシーやセキュリティ、データ主権に関する規制の違いが顕著になりつつある。つまり、出荷先や製造地域に応じて複数の標準化モデルを開発する必要があるということだ。

「現状は各国の手続きでは膨大な書類が飛び交っています。メーカーと行政機関の双方が標準化を進めれば、処理速度は大幅に改善されるでしょう。しかし、自動車業界における標準化は技術・政治・地域の要素が複雑に絡み合っており、非常に扱いが難しいテーマです。理想的には、汎用化できるコモディティ部分を標準化し、その上に各メーカーが独自の差別化機能を構築できるようにする。これは誰もが賛成する基本的な考え方ですが、現実は、まだその取り組みの初期段階です」(スラマ 氏)

SDV実現に向けたオーケストレーション

SDV、そして来るべき自動運転は、自動車メーカーだけで完結するものではない。サプライヤー、ソフトウェア企業、ビッグテック、行政などとの連携が必要だ。複雑化するエコシステムのなかで、全体を取りまとめるオーケストレーターは誰が担うべきなのか。

「誰かひとりがオーケストレーションを独占する時代ではありません。分散型の組織運営が主流となりつつある今、特定の企業や団体がデファクトスタンダードを握ることは難しい。むしろ、複数のプレイヤーが共同で運営するエコシステムの構築こそが、現代のトレンドであり、現実的な解でもあります。こうした協調的な枠組みなくして、先に挙げたさまざまな課題を乗り越えることは難しいでしょう」(布井)

自動車業界は「100年に一度の変革」に対する危機感と、数々の挑戦への意志を強く持ち、すでに多くの技術的な道筋を描いている。しかし、その周辺には制度や文化の違いがある。これから問われるのは、技術と環境要因とのバランスをいかに取るか。生成AIをはじめとする技術と業界知見をもとに、NTT DATAは業界の変革と発展に貢献していく。

モビリティについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/mobility/

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